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08 ラマンチャの迷宮

どうぞお楽しみください。

【ラマンチャの迷宮】


 翌朝、私は約束通り彼女たちとロンダの門の前で集合し、送迎馬車でラマンチャの迷宮に向かった。

 ロンダの町からラマンチャの迷宮へは、送迎馬車が冒険者の送迎のために一日何回も往復しているようだ。


 麦の穂がたわわに実った金色に染まる麦畑を越え、麦畑の先の岩場の中央を流れる川に沿って小1時間ほど上流を目指して走ると、そこに目的地のダンジョンがあった。

 私たちがラマンチャの迷宮に着いた時には、既に何組かのパーティが到着していた……。


「それじゃあ、今からダンジョン――ラマンチャの迷宮――に入るよ! ニーナ、マリア、ダイサク……準備はいいかい?」

 そうリーダーのティナが皆に声を掛けた……。

「わかったニャ」

「分かりました」

Yesイエス Myマイ Fairフェア Ladyレディ.」


 私は発音良くかっこよく決めたつもりだったのだが……。

「いまふれニャ? ダイサク……それは何の応援ニャ?」

「……何かのおまじないでしょうか?」

 異世界こちらでは全く意味が通じなかった……。


「声が小さい! もう一回行くよ……みんな、準備はいいかい!?」

 ティナが仕切り直して全員に発破をかけた。

「わかったにゃ!」

「分かりました!」

「了解しました!」

 ティナの声に気圧されて、今度は全員が揃ってびしっと返事を決めた。


 パーティメンバーのそれぞれの装備について説明すると……。

 ティナは、鉄の片手剣、鉄の盾、鉄兜と鉄の鎧。

 ニーナは、ブロンズナイフ、魚鱗の小盾、ブーメラン、ヘッドギア―、レザーベストと猫の足袋。

 マリアは、楠の杖、樫の小盾、癒しの帽子、絹のローブに僧侶の靴。

 一方の私と言えば、パンチャク、黄色のジャージ風オリジナル重強化服、武闘家の靴だ。


 私の普段と何ら変わらない装備を見てニーナがさらりと聞いてきた。

「ダイサクの装備、大丈夫にゃ……蒲公英色が派手派手でとても目立つから、魔物から一番初めに狙われるんじゃにゃいか?」

「安心してください……大丈夫ですよ……黄橙色は自然界では特に襲われにくい色なのですよ♪」

「そうにゃ……心配だにゃぁ~」

 ニーナなりに私を気遣ってくれているみたいで、私の心はほっこりとあったかくなった。


 全員の準備が整って、いよいよラマンチャの迷宮の探検が始まろうとしている。

 期待に胸が膨らむこのワクワクとドキドキは、レコード針を落とす瞬間と一緒で、幾つになっても堪らない止まらない……。


 ティナを先頭にして、ニーナ、マリア、私の順でダンジョンを進む……。

 パーティの獲物はミノタウルス一択で、歩合制のため討伐数は多いに越したことはない。

 5階層まで潜ったダイブしたところで、私たちは初めてミノタウルスに遭遇した。



 ミノタウルスは決まって一頭で現れるので比較的に戦い易い魔物だ。

 3人は獲物を見つけると直ぐに戦闘配置についた……。

 ドイツの重戦車タイガーI型を彷彿させる、防御力の高い戦士のティナを先頭に、右後ろにニーナ、左後ろにマリアが位した。

 そして、私はその二人のずっと後方で鉄の缶詰おまけとなって陣取った……。


 ミノタウルスは半人半牛の体長2メートル程の二足歩行の魔物で、自慢の片刃斧を肩に担いで辺りを見回している。 

「ブォ~、ブォォォ~ン」

 私たちのパーティに気付いたミノタウルスが、唸り声を上げながら、片刃斧を振り上げて突っ込んで来た――


『ヒュオォォォ~ン』

 ミノタウルスが片手斧を左から右に大きく振り抜いた――

『チュィィィーン』

ティナが鉄の盾を上手く使って片手斧の斬撃を受け流す――


「ニーナ!」とティナが叫んだ。

「はいニャッ!」

 ニーナはティナの陰からパッと飛び出すと、ミノタウルスの股下をさっと走り抜けながら、ブロンズナイフで右軸足のアキレス腱を断ち切った。


「ギュォォォ~ン」

「うぉりゃぁぁぁ~」

『ドスン、シュゴッー、ドスッ!』

 バランスを崩されて左片膝をつくミノタウルの喉に、風切り音を立ててティナの鉄剣が真っすぐに突き刺さった。


「ウゴァァァ~」

 ミノタウルスはティナに急所を突かれて前のめりに倒れ息絶えた。

 ティナとニーナの猫耳による絶妙のコンビネーション攻撃だった……。

 ミノタウルスは命が尽きると、直ぐに滅紫色の魔素となって迷宮のそらに消え、その跡には黄魔石とドロップアイテムの魔牛肉が落ちていた。

 マリアは黄魔石を拾って麻袋に仕舞い、私は魔牛肉を自分のアイテム袋に収納した……。


 ドロップアイテムの魔牛肉をちゃちゃっと集めて黙々と運ぶことが、今回のポーターとしての主たる私の役割である。

 どんな仕事であっても、その時自分に与えられた役割を最大限にこなす。

 長年の経験から、私はそれがとても重要だと言うことを身に染みて理解している。目の前のことに一生懸命に取り組むことが、結局のところ一番大事なことなのだ……。


 魔牛肉はサシの入った黒毛和牛のような肉質で、その希少性と極上の旨さから、ブラックバッファローの赤身の魔獣肉と比べても5倍以上の高値で取引されている。

「ドロップアイテムが出たよ、幸先がいいね、次行くよ!」

「はいニャァ~」

「行きましょう」

「ついて行きま~す」


 私たちは更なる獲物を求めて6階層へ進んだ。そこで私たちはいきなり稀な個体と遭遇してしまった……。

「ニーナ……どうした?」ティナが静かに声を掛けるが、

「フッ~フッ~シャ~ッ」ニーナは警戒して低い声で唸り続けている……。

「ミノタウルスですか?」とマリアが尋ねた。

「もっとやばいニャッ」


 ティナが岩の物陰から様子を見ると、そこにはミノタウルスよりも一回り以上大きい亜種のヤバいミノタウルスがゆっくりと歩いていた……。


「シルバーミノタウルスだっ!」とティナは小声で囁いた。

 普通であれば、このA~Bクラスの魔物は、10階層以降でしか遭遇しない個体のはずなのだが……。


「このまま隠れて見過ごそう」

「その方がいい二ャッ」

「見逃してくれるでしょうか?」

「もう気づいているみたいですよ……ヤバいですねぇ~」


 シルバーミノタウルスは、両刃石斧を構えてのっしのっしと近づいて来る。

 銀牛頭鬼はミノタウルスと比べて、上半身が筋肉隆々で、体は銀鼠色の分厚い毛皮で覆われ、2本の真鍮色の大角はノコギリクワガタの角のように多角形に曲がっている……。


「戦うしかないみたいだね」

「そうニャッ」

「ダイサクさん、お気をつけて!」

「イ~ハ~」

 勢いで私は彼女たちには全く訳の分からない返事をしてしまった……。

 マウイ島のサトウキビ列車で叫んだことがある、西部開拓者の思いっきりアメリカンなあの掛け声でだ!

――USA! USA! USA!! ――


 パーティは先程の戦闘と同じ配置についた……。

 シルバーミノタウルスの持つ両刃石斧は、切るというよりも相手を力づくで叩き潰す武器だ。

 ティナの技量を以ってしても、恐らく完全に受け流すことは難しいだろう……。

 さてさて、このパーティはどのように銀牛頭鬼きょうてきを攻略するのだろうか?


「プロテクション(物理強化)!」

 マリアがティナの鉄の盾に防御力強化の魔法をかけると、ティナの防御力が3割程あがった。

 そんな魔法にはお構いなく、シルバーミノタウルスは左足を前にして、両刃石斧を右から左に強く振り抜いた――


 ティナはそれを間一髪で躱すが、銀牛頭鬼はそのまま頭上で両刃石斧を旋回させると、歩みを止めずに右足を前にして再度ティナへ両刃石斧を打ち下ろした――


『ドガガガガッ』

 ティナは両刃石斧を何とか受け流そうとしたが、円心力により威力が増した両刃石斧を完全には受け流しきれず、大きく右方向に飛ばされてしまった……。


「ニーナッ!」

「はいニャッ!」

 ニーナはティナの影からさっと飛び出すと、シルバーミノタウルスの股をすり抜けて、右足のアキレス腱をブロンズナイフですぱっと切りつけた――


『キュイィィィーン』

 しかしながら、ニーナの攻撃は銀牛頭鬼の固い金属の具足に阻まれてしまった……。


「イリュージョン!」

 マリアは瞬時に幻影魔法を唱えて素早くシルバーミノタウルスの突撃を避けた。

――強い敵ほど魔法は掛かり難くなる……カモフラージュとはナイスですね~――


「必殺ブ~メラン、ニャッ!」

 ニーナは身を翻しながらシルバーミノタウルスの頸動脈を狙いブーメランを投げつけた――


『チュイィィィ~ン』

 シルバーミノタウルスがついと首を窄めたため、ノコギリクワガタのような大角に掠ってしまい、ブーメランはあとちょっとの所で奴の頬を掠めた。


「ダイサク、避けろっ!」とティナが叫んだ刹那――

 私は入身で両刃石斧を鼻先で躱し、シルバーミノタウルスのふところにずんと入り込むと、右足を軸に体を180度転換しながら、銀牛頭鬼が振り下ろした手首を軽く引いてそのバランスを大きく崩した――


「アチョ、アチャチャォ!」

 そして、つんのめったシルバーミノタウルスの出足を払うと、林檎加速アプセルを使った電光石火の早業で、銀牛頭鬼の顎先へパンチャックの2連発を叩き込んだ!


『パカカァァァーン』

 迷宮にフライパンを叩く甲高い音が反響したかと思われた瞬間、倒れ込むシルバーミノタウルスに対して、ティナは背後から延髄の急所を狙い澄まして鉄の片手剣で突き刺し抉った。


「グオァァァァ~」

 シルバーミノタウルスは断末魔の叫び声を上げると、ドロップアイテムの青魔石と特上魔牛肉を残し、滅紫色の魔素となってラマンチャの迷宮のそらに消えた。


「やったな……」

「やったニャッ」

「危ないところでした……ダイサクさん、大丈夫ですか!?」

「はい……マリアさんの魔法でシルバーミノタウルスが幻惑され、つんのめってくれて助かりました」

 その会話を聞きながらティナは訝し気に剣を鞘に納めた。


「青魔石ですよ♪ Aランク相当の魔物でしたか……どおりで手強いはずですね!」

 マリアが安堵してその魔石を拾い上げた瞬間だった――


『フュオォォォ~ン』

 ミュージックソーのようなテクノチックなノコギリ音がしたかと思うと、マリアを中心に周りの空間が歪み、パーティは仲良く全員揃って不思議な世界に引き込まれてしまった……。

――異世界だよ、全員集合―― 

ありがとうございました。

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