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66 九人の戦士

どうぞお楽しみください。

【九人の戦士】


 立ち上がる霧の中より、忽然と現れた九人の戦士たち!

 七人の侍、修行僧、そしてメタルチックなスーパーコングが、大した風もないのに赤いマフラーをなびかせて横一列に颯爽と並立った。


 クララに向かって左から、001ボクデン、002コジロー、003インエイ、004ジンベイ、005ロッキー、006バイケン、007ダイサク、008トウベイ、009ソウシの順で戦士が一列に並んだ。

――私の立ち位置が、6番の酔っ払いバイケンと、8番の気合いだのトウベイに挟まれていて、何となく暑苦しさを感じるのは単なる私の錯覚なのだろうか……――


「あああっ、先生方! それに道場破りさんと……だれっ?」

「……クララよ、すまぬ、遅くなった、ここは我々に任せて、お前は早くこの場を立ち去るがよい」


「ボッ、ボクデン先生……でも、皆さんは魔法が使えません。加えて、このままでは『星読み』が……未来が変わってしまいます」

「魔法が使えぬことは心配せずとも好い。まあ~未来がどうなるかは知らぬ存ぜぬが……ここは危険ゆえに、クララ、お前は一旦この場を引くのだ。何故だかわからぬが、儂には魔物がお前ばかりを狙っているようにさえ見えるぞ」

「えっ、そ、それは……」 

 ボクデンがそのように指摘するとクララは押し黙ってしまった……。


「然らば手筈通りに、皆の衆――散れ!」とボクデンが号令を掛けた。

「ははっ!」

「うい~!」

「ウホッ!」

「…………!!」

――えっ、何時そんな打ち合わせしたの? もしかして、ソウシに渡した妖刀『村雨』のことを考えているときか――

 思考が停止した私は、つい3分前のソウシとの遣り取りを思い出していた……。


◆ ◆ ◆


「ソウシさん、この霧隠れは!? 一体全体どうなっているのですか……」

「はい、精霊が積極的に私に力を貸してくれているようです」

「せ、精霊ですか?」

「はい、水の精霊、ウンディーネ様です」


「えっ、そっ、その妖刀は、悪魔が宿りて笛を吹いているのでは……」

「はい、そのようにお聞きしていたので、自分としても随分と警戒していたのですが……それは全くの勘違いだったようです」

「かぁ~勘違いですか?」

「は、はい。勘違いです」

「へっ、へたこいたあ~」

――妖刀ではなく精霊の宿る御神刀……禍を絶ち、自ら運命を切り開く、そんな凄い剣だったとは――


 ソウシの話では、彼が『村雨』と向き合っていた時、彼の前に氷の微笑のような美しい女性がすっと現れ、モナリザのように彼に優しく微笑んだそうだ……。


 また一方、コジローの『隼の剣』においては、風の精霊――シルフ――の子供たちが、無邪気に笑いながら現れ、彼の周りで戯れていたらしい……。


 他の侍たちの前には表れていないところを鑑みると、人ならざる精霊たちにとっても、やはりいい男が大好きということなのか!

――天は我を見放した! ちっくしょ~!!――


◆ ◆ ◆


『ゴロゴロゴロォォォ~』

「きゃぁぁぁ~」

 大きな音を立てながら、巨大な『アルマジロン』が丸まって転がり、その背中の大きな棘がクララを強襲する!

 心機一転、いっとう最初は俺がかっこ好く決めてやるぜ! そう思った矢先だった――


『ガキッキッ、ギュルンギュン、ドカァァァ~ン』

 ロッキーは、アルマジロンの大きな棘を両の手の平で掴むと、魔物たちの群れに投げ付け、沢山の魔物を一緒くたに片付けた。

「ウッホホォ~」とロッキは得意げに両手を挙げてステップを踏んでいる。


「…………」

 何たることか一番槍を無手のロッキーに持っていかれてしまった……。

 その一方で、どこの誰とも分からない白金鎧の大柄な戦士に窮地を救われ、驚いた様子でポ~とロッキーを眺めているクララの横顔……これがまた可愛らしいんだな♪


 それにつけても、何故だかクララの周りには強い魔物が寄ってくる――

「ロッキ~!」

 私は形勢逆転を狙って、ロッキーの口目掛けて青色魔石をレーザービームで投げ込んだ。


「ウホッ、パクッ!」

『ブルルルルゥゥゥ~』

 ロッキーは青魔石の魔素を吸収して、体長10m程のサイズまで巨大化、もりもりとパワーアップするや――


『ウホッホッ~(メガトンパンチ)』でトリケラドンの角を砕いて地に転がし、

『ウホッウホホウ(昇竜拳)』でティラノサウザーの顎を砕いて宙に浮かせた。

「むむむ。腕はなまっちゃいないようだな」

 私は少しだけロッキーを見直した……。


 しかし、クララには次々と魔物たちの魔の手が迫っていた。

「次は……上か!」

 私がさっと空を仰ぎ見ると――


「ケケケッ、ケケケッ、あの女だ! あの女を捕まえろ~」

 2匹の『ガーゴイル』が鋭い爪を以って、笑いながら上空からクララを急襲する。

――あの魔物、言葉を話せるのか?――

 そう思った一瞬の間が、私のしくじりだった。


「ダブルパンラッ……」

 ワンテンポ遅れで、私がパンチャックを投げつけようとした矢先――

「秘剣『隼返し!』」

『シュシュシュシュシュ――スッパパーン』

 急降下で迫りくる2匹のガーゴイルを、風魔法を纏ったコジローの秘剣が空中で真っ二つに引き裂いた!


「えっ、コ、コジロー様!」

「クララ殿、大事はないか?」

「は、はい、ありがと……そ、その、せ、先生方は魔法が使えなかったのでは……」


 クララが話を言い終える間もなく、その美しい碧い瞳には新たな魔物が映っていた――

 次に迫り来る魔物は完全武装の『ゴブリンの小隊』、そこに怒涛の如く突っ込んで行ったのは……示現流トウベイ、その人であった――


「チェスト! チェストッ! チェストッ~!!」

 しかし、何たることか……トウベイの木刀はバキバキと大きな音を立てて、当然の如く立ち所に砕けてしまった……。

「ウッヒャヒャヒャヒャッ」

 それを見たゴブリンたちは、腹を抱えて嘲り笑っている……。


「示現流は一の太刀を迷わず……二の太刀要らず。全身全霊を掛けた一撃でわいを倒すが……おまんら、おいの必殺『鬼連撃』受けれるもんなら受けてみるがよ!」

 トウベイは折れた木刀を『鬼蜻蜒おにやんま』に持ち替え、左足を前に出して右手を耳の辺りまで上げると、その魔法の刀にすっと左手を添えた。

「ワッギャギャ…………?」

 何事が起きるのかと思い、ゴブリンたちはしんと静まった――


「チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッォォォ~!!」

 …………トウベイが鬼連撃を繰り出してから、たったの20秒後であった。


『ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、ボゴゴゴゴッ!』

 完全武装したゴブリンの小隊は、凹んだ兜だけを地面に残して、杭のように地中に打ち込まれていた。

「ふうぅ……ほんに、恐ろしか~」

 トウベイは呼吸を整えながら、手にした鬼蜻蜒を見つめて静かにそう呟いた。


「きゃぁぁぁ~」

 次にクララへ迫り来る魔物は、三つの首を持つ地獄の番犬『ケルベロス』だ!

「うぉぉ~りゃぁぁぁ~ひっく」

「バウ! バウ! バフゥ~」

『チィ~ン……』

 バイケンが投げた鎖鎌の分銅は、『ケルベロス』の桃色吐息によって、容易く跳ね返され地に落ちた……。


「なんでぇ~ういっ、俺の鎖鎌じゃ、こんなでけえ魔物にゃ全く歯が立たねぇな……仕方ねえ~『アルゴスの盾』でも使ってみるか」

 そう言ってバイケンは背中に背負っていた魔法の盾を手に取った。


『カシャッシャーン!』

 アルゴスの盾はバイケンの左の腕に自動装着された……。

「でぇ~使い方は鎖鎌と一緒だったな。ういっ、どぉりゃぁぁぁ~」

 バイケンはアルゴスの盾を魔物に投げつけると、盾を引き戻す瞬間に蝋燭を使ったあの特訓の通りに魔力を解放した――


『ドッキュゥゥゥ~ン!』

 一瞬だけ眩しい光を放ったアルゴスの盾が、ケルベロスの首をほぼ同時に切断する!

「キャイン、キャイン、キャイン、グゥロワァァァ~」

 ケルベロスは一発で仕留められて、魔素となって宙に消えてしまった……。

「こっ、こいつはすげえや……。うぃっ~」

「あ、ありがとうございます。バイケン様」

「ん~、クララか、いいってことよ。うぃ~」


『え~んえ~ん、バイケンさんにまで良いとこ持って行かれちゃったよ、いやんなっちゃうよ~』

 私は小さく呟きながら、クララの窮地を救えないか周りを見渡すが、敵味方が乱れた戦場では、横槍が入ったり味方を巻き込む恐れがあったりで、どのように戦えば良いのか困り果てていた。

 その点、侍たちやロッキーは、かなりの場数を踏んでいるように見える。

――認めたくないものだな、己の経験がまだまだ不足しているということを――


『ボボボボボォォォ~ギャォォォ~』

 炎を吐いて九つの首を持つ『ヒュドラ』が現れた……。

 そのおどろおどろしい魔物に対して、インエイの使う『ロンギヌスの槍』が立ちはだかる!


「大悦眼、かっ!」

 インエイは目を見開きにこりと微笑むと、彼目掛けて突っ込んで来るヒュドラに対して、カウンターの一撃を呼ぶ――

「ふぁっ、ふぁいやぁぁぁ~、ばぁ、ばぁばぁぁぁ~どぉぉぉ~!」

『キュィィィ~ンニャァァァ~』

 ロンギヌスの槍はヒュドラの胴体を貫き、その空いた穴の内部から魔物を燃やした。

 ヒュドラは代名詞でもあるところの再生も全く間に合わずに、ソドムの業火の如き爆炎に焼かれて燃え尽き、魔素となって空に舞った……。


「燃えろよ、燃えろ~よ~、炎よ燃えろ~」

 私は子供の頃のキャンプファイヤーを思い出して、無意識の内に懐かしい歌を口ずさんでいた……。


「うわぁぁぁ~、うわぁぁぁ~、うわぁぁぁ~」

 ジノーヴァの兵士たちは一生懸命魔物と戦っていたが、血のりが付いた兵士の剣は、切れ味が落ちて魔物の皮膚にさえ通らなくなっていた……。

「だ、だめだ、地獄の猟犬――ヘルハウンド――たちに前線を突破されてしまう」


『バシュバシュ、ダンダンダンッ! ピッキーン!』

「大雪山三段突き~」

 地を駆けるヘルハウンドの群れが一瞬で凍り付くと――

「おおお~、師範代!」ジノーヴァの兵士たちが歓喜の声を上げた。


『サササッ』

 うろうろしている私の背中に、素早くソウシが背を預けて来た……。

「ソウシさん、八面六臂の活躍ですね。刀の呪いは大丈夫ですか?」と嫌味たらしく声を掛けてみるが……。

「はい、いろいろ試してみましたが、呪いのは全く無いようです……恐らく斬られたものが眠るように凍え死ぬため、そのような噂が流れたのでしょう。霧を発生させて隠れ蓑にもなりますし、どれだけ相手を切っても洗浄作用で刃の切れ味は全く落ちません。本当に素晴らしい刀です」

 ドライアイスのような白煙の演出で、ますますソウシがカッコよく映ってしまった。

――妖刀村雨……貸さなきゃ良かった。めらめらめら~――


◇ ◇ ◇


 一方、勇者アキラと賢者ミユキは、魔物をこの戦場へじゃんじゃん転移させている魔法陣を、口を咥えて見ているしかない状況に陥っていた。

「駄目だ、ミユキ、あの魔法陣から次々に魔物が出てくるよ」

「そんなの見れば分かるわよ、あの魔法陣だけでも何とかしなさいよ」


「そ、そんなことを言っても、デュラハンは魔法陣の前にしっかり陣取って、守りをしかと固めているじゃないか!」

「あいつ、実体がない魔物だったわよね…」

「なっ、なんで、迷宮の深層にしかいないボス級の魔物たちばかり出て来るんだ……」

「魔法が使えないんじゃ、手の打ちようがないわ、いえ、たとえ魔法が使えたとしても、勝負は五分五分じゃないかしら」

「ジ、ジノーヴァはもう駄目かもしれない……」アキラは小さく呟いた。

「う、うそでしょう。彼人の『星読み』が外れるなんて……」ミユキも絶望を声にする。

 まさにその絶望の時――


『シュイィィィィ~ン』

「斬鉄剣!」

 ジンベイの斬鉄剣が、彼の居合と共にデュラハンとあの魔法陣を、空間ごと真っ二つにぶった切った!

『チンッ! カチャ!!』

「また、良からぬものを斬ってしまった」

「えっ……」

「あっ……」

「ほっ……」

 生まれ変わったジンベイの太刀筋を、勇者は声も出せずに『ぼ~』と、賢者は『ぽ~』と、そしてボクデンは、『ほ~』と眺めていたのであった。  


◇ ◇ ◇


「皆の者、血路は開かれた。このまま押して参る!」

 ボクデンが両手でエクスカリバーを天に掲げて声を張り上げる。


「合点承知!」

「ウホッホッ~」

「…………」

「うおおお~、うおおお~、うおおお~」

 九人の戦士の助けで、見る見るうちに魔物たちは討伐されてゆき、ジノーヴァの兵士たちの意気が揚がる。

 形勢はこのまま一気に逆転していくかに思われたが…………。


戦鬼センキよ、人族もなかなかにやるではないか」

「グルルルルゥ~護鬼ゴギィィィ~」

「結界の内部にも魔素が十分に籠った。そろそろ我らが出番のようだぞ」

「グルルルルゥ~」

「時は満ちた。人よ震えるが良い! 魔王の復活の時は来たる!!」

「ギャァオ~オ~オ~オ~オ~!」

 

 魂を揺さぶる凄まじい叫び声がジノーヴァの戦場に響き渡った――

 全員がはっと咆哮の方向を見遣ると、そこには武装した碧き鬼と巨大な朱の鬼が、あさましく恐ろし気に揺るぎ立っていた。

ありがとうございました。

次回をお楽しみに!

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