70 天下分け目の天王山 其の弐(バナナの神様)
【バナナの神様】
「とはいえ、どうやって『水月』をあてればいい……」
そう私は小さく呟いた。
実際のところ 魔王オヅヌには構えがあって構えがない、これまでの戦闘においても奴には付け入る隙がなく、こちらの攻撃は全く当たる気配すらない……。
「ええぃ、ままよ! 『流星真空飛び膝蹴りぃぃぃ~』」
私は魔王オヅヌの眉間目掛けて、いきなり得意の膝をぶち込んでいった。
『ボォゴォォォー シュワワァ~ン』
案の定、真っ赤に燃えた必殺の膝は魔王オヅヌの頭蓋を素通りする――
『シュゴォォォー』
一方、魔王オヅヌと交差する瞬間に猛烈な風圧をまとったリアルな赤い太刀が、私の顔面を断ち切ろうと肉薄する!
『バシュッ!』
私は思いっきり体を仰け反らせ、辛うじてその斬撃を目先で躱すも、
『ドッゴォォォ~ン』
魔王オヅヌに透かされた強烈な膝は、ちょっとたんまの思い空しく、技の勢いそのままに線路の壁に穴を開けた。
「きゃあ!」
「おっと!」
「げぇぉ!」
「うおっ!」
『バゥゥゥゥ~ン』
突然、大きな音を立てて金属の壁に穴が開いたので、『ブレーメンの音楽隊』のようにピラミッド――組体操――になって線路の隙間から中の様子を伺おうとしていた、クラリス王女、ソウシ、バイケン、ボクデンの四人は同時に尻もちをついた。
「あいたたたっ、ダ、ダイサク殿、ぶ、無事でござるか?」
腰を抑えながらも、他の者よりいち早く立ち上がったボクデンは、小穴から出てきそうな勢いで顔を寄せると、心配そうに私の安否を尋ねてきた。
「まあ、なんともかんとも……」
ボクデンにそう答えると、自信の心を奮い立たせるように振り向きざまロッキーに発破をかけた。
「ロッキー、ここが正念場、攻撃の手を緩めるな、波状攻撃だ!」
「ウホッホッー!」
『ブンッブンッ、ブッブッブーン』
とは言っても、ロッキーは拳闘においては達人であるが、武器を使うのはあまり得意ではないようだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦と、やたらめったら櫓を力任せに振り回している。
知能の低い魔物や魔獣と戦うのであれば、あれでもなんとかなるかもしれないが、魔王オヅヌに対してあの程度の刃が届くはずもない。
『レイズ・ザ・ダブルパンラッガー』
私は先ほどの攻撃時に、魔王オヅヌに叩き落されて地面に突き刺さっていた2本のパンチャックを、アップルパワーでそれぞれ再始動させると、奴の左右の下顎目掛けて不意に白い軌跡を描かせた――
『ジュワッ!!』
『ギャ、ギャン!!』
魔王オヅヌは微動だにせず、先ほどと同じようにまるで蠅を叩き落とすかの如く2本の剣でXの文字を描くと、又もや空気を切り裂くパンチャックを地面に叩き落として辺りに風神を巻き起こす……。
「ちっ、ちくしょ~、ここまでやっても切り崩せないのか……か、神様」
――私はこの世界で初めて星に願いをかけた――
「お前たちの悪あがきもこれまでだ! 我が究極奥義を拝受して……逝くがよい」
魔王オヅヌは何か極めて危ないことをやろうとしているのだろう、場の雰囲気が急に変わった。
「フゥゥゥゥ~ 『魔素原子大爆発!』」
凄まじい量の魔素が魔王オヅヌの丹田に収縮していく。
――間違いなく、この後直ぐに収縮した魔素が極大膨張し、大爆発を引き起こすことが推測できる――
「ロッキー、絶対奴にあれを打たせるな!」
「ウホッホー!」
今こそ誰かが立たねばならぬ時、誰かがいかねばならぬ時、皆の未来を壊しちゃいけない。どげんかせんといかんという思い一心で、私たちは魔王オヅヌに向かって無為無策で飛び込んだ!
『ドッシィィィ~ン』
ロッキーの面を狙った渾身の一撃も、当然のように魔王オヅヌの頭をすり抜け、地面にめり込んでしまった。
『ガチャッ! シュッバッバッシュ!!』
魔王オヅヌは赤い長刀でロッキーの振り下ろしたオールウイングを押さえつけると、青い短刀で素早くその手首を落としにかかる――
『ズルッ……』
「うぬっ!?」
まさにその時、『バナナの神様』が地上に降り立ち奇跡を起こした♪
何と! 魔王オヅヌは落ちていたバナナの皮に滑って足をすくわれ、一瞬その動きを止めたのだ――
『ガッキュイィィィーン!』
そのため、ロッキーの脳天を狙った力任せの唐竹割りを、魔王オヅヌは2本の刀を頭上でクロスして初めてまともに受け止めてしまった。
「今だロッキー『サインはV』だ!」
私がロッキーに人差し指と中指でハンドサインを送ると――
「ウホッ!」
ロッキーの涼しい目がそれに呼応するかのようにキラリと光る。
「ウホッホ、ウッホ、ウホウホォォォ~」
ロッキーパワーが120パーセントの瞬間最大出力を叩き出し、魔王オヅヌの持つ『戦鬼の剣』と『護鬼の剣』をそのまま地面に強く押しつけた!
『クルリンッパッ、ドッゴォォォ~ン』
それからロッキーは右足を半歩踏み出して魔王オヅヌに密着しつつ、オールウイングの剣先と柄をひっくり返すと、柄の頭を奴の魔素の収縮した臍下に突き当て、オールウイングの平らな剣先に彼の超必殺技である『 通背昇竜拳』を叩き込んだ。
そう、『水月』とは二刀流に対して編み出された古来棒術の技の名であり、ロッキーはオールウイングを刀としてではなく棒として扱い、魔王オヅヌに対して入魂の『突き』を入れたのであった。
「ウヌォォォォォ~」
「ホッ!」
低いうなり声をあげて魔王オヅヌが宙に舞い上がると、ロッキーも奴と一緒に天へ飛び、直ぐに体を丸めて次の攻撃の態勢をとった――
「魔王オヅヌよ、これが必殺の合体技だ! 受けれるものなら受けてみろ!」
私は大声で必殺の一撃を呼ぶ――
『シュォォォ~ン キューイーン キュイーン』
『ロッキー・バーニング・スパァァァ~ク!!』
私は両手で蓮の花を形作ると、掌の中に空間を超圧縮した3つの球を作り、それらを掌の中でぐりんぐりん回してから螺旋を掛けると、ロッキーの丸まった背中へ必殺の一撃――うんとこ・どっこい掌――を打ち込んだ!
『ドッゴォォォーン、ボー、ゴー、ゴ―』
「ウッホッ、ホッオォォォ~」
ロッキーはマッハ30の速さでぶっ飛ばされながらも、そこから一瞬で姿勢を制御し体を真っ直ぐに伸ばすと、まるでスーパーマンのように両手の拳を前に突き出して魔王オヅヌに体当たりした。
『ボッカァァァ~ン』
「きっ、貴様が、ルシファが言っておった……フゴァァァァァ~」
魔王オヅヌは眩しいほど燃え上がるロッキーによって地上から打ち上げられた。
魔王を構成する禍々しい魔素は、ロッキーのディープインパクトにより八つの魔素玉に分裂し、ロケットの如く地上から一斉に発射された――
「戦いは、これで終わりだ! 飛んでいっけぇぇぇぇぇ~」
『アップルワームホォォォ~ル――りんごの虫食い穴――! パチパチ、パッチンチン!!』
『ブオ~ン――シュウォン、ブオ~ン――シュウォン、ブオ~ン――ジュワッ~』
私は『うんとこ・どっこい掌』の反動で後方にぶっ飛ばされながらも、指パッチンを鳴らしてアップルパワー最大出力200パーセントを開放し、八つの玉のそれぞれの鼻先にワームホール――時空のある一点から別の離れた一点へと直結するトンネル――を創り、方端から全ての球を宇宙の彼方へふっ飛ばした!
『ドンッ、カァーン、ギィギィギィ~バタン』
一方、私は『うんとこ・どっこい掌』の反動の勢いそのまま、林檎逆噴射もほぼ使えないまま、自身で造った鉄の壁に背中から突っ込むと、数本の線路に凭れてひっくり返る。
『…………………』
グリマルディ広場が静寂に包まれた。
魔王オヅヌは八つの玉となり、宇宙の彼方に流され星となった。
どこへ飛んで行ったのか、飛ばした本人すら分からないのだからそこはバナナの神様のみぞ知るということだろう。とにかく、奴はこの青い星から永久追放されたのだ。いくら魔王が復活すると言っても、二度と今の世界には戻って来ることはないだろう。
ちなみに、この後の無体な掃除中に『戦鬼の剣』と『護鬼の剣』を手に入れることができたのは不幸中の幸いであった。
『クルン、クルン、シュタッ』
ロッキーが二回転半ひねりで、線路の上にさっと降り立ったまさにその時、グリマルディ広場の視界がぱっと晴れた。
彼は夕焼けと摩擦熱でその鎧を真っ赤に染めながら、右手を突き上げ勇ましく空を見上げていた…………。
「あ、あれは、道場破りさんと一緒にいた冒険者、そ、その名はロッキー、ロッキー様、そうだったのですね。す、すごい……なんて、神々しいの! や、やっと全ての話が繋がりました。彼が、彼こそがジノーヴァの、いえ、この世界の救世主であり、アマテラス様が星読みされていた『炎の神エンカイ』様の御業の執行者だったのですね」
ひっくり返って転がっている私のすぐ右斜め上方で、クラリス王女が何ともそのように呟いていた……。
クラリス王女は目を閉じ胸に手を合わせると、頭を下げてひざまずいた。
そして、崇敬の眼差しで改めてロッキーを見上げて言った!
「ありがとうございます! ロッキー様!!」
「ウォォォ~! ウォォォ~! ウォォォ~!」
「ロッキー! ロッキー! ロッキー! ロッキー! ロッキー!」
クラリス王女に呼応するかのように、ジノーヴァの兵士たちから大きな歓声が上がった。
「ほっほ~ なるほど、なるほど、そうであったか」
クラリス王女の呟きを聞いた侍たちも、さもありなんと大きく頷いた。
「そんなバナナ! なんでそうなるの!?」と唖然とする私を案じて、
「『白珠は、人に知らえず知らずともよし、知らずとも、我し知られば 知らずともよし』 ダイサク殿……まぁなんだな……これも運命じゃ!」
悟りの境地に至ったボクデンは、澄んだ瞳で私に静かにそう語り掛けた。
――進め、ダイサク! 立て、ダイサク!――
「ウホッ?」
片やロッキーは、ずっこけた私を見つけて線路の上から軽く手を振った後、なんとなく照れくさそうに右手で頭を掻いたのであった…………。
◇◇◇ ◇◇◇
「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!」
リヤカーに乗せられたロッキーが、侍と兵士たちによって神輿のように担ぎあげられている。
そんな彼を眺めながら、一人てくてくと後ろからついていってる最中だった……。
『ガシッ!』
「まちなっ!」
そう言って誰かが私の手を掴んだ!?
――まさか魔王が来りて笛を吹く?――のか
次回をお楽しみに!




