2
ロンドという名のその少年は、剣を抱えて家に帰ってきました。幸い、家族は眠っているようです。自分のベッドにもぐりこみ、シーツの中に剣をかくし、寝間着にきがえてから、ロンドはやっと眠りにつきました。
朝になると、母が荒っぽくロンドを起こしにかかります。
「いつまで寝ているの! ロンド、さっさと起きな! 町に小銭が落ちていないか、探しに行くんだよ!」
シーツをはいだ母は、剣を見つけ、おどろきの声を上げました。抜き身の剣は窓から差し込む朝日を浴びて、このうす汚くせまい家の中でも美しく冷たい輝きを放っています。
「あんた、ちょっと来て! ロンドがとんでもないものを持っているよ!」
母に呼ばれて、父がのっそりと顔を出し、剣を見てにやりと笑いました。
「こりゃあいい! 売り飛ばせば、いい値段がつきそうだ」
ロンドはとっさに剣を握りしめて、さけびます。
「いやだ! 僕、これで冒険するんだ!」
「何馬鹿なことを言ってやがる!」
父はロンドの頭にげんこつを落とし、剣を取り上げようとします。
「よこせ! こんなもの、子どもが持っていてもしょうがねえ」
ロンドは父を遠ざけようとして、剣をぶんと振り回しました。はずみで剣が壁にあたり、固い壁を深く切り裂きました。
ロンドも父母も、おどろいて壁を見つめます。剣をそっと壁から抜いてみると、ちっとも刃こぼれしていません。
ロンドは、剣を見つめました。夕べのあの男が言っていたように、すごい力を秘めているのかもしれません。売り飛ばすなんて、とんでもない! 今まで夢見たこともなかったような、素晴らしい冒険ができるでしょう。
ロンドは、床に落ちていた誰かの上着で剣をくるみ、さよならも言わずに家を飛び出しました。ばたばたと音をたてて、父母も追ってくるようです。ロンドは後ろを見もせずに、ひたすら走って逃げました。
走って走ってとにかく走って、とうとう来たこともない町にたどり着き、ようやくロンドは立ち止まりました。上がった息を整えて、だばだば流れた汗をふくと、今度はお腹が空いてきます。
「しまった。財布も何も持ってこなかったや」
上着でくるんだ剣を抱きしめて、ロンドはため息をつきました。まさか、剣を売ってお金をかせぐわけにはいきません。そうすると、父のようにすりやかっぱらいでもしてお金をかせぐか、道ばたで小銭や、鉄のきれはしを探してお金にかえるしかないでしょう。それは警察に捕まる心配はないけれど、すごく時間がかかるのです。
とぼとぼと歩き始めながら、ロンドは自分がどんなところにいるのか、知りたいと思いました。
看板に書かれた町の名前は、今までに聞いたことがないものでした。まだ早朝だというのに、往来をたくさんの人が歩いています。仕事に向かうのでしょう。彼らが道ばたのお店でサンドイッチを買っているのを見て、ロンドはますますひもじいお腹をぎゅっと押さえました。
鼻から息を吸うと、かすかに潮の香りがしました。海が近くにあるのでしょう。
通りがかる人を捕まえて、聞いてみました。
「海はどっちの方向にあるんですか?」
「あっちだよ」
そう指さされた方向を目指して歩きます。海が見てみたかったのと、港に魚でも落ちていないかと思ったからでした。
港には、たくさんの人が集まっていて、かんじんの海が見えないほどでした。近づくと、誰もが興奮して、こう噂しています。
「漁師が、竜を捕まえたんだって!」
「ええっ、まさか!」
「海に浮かんでいたのを、アミでさらってきたらしい」
それを聞いたロンドも竜が一目見たくなり、人をかきわけかきわけ、前に出ました。埠頭に、アミに入ったみどり色の大きなかたまりがべしゃりとへばりついています。それを囲んで、屈強な体の男たちがあれこれと話し合っているようです。
「あれが竜?」
剣をぎゅっと握り、ロンドはつぶやきました。周りの人達も、こわごわと竜の様子を眺めています。
「死んでいるのかしら?」
「きっとそうに違いないよ。ちっとも動かないだろう」
「どこからやってきたのかね。海の中を泳ぎ回っていたのか」
「変なこと言わないでくれ! 海に出られなくなってしまうだろう」
その時、アミの中の竜が、ぎろりと目を開きました。
「あっ!」
竜がぼうっと火をふき、漁師たちはあわてて離れました。竜はうなり声を上げて、野次馬たちをにらみつけました。太く長いしっぽを、いらいらと左右に振っています。
「大変なことになる前に、駆除してしまえ!」
「でも、どうやって? 炎をはくのに__ほら」
ちょうど今も、果敢に近づこうとした漁師が竜のはく炎をまともに受けて、大変なさわぎになっていました。周りの漁師たちがあわてて海水をかけ、運んでいったようです。
竜が自分をからめとったアミをひっかき、怒りのほえ声をあげました。ロンドははっとして、ゆっくりと竜に近づいていきました。大人達がロンドを止めようとします。
「おやめ、危ないよ!」
けれどロンドは、にっこり笑います。
「大丈夫です!」
ロンドは、剣を取り出し、竜を捕まえるアミを一本一本切ってやりました。竜はロンドをじっと見つめ、時折鼻から黒い煙を吐き出しました。
解放された竜は、ゆっくりと体を起こし、ロンドを見下ろして言いました。
「ありがとう。お前の名は、何という?」
「ロンド!」
「ロンドか」
竜はおもむろにロンドをがぶりとくわえ、自分の背中に乗せました。そして、巨大な羽を広げ、港を飛び立ったのです。
ロンドはあわてて竜の背中のとげにしがみつき、港を振り返りました。さきほどの人々が、どんどん小さくなっていきます。
風にまじって、竜の声が聞こえました。
「その剣で、悪い巨人を倒す手伝いをしてほしいのだ、ロンド。あちこちの国から姫をさらって自らの城に閉じ込めたり、面白半分に竜や人やその他のいきものを殺す巨人だ。私はそいつと戦ったが敗れ、海に投げ捨てられてしまった。だが、何としてもあいつは倒さねばならぬ」
「うん、いいよ!」
ロンドは答えました。
「剣を決して落とさぬようにな」
確かに、下はどこまでも広がる大海です。あそこに剣を落としてしまったら、もう絶対に見つかりっこないでしょう。
巨人の住む城は、小さな島国にありました。まる一日かけて竜とロンドはその城にたどり着き、城の屋根にそっと降り立ちます。昇ったばかりの太陽が、竜のみどり色のうろことロンドの剣を照らしました。
「いいか、ロンド。お前は私が良いと言うまで、巨人に姿を見せてはならぬ。巨人の隙をつくのだ」
「わかった」
気配を消すのは、大得意です。両親がけんかした時や、いじめっ子から隠れる時がたびたびありましたからね。
ロンドを背中にのせたまま、竜はおたけびをあげ、ありったけの炎をはきました。屋根が焼け、壁がくずれます。すぐさま巨人がかけつけてきました。
竜を見ると、巨人はにったりと笑いました。
「またお前か。こりない奴め!」
竜がとびかかると、巨人は大きな図体ににあわずすばやい動きでかわし、竜の羽をむんずとつかみました。ロンドは身を縮め、もう一つの羽のかげにかくれるので精いっぱいです。竜が痛そうな悲鳴を上げました。けれどしっぽで巨人をたたき、なんとか逃れたようです。
そのままとっくみあいの激しい戦いが始まりましたが、ロンドの目から見ても、巨人の方が強そうです。ロンドはもう、今か今かと剣を握りしめて待ち構えていましたが、竜はちっともロンドを呼ぼうとしませんでした。
とうとう、巨人は竜を片足で組み敷き、勝ち誇ったようにこう言います。
「さあ、お前ももうおしまいだ!」
竜はじっと目をつむり、何も言いません。ロンドはこのまま飛びだそうと何度思ったことでしょう。けれど、そのたびに思い出す竜との約束が、ロンドを引き止めるのでした。
「俺様にたてついた罰として、お前の心臓を食ってやるぞ。さあ言え、どこにある?」
竜は低い声で答えます。
「背中だ」
それを聞いた巨人は、足をどけ、竜の羽ををかきわけて、その大きな頭を近づけました。
竜がさけびます。
「今だ、ロンド!」
ロンドは剣をふりあげ、巨人の体に登りました。そしてすっぱりと巨人の首を切り落としてやりました。
巨人を倒し、竜の傷の手当てをしてやると、二人は城の中を見て回りました。あちこちの部屋に、宝石や黄金など、世界中から巨人が盗んできた宝物がありました。そして地下の牢屋には、美しい姫が何人も閉じ込められていました。
竜は背中にのせられるだけの宝物と姫たちをのせて、元あった場所に帰すために飛んでいきました。ロンドはその間城で留守番を務め、順番待ちをする姫たちと仲良くしゃべったり、城に近づいてくる住民たちに巨人の脅威が去ったことを知らせてやりました。
最後の姫を竜と共に送り届けた時、姫の両親である国王夫妻が言いました。
「ロンドどのには、ぜひこのお城でくらして、姫と結婚してほしい」
ロンドと仲良くなった姫も、うなずきました。ロンドは困ってしまって、竜を見ました。
何しろ、ロンドはまだ十二歳なのです。結婚だなんて、考えたこともありませんでした。
「結婚した方がいいのかな?」
竜は優しく答えました。
「お前の好きにすればいい。人生はまだ長いのだから」
「じゃあ、僕はまだまだあちこち見て回りたいな」
惜しむ国王一家に、ロンドは一つお願いをしました。
「アメリカの、僕の家族に、宝物を贈ってあげてください。僕はもう帰らないけど、きっと喜ぶと思うから」
姫たちは、巨人から取り返した宝物の中から送ると約束してくれました。
姫たちのお城を旅立つ時、竜がお別れを言いました。
「お前と別れるのは名残惜しいが、見回らなければならない場所がいくつもあるのだ」
ロンドは竜の首を抱きしめて、さよならを言います。
「また、どこかで会えたらいいね」
「ああ」
竜は、ロンドのベルトの、さやに入ったあの剣をちらりと見て言いました。
「辛い時は、今までに起こったことを思い出してみるのだ。きっと役にたつだろう」
竜が空の彼方へ飛んでいくのを見送ってから、ロンドも出発しました。
それから、ロンドが何人の巨人を倒し、悪い妖精をこらしめ、悲しむ人々を救ったのかは、くどくどと書き記すこともないでしょう。十年もたつころには、ロンドは世界中で英雄と呼ばれ、どこへ行っても歓迎されるようになりました。
ある時、ロンドは宿屋でいつもより多く酒を飲み、すっかり酔って眠ってしまいました。目を覚ました時、あの大切な剣がどこにもありません。誰かに盗まれてしまったのだと彼はすぐに気がつきました。
ロンドは宿屋を飛び出し、町で剣を探します。けれど、ちっとも見つかりません。
彼のふところには、十分なお金がありました。きっとこのまま剣が見つからなくても、子どもの頃よりはずっと立派なくらしができるでしょう。
「でも、あの剣は大切な友達だ」
ロンドはそうつぶやき、剣を探し続けました。その町のどこにもないらしいと分かると隣の町に行き、また次の町、次の町と剣を探します。
家を飛び出した時から__いえ、あの不思議な男を見た劇場から、剣はずっとロンドの側にいました。恐ろしい経験をした時も、楽しかった時も、ドキドキした時も一緒にいたのです。そんな剣が手元にないと、どうしようもなく寂しく感じるのでした。
しかしある夜、ロンドがとぼとぼと歩いていると、どこからともなく不思議な声を聴きました。
『ロンド、ロンド』
誰かが呼んでいるのです。ロンドは思わず立ち止まり、じっと耳をすましました。
『ロンド』
誰のものでもない、透明な声でした。けれど、その声を聞くとどうしても放っておけないような気がして、ロンドは声のする方向を探り始めました。東に行くと、声は小さく聞こえます。では西に走ると、聞こえなくなってしまいました。南に行くと、声はにすすり泣きが混ざるようになりました。そこでロンドは北へと足を向け、だんだん大きくなる声をたどって進みます。
歩いていった先に、一軒の家がありました。窓からのぞくと、ならず者どもが酒盛りをしています。その中の一人に、見覚えがありました。剣を盗まれた宿屋で、やたらと酒をすすめてきた男です。
よく見ると、テーブルの上にあの剣が置いてありました。ロンドはためらいもせず、扉を大きく開けて中に飛び込みました。
ならず者たちはおどろきました。けれどやってきたのがロンドと気がつくと、それぞれの武器を抜いて襲いかかってきました。ロンドには武器と呼べるものがありませんが、長旅の中で鍛えた腕っぷし一つで戦いました。
一晩中戦って、ようやくロンドは勝ちました。うんうんうなりながら倒れているならず者たちをまたいで剣に近づくと、剣はきらりと光ったようです。けれどロンドの名を呼ぶこともなく、静かに待っていました。
ロンドは剣をそっと取り、さっさとその家を出て行きました。
それ以来、ロンドは変わらず面白おかしい日々を送っていましたが、不惑の年にさしかかったころ一人の女性に出会いました。
彼女は、とても善良な人でした。早くに夫を亡くし、田舎の小さな農村で、朝から晩まで働き、つつましく暮らしていました。たまたまその村を訪れたロンドでしたが、そこには宿屋などなかったので、彼女の家に泊まることとなったのでした。
一本のろうそくを灯して、ロンドと女性はたくさんのことを語り合いました。ロンドは今までの冒険を話し、彼女はおいしいパイの作り方や野菜の育て方、暮らしの中の喜びを語りました。お互いに、聴かされた話を面白いと思い、毎晩眠るのが惜しくなるほどしゃべり続けました。話の種が尽きることは決してありませんでした。
ロンドはその女性がすっかり好きになり、ある日言いました。
「私と結婚してくれないか。あなたのために、立派なお城を建ててみせる。この剣があれば、できないことなど何もない」
女性はほほえみましたが、そっと首を振りました。
「ありがとう。わたしも、あなたのことが好きだわ。でも、お城はいらないし、冒険に出ることはできない。亡き夫が残してくれたこの家と畑を、死ぬまで守ると決めているの。そしてその暮らしが、何よりも楽しいの」
「では、私もあなたと一緒にこの家を守っていいだろうか?」
ロンドの言葉に、女性はうなずきました。こうして、二人は夫婦になりました。
ところが、剣はその暮らしが気に入らないようでした。小麦の収穫に剣をふるうと、大事な穂まですっぱりと切ってしまいました。村祭りの劇に剣を貸すと、衣装やセットまでも断ち割ってしまい、大騒ぎになりました。棚にしまっておくと、しきりにがたがたと震えて、ロンドや妻が休むのを邪魔しました。
困り果てたロンドはとうとう、村にやってきた行商人に剣を売ってしまいました。
「あの剣は、冒険暮らしが好きなのだ。きっと私の手を離れた方が、幸せになれるだろう」
ロンドは寂しく思いながらも、そう自分に言い聞かせました。そのころ妻に子どもができたので、これ以上危険なものを家に置いておくわけにはいかなかったのです。
剣を売ってから数日後、真夜中にロンドはふと目を覚ましました。
『ロンド、ロンド』
誰かが、外で自分を呼んでいます。起き上がり、外に出てロンドはおどろきました。
剣が、さやもつけずに、畑のそばに落ちていました。
ロンドは、剣のそばにひざをつき、うなだれました。
「どうして、戻ってくるのだ。お前はお前を必要とする者のところに行けばいいのに」
剣をその場に残して家に戻ろうとした時、後ろから声がかかります。
『ロンド』
ロンドは振り返り、あの剣が星明かりにきらきらと輝いているのを見ると、重苦しいため息をつきました。
「ああ……」
それからあきらめて、剣を拾い上げました。
ロンドの元に戻ってきた剣は、相変わらずでした。シーツや毛布で何重にくるんでいても旅に出ようと毎日さわぎ、料理や野良仕事に使ってみると切れ味が良すぎるためにいつも上手くいきません。はじめは剣をうらやましがっていた村の男たちも、ロンドたちが悩んでいるのを見ると、貸してくれなどとは言わなくなりました。
村の子どもたちに、ロンドは声をかけてみました。
「この剣を持って、冒険に出てみたくはないか?」
けれど、剣のやっかいさをよく知っている子どもたちは、首を振って逃げていくのでした。
これから子どもを産む妻の邪魔にならないようにと、ロンドは剣を抱いて外で眠るようになりました。毛布をかぶっていても夜はひどく寒く、凍える思いでロンドは過ごしていました。
星を眺めながら、ロンドはふと、昔出会った竜の言葉を思い出しました。
『辛い時は、今までに起こったことを思い出してみるのだ』
言われた通りにこれまでの冒険を一つ一つ思い返していると、寒さや惨めさがうすれるようでした。
そんな風に夜を過ごし始めて数週間後、ロンドの回想はあの劇場での出会いに行き着きました。
「あの男は、どうなったのだろう」
舞台の上で一人、朗々と自分の身の上を語る男の姿を思い浮かべ、ロンドは目をつむりながら笑みを浮かべました。彼が残していった剣が、ここにあります。あの不思議な出会いが、ロンドの人生をすっかり変えたのでした。
はっとロンドは目を開けました。あのとき男は消えて、剣はロンドの手に渡りました。あの男と同じことをしたら、剣はどうなるでしょうか?
ロンドは立ち上がり、走り出しました。あの劇場は、あまりにも遠く離れ過ぎています。だから、できるだけ似た場所を選んだのです。
村の外れに、広い野原がありました。そこは村祭りで皆が踊ったり、劇をする場所です。野原の真ん中にロンドは立ち、剣をたずさえました。月と星がさえざえと、ロンドを見守っています。
ロンドは剣の美しい刃をそっとなでました。長年の旅でも、ちっとも傷ついたり、汚れていません。今でも剣は、ロンドの自慢の友達です。
ふとロンドは、自分は死ぬのだろうと思いました。劇場であの男が消え失せたように。妻と生まれてくるはずの子を思い出し、悲しくなりましたが、それ以上におごそかな気持ちが胸を満たしていました。
ふと前を見ると、長い影がひょこひょこと近づいてくるのが見えました。はっと身構えましたが、やってきたのは村の子どもの一人でした。
長い黒い髪を三つ編みにした、十歳ほどの女の子です。名前をカノンといい、両親をなくして親戚の家で暮らしている子でした。ロンドも二言三言、言葉を交わしたことがありました。
カノンは立ち止まって無邪気にたずねました。
「ロンドおじさん、ここで何をやってるの?」
ロンドは答えました。
「親友にお別れのあいさつをするんだ」
「じゃ、あたし、帰った方がいい?」
「いや。いてもいいよ」
それを聞くとカノンは草の上に座り、パチパチと拍手をしました。ロンドはおじぎをして、語り始めました。
ロンドの冒険話は、きっとカノンも何度か聴いたことがあったでしょう。それでも、夢中になって聴いてくれました。語り終えると、ロンドは剣を目の前にかざし、ほほえみました。
「私の旅も、ここで終わりだ。聴いてくれて、__そして今まで一緒にいてくれてありがとう! 本当に、すごく楽しかった!」
最後に剣を抱きしめ、ロンドはそのままそっと草むらに下ろしました。
「次に君と友達になる者が、うんと幸せになりますように!」
そして、剣から離れ、目を閉じました。
目を開けた時、ロンドは代わらずそこにいました。カノンが目を丸くして、それから盛大に拍手を送ります。
「面白かったわ!」
「あ……ありがとう」
ロンドは自分の体をあちこち触ってたしかめ、まばたきします。消えたりせず、自分はここにいるようです。
カノンが興味津々で、剣をのぞきこみます。
「ね、次に誰がこの剣のお友達になるの?」
「分からない」
「じゃあ、あたしでもいい?」
ロンドはカノンを見つめました。カノンは剣を持ち上げ、振り心地を試しました。
「あたしがこの剣を持って家出しても、ロンドおじさんは怒らない?」
「ああ」
「やった! ありがとう! このことは誰にも秘密ね、あたしもいーっぱい冒険する!」
カノンは手を振って、小躍りしながら野原を去っていきました。残されたロンドはしばらくぼんやりしていました。
それからいくら待っていても、剣がロンドを呼ぶ声は聞こえてきませんでした。それで彼は、妻がいる家に帰りました。




