人魚
願いを聞く妖に会う時、二つの事をする。
一つ目、何か境になるものを越える
例えば、橋、扉、鳥居
二つ目、越えるときに、どこに行きたいかシロにお願いする
二人は放課後、ファミレスで勉強……ではなく、妖のお願い事について話していた。
「それで、次の場所だけど……」
ミカが夢に見た所は、海である。
「海が見えたって特徴は?」
スマホで写真を見ながら場所を特定する。
「丸い穴が空いてる、大きな岩みたいなのも見えた! 砂浜は白くて……あ! ここかな?」
「白良浜、円月島。和歌山か、遠いな!」
ハルカが場所を特定する。
和歌山県の白良浜は、白い砂浜、青い海で人気のビーチである。円月島は、白良浜のシンボルとして有名で、正式名称は高嶋というらしい。島の中央に、円月形の穴が空いている事から『円月島』との名で親しまれている。春にはその穴に夕陽がおさまる所を見ることも出来る。
「なるほど! 私行った事ない!
よし、じゃあさっそく行こう!」
やる気満々のミカである。
「いくらシロが飛ばしてくれるって言っても、ちょっと遠いから休みの日に行こう」
ハルカは冷静に情報を整理する。
頼りになる……
土曜日、ハルカの家に集合する。
「お邪魔します〜」
ミカが家に入る。
「今日誰もいないよ。ドア越えればいいんだよな! スマホ忘れてない?」
ハルカが確認する。
「今日はちゃんと持ってきた!」
鞄を確認するミカ。
「靴も持ってこ! 着いたら外だもんな」
ハルカは抜かりない。
「そうだね! 忘れてたよ」
「よし、じゃあ早速やってみよう!」
ハルカは緊張の表情。ミカはわくわくしている。
「和歌山県白良浜に行きたい。シロ、お願いします」
二人は揃ってお願いすると、部屋のドアを超えた。
白い靄が漂う、それが晴れると目の前に青い海が見えた。足下は柔らかく、海の香り、潮風で髪の毛が舞う。二人は砂浜にいた。
「わぁ、綺麗!」
ミカは感動している。
「本当に着いた……」
ハルカは驚きと恐怖で、景色に感動する余裕はない。
対照的な二人に女性が声をかけてきた。
「あの、シロ様のお友達の方ですか?」
「はい!」
ミカが返事する。
砂浜を、ゆっくり歩いてきた白のワンピースの女性は、腰まである黒髪が水に濡れているようにしっとりしている。
「私、人魚です。
今日はお願いを聞いてくださるとの事で、感謝いたします」
丁寧にお辞儀する人魚。
「人魚さんは足がありますけど、魚の尻尾ではないんですね?」
ミカが疑問を口にする。
見たところ人間となんら変わらない様相である。
「お願い事を聞いてもらう事になったので、シロ様に魚の部分を足に変えてもらいました。一時的ですが」
人魚は微笑みながら説明してくれた。
「へぇ! 何だかそれって人魚姫みたいですね」
ミカが興奮して人魚に伝える。
「人魚姫ですか?」
人魚に人魚姫の話をするミカを見て、ハルカは尻込みする。
妖と知らなかった時は意識しなかったのに、人じゃないと思うと何話せばいいかわからない。
人魚姫の話が終わったようだ。
「……早速お願いの内容を聞いてもいいですか?」
本題に入る事にした。
「はい。私、一目でいいので会いたい人がいるのです」
人魚は遠くを見ながら話し出す。
「この白良浜は、夏になるとすごく賑わうのですが、その方はとても魅力的で! 一目見て夢中になりました……」
なんだか恋する乙女のようだ。
「それは素敵なお話しですね!」
同じくミカも、人魚のようにうっとりする。
「人探しですか……なかなか難易度の高いお願いですね」
観光客も沢山来るこの浜で、一人の人間を探すとなると、砂漠の中から一本の針を探し出すようなものだ。
「で、どんな人なんですか?」
ミカは興味津々だ。
「その方がいたのは夏の間だけです。あの建物に出入りしていました。背は私くらいで、茶色のショートカットで、あ! 毎日エプロンを付けていました」
人魚が指差したのは、一つのカフェだった。
「エプロンを付けていたなら、あそこの店員さんじゃないかな?」
「ひとまず、カフェで情報収集だね!」
ミカは旅行気分である。
カフェ入りたいだけなんじゃ……?
ハルカは疑いの目である。
海が見えるおしゃれカフェへ入店する。
店員は皆、揃いのエプロンを付けているようだ。
時期はずれなのと、混み合う前の時間から外れていたこともあり、すんなり席へ案内された。
注文を取りに来た女性店員に話を聞いてみる。
「あの、このお店で働いていた方についてお聞きしたいんですが……」
ハルカが話を切り出す。
「夏の間だけいた、茶髪のショートカットの方なんですけど、知りませんか?」
ミカが尋ねる。
人魚は不安そうな顔をしている。
「はぁ。お知り合いの方ですか?」
女性店員は怪訝な表情をした。
「知り合いというか……」
ミカは曖昧に答える。
「個人情報なので、あまり詳しくは教えられないんですが、夏の間だけいたバイトの人だと思います」
そう言うと営業スマイルで注文を聞き、戻って行った。
「夏の間だけのバイトなんて沢山いるだろうし、ここからどう探そうか?」
ハルカは途方に暮れた。
「んー、今年の夏も来るかもしれないよね!」
それまで待つ気だろうか……
ハルカは幼なじみの言動に不安を覚える。
「人魚さん、その方の年齢なんて大体分かりますか?」
人魚さんが考える素振りをする。人魚はミカを見つめて答えた。
「そうですね……ミカさんよりは大人っぽかったと思います!」
「なるほど。それなら大学生かな?」
「お待たせしました」
注文した商品を店員さんが運んできた。
「本日のおススメご注文のお客様……」
「私です!」
「わぁ! ミカさん、それは何ですか?」
「人魚さんのも美味しそうですね!」
ミカと人魚は、何だか甘そうで可愛らしい食べ物を食べている。きゃっきゃと楽しそうである。
意中の人探し、行き詰まっているのになぁ。
ハルカは海を眺めるのであった。




