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06 断崖の町ロンダ

【断崖の町ロンダ】のお話です。

どうぞお楽しみください。

【断崖の町ロンダ】


 本日も晴天なり♪

 頬にあたる微風がとても心地よく、金色に輝く穂をつけた麦畑と、真っ青な空に白い雲のコントラストがとても美しい。

 広い麦畑には何基もの白い大きな風車が据えつけてあり、

『ギィ〜ギィ〜ギィ〜』と軋むような音を立てながら、

 風車の蝋色の4枚の黒い羽根が、穏やかな風に吹かれてとゆっくりと回っている。

 そして、その金色の麦畑の先には『断崖の町ロンダ』があった……。


「いやぁ~大吊り橋の上から下を覗くと足が竦む……まるで自然の要塞だな」

――ぷるぷる――

 私は壮観な景色を眺めながら、街と麦畑とを繋いでいる唯一の大吊り橋を通ってロンダに立ち入った……。


 ロンダの全ての家々は、白い壁と緋色の赤い屋根瓦で統一されていて、調和がとれた街並みは本当に素晴らしい。

 人口は5000人程、こちらの世界では中規模の町だろう……。 

 私はロンダの町をぶらぶら見物しながら、いつも通り冒険者ギルドへ向かった。


 ロンダの町はとても活気づいていた……。

 町の人にちらほら理由を聞いてみたところ、麦の収穫祭が近いからとのことであった。

 中でも収穫祭のクライマックスに開催される、闘牛士と魔牛がハラハラドキドキの戦いを繰り広げる闘牛コリーダを、一番の楽しみにしているとのことだった。


◇◇◇


『ギィギィィ~カランコロン』

 冒険者ギルドの両扉を開けて部屋に入ると、正面のフロントデスクに受付嬢が座っていた……。


「こんにちは、初めまして……レイナと申します。何かご入用でしょうか?」

 受付嬢のレイナが可愛い声を掛けてきた――

「うっ…………」 

――ダイサクは3ポイントのダメージを受けた――


 幾つになっても綺麗な人から声を掛けられると、悪いことをしていないのにどぎまぎする。

 レイナはシトリン宝石のような透き通った麦色の瞳に、肩程まで伸びたミディアムヘアが超可愛い人族の女性だった。

――きれいなお姉さんは好きですか……はい、大好きで~す――


「……こんにちは、レイナさん……あの、ロンダの町の情報を頂きたいのですが?」

 そう言って、私はレイナにアイアン等級の首掛けの認識票をちらりと見せた。

「承知しました……どのような情報がご必要でしょうか?」


「割の良い依頼クエスト、近場の迷宮ダンジョン、それからお勧めの宿インヌについての情報を頂けますか?」

「承知しました……先ず何と言っても高価買取としてお勧めの魔獣は『ブラックバッファロー』という黒野牛でしょうか……水牛のような大きな2本の角を持った体重600キロ程の牛の魔獣です。闘牛士との名勝負数え歌を歌うため……黒野牛を無傷の状態で捕獲すると倍率ドン! 祭りの時期なら更に倍!! 報奨金が雪だるま式に増えていきますよ……」


「次に迷宮についてです……ロンダの町の近くには『ラマンチャの迷宮』と呼ばれるダンジョンがあり、5階層辺りから報奨金の高い『ミノタウルス』という魔物が出現します。しかしながら、初級の冒険者にとって非常に危険な魔物です……アイアン等級の方は十分に気をつけてください」

 そう言うとレイナは私の認識票を何気にちらりと見た……。


「……後はお勧めの宿でしたね……冒険者ギルドのお勧めの宿は何てったって『ドンキイヌ』でしょう……宿の名前の意味は詳しく存じ上げませんが、無謀にもたった一人でドラゴンに戦いを挑んだ伝説の騎士の名から、宿の名前を頂戴したようです……それと食事は『牛肉とオレンジのパエリア』が絶品ですので、是非ともご賞味ください……」

「いろいろな情報を頂き……ありがとうございます」

「どういたしまして……」


 レイナのお陰で貴重な情報を得ることができた。

――折角教えてもらったし、今日の夕飯は牛肉とオレンジのパエリアとオニオンスープにしよう♪――


◇◇◇


 私は冒険者ギルドを出ると、さっそくブラックバッファローの捕獲に向かった。

 獲物の黒野牛――ブラックバッファロー――は、金色の麦畑の丘を越えた水場の近くに生息していて、繁殖期以外はたいてい単独で行動しているらしい……。


「いるいる!」

 ブラックバッファローは水場の真ん中を流れる小川の傍で、のうのうと水をがぶ飲みしていた……。


 当初私は、林檎引力アップルパワーを使ってブラックバッファローの動きを封じ、パンチャック(双節揚焼鍋)で顔面を張り倒して黒野牛を捕獲しようとも考えたが、黒野牛は頭が大きくてそれを支える首が太く、ちょっとやそっとじゃ脳脳震盪を起こしそうになかった……。

 そこで、ブラックバッファローの突進力を利用してから顎の一点をずっきゅんと狙い打ち、黒野牛の脳を思いっきり揺らし倒してから捕獲する作戦に変更した。


 そういう訳で、今回使用する武器はフライパン改めパンチャクではなく、アイアンカイザー(鉄拳鍔)を使うことにして、私は両方の拳に武器を装着した……。

 アイアンカイザーは接近戦に特化したオリジナルのお手製の武器で、その特徴として『打つ』だけでなく『投げ』と『極め』が可能となる。

 今回はブラックバッファローの突進力を利用して、黒野牛を失神させて捕まえる算段を立てた……。


 ちなみに、武器と同じく防具も私のオリジナルの自作で、私は普段、野に咲く蒲公英色の超薄で動きやすい、鎖帷子に似た防具を身に着けている。

 この防具は防御力もさることながら、どちらかと言えば機動力を優先した装備で、幅1センチメートルの細い鉄黒の2本のラインを編み込んでいる。


 この2本のライン、こちらの世界での自称なんちゃってファッションリーダーとしての私なりのこだわりで、特別な機能が付いているという訳ではないのだが、遠くから見ると黒い2本のラインが入った、お洒落な黄色いジャージを着ているようにも見える。


 私はブラックバッファローに歩み寄ると、奴の正面で体を真横に位し、右手と右足を前に出して足を大きく開いて構え、その態勢を保ったまま黒野牛にじりじりと近づいて行った……。

 

「ブフォッ、ブフォォォ~」

『ガシッ、ガシュッ!』

 ブラックバッファローはひどく興奮し、右の前足で地面を何度も引っ搔いて私へ威嚇を始めた……。

 私はそれを無視して更にブラックバッファローに近づくと、くいっくいつと中指と人差し指で指招きして黒野牛を挑発した――


『ドッドッドッドッドッ~!』

 ブラックバッファローは土煙をあげて猪突猛進で突っ込んで来た。 

『グッ、グイッ』

 ブラックバッファローは激突の瞬間、私を空に放り投げようと大きな2本の角を突き上げる――


 私は正にその瞬間を狙ってブラックバッファローの右足前にすっと入ると、角の突き上げを躱しながら右の角に軽く右手首を優しく巻き付け、黒野牛の直線運動のエネルギーを円運動に変換した。

 重心を崩されたブラックバッファローは、右の角が右手に吸い付けられたように私を軸に270度回転し、ぐるんと回って地面に転がると直ぐに起き上がろうとした――

 その刹那、私は混乱状態のブラックバッファローの顎へピンポイントで連撃を叩き込んだ!


「アチョチョッ、アチョ、ホワッタァァァ~」

 私は怪鳥のような声を上げながら、

『シュシュッ、バゴッ、シュゴォォォ~ン』

 右ジャブ2発からの左フック、それから右回し蹴りへ続く、ブラックバッファローにとって危機的クリティカルな4連打を放った……。


『ドッ……ドッス~ン』

ブラックバッファローの脳は激しく揺さぶられ、斧で切られた巨木が倒れるようにどさりと身体を地面に横たえた……。


 私はブラックバッファローの前足と後ろ足を麻縄で固く縛り上げると、輸送中に黒野牛が起きて暴れないように眠り薬を経口投与した……。

 それから、林檎引力アップルパワーを使ってブラックバッファローの体重を一時的に軽くし、前もって準備しておいた荷馬車に片手で軽々と積み込み町へ運んだ……。


◇◇◇


 私はロンダの町に凱旋すると、そのまま獲物を冒険者ギルドに持ち込んだ……。


『カランコロン♪』

「……レイナさん……只今帰還しました♪」

 受付嬢のレイナへ依頼クエストのブラックバッファローを捕獲してきたことを伝えると――

「ええっ、たった一人でブラックバッファローを捕獲されて、 冒険者ギルドまで運ばれたのですか!?」

 レイナは大変驚いて奇声を発した……。


「はい、顎を殴って気絶させた後……睡眠薬を飲ませてここまで運んできました……私は荷物運びが得意でポーターの依頼もよく引き受けていますので……」

「そうなのですか!? ブラックバッファローを罠も使わずに捕獲してお一人で運んで来るなんて……」

「それほどでもないです……」

「そうですか……ダイサクさんは本当に優秀なポーターなのですね……それでは査定いたしてきますので、少々お待ちください……」  

 レイナは訝しみながらも、そう言って受付の裏手に回った……。

 

 暫くするとレイナが戻ってきた……。

「体重750キロの大物でした。目立った怪我や傷も無く、捕獲の状態が非常に良好でしたので、金貨5枚での交換となります。よろしいでしょうか?」

「はい、ありがとうございます。それで結構です」

 収穫祭のご祝儀もあって通常よりも報酬が随分と良いようだった……。 


 レイナからるんるんと喜び勇んで5枚の金貨を受け取り、次はダンジョン――ラマンチャの迷宮――を探索しようと考え、一人しげしげとクエストボードを眺めていると……。


「お兄にゃん……うちらのパーティと一緒に……『ミノタウルス』の討伐に行かないにゃ~?」

 紺鼠色ブルーグレーの髪に、琥珀色の瞳の小さな猫耳娘が、忌憚なく私に声を掛けてきた。

「さようでございますか?」

――子猫ニャンコを使った新手のナンパか――と思ったのだが……。

ありがとうございました。

次回をどうぞお楽しみに!

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