死んで知る
俺はただの日本人だった。
「勇者とは名ばかりであるな。四天王すら倒さず。魔王城に踏み込むことすらなく、その命を散らすとは。人間どもは最近、何を考えてるのだろうか・・・わからぬな」
四天王ガリスに敗北し引き裂かれた俺の遺体をただ見つめている魔王。俺が倒すべきだった魔王ディアス。
いや、倒すべきでもなかったな。
俺は仕事から帰ってきたある日、寝て起きたら、どこかの王城と思わしき豪華なら建物に居た。そこには豪華な装飾品をジャラジャラとつけた俗に言う貴族が大勢、俺の事を値踏みするかのようにドロドロの眼を鈍らせ見ていた。
玉座に座っていた一際、胡散臭そうな国王らしき人物が立ち上がり、声を発した。
「勇者よ、よくぞ、我らの呼びかけに答えてくれた。感謝する」
「はい?」
状況が飲み込めず、考えていると後ろの貴族からお決まりの台詞が飛び出す。
「国王の御前だ!なんたる無礼だ!即刻打首にしろ!」
その貴族を咎めるように国王が低い声で威圧する。
「鎮まれ!。勇者殿は混乱しておられるのだ。多少の無礼は構わない。」
今思うに、この時からマッチポンプだったと思う。死んだ今、俺の想像に過ぎないがここで名前も知らない貴族が『無礼だ!』と叫んだのは予定調和。やらせだったと思う。
それを国王が嗜めたのも同じく。
打首だとか言わせ、俺に恐怖を芽生えさせ、それを国王が救う。そして無知な俺はまんまと国王一派の策略に踊らされ、勇者として魔王討伐だとか言う、今思えばありえないことに付き合わされ、命を落とすハメになった。
あの時からおかしかった。俺が勇者となり魔王討伐に送り出される日、国主催の凱旋パレードが開かれ、オープンカータイプの馬車に乗車した。その時上から見た国民の顔は暗かった。
俺は魔王の脅威のせいで顔色が暗かったと思ったが、魔王城手前で遭遇した四天王ガリスが言っていた。『この一年で魔王様を討伐しようと50人近くの勇者がこの地にやって来た。もれなくここで葬ってやってがな』
あれはそう言う事だったのだ。すでにこの国は未熟勇者を何人も魔王城に送り込みその全てが魔王の顔すら見る事なく、倒された。
『ひどい時は道中の移動に耐えきれず死んだ勇者も居たな。魔王様は憂いていた。『なぜ人間は人を育てることすらせず、異界の者の手を借り。成長させる事なく、送り込んでくるのか私にはわからないな』とおっしゃられていた。魔王様は人間と無闇に敵対する気はないと昔、おっしゃっていた。人間たちは魔王様の力を欲している。魔王様は魔法の王だ。そして人間は魔法の技術で優劣が決まる。だから魔王様を捕まえ、その力を奪いたいのだろう。なんと悲しい者達なのだろうか、魔王様を捕まえるなど人間如きの力では不可能だ』
ただの戯言だと思い無視したが国王の態度、国民の顔色、少し考えれば子供でもわかった事だったな。
『お主、名前は』
俺と対峙した四天王ガリスはあの時から俺に問いかけてきた。だから答えた。
『剣崎 海斗だ』
『ケンザキか、死ぬ前に教えてやる。お主は人間共にに利用されただけだ。人間共は小賢しい。今までに何人もの勇者をこの手で葬った。吾輩の言った事を信じるも信じないも、お主次第だ。たとえお主が死のうと人間は新たな勇者を作り、我々の元に送り込むだろう。』
その瞬間、俺の首が飛んだのをその上から見ていた俺が視認した。
自分の首が飛ぶところを見るのは良いものではないな。
不思議だ何も感情が湧かない