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異変

――心臓が悲鳴を上げた――


「……え、?は?えっと、なんて?」

人間は多すぎる情報量が頭に入るとパンクする

と言うのは、ほんとらしい。

「...だから、八百屋さんのお爺ちゃんとお婆ちゃんが...」

「いやいやいやいやないない。何言ってんだよ朝一番からよ、...あ!なっなんだ!ドッキリか!こんな時代からあったのかよ!!それならもっとわかりやすいのにしないと俺じゃなかったらブチギレ案件」

「そうじゃないんだよ。嘘だと言いたいよでもね違うん」

「いやいやだからさ!嘘に決まってんだろ!!!!!」

 その場を怒号が切り裂く。

「……嘘だよ。あんたのクソみたいな悪ふざけに決まってる。」

「だから違うんだよ、私もさっき聞いてね。にわかには信じられなかっ」

「だからもう冗談はやめてくれよ!じゃあなんだ!最後に俺が会ったのは一昨日だぜ!?百歩譲るとしても、殺されたってなんだよ。いつ?どこで?犯人は誰だよ!」

「それは今お奉行様方が探してるところだよ」

「いや、そんなわけない。信じない、信じてたまるかよ…」

「ちょっと洸ちゃん!」

勢いよく扉を開け、家から飛び出た洸。

草履も履かずに裸足のまま、例の八百屋に向かうが

「…………」

そこには、いつもなら多江の呼び込みの熱気である程度は活気づいている八百屋も封鎖され、いつもなら野菜を買いにきている客の姿ではなく、ピークは過ぎたかもだがそれでも大勢の野次馬が店の前でごった返していた。

「…すごい人だかりでしょ。ようやくちょっと落ち着きましたが」

後ろから、声をかけられ振り向くと

「…ミツ」

「そりゃもう朝っぱらから大騒ぎですよ。あなたがおそらくグースカ寝てる頃からね、全く...」

「…お前、何が言いたい」

「いやまぁ、別に。ただ、...クッすみません。失言でした。」

「あ?」

いきなり頭を下げたミツに、洸はリアクションが取れない。

「お前、いきなり何の真似だよ。」

「…あそこの八百屋さんは江戸に来た頃からご贔屓させてもらってましてね。おじいちゃんもおばあちゃんもとても優しく素晴らしい方でした、。そんな人達が一夜にして、殺された...?...フッ腹を立てるのは当然でしょ...。それをつい貴方にぶつけてしまって...すみません」

 と、ミツは再び頭を下げるが、普段はニコニコと笑っているその目は赤く腫れている。無論洸には反論する気はないし、彼の気持ちが充分すぎるほど分かっていた。

おそらく先程のような小言をあともう数秒言われてたら手が出ていたのは間違いなく洸の方だった。

「……俺も悪かったよ。あんたの気持ちも理解せずによ、正直イライラし過ぎてた。...ごめん」

「…」

お通夜の様な空気が2人の間に流れるが、そこにまた怒号が飛ぶ

「どういうことだよこりゃ。なぁお役人さんよぉ!!」

「な、なぁお花屋さん落ち着いてくれよちょっとは、」

「落ち着けだ?仕事すらできねぇカス役人共になんで指図されなきゃいけねぇんだ。第一なんであんないい人たちが嬲り殺しにされなきゃならねぇんだ。銭目当てか?はたまた、強盗辻斬りか?はっきりさせろよ!!!!」

「いや、だからそれを調べてるんだよ我々も。そんなすぐわかったら奉行所なんていらないよぉだからそう怒らないで」

「怒るに決まってんだろが、!。てめぇらいい加減に」

「錠くん落ち着いて」

「花屋花屋、どうどう」

「あ?てめぇら何しグッホォロ!?」

怒り狂っている錠八をミツが羽交い締めに、洸がオリャオリャオリァ!と弱めのボディーブローを入れまくり、黙らせる。

「すみません、庄司殿。彼も動揺してて、」

「あぁ全くだな。」

「いやいやいや!!何も暴力を振るわれた訳ではあるまいし、慣れてるから気になさるな。...というか、今は彼の方が心配だし」

「...ォう、、おい...てめぇら!いい加減離しやがれ!!」

と一瞬気絶したかに見えたがそんなことはなかった錠八が、すぐに覚醒し再び噛みつき始めた為ミツは殴られる前に離れる。

「てめぇらよくもやってくれたな...特にそこの洸平(ぼんくら)、後で覚えてろよ?」

「うぉ〜、怖ぇ...なんか、普段はすかしてやがるが」

「怒らせたら誰よりも短期ですね、おぉやだやだ」

「うるせぇ!てめぇら、そこの爺さま婆さまが嬲り殺しにされたってのに、なんとも思わねぇのか?!」

「今の今まで思ってたんですがね。そこの人なんて履き物すら履いてないですし、」

「じゃあなんで!!」

「どこかの花屋様が俺たちの分までキレてくれたからな。他人がキレてる様をみたら、こっちが冷静になるってのはほんとらしいぜ」

「...」

なんとか、落ち着いた錠八。

怒りながらも踏ん切りがつかなくなっていることは自覚していた為、多少乱暴であったが、別のところに怒りを向けてくれたことは、彼ら(顔見知り2人)に感謝していた。

もちろん後で〆ることは〆るが、

するとそこへ

「庄司様!...あっ君たちいたのか」

佐古殿が、封鎖された八百屋から出てきた

「佐古様!いらっしゃったのですか、」

「あぁ、ここは私たちの管轄内だからね。...ところで、先ほど響いていた声は?」

「えぇそれはそこにいる錠くんの声ですぅぉ?!」

と言いかけたミツの脇腹を小突く

「...いや力加減間違ってますよ...小突くってレベルじゃないです」

「うるせぇ茶々いれたらお前でもこうなるって事だ」

(黙っててよかったぁ...)

心底思う洸であったが、すぐ前の佐古殿の顔は曇ったままだ。

「...この度は、誠にすまなかった。」

と頭を下げた佐古に洸やミツは慌てる。

犯人でもないのに、頭下げられても純粋に困るのだ。

「?!、佐古様...アンタのせいじゃないんだからさ、」

「えぇ、頭を上げてください」

「...だが、」

「あぁ、アンタらのせいだな、。」

錠八が口を開く。

「おい花屋、」

洸が止めようとするが、

「オメェらは黙ってろ、」

と一蹴されたら黙るしかない。

「佐古さん...アンタの家にゃ花屋として奥様にご贔屓にさせてもらってるし、アンタにも一目置いてる。だが、この大江戸に住んでる民として、言わせてもらう。」

「あぁ...」

「今回のことは、もちろんぶち殺した野郎が悪いに決まってるが、アンタら奉行所が夜廻りがなんだの工夫すりゃ防げたんじゃねぇのか?アンタらの怠慢からきてる。なぁそうなんじゃないのか佐古さんよぉ!」

「ちょ、ちょっと錠くん!」

胸倉を掴み掛かった錠をミツが止める。

「熱くなるのはわかるが、もうちょい落ち着けよ...ごめんよ佐古様」

「いや...気にしてない。言われるようなことをしてる我々の落ち度だ」

そういう佐古の拳はみるみると固まっていく。

怒りを堪えるように固く握られていく。

「...八百屋(あそこ)は、私が幼い頃からやっていてね。母上もよくご贔屓になっておられたよ...、今でも家内がお世話になることも多かった。それなのに...あんな...」

グッと顔を歪め、目を閉じる。背けた為表情は見えぬが、悲痛な叫びが全身から滲み出ていた。

花屋が口を開く。

「、、あんなに...何があったんだよ。なぁ」

すると、「あ、それは...」と隣の庄司という若い同心が話に入ってこようとすると佐古が「すまん。庄司様から話してやってくれ」と、掠れた声で返ってくる。

えぇ...と少し小心者なのか単にめんどくさいだけなのかと言った感じで話そうとしてくるが、もはやそんなことはどうでもよかった。

「…お二人とも遺体(ほとけ)が悲惨でね、。家もめちゃくちゃに荒らされて、金銭も根こそぎ。そして引き裂くように喉を掻っ切られてたよ。全く何の恨みがあったのかは知らないが、まともな人間のすることじゃないね。まぁ私は碌に見ちゃいないけど...まぁそんいったかんじだよ、、でも特に...」

「…特に?」

吐き気が込み上げてきたが、なんとか聞く3人に、今度は歯を食いしばりながら佐古が答える。

「...遺体(ほとけ)は見るに耐えないほど酷かったが、おかしな点があった、。...目玉が、まるでくり抜かれたかのようになくなっていたんだ...」

なんだと、と絞り出した声はもはや誰かわからないほどに掠れていた。

「...今までの勤めてきて、それ相応に人の死を見てきたが...今回は比較にならない、惨すぎる。人に化けた畜生のしわざとしかいいようが」

「わかった佐古様。もういいよ、ありがとうございました」

洸が話を遮る

「...つらい話だったね、申し訳ない。...どうかしてるな、俺も」

「佐古様...」

『おいお前たち!!』

と、少しドスの聞いた声が聞こえてくる。

「?!草尾様に田代様ァ!!」

と、まるでリアルガキ大将かよ。な見た目の草尾と、腰巾着がよく似合いそうでイヤミしか言わなそうな田代って2人がこちらに近づいてくる。

「貴様らぁ...下級同人のくせして与力と筆頭にあのような下世話な所に長居させる気か?!」

「い、いえ。滅相もありませぬ!!ただ、佐古様の話がが...」

「なんだと、?佐古ォ、、また貴様か!何回言わせれば気が済むのだ!!」

「まぁまぁ草尾様良いではありませぬか。佐古(ザコ)」と庄司(しょうしんもの)など相手にしてたらこちらも変なのが移りまする。ささ、戻りましょう」

「……そうだな。こんな奴ら相手にするだけ無駄だの」

「ハッハハハハァー」

「...申し訳ありません、」

庄司が見るからな愛想笑い、佐古は深々と頭を下げる。ソウコウしてるうちに、草尾と呼ばれた与力が他の佐古庄司含む捜査中の同心にアレだコレだと指示を飛ばして、腰巾着共々去っていく。

「佐古様、...」

洸は、声をかげずにはいられなかった。

「……幻滅、したかい?」

彼は笑っていた。ただ、その目に映る哀しい色までは隠せないらしい。

洸は切なくなった。

「...幻滅なんて、しないさ。ただよ」

「ひどい言われようだな。と感じただけですね、」

ミツも口を開く

「フッ、そうか。...我々下級役人なんて結局はそんなところさ。上からの無理難題に、できて当たり前。できなきゃ犬のクソ以下さ。そこにいた庄司様は...それでもいいらしいがね」

と、先程までいた庄司を指差すが、もうその場にいなくあぁ疲れたよぉ、でも中に入っても気味悪いしなぁなんて言いながら現場に入っていく。

「...あんなのばかりなら江戸も終わりだな。」

黙っていた錠八が口を開く。

「、、、...だが、いくら雑魚の佐古と呼ばれても、今回だけは別だ。必ず俺がひっ捕えよう。」

「...佐古様?」

洸は佐古の顔を見上げた。その目には未だに哀しみの色が見える、だがそれ以外に...何か別の色が見えた気がした。何か黒い何かが、、

「佐古様、確かにアンタに捕まえてほしい、」

洸は話しかけた。話しかけなければ不安だった。

でも、と付け加えて

「でも、無理はやめてくれ。何かあっても俺らじゃどうしようもできないからさ、」

「...そうか、そうだな。」

佐古は笑った。笑っていた。だが、何故かその笑顔は、三人に謎な違和感を覚えさせた。

「わかった、心得ておく。私は戻るから、君たちも早く帰りなさい。」

と言い残し、佐古は現場に戻る為その場を去った。

 その場にいた三人は、悲惨な現場となった八百屋を見上げながら

「...なぁ花屋俺、なんか嫌な予感がする。」

「...気が合うな。俺もだ」

「...僕も何故か、先程から悪寒が。でも」

と、ミツが言いかけたことを洸が口にする。

「...ま、俺らみたいなただの商売人如きに何にもできないってのが、現状だなぁ。捜査の邪魔するわけにゃいかないしよ。」

「それが歯痒いんじゃねぇか。弱いものがどんどん虐げられてるってのに、カスな役人共は何もしねぇ。俺らへ指咥えてみてるしかねぇ」

「...そこは古くも新しくも、って感じですかね...?。とりあえず、あの佐古様の感じだと何か手掛かりは掴んでいる様ですので何か進展があるまで、」

「...待つしかねぇか。」

と洸が口にする。

何もできない悔しさ、何とかしたいやるせ無さ。

負の感情がどんどん身体を蝕んでゆく。

佐古に不安と期待を胸に、とりあえずその場を去る三人。

だが、

「グッふふ、何故奉行所うちの下っ端共はこう馬鹿しかいないんだろぉな!」

「グフフ、おっしゃる通りかと、」


――本当の地獄は、これから始まることも知らずに――


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