記憶のない女の子
新しい小説です! よろしくお願いします。
2回目に生まれた朝。
わずかな光が差し込む暗がりに、誰かの泣き声。
そして床、壁、天井、そして目の前の牢屋の鉄格子、生理現象に必要なスペース。
私の記憶はそこから始まった。
普通の事はわかるのに、私の事は何もわからない。記憶喪失って言葉もわかるに。
とても頭が痛く、触ったらこぶが出来ていた。なんだ、私が思い出せなのはそのせいか……と、ちょっと他人事だった。
同じ檻の子は私を入れて5人、みんな泣いて居て、私もとっても悲しかった。これから私はどうなるのか、何で悲しいのか全てわからない事がとても辛かった。
牢屋の外を歩く男たちは、シャツにズボンという何処にでもいる服装で、身だしなみも悪くない。とても普通の人たち。
「ほら、飯だ」
そう言って渡されたのは、5枚切りの食パン一袋を鉄格子の窓口からギューギュー押し込んで入れる。
私は立ちあがるとそれを拾い上げ、ビニール袋を破り――。
「はい」
「はい」
「…………」
「はい」
「はい」
「はい」
と、1人すつパンを配った。
けど、1人だけ受け取らない子が居たから、残ったパンを袋に入れたまま、その子の体操座りのひざの上にギュー、ギューと押し込んだ。
その子はそのパンを袋ごと投げ捨てた。そしてふたたび泣き出した。落ちたパンは袋から出て、床の上に転がっていた。
私の仕事はもう終わったから、そのパンはそのまま。
次の日、誰かの泣き声で目が覚める。
「私のパンが……」
泣いている子は、たぶん昨日のパンを投げた子だろう。5人の中で1番長い髪、よく見るとここに居るのは全員女の子の様だ。
でも、女の子につられて、みんなもう泣きだしたので、もうほかの子についてはわからない。
――うん? パンがない?! そして袋だけが、転がっている。ネズミ? ほかの子が食べたの? でも、投げ捨てた本人が食べたのではないようだ……。
その後もみんな泣いているか、「パパ」「ママ」「お家に帰りたい」「お母さん……」そうつぶやいている。
私には呼ぶべき人がわからず、帰りたい家もわからない。
そしてふたたび、鉄格子の窓口へとパンがギュー、ギュー詰められる。
その横に、普通じゃない人が一人立っている。
スーツ、眼鏡、黒いピカピカの靴、その人は本でも買うみたいに私たちを見ていた。
私は体操座りで、顔をあげその人を見ていた。気づかれないように。
しかし私とその人は目が合ってしまい。凄く、凄く怖くて、にっこり笑った。そして相手が怯んだ隙に、パンを拾いあげ昨日と同じように「はい」と、言ってパンを手渡す。
今日はみんなが受け取った、良かった。私はちゃんと奥にいる子へ最後に渡せたので、ちゃんと鉄格子とは反対向きに座れ、怖い人と目が合う心配は無くなった。
「あれにする」
心臓が跳ね上がる勢いで、脈うつ。牢屋の前に居る2人の内のどっちの声かはわからない。
普通の悪い人と怖い悪い人。私たちの内の誰かの行方が気になり、辺りの泣き声は止んだ。
「さっき、パンを配った奴こっちを向け」
私は静かに、パンを持って立つ。そのパンを引ったくり様に前の奴が取った。獲物を狙う猫のようにギラギラした目。
たぶんこの子が落ちたパンを食べたのだ。
私は手をぎゅっと握り怒りを逃す。そして振り返る。やはりあの怖い人私を見ていた。
買った本を見定めるみたいに……。
普通の悪い人が、鉄格子の鍵を開け私を連れ出すと、私に手を差し出す。私はその手を掴むと目隠しをされ彼にひかれて行く。
全然歩いていない距離で、いきなり止まる。
「そこで地面に、そのままうつ伏せになれ」
3人目の大人の声。
私は素直にうつ伏せになると、背中の服をめくられる。
「今から魔法の刻印を入れる。逃げれば、逃げて隠れている場所がわかる……。ところで、今回も死んだら消える奴でいいのか?」
「ああ、それでいい。死体に戻って来られても困る」
「だと、お前は死んだら自由だ良かったな。この世界では刻印のある奴隷は、ご主人様のもと以外では幸せになれない。いいか嫌な事があっても我慢しろ、お前も俺みたいにすぐに慣れる。はい、終わり」
そう彼はいった。痛く、熱くもない魔法の刻印は、そうして背中についたらしい。しかし背中に目がないからわからない。
「立て」
そう怖い人に手を、引かれてふたたび暗闇をあるく。
そして車に乗せられて長い時間、車に乗っていた。
その間誰も話さない。ただ車に乗っているだけ、そして目隠しを外され怖い人に手を引かれて降りる。
そこでやっと自分が車酔いをしない体質であった事に感謝した。
そして見慣れない駅の前に降りた私たちは、駐車場に止めてあった。助手席に乗せられ、怖い人は運転席に乗り込んだ。
「私の名前はダグラス、私の事はこれから博士もしくはダグラス博士と呼びなさい」
「わかりました。ダグラス博士」
「そしてお前はラシク、今の様に人間らしくありなさい。けして通りのわからない子どもなどには決してなってはいけない。いいね」
「はい、博士」
それっきり博士は無言だった。
家に着くまでは話さず、ラジオも、歌も聞かない。もしかしたら博士は、ロボットなのかもしれない。
博士の家に着くと、双子が私たち出迎えてくれた。
続く
見ていただきありがとうございます!
また、どこかで!