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小さな反逆の心

 砂漠の中に建つトワの外壁は、ゴツゴツとした大きな石をただ積み重ねて作られている。


 所々崩れた場所があるが、城壁の役割はまだ果たしているようだ。


 入り口の前へ出ると、扉があっただろ場所は、蝶番(ちょうつがい)が壊れてしまったのか、扉だっただろうものが地面に転がり朽ちはてようとしていた。


 しかし街へ一歩、中へ踏み入れると、未だ、人が行き交うような街の様子にとても驚く。整った道、白ぽい街並みが土地が狭いため道に迫る様に建っているが、壁が壊れた様子もないようだ。


 ヤシの木ねような木が折れたり、枯れている様子もないようだ。


 ありし日の姿をそのまま残したような街並みに、博士では無いがここには何者かの秘密が眠っている様に思えてくる。


 そんな呆気に取られている私の横で、ダグラス博士は、どこからか手に入れただろう地図に、ランタンの光を当てて何か探すように見ている。


 私はその時、視線の先、街路樹の後ろを白い何かが、横切るのを見た。


 しかし今、博士の邪魔は許されない。トワの物語では、骸骨は襲ってくる記述はなかった。


 そしてガイドの話しからすると、トワから出ていさえしすれば助かる見込みが高い。


 だからこの早く脈打つ心臓を、早く落ち着けて、冷静になければならない。


「では、行こう。教会はこっちだ」


 博士は、ランタンで足元を照らしながら、歩き始める。しかしそちらは何かが横切った方だ。


 砂漠の夜の寒さが、一層増すように思えた。


「博士、今さっき私はこちら側で、私は横切る何かを見ました。私はとっても怖いです」


 事実を言って、そしてどうして欲しいのではなく、感想を言えば博士も聞きれてくれるのかと思ったのだけど……。


 博士は私を見ただけで、その先に進んでしまう。


 そして進んだ先に何かが居た。


 骸骨、トワの住人の成れの果てがゆっくり時間をかけて私の方へと振り返った。


 そして気付くと、博士は私を押しのけて逃げていた。


 うわぁああぁ――! と、博士の声がこだまする。


 突き飛ばされ、叫ぶ声をあげる博士を呆然と見送る私の手を、骸骨が掴む。


 初めて見た骸骨は、とても白く骨密度が高そうで、カチカチ歯を打ち鳴らしていた。


 そしてその骸骨の歯は私の顔へと迫って来る。


 あの歯が私の咀嚼を始める前に逃げなきゃ!?


 そう思い、足で蹴ってみたり、手を左右に振ったが、筋肉もない骨の力はとても強くて逃げる事は出来ない。

「ヤダ、ヤダ……ごめんなさい……」


 顔の間近まで迫った歯、そして私の最後のむなしい抵抗の蹴りは虚しく空を蹴った――。


「アアァァ――……」


 そして私は無様に転び、骸骨は意味不明な行動へ対応する様には出来て無かったらしく、手だけを残して仰向けに倒れた、私の体の少し上でバラバラに砕けた。


 しばらく、骸骨が砕けちった星空をポカンと眺めていたが、落ち着くと背中のリュクがクッションとなってくれた事に気づいた。


 私はすぐに立ち上がり、次の骸骨が現れない内に、砕けちった骨の上を出来るだけ避けながら、この国の出口に向かって走って逃げた。


 出口をくぐりぬけた私、ゆっくり右な壁に手をかけながら壁沿いに立つと、壁を背にもたれかける。


 はぁはぁはぁはぁ、と荒い息と、凄く早で脈拍打つ心臓が生きている実感を誘う。そして今更ながら震えが止まらない。


 外壁にもたれかけ胸に手を置いて、震えと心臓が落ち着くのを待つ。


 その横から視線を感じ横を見ると、入り口の向こう側の壁にもたれかけ足を伸ばしてこっちを見ている博士に気づいた。


 ――このクソ野郎……。


 私の心は怒り燃え、罵りたい気持ちが沸々湧き上がる――たが、それはすぐに鎮火した。


 あの悲しい声がまた、私の耳に届いたからだ。


「この世界では刻印のある奴隷は、ご主人様のもと以外では幸せになれない。いいか嫌な事があっても我慢しろ、お前も俺みたいにすぐに慣れる」


 私はもう慣れたみたいだ。


 そう私は、ナイの死も、マダの死も乗り越えて来て、博士に付き従って来たのだから……。


 そしてもう1人の私が言っている。私は今の奴隷で、信頼もないあんな男のもとでも生きたいの?


 私には、博士のもとで、今を生きる事が幸せなのかはわからない。でも、喪失と孤独のなかでも私は食パンを食べ、生き残るためには誰かを見捨て生きてきた。


 そして死をはばむ者に怯え、怒り、そして軽蔑する。


 やはり私は生きたいようだ。それを強く、強く思っている。


 だから、私は足を一歩前に出す。これが今の正解。でも、いつかは変わって欲しい選択。


 私は博士のもたれている城壁の方まで歩いて行く。


 博士は、ほんの、僅かな、一瞬の怯えを私に見せた。


「博士、お怪我は無いでしょうか?」


 彼は少し呆然と私の顔を見つめ、「そんなものは無い!」


 そう言い捨てた。


「骸骨は力が強く、その歯で人間を咀嚼しようとしますが、予想外の力には弱いらしく、バラバラになりました」


「どうやったんだ?」


「私は骸骨を蹴っていて転びました。その予定外の行動による力によって、骸骨は体勢を保てなかったようです」


「わかった」

 そう言ったと、思ったら彼はそのまま眠ってしまった。


 バツの悪さから喧嘩腰で話しかけ、そして体裁が悪くなったら眠って誤魔化す。


 本当につまらない人だ。


 しかしまた、明日から再び彼を(うやま)おう。たぶん、それが長生きのコツなのだろう。


 見た事の無い悲しい人をふたたび思いながら、博士に毛布を掛けて、私はやはり博士と離れて寝た。


 博士の毛布を奪わない様に。


 つづく


 

見ていただきありがとうございました!


また、どこかで!

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