挿話 超越者
どうぞお楽しみください。
【超越者】
砂漠の都ジプトに住むミスリル等級冒険者サンバルカン(炎将軍)のもとへ、同じくミスリル等級冒険者であるルナ(氷笑の女神)が訪れていた……。
「然して……ルナ殿は聞いておられるか?」
サンバルカンが真剣かつ怖い目つきでルナに問いかけるも、
「何のことしょうか……?」とルナはさらりと返した。
「わっはっはっはっ! 何のこととは……ルナ殿も人が悪い。貴殿も確かめに来られたのであろう……現下、頭角を現している新たな冒険者のことを!」
「新たな冒険者ですか……私の耳に入った情報では、村を強襲した『はぐれ竜』を光の矢で貫き、無数の銀の剣を振るって瞬く間に切り刻んでしまったそうですね……」
「うむ……その者は未だ冒険者登録をして間もないというのだが、既にゴールドまでランクを上げ、ミスリルさえも目と鼻の先にあるというのだ……」
「単騎で『はぐれ竜』を倒すというのは、ミスリルランクの冒険者でもそう容易ではありませんからね」
「その通りだ」
「あと……真偽のほどは不明ですが、それに加えて『ディアハンタ―』を倒したという噂も耳にしています。」
「な、なんと、あの正体不明の冒険者狩りの化物を!?」
「はい、その者は既にミスリル以上の実力を兼ね備えている。そのように捉えて間違いないでしょう」
「儂も、ある程度は考えておったのだが――そこまでとは……」
「その冒険者は何者なのでしょうか?」
「うむ、ギルドマスターの報告では、若いアマゾネスということらしいが……」
「アマゾネスが魔法を使うなんて――余り聞いたことありませんね」
「うむ、それだけではない。そのアマゾネスが『はぐれ竜』と戦った際、黒ずくめの甲冑をつけた戦士を連れていたというのだ」
「黒ずくめの甲冑……」
「そうだ、黒甲冑の戦士は無数の光の剣で硬い鱗を貫いて、あっという間に竜を討ち果たしたというのだ!」
「アマジネスに黒い甲冑の戦士、それから光の剣ですか。黒甲冑と月光剣……蟲の王……そんなはずは――」
ルナは何か思い当たる節があるのか、小さく呟いた。
「その他にも、話の続きがあるのだが……」
「次は何でしょう?」
「『火の神の試練』を最後まで乗り越えた者がいるようだ!」
「えっ、あの火の神の試練を……ですか!?」
「そうだ、あの試練をだ!」
「まあ……一体全体、誰が?」
「ははは……ルナ殿も薄々感付いておるのであろう?」
「ふふっ……ダイサクさん……ですね?」
「うむ、十中八九そうであろう。ルナ殿、儂は偶然が重なった場合、それは単なる偶然ではないと考えるようにしておる。魔人ドラキュラ退治、魔人ゴーレム討伐、そして火の神の試練克服、その何れの場所でも奴は介在しておった」
「……そうですね……間違いなくダイサクさんの仕業に違いないでしょう」
「うむ、それでルナ殿、奴は一体何者なのだ?」
「私にも分かりません。彼が何を考えて行動しているのかなんて」
「そ、そうか、ルナ殿にも分からぬのか……」
「ところで、彼は今何処にいるのでしょうか?」
「密偵の報告では現在ジノーヴァ公国にいるとの報告が入っておるが……」
「ジノーヴァですか……魔王の封印が弱くなっていることと何か関係があるのでしょうか?」
「ルッ、ルナ殿、魔王が封印されておるというのは……誠の話なのか?」
「はい、真実ですよ」
「な、なんと、誠であったか。流石、亀の甲より年の劫、ルナ殿は物知りであられるなっ……」
『キッ!』
ルナの氷の視線に睨まれて、サンバルカンは魔法を受けていないのにも関わらず、一瞬で背筋が凍り付いてしまった。
「それはともかく、魔王はジノーヴァの何処かに隠されている『炎の聖杯』に封印されています。しかし……」
「しかし……」
「しかし、あの封印は封印した者が意図しなければ、簡単に解かれるものではないはずです」
「と言われると……」
「もしかすると……火の神が敢えて封印を解き、魔王を解放しようとしているのではないのでしょうか?」
「魔王、魔王を開放だと! 何のために火の神はそんなことをする必要があるというのだ……?」
「絶大な力を持つ魔王と、未知の力を有するダイサクさんを相見えさせるためではないのでしょうか……火の神エンカイは、ダイサクさんならば、あるいは魔人すら打ち倒せると予見したのかも知れません」
「そうは言っても……ダイサクは単なるアイアン等級の冒険者だぞ……魔王と一騎打ちなど到底無理な話ではないのか……ミイラ取りがミイラになるのが目に浮かぶようだ」
「そのように考えるのが普通だと思います。しかし、私の心眼を以っても、彼の力を見ることは全く敵いませんでした。もしかすると……彼は魔王と互角に戦える力を持っているのかも知れません」
「な、なんと……強い、強いとは思っておったが、それほどまでとはな……認めたくないものだな、自身の未熟さゆえの過ちというものを……」
「それならば、私が自分の目で確かめてきましょう! 私の足なら、ジプトからジノーヴァまで、7日あれば行けるでしょう」
「ルナ殿、すまぬな……儂は将軍という役職故に、易々とジプトから離れることはできぬのだ」
「心配には及びません……サンバルカン様は此処でゆっくりと吉報をお待ちになっていてください」
「しかし、はいそうですかと言って、そのまま許容はできぬな。さすれば――ミフェラ、ミフェラは居るか?」
「はい、お父様、ミフェラはここに……」
『シャララ』と赤い髪をなびかせて、ミフェラが客間に入って来た。
ルナとミフェラ、見た目は白と黒で全く対照的な二人だが、何れも美の神に愛されているようで、途轍もなく美しかった。
そんな二人が初めて顔を合わせる!
「……初めましてルナ様、お噂は予てより聞き及んでおります」
「ミフェラさん初めまして。ルナです……あら、その髪飾りは――」
「こ、これですか……この髪飾りは、とある方からの貰いものです」
そう言うと、ミフェラは二本の美しい指先で、そっと髪飾りに触れた。
「随分と珍しい髪飾りをもらったのね? ……それにしても『サボテンの花の髪飾り』なんて……そんな貴重な魔法具を身に付けている人は初めて見たわ……」
「え、それほどまでに貴重な物なのでしょうか?」
「ええ、そうよ……何処かの王族からの贈り物なのかしら?」
「い、いいえ、ダイサクさんというアイアン等級の冒険者の方から頂きました。何でもバベルの塔に落ちていたそうで……」
「へぇ~、落ちてたの。まぁ随分と貴重な物をもらったのね……貴方たち、どんな関係なのかしら」
「……関係ですか」
「そう、関係よ!」
「それは……特定のパートナーと言うことでしょうか?」
「パッ、パートナーですって!?」
「あっ、間違えました。彼とはちょっとした知人ですよ。特にこれといった特別な関係ではありません。そうですね~仲の良いお友達ということにしておいて頂ければ……宜しいでしょうか♪ うふふ」
そう言って、ミフェラは赤い髪をさっとかきあげて笑みを浮かべた――
「ミ、ミフェラさん、あ、あなた、私をからかっているのかしら」
ルナは安堵したような氷の吐息を零らすと、すぐさまサンバルカンに目を遣った――
ルナとミフェラの二人の間で、何かとげとげしい火花が散っているのを感じとったサンバルガンは、頭を抱えつつもミフェラに相応の指示を出した。
「ミフェラよ、ルナ殿に付き添って、ジノーヴァに隠されているという聖杯を確認してくるのだ!」
「ジノーヴァの聖杯……ですか……畏まりました。お父様」
「……貴方、そもそも私のビートについて来れるのかしら……せいぜい足手纏いにならないようにしてちょうだいね」ルナは金の髪をかきあげ不敵な笑みをもらす……。
「あらっ、ビートなら何処かのロートルなんかに負けませんわ」
一方のミフェラは、白魚のような指で口を掩って揶揄す……。
見つめ合う瞳と瞳、凄烈を感じ合う二人の麗人。
「…………」
「…………」
「ま、まぁ~なんだ……二人とも仲良くな……」
ルナとミフェラの竜虎相搏つ十字軍の30年戦争は、ここに始まりを告げたのであった……。
次回をお楽しみに!




