64 キングコング
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64 キングコング
夢の中にまで、侍たちのあのおどろおどろしい風姿が出てきて、私は若干寝不足だった。
それでも、冒険者ギルドのクエストである『キングコングの牙』を求めて、私は黄金のバナナをしっかり背負い、朝早くからジュラシクの森に踏み入ったのであった……。
キングコングの墓は、ジュラシクの森深くの『地獄谷』と呼ばれる場所にあることが知られている。
私は冒険者ギルドのモニカから、今回クエストを受ける際に簡易の地図を頂戴していて、目的地の方角や位置に関して大体の検討が付いていた。
モニカの話によると、地獄谷にはたくさんの噴気孔があり、白い煙がもくもくと上がっていて、そこに近づくと鼻を突く香りが漂い始めるとのことであった……。
ジュラシクの森には、アマゾネスの森のような大きな川は流れていなかったが、彼方此方ぬかるんでいて、湿地帯のようでとても歩きにくい。
私は肉食恐竜だけでなく、肥溜めのような空恐ろしい底なし沼があるのでは無いかと推測し、慎重にジュラシクの森を進んだ……。
途中、トリケラトプスやステゴザウルス草食恐竜と遭遇したが、彼らは人やバナナには全く興味がないのか、シダやソテツの葉を唯々もぐもぐと美味しそうに食べていた……。
「ガスの臭い、二酸化硫黄か……近いな」
微かに硫黄の匂いが漂ってきた……。
暫く歩くと私の眼前に広々とした岩場が開け、そこにはキングコングのものと思われる、巨大な頭蓋骨やその他の骨があちこちに転がっていた……。
「ここで間違いなさそうだな……」
私は注意深く周りを見渡すと、辺りに剣や防具等の冒険者の装備が落ちていないことを確認し、見える範囲で一番大きなキングコングの頭蓋骨に近づいていった……。
『シュルシュル、シュルルル~』
「んっ、何の音だ……?」
異音に気づいた私は、さっと辺りを見渡した――
「『アナコンダ』か!」
それは体長10メートルを優に超える、暗緑色で黒い円形や楕円形の斑紋が入った、魔獣化した大蛇だった。
その大蛇が獲物を探して、ゆっくりとうねりながら地を這っって近づいて来る。
モニカよりジュラシクの森の三大危険生物のことは聞いていた。それこそが、キングコング、ティラノザウルス、そして、このアナコンダだ!
『巨大生物ばかりに注意がいって、上を向いて歩いていた冒険者が、振り返りざまにアナコンダに丸呑みされた事例もあります! ジュラシクの森で一番注意すべきは大蛇かも知れませんよ!!』そうモニカから口を酸っぱくして言われていた。
そこで、私は頭蓋骨に隠れてアナコンダを見過ごそうとしたのだが……。
『…………』
周囲から一切の気配がなくなった。
私は頭蓋骨の、その空いた左の眼窩から外を覗いてみた――
『シュッシュッ』と言う風切り音と共に、赤い2本の紐が見えたような気がした。
「何だろう……?」私はもう一度、眼窩からそっと外を見た――
『ギョロリ!』
「うわっ!」アナコンダの右目と私の右目が鉢合わせしてしまった。
アナコンダは既に私を認知してしていたようだ。
蛇は目と鼻の間にピットと呼ばれる器官があり、この器官が周囲の微弱な赤外線放射、つまり熱を感知して獲物を認識することができる。
要するに、私は『驚き損のくたびれ儲け』をしただけであった……。
アナコンダは、一旦、私の隠れている頭蓋骨からある程度の距離をとると、とぐろを巻いて鎌首をもたげ、すぐにでも飛びかかる態勢をとった。
そして、次の瞬間――
『シャァァァー』と音にならない禍々しい高い声を上げて、私を丸のみにしようと左の眼窩目掛けて突っ込んで来た――
「うわぁぁぁ~、えっ?」
驚いたのもつかの間、突然、アナコンダが私の視界から消えた――
『グァアバァ~、ブンブンブン、ブチブチブチ~、グバッ、ドッシャ~ン!』
「シュルルルル~」
凄まじい音と一緒になって、アナコンダは誰かさんに連れられて行っちゃたようだ……。
私は何が起こったか確かめるべく、キングコングの頭蓋の右の眼窩から顔をぱっと出して、外の様子を伺った。
……なんたることか、アナコンダは頭部を食い千切られ、その長い胴体は地獄谷の隅の方まで飛ばされていた。
そして、目を見開いたまま、ひくひくと舌を震わせるアナコンダの頭を、ティラノサウルがその大きな足と爪で、これ見よがしに 踏みつけていた。
恐らく、蛇の一番の弱点でもある頭に齧り付かれ、振り回され、引きちぎられてしまったのだろう。
「やっばいですね~」
そう小さく呟きながら、私は素早く頭蓋骨の中でしゃがみこみ、そのままティラノサウルスを見過ごそうと、息を潜めた……。
『ズッシ~ン……ズッシ~ン……ズッシ~ン……』
足音が小さくなってゆき、ティラノサウルスが徐々に遠ざかってゆく……。
私はティラノサウルスの気配が完全に消えたことを確認し、頭蓋骨のその空いた右の眼窩から、そっと外を覗いてみた――
『ギョロリ!』
「うわっお!」
今度は、ティラノザウルスの見開かれた左目の瞳孔と遭逢してしまった――
「グワァオォォォ~」
その瞬間、ティラノザウルスは大きな咆哮をあげると、私を食らおうと頭蓋骨に頭からかぶりつき、そのまま真上に持ち上げた。
「うわぁぁぁ、しまった、こいつの嗅覚は極上だった!」
『ガキッィ~ミシッミシッミシッ!』
不幸中の幸いと言って良いのだろうか……頭蓋骨はやばい音を立てているが、とても頑丈で壊れそうになかったし、ティラノザウルスが丸呑みできるような大きさでもなかった。
しかしながら、この肉食恐竜は私を頭蓋骨から振り出そうと、犬が咥えた人形を振り回すように、どでかい頭を大きく左右に振り続けた――
『ドスン、コロリン、バッタンQ~ ドスン、コロリン、バッタンQ~』
「もう、やめて~ コウモリさん、コウモリさん☆彡」
私はキングコングの頭蓋骨の中で転がされながら、黄金バットさんに心の底からお願いした――
「ウッホッホッ、ウガッ!」ゴリラのような大きな唸り声が聞こえ、
『ドゴッ、ド~ン』何か大きなものが飛ばされる音がした矢先――
『ヒュ~ン、ドチャッ!』
私はいろは坂から車でダイブして、そのまま谷底に落ちたような衝撃を受けた。
私の切なる願いが通じたのか通じていないのか?
何者かによってティラノザウルスは吹っ飛ばされ、その大顎から逃れたキングコングの頭蓋骨は、りんごが木から落ちるように地面に落下したようだ。
『ドンドンドン! ドンドンドン!』
頭蓋骨から投げ出された私の見た光景は、二本足で立ち上がり、分厚い胸を両手で思いっきり叩いてドラミングする『ジュラシクの森の王』キングコングだった。
「ウッホッ、ウホウホ、ウッホッホ~」
キングコングは明らかにティラノサウルスを威嚇している。
「ガオ~ガァオァァァ~」
ティラノサウルスも直ぐに立ち上がり臨戦態勢をとった。
キングコングに向かって真っ直ぐ突っ込むティラノサウルスに対して、コングはTレックスの随分手前で大ジャンプすると、身体を大きく右に捻って拳を固めた。
「ガオォォォ~」
ティラノサウルスが大きな口を開けてキングコングの左腕に噛み付こうとした瞬間、コングはTレックスの鼻っ面にその大きな拳を叩き落した――
『ドンッカァァァ~ン』
「グワァァァ~」
ティラノサウルスの頭は真っ直ぐ地面に叩き付けられる――
『ビューン、バン! ビューン、バン! バンバンババババ~ン! 』
「ウッホッホッ、ホッホッ」
キングコングはそのままの勢いで、ティラノサウルスの尻尾を両手で鷲掴みにすると、頭上で大きく振って左右の地面に叩き付けた。
『グルン、グルン、グルン、グルルル~ン、ドッガ~ン!』
「ウホッ~ホッ~」
それからティラノサウルスの尻尾を脇に抱えると、砲丸投げのようにぶん回し、近くの大岩に投げつけた投げ放った――
『ドンドンドン!ドドドド~ン!』
「ウホッホ、ウホッ、ウホウホッ!」
キングコングは間髪入れずにティラノサウルスの上に跨ると、左右の拳の掌根――空手チョップをするところ――で、まるで太鼓を叩くように乱打する。
「グルルルルゥ~」
そして、ティラノサウルスの動きが止まった矢先だった――
『グワシッ!!』
キングコングは両手を使って、それぞれティラノサウルスの上顎と下顎に手を掛けると、その口を思いっきり左右に開いた――
『ベキッ! バリバリバリ~!!』
「ギャオォォォ~」
「ウッホホホホ~」
次の瞬間、まるでレスラーが電話帳を引きちぎるかのように、キングコングはティラノサウルスの顎を引き裂いてしまったのだった……。
『…………』
キングコングの墓を舞台とする、ジュラシュクの森ナンバーワン決定戦――怪獣大決戦――が終りを迎え、騒然たる地獄谷に暫しの静寂が訪れた……。
『ドッス~ン、ドッス~ン』
最後の戦いを制した、王者キングコングが私の方にゆっくりと歩を進めて来る……。
――逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ――
「キングコング様、どうぞ黄金のバナナをお納めください。はっはぁ~」
私は覚悟を決めて、先日手に入れた至宝のバナナを全て差し出した。
――怖くなんてないんだよ~キングコングは友達さ♪ ん~そのはずさ――
すると、キングコングはあれほど険しかった顔をだらりと緩め、私の手からその大きな指先でバナナを受け取ると、直ぐに私に背を向けて大岩の上にどっかと胡坐をかいた。
――勝機到来、ここしかない!――
「キングコング様、ご先祖様の牙をいくらか頂いても宜しいでしょうか?」
冒険者の噂話を鵜呑みにして、キングコングに恐る恐るお願いしてみたところ……。
「ウホッ」
キングコングは暗黙の了解をしてくれたような、そんな答えが返ってきた。
「あっ、ありがとうございます」
――越後屋、お前も悪よのう――
しかし、ここで誰も予想だにできなかったハプニングが起きてしまった……。
それはジュラシクの森の王者、キングコングがゆっくりと黄金のバナナを味わおうとした矢先の出来事であった――
『ドッゴォォォーン、バァ~キ、バキバキバキバキィィィ~ン』
キングコングは別の何者かによって、いきなり脇腹を打ち抜かれ、大木を倒しながら森の奥に吹っ飛ばされた。
「ウホツ、ウホッ、ウホッ、ウホホホホ~」
私の眼前には、全身プラチナのような白金の鎧で覆われた、ウインダムとメカコングを合わせたような風姿の化物が、正拳突きを終えた構えで立っていた……。
それから、そいつはキングコングの手から、空中につるんと飛んでったバナナを、人差し指と親指で摘まむように上手にキャッチすると、そのまま皮ごと1房口の中に放り込み、もぐもぐと食べちゃった、食べちゃった。
「ウホツ、ウホッ、ウホッ、ッホホホホッ~」
「おい! それはないだろう」私はメカコング擬きに声を掛けた。
そりゃそうだ、危機一髪の私を助けてくれたのはキングコングで、こいつではないからだ。
せっかくのギブアンドテイクで差し出した大切なバナナを、ぽっと出のメカコング擬きに献上してやる必要などありはしない。
それに……私はこいつが怖くない……そう考えると、私がこの地獄谷で恐れるものは何一つとして存在しなくなった。
魔獣アナコンダよりもティラノサウルは強く、ティラノサウルスよりもキングコングは強かった。そしてそのキングコングさえも、このメカコング擬き怪物によって一撃の下に屠られた……。
そして、この必殺技の名は『アトミックパンチ』だ!
「おいっ!」私はそいつに声を掛けた。
『ボリボリッ』
全身を白金の鎧で覆われたメカコング擬きは、頭や尻を掻く素振りを見せるが、こちらをちらりとも見ようとしない……。
「おいっ!」
「…………」
私の声が聞こえていないわけではない、こいつは聞こえないフリをしているだけだ。
例えるならば、鎖から逃れた飼い犬が、家の外では飼い主に呼ばれても無視するあの不審な挙動だ!
そりゃそうだ、私はこのメタルチックなゴリラをよ~く知っている。
こいつの名前は……。
「『ロッキー』てめえこんなところで、な~に油売ってやがる!」
私はチタン合金製の鎧を身につけた馬鹿猿を、大声で怒鳴りつけたのだった……。
ありがとうございました。
次回をお楽しみに!




