いや、普通に考えて気持ち悪いだろ
いや、普通に考えて気持ち悪いだろ。
いや、普通に気持ち悪いだろ、と彼は言った。
不快を口にしながらも、彼の表情は淡々としたものだ。恐らく、嫌悪の情というよりは、異常であるという判別なのだろう。
おかしい、異常だ、と彼――人から地母神へと逸脱した存在――は断じた。
――人と神の婚姻について。
折角気持ちよく微睡み続けていたところを起こされたと思えば、顔見知り程度の知人(人ではないが)と、知人が惚れたという人の女。
――一対の性的倒錯者。
悪夢では?と彼は再び眠りにつこうと異常者達に背を向け寝返りをうつ。しかし知人の方の異常者の指先一振りで再び向き直された。
「あ?まだ話続くのか?」
「人の方はね、私達の婚姻に賛成なんだ。でも神々はどうにもよろしくないようでね、どうしたら彼女を認めてくれるのか、意見が欲しい」
隣の人間の女は無言のまま、しかし深々と頭を垂れた。無闇に上位者へ口をきいてはならないという礼儀は心得ているらしい。まぁそれはどうでも良いのだが。
――ズレている。
残念なことに知人の異常者の方がより、ズレている。
何故、神々がその女を認めないのか。無力で矮小な人間だからだ、と異常者(知人)は考えているようだが――
彼は自身の神域を開き、異常者達の存在スケールを分かりやすく変じた。
異常者(知人)は何の変哲もない人間の男の姿となり、
異常者(他人)は……
「おや、随分と小さく細やかになってしまったねぇ」
「……まぁ…海綿だからな」
女は海綿動物へと変じていた。もっとも原始的な、始まりの動物。最も単純な動物に。
異常者(知人)は呑気なものだ。とても貌が変わったねぇ、とにこにこと笑っている。
「……お前、婚姻について、どういう認識だ?」
「番うことだろう?」
「番とは何をする?」
「死ぬまで共に過ごすのだろう?」
「間違ってはないがな、多くの場合、有性生殖による繁殖を伴う。その女は少なくとも、お前の子を孕むつもりだった」
遠い遠い昔に、文字通り血を分けた地上の生物に対して、絶対的な支配力をもって頭の中を覗くなど容易い。
年頃の、人間の娘。優しく尊い神に見初められた女は、若さ故か、神の姿が人に近いものだった故の浅慮か。
人間と同じように性交し、子を成すつもりでいた、性的倒錯者。
異常者(知人)はスケールで言えば、海綿と添い遂げようとする異常者だ。上位者達からすれば、それはそれは気持ち悪いだろう。愛でるまでなら理解できる。何かしらを愛玩する神々は少なくない。しかし――ペットが発情しているからと、ペットと性交するものはいない。
この異常者は未熟だ。
上位者としての事理弁識に欠けている。
ペットに従い、性交までもする、その奉仕精神を人であれば慈愛と呼んだのだろうか。種族を超えた愛とでも呼んだのだろうか。
もう血肉らしい身体を持たないが、頭が痛くなってくるような錯覚。
「……人間の子、理解したか?」
海綿と化した女は、恐らく、理解した。矮小なる我が身と愛し愛された神を――置き換えてみれば、分かった。もし、自分が神だとして、海綿を愛する理由が分からない。意味がわからない。何故、そんなものを?食べるものも、好きなことも、肌を合わせることも、何もかもが違うものなのに、何を思ってこの神様は、私を?何故、この神様は私を選んでくれたのだっけ。それは、それは、私が、
「そう、お前が、お前達が求めた。
人間を愛する神を。
願いは叶ったな、おめでとう」
彼は人間に応じた奉仕の神に向かい、手を伸ばし、
――ぐしゃり、と愛するものを潰した。
海綿の女は人の姿を取り戻し、そして、
何か、胸の内から消え失せている感覚に首を捻り、そのまま家路についた。
消えた稾の一掴みに、愛も何も、なかった。




