1話 「転生の瞬間」
2034年9月26日、薄暗い部屋の中で、俺
「影白 怜」は
埃の被さったモニターを、死んだ目で
見ていた。
適当に、動画アプリ、アズチューブ
で流れてくるオススメ動画を見ていた。
思えばアレが、俺を今の惨状に導いた一つの
キッカケだったのだろう。
動画の見出しは
「数年前にトラックに轢かれた男、
一つの傷も無く生還。
しかし、精神状態に異常か?」
というものだった。
元情報は、ニュースかららしい。
その情報を嗅ぎつけた一般人の動画
投稿者が、面白がってまとめたようだ。
その動画を再生すると、
まず冒頭に、注意書きで、グロ注意。
とだけ書かれていた。
気にせずに観ていると、一人の男が
道路を渡っている映像が流れた。
そして、数秒後、その男は横を向き、
慌てて手で身体を守ろうとする。
その刹那、猛スピードで
走って来たトラックが男にぶつかった。
そして、男はその場から姿を消し、
代わりに、道路一面には、血が飛び散った。
そこには、死体の跡形もなかった。
おそらく、砕け散り、そして
原型もなくなったのだろう。そう思った。
実際、当時は、そのように、
その事故は片づけられた。
ニュースにもなったらしい、当該の件は、
視聴者も、皆そう思い、特に
疑問を感じる事はなかった。
だが、先日その考えは覆えされたのだった。
ある日突然、戸籍情報の無い男が、
市役所へとやってきた。
いや、正確には、戸籍情報を
取り消された男、だ。
そう、その男が今回の動画でも
取り上げられている、
トラックに轢かれ、グチャグチャに
消し飛んだはずの男。だったのである。
そして、その男は当然、マスコミ達に
注目され、インタビューを
受ける事になる。
しかし、何故その男が生きていたのか、
ついぞ、その事が分かる事は無かった。
それもそのはず、男は意味不明な
発言を、繰り返すのみだったからだ。
男の発言は、こう。
「トラックに轢かれた瞬間、
別の世界へと飛んだ。そこでは魔法が
使えて、魔王がいた。
よく分からない人に、
そこで魔王を倒すよう、言われたが、
自分は、全然戦いのセンスが無く。
一生懸命頑張ったが、現実に
戻される事になった。だから、今
ここにいる。」
これが、男の発言だった。
結果、精神状態に異常あり、
事件での、状況は、不明。
数年前の事件なので、調べることも出来ず、
男は現在、病院にいるのだという。
ここで、俺のような引きこもりは、
一つのロマンを抱くはず、
これは、ありがちな異世界転生では!?と。
そんな事を思ったのが運のツキだった。
数年後、家にとある一通の手紙が届いた。
「異世界に興味は無いか?
あるなら、悪いようにしない、来い。
お前の人生を、変えてやる。」
半信半疑でイタズラだと思ったその手紙、
しかし送り主は、なんと、
国家だったのだった。
疑いようもない判子が押され、
住所も国会のある場所。
偽造のしようが無い手紙に、俺は
一筋の希望を抱いて、快諾したのだった。