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短編作品

10年後の自分からの手紙



俺の名前は、松本直樹。中2の不登校だ。

勉強がつまらないので、いつもゲームをしている。


中2の夏休み直後までは真面目に勉強をしていたが、成績がどんどん下がっていくばかりでやる気を失って今に至る。


何で、何で……俺は勉強をした。周りの連中よりも人一倍努力した。なのに、なのに……勉強をしない1軍どもよりも成績が悪い。


何故だ、努力した人は報われるんじゃないのか?


夏休み直後にテストがあった。


私はそこで高得点を得るために、人一倍努力した。嫌いな勉強を我慢……我慢して頑張った。


なのに、赤点だった。


前回のテストよりも酷かった……。一体、何の為に……我慢したか? わからなくなった。


何の為に? あの時間は無駄だったのか?


私は今まで、勉強を優先してきた。 努力した人は報われるという言葉知ってから……。


だから、友達はいない……。 彼女はいない……。


俺は何で生きているんだろう? そう思って時、ゲームに出会った。


あれは、素晴らしい。 人生を豊かにしてくれる。楽しくしてくれる。


学歴なんかいらない、友達なんかいらない、彼女なんかいらない。


俺は気づいた。 ゲーム以外全部、時間の無駄だ! と



ある日、勉強机の上に手紙が置いてあった。


何かなと読んでみると、中は10年後の自分が書いたものだとわかった。


「おい、中二のおれ。おまえ、今日もまた一日中ゲームしてただろ。」


手紙は、見慣れたクセのある字で書かれていた。どう読んでも、他人の字じゃない。内容も、まるで今日一日の俺を見ていたみたいにピッタリだった。


「母さんが朝7時に起こしに来たのに無視したよな?飯も食わずに、ベッドの中でスマホゲームして、10時ごろ起き出して、朝飯代わりにカップラーメン食って。午後からは例のRPG。そろそろラスボスだけど、たぶんまだ負けると思う。」


鳥肌が立った。


見られてる? 盗聴とか? 監視カメラ?


いや、それ以上に「この俺に手紙を書くやつなんていない」ことのほうが現実味があった。


手紙は続いていた。


「この手紙は、未来の俺。つまり、おまえが26歳になった未来から送ってる。信じろとは言わない。でも、このままだと、おまえの未来はマジで終わる。俺は知ってる。26歳の俺が、どうしようもないほど後悔してることを、全部教える。」


俺はそのまま、しばらく読み進めることができなかった。


26歳。そんな年齢、自分とは無関係だと思っていた。


今の俺は、学校に行っていない。


夏休み直後のテストが終わってから、何もかも嫌になった。


ある日、ちょっと休むつもりで学校をサボった。気づけば半年、教室の空気の記憶すらあいまいだ。


代わりに俺を満たしてくれたのが、ゲーム。


現実では誰とも話さない日でも、ゲームの中では冒険者として魔王を倒していたし、ランキングでも全国トップ100に入るほどにはやりこんでいた。


親は何も言わなくなった。


先生からの電話も、母さんが出てくれる。


手紙の続きを見た。


「10分でいい。ノートを開け。内容なんてどうでもいい。ただページをめくって、1文字でもいいから字を書け。何でもいい。それだけで、未来は少し変わる。」


バカバカしい、と思った。


けど、なぜかその夜、ベッドの中でスマホを置いて、俺は机の引き出しを開けていた。


奥の方に、使っていなかった国語のノートがあった。


ぺらっと開いて、適当に鉛筆を持ち、俺はそこに、こんなふうに書いた。


「今日、手紙が届いた。未来の俺からだった。本物なら、また手紙があるはずだ。」



翌朝。


目が覚めた瞬間、俺はベッドの中で硬直した。


心臓がやけにうるさい。あの手紙。昨日の手紙のことを思い出したからだ。


机の上を見るのが怖かった。でも、見た。


そこには、やっぱり、あった。


昨日と同じサイズの封筒。名前も宛名もなく、ただ、ぴったり俺の目の前に置いてあった。


手が震えた。


嘘じゃなかった。昨日のは、偶然でも妄想でもなく、本当に。


封を開けると、やはりあの字があった。


自分のクセの強い筆圧。漢字のバランスの悪さ。紛れもない、自分自身の字だった。


「二日目のアドバイスだ。明日、おまえは母さんとケンカをする。そのとき、うるせえ、もう放っといてくれって言いたくなる。でも絶対に言うな。言ったら、母さんは泣く。そして、そのあと口をきかなくなる。何日も。親って、ずっと強いわけじゃない。今の母さん、かなりギリギリだ。わかってる。おまえはうるせえって言いたくなるくらい、干渉されたくない。でも、それを一度こらえるだけで、未来が少しマシになる。今の俺は、26歳で独り暮らし。部屋には誰もいない。夕飯は冷凍パスタ。笑えるよな? そんな未来になりたくなかったら、踏みとどまれ。」


手紙を読み終えたとき、俺は深く息を吐いた。


「うるせえ」なんて、しょっちゅう言ってる。


でも、母さんが泣いたことなんて……あったっけ?


いや、あったかもしれない。


目の前で泣かれたわけじゃないけど、部屋の外からすすり泣きみたいな声が聞こえた夜が、一度だけあった。


今でも忘れられない、重たい夜の空気。


その日、俺はイヤホンでゲーム音を大きくして、何も聞こえないふりをした。


昼過ぎ、母さんが部屋のドアをノックした。


「ちょっと、リビングに来ない?」


「いい」


俺は短く返事をしたが、手紙の内容が頭から離れない。


このまままた突き放すような態度を取ったら、あの未来に向かってまっすぐ進むのか?


冷凍パスタの味気ない人生。


それが俺の未来だって?


…冗談じゃない。


10分後、俺は意を決してリビングに行った。


母さんはちょうど、洗濯物を畳んでいた。テレビの音が小さく流れていて、なんとなく気まずい空気。


「……あのさ」


俺が声をかけると、母さんはほんの一瞬だけ、驚いた顔をした。


「どうしたの?」


「……腹、減った。何かある?」


母さんは目を丸くして、それから小さく笑った。


「うん、すぐ作るよ」


それだけだった。でも、その返事が、心の奥にじんわりと染みた。


夜、机の上には三通目の手紙が置かれていた。


いつ届いたのかは、わからない。俺が風呂に入っていた時間かもしれない。もはや、不思議にも思わなくなっていた。


その手紙には、こう書かれていた。


「今日はよくやった。ありがとう。母さんが笑った日を、俺は忘れていた。いや、そんな日があったことすら、記憶から消えてた。未来ってのは、積み重ねなんだな。おまえが今日、一歩動いたことで、26歳の俺がちょっとだけマシな記憶を思い出せた。次のアドバイスは、明日教える。まだまだ、未来は変えられる。」


俺は手紙を丁寧にしまって、国語のノートをまた開いた。


そこに書いた言葉は、たった一行。


「今日は、ちょっとだけ、うれしかった。」



翌朝。


いつも通り目を覚ますと、俺はもう自然に机へと目をやった。


そこには、やはり手紙があった。


最初はただ驚いていたこの現象も、いまでは「今日も来たか」と思えるようになった。


昨日、母さんとまともに話したこと。それだけで、少しだけ自分が違う人間になれた気がした。


手紙の封を開けると、最初に書かれていたのは、たった一行の日時だった。


「2026年2月18日 水曜日」


俺の手が、止まった。


今日は、2月11日。つまり、1週間後のことだ。


その日付の下には、こんなふうに書かれていた。


「その日、おまえは分岐点に立つ。ある人物との出会いが、今後の人生を大きく左右する。おまえの人生が諦めと逃避の道に落ちるか、それとも再出発の道に乗るかは、その日に何を選ぶか次第だ。ヒントは、『朝9時に公園へ行け』だ。そこで一人の人物に会え。詳しいことは、まだ言えない。ただし、行かなければ、未来は変わらない。

俺がこうして手紙を書いている意味を、失うことになる。」


心臓がドクンと脈打った。誰に会うのか? 何が起きるのか?


わからない。でも、行かないと変わらないという言葉が、重く胸に残った。


俺はしばらくぼうっとして、手紙を持ったままベッドに腰を下ろした。


部屋は静かで、カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。


ゲームの通知音がスマホから鳴っていたけど、今日はそれを無視した。


2月18日。水曜日。


そんな日が、人生の分岐になるって――ほんとにあるのか?


でも……


「ありえないこと」は、もうすでに起きている。


未来の自分から、毎日手紙が届く。


しかもそれが、俺のちっぽけな行動の変化に反応して、内容を変えてくる。


ゲームの中じゃない、本当の人生で。


これはもう、俺の人生そのものが「クエスト」なんじゃないか?


そう思った瞬間、ほんの少しだけ、わくわくしている自分がいた。


その日から、俺は変わった。


朝、カーテンを開けて日光を入れるようになった。


10分だけノートを書くようになった。(内容はくだらなくてもいいことにした。)


母さんに「おはよう」と言ってみた。最初は変な顔をされたけど、三日目からは「おはよう」が返ってきた

手紙は毎日届いた。


まるで俺の成長を見守るように、時にアドバイスを、時に感謝を、そしてときには叱咤をくれた。



2月17日 夜


ベッドに入りかけたところで、ふと気づいた。


明日は「2月18日」、あの分岐の日だ。


その日の手紙はいつもより分厚く、便箋が3枚も入っていた。


「明日は分岐点。絶対に、朝9時にあの公園に行け。ベンチに座っている人物に話しかけろ。そいつは、過去を知っている人間だ。おまえの存在を変えるようなことを言ってくる。でも、警告する。その言葉を信じすぎるな。試されてるのは、おまえの意志だ。明日、未来は本当に変わる。期待していい。」


俺はその夜、久しぶりに夢を見た。


灰色の空の下、知らない大人の男がベンチに座っていて、俺に向かって微笑んでいる夢だった。


それが、誰かはわからなかった。


でも――たぶん、未来の俺自身だったのかもしれない。



2026年2月18日、水曜日。


天気は晴れ。少し風が強い。


朝7時半。俺は目覚ましも使わずに起きた。


カーテンを開けると、青空がやけに広がっていた。


ベッドの横には、例によって手紙が一通。今日も、届いていた。


封を開けると、短い一言だけが書かれていた。


「よく起きた。お前の新しい一日が始まる。」


準備といっても特に何もない。


寝癖を軽く直して、パーカーを羽織り、スニーカーを履いて外に出た。


家の外に出るのは、ずいぶん久しぶりだった。


日差しが少し眩しくて、風が顔に心地よく当たる。


なんでもない街の風景。


でも、俺にはそれが、まるで新しい世界の入り口みたいに思えた。


歩いて10分ほどの場所に、小さな児童公園がある。


滑り台とブランコと、ちょっとした鉄棒だけの、地元では誰もが知ってるような場所だ。


小学校のころ、一人で遊んだ記憶がある。


時計を見ると、8時58分。


あと2分。


俺はベンチに座らず、少し離れたところで様子を見た。


そして、9時ちょうど。


その瞬間、ベンチに一人の男が座った。


30歳前後くらい。無精ひげ、黒いジャケット、目元に少し疲れがあるけど、どこか落ち着いた雰囲気のある人物だった。


そして、俺の姿を見ると、にこっと笑った。


「よ、久しぶり。お前が“諦めなかった世界線”の俺だよ。」


え?


言葉の意味が、最初はうまく理解できなかった。


「…え、本当に俺…なの?」


「そう。お前、未来から手紙を受け取ってるよな? あれを書いてたのも、俺。いや、“ある時点”の俺だな。わかりづらいよな。すまん。」


男。未来の俺は、ポケットから小さな紙切れを取り出した。


それは、昨日俺が机にしまったはずの手紙のコピーだった。


「証拠な。こっちは未来から来たんじゃない。分岐した先の現実から戻ってきた。……というと中二病っぽいけどな。でも、マジだよ。」


俺は、なぜかすんなり信じられた。


直感が、これは“本当に俺自身”だと告げていた。


「じゃあさ…どうして、来たの?何のために?」


未来の俺は、真顔になった。その目には、どこか切実さがあった。


「伝えに来たんだ。本当の分岐は、まだこれからだってことをな。」


「お前が変わろうとしてるのは、ちゃんと伝わってる。手紙を読んで、母さんと話して、少しずつ毎日を前に進めてる。でも、それだけじゃ足りない。俺が伝えたいのは――お前が、自分で決めることだ。」


「決める…?」


「そう。お前は、今まで言われたから、流されたからで動いてきた。でも、ここから先は、お前がどう生きたいかを、ちゃんと自分で選ばないといけない。」


「……」


俺は黙った。


自分で選ぶ?


そんなの、怖いに決まってる。


うまくいかなかったら?失敗したら?また部屋にこもるかもしれない。


未来の俺は、それを見透かすように言った。


「失敗してもいいんだよ。痛い目に遭うこともある。でもな、手紙が届くような人生より、自分で選んだ人生の方が、ずっと価値がある。」


「……じゃあさ、聞くけど」


俺は勇気を出して聞いた。


「お前、その未来の俺は、幸せなのか?」


少しの沈黙。


それから、男は小さく笑った。


「うん。まだ不安定だけど、後悔はしてない。あのとき、勇気を出して一歩踏み出してよかったって、本気で思ってる。」


会話は、10分ほどだった。


未来の俺はそれ以上多くを語らなかった。ただ、別れ際にこう言った。


「この先、もう手紙は届かなくなる。それは、未来が不確定になったってことだ。つまり、お前の人生がお前の手に戻ったってことだよ。」


俺は何も言えずにうなずいた。


男は立ち上がり、俺の肩に軽く手を置いて言った。


「大丈夫。お前は変われる。……俺が、証明だろ?」


そして、そのまま背中を向けて、歩き出した。


未来の俺は、振り返らなかった。


でも、なぜか涙が出そうになった。


俺はその場にしばらく立ち尽くして、ベンチを見つめていた。


風が少し強くなり、木の葉が舞った。


ポケットの中で、スマホが震えた。


画面には、母さんからのLINE通知があった。


「おはよう。今日は、昼ご飯一緒に食べない?」


俺は、スマホを見つめたあと、親指を動かして返事を送った。


「うん。いま、帰る。」



翌朝。


目が覚めたとき、真っ先に机の上を見た。


でも、手紙はなかった。


そうだ、もう来ない。未来の俺が言っていた通りだ。


わかっていたはずなのに、やっぱり、少しだけ寂しかった。


もう、あの字も、あの声も届かない。


「……今日からは、自分で考えるってことか」


そう呟いて、俺はベッドから出た。


部屋の空気が少し違って感じたのは、きっと俺自身が変わったからだ。


スマホを開いても、ゲームの通知は無視した。


代わりに、カレンダーアプリを開いて、「10分ノート」と書き込んだ。


毎日、10分だけでもノートを書く。それが、未来からの手紙で教えてもらった最初の一歩だった。


ノートを開く。真っ白なページ。


今日は、未来の自分が書くんじゃない。今の俺が、未来を書く番だ。


少し迷ってから、俺はゆっくりと鉛筆を動かした。


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2026年2月19日

手紙が来なくなった。多分、これからは自分で決めて、自分で動かなきゃいけないってこと。未来の俺は、幸せだって言ってた。でも、その未来はもう存在しない。だって、俺が選びなおすから。


俺は、ゲームをやめない。でも、ゲームだけの毎日はやめようと思う。母さんとメシを食う。それから、ノートを書く。学校に行けるかはわからない。でも、もう「行けない」と決めつけるのもやめる。


俺の未来を、俺が書く。そのスタートの日に、これを記す。

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ノートの端に、日付と名前を書いた。

「2026年2月19日 松本直樹」


リビングに降りると、母さんがいた。


「おはよう」と言うと、驚いた顔をして「おはよう」と返ってきた。


「昼、何食べたい?」と母さんが言う。


「うーん…オムライス」と答えると、笑って「いいね」と言ってくれた。


それだけの会話が、まるで特別な儀式のようだった。


言葉を交わすこと。誰かと気持ちをつなぐこと。


それが、俺が未来でずっと欲しかったものだった気がする。


午後、俺は部屋で静かにノートを書き続けた。


手紙はもう届かないけれど、ノートが手紙に変わることに気づいた。


今の俺が、明日の俺に向けて書く手紙。


そうやって、自分の未来は作られていくんだ。


夕方、ふと空を見た。


青から橙に変わっていく空の中に、どこかであの“未来の俺”が見ている気がした。


「ありがとう」と、小さくつぶやいた。


その声は風に乗って、どこか遠くへ消えていった。



The End.


ここはこうした方がいいなどのアドバイス、誤字脱字があればぜひ感想欄に。

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