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69 天下分け目の天王山 其の壱(島唄)

【島唄】


衛星鉄道レイルウェイ!!』

 私はそう言ってグリマルディ広場の周囲に目標を定めると、そのまま大きく地面に対して水平に左腕を振り下ろした……。 


『ゴゴゴゴゴ~ ズズズズズ~』

 どこからともなく、何かが近づいてくる低い音が聞こえる。

 そして、それが地鳴りと重なったまさにその時だった――

『ヒュンヒュンヒュン、ヒュヒュン、ヒュンヒュンヒュン…………』

 宇宙そらから2万5千本の線路が次々と降ってきた。

 それらは真っ赤な鉄塊となってゲリラ豪雨のように降り注ぎ、そこかしこに砂塵を巻きあげる――


 そう、私はアップルパワーを使って事前に衛星軌道上に打ち上げておいた、幅25センチメートル、長さ50メートルの線路レールを、グリマルディ広場の周りの地面に沿って隙間なく突き刺したのだ。

――ダンジョンや建物内ではちょっと使えないが、衛星そらが見える屋外だからこそ使える技だぜ――


「えっ、何っ、えっ?」クラリス王女が驚きの声を上げる。

「うっおおお~、な、何が起きている!」ボクデンが大声で叫ぶ。

「こ、これは……真っ赤な金属の壁でグリマルディ広場が覆われてしまいました」

 ソウシは相変わらず冷静に周りの状況を伝える。


 お察しのとおり、私はジノーヴァの街を守るため、あっという間に即席の闘技場を造ったのだ。――これで何の憂いもなく魔王オヅヌと戦えるはずだ――


 だがしかし……こちらの攻撃はことごとく魔王オヅヌの体をすり抜けてしまっている。その一方、奴の攻撃は幻影どころの話ではなく、紛れもなく極上の本物だ。

 事実、グリマルディ広場のランドマークとも言える鐘塔は、奴の一発の攻撃によって既に粉々に破壊されてしまっている。


「ロッキー、先ずはあれをやるぞ。とにかくこちらの手数を増やして奴に攻撃を当てるんだ!」 

「ウホッ!」


「『グローブ オブ デス!』 のってけ、のってけロッキー」と声をかけて、魔王オヅヌの周囲の空気を圧縮して、ロッキーのための球体の足場を造った――


「ウホッホーイ」

 ロッキーはその空中の足場を利用して、無規則かつジグザグに飛びまわりながら猛烈な速度で魔王オヅヌの周りを駆け回る。視界の左右と天地が目まぐるしく切り替わることで、奴はロッキーの攻撃が躱せなくなるはずだ……そのはずだった。

 だがしかし、魔王オヅヌはデスボールの中央に位置したまま目をつぶり、全く動こうとしなかった――


 「勝機! いっけ~ロッキィィィ~」

 ロッキーは魔王オヅヌの脇を通り過ぎて即座にくるりと方向転換すると、背後から得意のメガトンパンチで奴の後頭部目掛けて殴り掛かった。

「これはオマケだ、とっとけ、『ダブルパンラッガ~』」

 私もロッキーの攻撃に合わせ、奴の右手首と左足踵を狙って2本のパンチャックを同時に投げ込んだ――


『ドッシュワーン、ビュワーン、ビュワーン』

「えっ!」

「ウホッ!」

 必殺の三点同時攻撃さえも魔王オヅヌをスッとすり抜けてしまった……。


「怯むなロッキー、攻め続けるぞ!」

「ウホッ!!」

「次は『ローキーハリケーン』だっ! ハッ、リィ~、ケ~ン!!」

 私が空気の障壁をより強固なものにすると、ロッキーはデッドボールの中を更に力強く跳ね回ることができるようになり、その姿までもが歪んで見えるほど速度を上げる。

 空に踊るその姿は雲か幻、メタルチックな光の影が天を駆ける様子は幻影の嵐だ。そして、遂にローキーは魔王オヅヌの全方位からの残像攻撃を仕掛ける――


『スッ、カッカッカッカァ~』

 だがしかし、ロッキーの全ての攻撃は魔王オヅヌをすり抜けてしまった……。

「『霧魔転生!』……貴様らでは我に触れることさえままならぬ、ましてや倒すことなど絶対に不可能、魔王は……無敵だ!」と魔王オヅヌはしたり顔でこちらへ告げた。


「『霧魔転生』だと?……もしかして……い、いや、間違いない。魔王オヅヌは実像と虚像を使い分けている!」

 奴は魔素の集合体であり、何らかの方法で瞬時に『光』と『影』を切り替えているようだった。

 ――どうする……切ってもだめ、叩いてもだめ、唯一、暗黒重力胡桃割器ブラックホールクラッカーを使えば、魔素ごと奴を原子レベルまですり潰せるかもしれないが、すり潰されるまでナマケモノのように、じっとその場で待ってはくれないだろうし――

 火の神エンカイがクラリス王女の体に魔王オヅヌを閉じ込めていたのは、結局のところ、奴を殺す方法がなかったからに違いない。その窮余の策として『封印』という手段を講じていたのだ! 


「さぁて、そろそろ我の番だな!」

 魔王オヅヌはそう言うと、どこからともなく赤い『戦鬼の剣』と青い『護鬼の剣』を取り出した。

 それから、両肩を下げ、背すじを真っすぐにして、尻を出さず、ひざから足先まで力を入れて、腰がかがまぬように腹を出すような、先ほどまでの奴の横柄な発言とは裏腹な完璧な自然体の構えをとった。

 右手に朱色の長い太刀、左手に碧色の短い太刀を手にした、その佇まいは差し詰めの剣豪『宮本武蔵』のようであった。


『ダブルパンラッガーアンフィニ』

 魔王オヅヌの言葉を無視して、私はいきなりパンチャックを投げつけるが、

『ギャン!、ギャン!、ギャギャン!!』

 奴はまるで蠅を叩き落とすかのように、二本の剣でパンチャックを地面に叩き落とした……。


「あいや~ 現時点では……八方塞がりだ」 

「ウホッ…………ウッ~ホッ~!」

 頭を抱える私を見て、ロッキーが何か言いたそうに、両手を上げ片足を交互に跳び跳ねる。


「ロッキー、何かいいアイデアでも浮かんだのか?」

 私は何の期待もせずにロッキーに聞いてみた。

「ウ~ホホッ、ウ~ホホッ、ウ~ホホホ~♪」

 何たることか、ロッキーはこの非常時に鼻歌を歌いだしたのだ!


「ロッキ~てめえ、なめてんのか!」

「ウ~ホホッウ~ホ、ウホホ、ウホッ~♪」 

 私の恫喝など何するものぞ、ロッキーは依然として鼻歌を歌い続けている……。


「ロッキィィィ~イ、イ~、イッ、イヤ、いや待てよ、こ、このリズムは、このリズムは2億4千万年以前に聞いたことがあるぞ。島唄だ! でも何故にこのタイミングで島唄なんだ……島唄、しまうた、しま、しま、しまながし、そうか『島流し』かぁ~」

「ウホッ!」ロッキーは私の名答に対して、嬉しそうに両手で頭上に正解の丸印サインを出した。


 かつて江戸時代の罪人の刑罰には、死刑、禁固刑、追放刑があり、追放刑の代表格が『島流し』であった。

 魔王オヅヌを、倒すことも、閉じ込めることもできないのであれば、遠くに追いやって帰って来れなくすればいいだけだ。


「でかしたロッキー、それなら奴をやっつける方法がある!」 

「ウホホ~イ」

――そうは言っても、まず初めに魔王オヅヌの実体を捉えて、その牙城を切り崩さなければならない――


「ん~ ロッキー、奴は二刀流だ! 猫の手じゃなくて奥の手だ、あれでいくぞ!」

「ウホッ!」

 ロッキーに『サインはV』の合図を送ると、彼は即座にその意図を理解した。

「ロッキー受け取れ!」

「ウホッ」

 私はロッキーに、オールウイング――宮本武蔵が佐々木小次郎を打ち破った櫓の形状をした刀――を投げ渡した。


 私はロッキーに、オールウイングを刀として使わせるつもりなど毛頭なかった。

 事実、彼はその刀の太い切先を手元に持ち、柄を相手に向けていた。

――相手は二刀流、ならば仕掛けは『水月』だ!――

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