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62 バナナの叩き売り

どうぞお楽しみください。

【バナナの叩き売り】


 その日の夜は、剣道場と同じ敷地の中にある七人の侍たちの住む平屋敷にお邪魔して、ボクデンとの八百長試合での約束通り、一宿一飯の恩をありがたく頂戴してしまった……。 


◇◇◇


 翌朝、私は彼らの屋敷から真っ直ぐに冒険者ギルドに向かった……。

 冒険者ギルドでクエストボードを一通り確認した後、私は一枚のクエストを手に取って、受付嬢に声を掛けた……。


「モニカさん、おはようございます」

「ダイサクさん……おはようございます……白の宮殿は如何でしたか?」

「あっ、それなんですが……昨日、街でばったり友人と出逢いまして……その流れのままに、そのお方の屋敷でお世話になってしまいました」

「そうなのですか、それは良かったですね……それはそれとして、機会があれば白の宮殿に泊まってみてくださいね……本当に素晴らしい宿ですよ♪」

「はい、そうさせていただきます♪……ところで……こちらのクエストを受けたいのですが……」と言って、モニカへ依頼書を手渡した……。


「ん~、これは『バナナの叩き売り』のクエストですね……間違いなくアイアン等級の冒険者には打って付けの依頼ですよ! 食いしん坊のダイサクさんは、丁度バナナによく似た色の服を着ていらっしゃいますし、安全でとても良いクエストだと思います……クエストの報酬は銀貨5枚とバナナ2房です。バナナは流通量が少ないため普通に手に入れるのは困難なのですが、このクエストを達成すれば、きっと美味しいバナナが食べられると思いますよ」

「……美味しいバナナ……お土産に持って来ますね」

「はい、バナナ、楽しみにしています」

『トット~ン♪』

 モニカはそう言ってテンポよく受領印を押した。


 モニカがどうして私を食いしん坊だと思ったのかは何となく察しが付くが、私としてはバナナをできるだけ早く手に入れて、明日にでも『キングコングの牙』のクエストを受けようと考えていただけだった……。 


◇◇◇


 それから直ぐに、私は『バナナの叩き売り』の依頼を出していた、街中の八百屋へ向かった……。

「すみませ~ん、冒険者ギルドから派遣されてきましたぁ~」

「……んん~、随分と早えな」

 店の奥に声を掛けると、小柄ながら筋骨隆々の爺さんが、面倒くさそうに顔を出した……。


「こんにちは、私はアイアン等級冒険者のダイ――」

「バナナの叩き売りの恰好としちゃ~……悪くはねぇな……」

 その強面な八百屋の爺さんは、私の話を遮ると値踏みするようにそう言い放った。


「そ、そうですか……?」

「……気に入ったぜ……俺の名はレオンハート、折れない心を持つ八百屋だ! 早速だが、街の真ん中にあるグリマルディ広場までリヤカーを引いて行って、黄金のバナナを売ってきてもらおうか……ところで、おめぇ~今までどんな仕事をやってきやがった?」

「し、仕事ですか……露天商だと、林檎飴とチョコバナナはやったことがあります。あとは……Kフライドチキン……LとMのバーガーといったお店のバイト……日雇いのバイトだと、土木作業員として道路の側溝造りでしょうか……あの仕事は真夏のぎらぎらの太陽に焼かれて、鉄板もアスファルトも超高温で正に地獄のアフガン状態でした」


「んっ、あしふぁるとに怒りのあふがんだ? ……おめえのやってきた仕事は良く分からねえが、バナナのたたき売りは生半可なことじゃ務まらねえぜっ!」

「……と言われますと?」

「客をどっと笑わせて、場の空気を引き寄せてから畳みかけるように売るのさ! そうでなけりゃ~バナナは1房も売れやしねえぜ!!」


「そうなんですね……何かバナナを売るためのコツはありますか?」

 ストレートにレオンハートに聞いてみた。

「……そうだなっ、先ずはその恰好……おめえのバナナ売りの鏡のような、田舎っぺを絵にしたような、センスの欠片もねえ服装! たとえバナナの叩き売りの依頼を受けると言っても、普通の奴じゃそんな恥ずかしい服なんて着れやしねぇ……。今までここに来た奴は、鎧とか祭服キャソックとか見当違いなもんを身に着けた、ちゃらちゃら、へらへらした奴らばかりだったが……一流は一流を知る、風情、佇まい、どれをとってもおめえは違うようだ! おめえにはバナナの叩き売りとして、俺様が究極の奥義を授けてやるから、よ~く耳の穴かっぽじいて聞いておくといいぜ!」

「……はっ、はい……それではご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

 私はレオンハートの一挙手一投足へ全神経を集中させた……。


「そうだな……高価なバナナを売るには何てったって――口上――が必要だ! 例えばだ『付くよ付くよと何が付く、ジノーヴァの港に船が着く、お寺のモンクが鐘を突く、私は貴方にしがみ付く。親を殴るは罰当たり、腹が痛けりゃ食当たり、そういう時にはバナナ1本薬代わり』……こんな風に七五調四拍子の口上を基本に置きつつも、絶えず新味を盛り込まなけりゃ~客は『楽しんだから、こちらの言い値で買おう』とはならねえんだ!! テンション高く、腰は低くが大事でえじなのさ!」


「何はともあれ……バナナの叩き売りは一朝一夕にはできないんですね」

「あたぼうよ! 天才は努力するものに勝てん……だけどな、努力するものは楽しむものに勝てん。まぁ~存分に楽しんでやってくれや」

「そうなのですね……楽しく、ですね♪」


「……とは言ってもバナナの叩き売りは厳しい世界だ……絶対の正解はないから不断の努力がでえじだ。全員を振り向かせる必要はねぇ~、3割の客を引っ張り込めば残りの7割も自然と付いてくるもんさ……おめえはアイアン等級の冒険者とか言ってたが、ここでは全く関係ねぇ~、ウッドにもなっていない駆け出しのペーペーだと思って頑張れよ……ちなみに俺は若い頃は尖ったシルバー等級の冒険者だったぜぇ~!」

 そう言ってレオンハートはにやりと笑みを浮かべると、手にしていた鉈包丁の光る刃をぺろりと舐めながら最後の最後にこう宣った……。

『売れ残ったバナナは自腹で買い取ってもらうぜぇ~』

――いやぁ~やめてぇ~――


◇◇◇


 恐怖した私は、それから大急ぎでジノーヴァの街の中央にあるグリマルディ広場に行って、『バナナの叩き売り』を始めた……。


 バナナは1房15本で銀貨1枚、どんなに安くても大銅貨7枚と銅貨3枚で売りさばくよう、レオンハートから念押しされていた。

 そこで私は彼に教わった通り、初め高く吹っかけてから終わり安く売り切る戦術を実践することにする……。


「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。それじゃぁ先ずは聖徳太子も思わず微笑む黄金のバナナ、1房金貨1枚から、どうですか~お客さん!」

 空元気いっぱいに繰り出される私の冗談に、少しだけ笑い声が上がったような気もしないことはないが……。


 「吉永小百合に似ているね、お姉さん!」

 購入を渋る女性客には、ちょっと持ち上げて笑ってもみせたが、自身の緊張がほぐれないこともあり、唯一人の見物客すら自分の土俵に引き込むことができない辛い状態がどこまでも続いている…………。


 本来であれば、この位のタイミングでバナナの値を下げると、購入を決めた見物人が続々と手を上げ出すのであろうが……売れる気配は全くないし、売れる気もしない。


 『お客さんをじっくり観察することが大事だぜ』

 レオンハートは、確かそのように助言してくれていた。人だかりの中から笑い易そうな人を見分けて、掛け合いを仕掛けるのだと言っていた。

 彼曰く、そうすれば売り手と見物客の間に一体感が生まれ、バナナが売れたときの爽快感が忘れられない快感になるらしいのだが……。


「『色は黒いが焼きのりは、白いご飯の上に乗る、ひと皮むけば卵の白身……金貨1枚と言いたいところだが……ええ~い、今日はギルドのボーナス日。銀貨九、八、七、六枚とは頂かないよ、銀貨五、四と三枚とどうだ!』さあさあ~買った買った、お客さん、いやぁ~買いっぷりがいいね……末は博士か大臣になること請け合いだぁ~」


 私は何とか見物客との一体感を作って、口上に合わせてバナナの値段を下げながら見物客をこちらに引き込もうとするが、見物客は遠巻きに見ているだけで、『よ~し! 買った~!!』という客の声は、私の耳には一向に聞こえてこない……。

――古池や蛙飛びこむ水の音、し、し~ん――


 私は他にもいろいろと『口上』を述べて見物客の心を掴もうとしてみたが、如何せん異世界の流行りというものが全く分からない。

 バナナは未だ1本も売れていなし……このままでは自分で全て買い取って、明日会えるかどうかも分からない……いや、できれば逢いたくはない、ジュラシクの森の王者キングコングに大盤振る舞いすることになってしまう……。

――そもそも、今は一文無しだから買取なんて無理だし――


「口上だけじゃ1本も売れやしない……私の売り方が下手なのか……そうだろう、そうにちがいない……それならそれで仕方がない……奥の手だ!」

 そこで私はおもちゃの缶詰のような、バナナにスペシャルなおまけを付けることにした。

――何てったって私は優秀な修行僧じゃあ~りませんか♪――


 ぱっと周りを見渡す限り、聖魔法を使えるのは修行僧である私くらいのものだろう。

 私はこの聖魔法を『おまけ』として使うことで、一気に形勢をひっくり返そうと考えた……。

「つくよ、つくよと何が付く、ジノーヴァの港に船が着く、お寺のモンクが鐘を突く、私は貴方にしがみ付く、貴方も私に縋り付く……。なんということでしょう、この黄金のバナナを買ってくれたお客さんに限って、あっという間にどんな怪我でも直してあげちゃいますよ~」

 そう叫んだ瞬間、私の周りの空気が一変した。

――そう、遂に『進撃のバナナ』が始まったのであ~る――


「みなさん、どうですかぁぁぁ~!」

「子供が火傷して……ずっと跡が残るかも知れないの……」と言って悔やむ、泣く子の手を引くお母さん。 

「……あんちゃん、それ本当か?」と眉唾顔で尋ねる、右腕を三角巾で吊った冒険者風の男。

「……お兄さん、あたしゃ足が悪くてねぇ~」と独り言のように呟く、杖を突いてフラフラと歩く老婆。

 それぞれの事情を抱えた、色んな人が集まってきた。


「大丈夫ですよ。え~い、今日は出血大サービスだ! 1房たった銀貨1枚、持ってる人は寄ってらっしゃい、治ってらっしゃい」

 疑心暗鬼で遠巻きで見ていた数名の傍聴者が、怪我直したさに私のすぐ傍まで寄ってきた。

――卵が先か鶏が先か、バナナが先か治療が先か――


 私はここで先にお客さんに治療を施して、満足してもらった後でバナナを気持ちよく買ってもらうことにした。

『我が深淵なるアップルパワー――林檎引力――の前では、治り逃げなんて絶対にさせないけどね~ん』


「さぁ~行っきますよぉ~、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。……清らかなる生命の風よ、祝福の千の風となりて、此処にバナナを求めて集いし子羊たちの怪我を癒したまえ!」

『エリアヒール、ハイヒール、もひとつおまけに、はい、ヒ~ル! アブラカタブラ~』


 一瞬、辺り一帯がまぶしい白い光で覆われると――

「あっ、お母さん、痛くなくなったよ……傷が無くなったよ……」

「ええっ……ほっ、ほんとなの!」

 最初に声を上げたのは、大きな火傷を負っていた子供の親子だった。


「すっげえ~腕の骨がくっついちまった!?」

 続いて、吊った腕の包帯を解いて、ぶんぶん手を回す冒険者の男。


「あんた、すごいねぇ~、お陰様で膝関節の痛みが全く無くなったよ……ほっ、ほら、もう杖なんて無くっても昔のように歩けるよ……」

 そう言って、リヤカーに積んでいたバナナの茎にさっと杖を差し込み肩に担ぐと、そのままムーンウォークで後ろに下がっていく老婆――

「お客さん、お客さん、バナナの御代、まだ貰ってないよぉ~、ブラックホ~」

 アップルパワーを使うまでもなく、老婆は直ぐに戻って来てくれた……。

「いやいや、年を取ると物忘れがひどくて……すまないね~、これ、お代ね」

 金貨を1枚支払うや、またもやマイケルのようにムーンウォークで後ろに下がっていく老婆……。

「お客さん、お客さん、おつりおつり~」


 それから、嘘のような奇跡を目の当たりにした、残り7割のお客さんが一斉に詰め寄せた。

「俺にもその黄金のバナナ売ってくれ!」

「私の腰の痺れを治してほしいわ~」

「三つまとめて買うから、右目を見えるようにしてくないかい?」

「どうぞどうぞ、寄ってらっしゃい、治ってらっしゃい。さぁ~行っきますよぉ~、祝福の千の風と、千の風となりて……」


 そんなこんなで、治癒魔法とバナナのセットは飛ぶよう売れてゆき、……リヤカーの荷台に山積みされていたバナナは、残り2房を残すのみとなった。

 バナナは、1房を今夜また世話になる剣道場の侍たちとモニカへの土産として、もう一房を対キングコング戦闘回避用の生命保険として、大切に取っておく必要があったので、この時点で売るものは全て無くなり、『バナナの叩き売り』の任務は完了した。

「オールオーバー!」

――さぁ~カラスが鳴くから帰りましょう――


◇◇◇


 そそくさと店仕舞いをして、沈みゆく真っ赤な太陽に向かってリヤカーを引き始めた時だった。


「御免下さいませ……」背後から美しい声がした……。

「すみませ~ん、今日の分のバナナは全部売り切れてしまいました。今日はもう店じまいで~す」

 そう言って振り返り、声のした方を見やると……そこには、あの剣道場で見かけたサラブレッドがいた!


 彼女の名前はクララ……ボクデンの道場の紅一点の門下生で、昨日、せっせと私の晩御飯の給仕をしてくれた娘だ。

 年のころは17歳位、肩まであるサラサラの金髪に、アパタイトの宝石のような透明で青い瞳。

 ボクデンとのいかさま試合を一番前の特等席でがん見していた、明らかに他の門下生とは毛並みの違う娘が、襖を開けてしとやかに膳を運んで時は本当にびっくりした……。


「道場破りさん……ここで何をされているのですか」

 クララが声を掛けつつ近づいて来た。

「あ、あのですね……冒険者ギルドのクエストを受けて、バナナの叩き売りをやってきました」

「バナナですか……道場破りさんはバナナの叩き売りもお上手なんですか? 残り2房しか残っていないじゃないですか!」

 クララがリヤカーの荷台を覗き尋ねてきた。

「武芸百般万事に通じる……バナナの叩き売りもその一つですから」

 私はちょっと気取って答える……。


「まぁ~バナナ売りの達人さんですね」

「まぁ、それなりですが……そうだ、この魔法のバナナを差し上げます。朝ごはんにでも……はい、どうぞ」

 そう言って、私はクララにバナナを1本手渡した。


「くすっ、魔法のバナナですか? ありがとうございます……でも私……バナナの色と匂いが少し苦手で、食わず嫌いで一度も食べたことないんです。あと、キングコングみたいに体が物凄く大きくなっても困りますし……」

「もっ、もったいない……バナナは健康にとってもいいんですよ!」

「そうなのですか?」

「そうなんですよ!……人の体は3大栄養素である、炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質でできています。バナナの糖質はエネルギーに変わりやすく、その吸収が緩やかなため主食代わりになりますし、その糖質に一番多く含まれている果糖は、血糖を上げずに緩やかに体内に吸収される性質があります」

「けっとう……ですか?」

「はい、血糖です」


「血糖値の上昇が緩やかになることで、脂肪を溜め込みを防ぎ肥満を予防します。つまり、太りにくいカラダが作れるんです……ちなみに、バナナにはビタミンやミネラルや食物繊維がバランスよく含まれて、美肌効果、貧血予防、むくみ解消、代謝アップ、便秘予防を促して、美しくなれるんですよ!」

「まぁ~それは本当ですか! 道場破りさんは物知りなのですね……私には貴方のおっしゃっている言葉の意味が良く分かりませんが、とにかくバナナを食べると美しくなれるんですね。それでは勇気を出して……一度食べてみることにします」

「そ、そうですよ。先ず1本食べてみてください。バナナの神様がクララさんを健康で幸せにしてくれますよ♪」


「バナナの神様……神様ですか……ところで、道場破りさんは世界中を旅されているのですね?」

「はい、修行僧として世界中を旅しています。その道中で七人の侍方とも知り合いになれました。」

「それはとても羨ましい……」

「ん~、クララさんは旅をされたことがないのですか?」

「……はい、事情があって……私はこのジノーヴァ公国から外に出たことがないのです」

「……そうですか、それはお気の毒に……」

 そう言って、ふっと二人の陰に目を遣ると……私の普通の影法師の横に、おどろおどろしい大きな異形の黒い影が伸びていた!?

――なんじゃこりゃ~――


「ふ~ん、そうなんですね……ところで、道場破りさんは魔法を使えますか?」

「はい、聖魔法なら使えますよ。何てったって、本業は修行僧ですから」

 私は何とか胸の鼓動を抑えつつ、平静を装ってクララと会話を続けた……。


「戦闘用の魔法は?」

「そっち系の魔法は持っていません。だから少しでも魔物や魔獣と戦えるように、ボクデンさんたちのように日々武術の腕を磨いているのですよ……強い相手と戦うことなんて滅多にありませんけどね……」


「そうですか……魔法が使えないのは……ボクデン先生や他の師範の方々と一緒なのですね」

「そうですね~」

「だから道場破りさんは……剣の腕が立つのですね」

「まぁ~それなりに……ですけど」

「……侍の皆さんに魔法の武具をお渡しできたら良いのですが……魔法具は希少ですし……使用者によって相性があるので……結局のところ魔法力の高い者にしか融通できないのです」

「そうですか……ボクデンさん達も魔法の武器を持てば、苦も無くシルバー等級以上の冒険者を目指せるはずなのですが……こればかりは仕方ないですね」


「……道場破りさんは、これからどうされるのですか?」

「私は今から道場に戻ります。今日までボクデンさんのところでお世話になって、明日は白い宮殿に泊まり、明後日にはこのジノーヴァ公国を立つ予定です」

「道場破りさんはお忙しいのですね?」

「まぁ~それなりにですが……」


「ところで、道場破りさん……明後日と言わず、できるだけ早くにジノーヴァから次の目的地へ旅立たれた方が良いと存じます」クララが真剣な眼差しで私に申し入れた。

「えっ、何故でしょう……理由を聞かせてもらえませんか?」

「り、理由ですか…………私も詳しくは存じ上げませんが……封印です。ジノーヴァにある封印の力が弱まっているようなのです」

「ふっ、封印……ですか……なんかやばそうな感じですね。何の封印でしょう?」

「ジノーヴァでは聖杯に魔王が封印されていると伝えられています。そして今まさに、その封印の力が弱まっているようなのです」

「まっ、まっ、魔王ですか……クララさん、私をからかって怖がらせようとしていませんか?」

「からかってなんかいません! ほんとうに……本当に魔王なんです」


「……それが真実だとして、どうして封印の力が弱くなってしまったのでしょう?」

「それはケルニャガ山が噴火して、魔王を封印したとされる火の神がいなくなったからだそうです」

「ひぃえ~、え~んか~い」

「はい、そうです。火の神、エンカイ様です」


「……なるほど……原因は……噴火ですか……」

 私は憎まれそうなニューフェイスで会話を続けた……。

「そのようですが……道場破りさんは何か他に知っていらっしゃいますか?」

「えっ、い、いいえ……まっ、まぁ、自然災害ではどうしようもないですね」

 私はあの日あの時、人種を越えて見つめ合う瞳と瞳で通じ合い、心の温もりを感じあった、愛しのミーアのことを鮮明に思い出しながら、冷や汗をかいていた……。


「魔王が復活すれば魔物や魔獣はより強力になり、ジノーヴァ公国が滅亡の危機に陥ってしまいます。そのためジノーヴァでは、魔王に対抗すべく軍事力を性急に強化しているのです」

「それでは剣道場にいた勇者は……」

「そうです……魔王復活を『時読み』されたヤマト帝国のアマテラス様が、魔王を打ち滅ぼすべく、今代の勇者アキラ様と賢者ミユキ様をジノーヴァへ遣わされたのです」


「あのバカップルを……ですか!?」

「勇者アキラ様は未だ経験が浅く剣術は未熟なのですが、賢者みゆき様と同様、膨大な魔力を保有されています。聖剣デュランダル、勇者アキラ様の破魔の力、賢者ミユキ様の強力な魔法があれば……そして、お二人と一緒になって、我々ジノーヴァの軍隊が決死の覚悟で魔王に相対すれば……きっと魔王すら退けることができるはずです。そうでなければ……」

「そうでなければ……」

「……ジノーヴァ公国は亡国となってしまうでしょう」

――ガーン、拠り所の道場が無くなってしまう――ダイサクは心に100ポイントのダメージを受けた。


「本当に魔王に勝てるのですか?」

「アマテラス様が未来を『時読み』されているので間違いありません。ただ……」

「……ただ?」

「その予知によると、魔王は炎によって打ち滅ぼされるようなのです」


「炎ですか?」

「炎です。しかし、私たちの中には魔王を倒すほどの火魔法を扱える者は一人もいないのです」

「…………」

「私にもっと力があれば魔王などに……ああ、神様どうかお力を……」


「えっ……クララさんも……魔王と戦うつもりなのですか?」

「い、いえ、何でもありません。これ以上はお話しても……それでは失礼いたします」

 そう言うと、クララはジノーヴァの大地に伸びる不気味な影と共に去って行った。


 私はクララと別れてからレオンハートの八百屋へリヤカーを返すと、図々しくも二宿二飯に預かるべく、ボクネンの待つ平屋敷への帰路についた。

「クララさんのあの異形な影は……一体全体何だったのだろう?」

 私は脳裏をよぎった恐怖をさっと払い除けるように、沈みゆく太陽へ向かって、逃げるようにダッシュして帰ったのだった……。

ありがとうございました。

皆さんは健康ですか? 幸せですか?

ん~先ずはモンキーバナナを食べてみませんか♪

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