第十五話 模試の点数より、心に残った一問
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
模試は、昼休みに解いた。
時間を測るでもなく、
静かなデスクで、
コーヒーが冷めるのを横に置いて。
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点数は、
悪くなかった。
合格圏内。
努力が実ったと書いてもいい数字。
だが男は、
数字を見つめなかった。
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気になったのは、
間違えた一問だ。
設問は、
よくある形だった。
委託先で事故が起きた場合、
誰が、どこまで責任を負うか。
正解を読めば、
理解できる。
知識としては、
もう頭に入っている。
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それでも、
男の視線はその問題から離れなかった。
なぜ、
ここで迷ったのか。
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選んだ誤答は、
“現実的”だった。
実務でよく見る判断。
誰も強く否定しない処理。
だからこそ、
その選択肢を一瞬、
正しいと思ってしまった。
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**ああ、
現場で一番危ないのは、
こういう判断だ。**
男は、
ペンを置いた。
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模試は、
評価じゃなかった。
合否の予測でもない。
**自分が、
どこで「分かったつもり」になるのかを
映す鏡だった。**
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もし、
あの設問が紙の上でなく、
会議室だったら。
もし、
選択肢が文字でなく、
人の顔だったら。
自分は、
同じ判断をしたかもしれない。
そう思うと、
背中に冷たいものが走った。
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男は、
間違えた問題の横に、
一行だけ書いた。
「実務だからこそ、
ここで逃げない」
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点数は、
そのあと、ゆっくり確認した。
悪くなかった。
だが、
それで十分だった。
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拾われた男は、
初めて思った。
試験は、
裁かれる場所じゃない。
**自分の“甘さ”を、
静かに指さされる場所なんだ。**
だから、
まだ怖い。
だがその怖さは、
目を逸らすためのものじゃ
もうなかった。
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