07 猫耳娘とゆかいな仲間達
どうぞお楽しみください。
【猫耳娘とゆかいな仲間達】
「私はニーニャ……お前もちっちゃいにゃ……名前は何にゃ?」
「こんにちは……私はダイサク、アイアン等級の冒険者です」
――この猫耳娘、何だろな?――
「ダイサクきゃ、よろしくにゃ……じゃぁ、ニーニャに離れずついて来るにゃっ」
猫耳娘はそう言って私の手をさっと掴むと、冒険者ギルド内の休憩室へ強引に引っ張って行った……。
「みんにゃぁ~ポーニョを捕まえてきたにゃぁ~」
そこのテーブルにはニーニャの仲間らしき冒険者が2人座っていた……。
「やったな、ニーナ」
「ニーナ、お疲れさま……早かったですね」
――ニーニャじゃなくて、ニーナが正解だな――
彼女たちは猫人族2人と人族1人の、ゆかいな冒険者パーティのようだ……。
「紹介するにゃ……ポーニョのダイサクにゃぁ~……ほっそいけど力持ちにゃっ」
そう言って、ニーナは私を彼女の仲間たちに紹介した……。
「私はティナ、戦士だ」
「こんにちは、ダイサクです」
ティナは身長175センチ、体重70キロ位の、猫人族としては比較的大柄な獣人だった。
失礼にあたるので体重については余り深くは詮索しないが、赤茶色の髪に、ルビーのような紅色の赤い瞳、鍛え抜かれた逞しい体をしていて、冒険者として相当な力量を持ち合わせているように見える……。
「こんにちはダイサクさん……私はマリア……ジョブは僧侶です」
マリアは身長156センチ、体重45キロ? ニーナよりは少し大きいけれど、人族としては少し小柄な女性だ。
ストレートセミロングでライムイエローの輝く金色の髪に、サファイヤのような深い青色の瞳が美しい。
僧侶の清楚な服がこれまたよく似合っていて、まさしく天使か優しい悪魔のようだ。
「こんにちは、初めまして……私はダイサクといいます……アイアン等級の修行僧です。よろしくお願いします」
私に関して言及すると、身長170センチ、体重63㎏の17歳の青年の容姿だ。
しかしながら、憲法黒茶の短髪黒髪に烏羽色の黒い瞳で、大胸筋と腹筋が鍛えられてウエストがキュッと締まった――細マッチョ――。
「神さまありがとう、僕に彼を合わせくれ~て♪」
こちらの世界に転生する際、神様が希望を聞いてくれたのだろうか?
あと3年も修行を続ければ、大好きなカンフー映画の俳優そっくりになれそうで超嬉しい……。
ちなみに、その映画俳優は、飲めば飲むほど強くなるジャッキー・チュンではない。
――アチョォォォ~――
「なぜ、私を皆さんのパーティに誘われたのですか?」
少し気になってマリアに聞いてみた……。
「ごめんなさい……ニーナが急に声を掛けてしまって……」
「大丈夫ですよ……お気になさらず」
「ありがとうございます……『ミノタウルスを討伐するには、運搬する人手が欲しいですね』と私とティナが話していたのを聞いた途端、ニーナが鉄砲玉のようにズッキュンキュ~ンと飛び出して行ったのです……強引にお誘いして大変申し訳ございませんでした」と言ってマリアは謝罪した。
「いえいえ、どういたしまして……ところで……ミノタウルスの討伐クエストを受けられる予定なのですか?」
「はい、今回はミノタウルスの討伐が私たちパーティの目的です……ティアはシルバー等級の戦士、ニーナはブロンズ等級の泥棒、私はブロンズ等級の僧侶です……私たちは各々が有効なスキルを持ち合わせていますが、ミノタウルスを討伐した際にドロップする魔牛肉はそれなりの重量があるので、ポーターなしでダンジョンを探索するというのは、かなり厳しいのです……」
「承知しました……私も丁度『ラマンチャの迷宮』の探索を考えていました……そういうことでしたら、皆さんのクエストに是非ご一緒させてください」
「それは良かった……私たちのパーティにはシルバー等級の戦士ティナがいるので、ミノタウルス程度の魔物に遅れをとることはないと思います……戦闘は私たちが主体となって行いますので、ダイサクさんの役割としては荷運びのみとなりますが……それでもよろしいですか?」
「はい、それで結構です」
マリアの話から察するに、ニーナの言ってたポーニョとはポーター(荷運び人)の事だと判断した……。
「分け前として全報酬の1割を差し上げようと考えていますが……こちらも問題ありませんか?」
「はい、問題ありません」
――ポーターとしての仕事だけなら、クエストの危険度もぐっと低くなるので、まぁ、妥当なところだろう――
「それでは、明日の朝8時にロンダの町の正門に全員集合ということで……よろしくお願いします」
「こちらこそ……よろしくお願いします」
◇◇◇
マリアたちとの話を終えて、私は冒険者ギルドお勧めの宿――ドンキイヌ――に向かった……。
宿は冒険者ギルドのすぐ傍にあって、私は宿に入るやフロントに声を掛けた。
「すみません……今日泊まれますか?」
「あいよ! 夕飯と朝飯つきで一泊銀貨3枚になるよ……特別メニューの『牛肉とオレンジのパエリア』は銀貨1枚だよ」
恰幅の良い女主人がそのように返事をした。
「オニオンスープもお願いしたいのですが……」
「オニオンスープだね……特別メニューを頼んでくれたらスープはおまけするよ」
「それでは、特別メニューの『牛肉とオレンジのパエリア』もお願いします」
その場で銀貨4枚を支払って部屋に行った……。
◇◇◇
宿の部屋は、木製のシングルベットと椅子以外は何もない、30平方メートル程の広さの非常にシンプルな部屋だった。
そのままごろんとベットに横になって天井を見上げていると、走馬灯のように昔の記憶が駆け巡る……。
「仕事に追われ、時間に追われ、育児に追われ……おまけに隣の家で飼われていたハールクイン(白地に黒斑点)柄のグレートデンに追われて、暫くずっとこんな時間はとれてなかったな……心を亡くすと書いて……忙しい……」
どうして自分が今ここにいるのか? その理由は分からない。
だけど自分は今ここで思いふけっている。何事にも囚われない自由な自分がここにいて、今はそのことだけで感謝感激雨あられなのかもしれない……。
部屋の小さな窓から青い空が見えて、ブッポウソウによく似た宝石のような、青い小鳥のさえずりが聞こえている……。
「もしかして、今目の前にいる小鳥が私にとっての『幸せの青い鳥』かも知れないな……」
知らず知らずメーテルさんに思いを馳せていた。
『トントンッ……トントンッ……』
「お客さ~ん、夕飯の準備ができたよ!」
「は~い、ありがとうございま~す」
女主人に呼ばれて一階の食堂の席に着くと、直ぐに美味しそうな料理が運ばれてきた。
私はオニオンスープを一口飲んでから、メインディッシュの『牛肉とオレンジのパエリア』を食べた。
30センチ程のフライパン一面に敷き詰められたパエリアには、ご米にサフランのオレンジの色が美しく移り、牛肉にはしっかり焦げ目がしっかり付いていた。
飾り付けのオレンジと赤と緑のパプリカが色彩豊かに添えてあり、とても食欲をそそられる……。
「流石……冒険者ギルドご用達の宿の料理だな……」
『うまい、うますぎる、十万石饅頭!!』と思わず声に出てしまいそうになる程、思わず笑みがこぼれ、箸がすすむ食事だった……。
◇◇◇
夕食も終わり、今日はあと歯を磨いて寝るだけになった。
ところで、私には『歯磨き』の時に必ず行っている習慣がある。その習慣とは『歯磨き後のうがいをしない』ことだ!
元の世界において、口腔予防の最先端を突っ走るフィンランドでは、歯磨き後に『うがいをしない』ことで口腔内にフッ素が残り、日本人と比べて虫歯になる人の数が圧倒的に少なかった。
虫歯の治療があまり期待できそうにないこの異世界で、歯の健康を維持するのはとても大事なことだ。そのため、私は今でも以前の習慣に従って、歯磨き後のうがいをせずに――グチュグチュッペッ――と吐き出して、歯磨きを締めくくっている。
◇◇◇
しかしながら、異世界の歯磨き粉は、塩、炭、貝殻を細かく砕いて混ぜただけの簡易なもので、フッ素によるエナメル質の再石灰化の効果など到底期待できるはずもない。
またハーブなどの爽快感もないので、歯磨き後に最後のうがいをしないと、口の中が今一すっきりとしない。
そこで、フッ化物である蛍石、硫酸、それから私が唯一行使できる聖魔法を用いて、ダイサク印のフッ素入り歯磨き粉を試作してみようと考えているのだが……。
――学生時代、もう少しまじめに理学を勉強しておけば良かった。これこそ万事塞翁が馬と言うことか……え~んえ~ん――
「ふっ、認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを……」
そう独り言を呟いて、いつも通りに寝床の上で自作の歌を口遊んでいると、いつの間にか深い眠りについていた……。
――朝起きたら普段の生活に戻っているかも知れないな――
そんな期待をしながら……。
「迷宮の深淵には何があるのだろう~
誰も到達していない未知の迷宮を~
ダイサクは~ 探し求めるぅ~
ゴ~ゴ~ ダイサクゥ~ ゴ~ゴ~ゴッゴッゴ~♪」
ありがとうございました。
歯磨きの後に――うがいをしない――ことは間違いなくお勧めです。
それから歯磨きは口を1~2回濯いでから始めてください。