56 ムーの神殿
どうぞお楽しみください。
【ムーの神殿】
「ダイサクよ……龍涎香を手のひらに取って温め……グランマの女神像の腕に万遍なく塗るのだ……」
「えっ、ポッ、ポセさん……グランマの女神像に……うっ、腕なんてありませんよ?」
私はグランマの女神像を二度見返し、ポセにそう聞き返した……。
「いいからいいから……俺を信じて言われた通りにしろ」
――年老いたポセには何を言っても聞かなさそうだ――
私はしょうがなく龍涎香を手に取って温めると、それをグランマの女神像の腕に塗る素振りをした……。
『……ツルッ……ツルッ……ツルツルッ……』
「……えっ……何だろう?!」
グランマの女神像の前の空間に、見えないが何かがある……。
「なっ、ダイサクよ……あるだろう……グランマの女神には信じる者だけが見ることができる……美しい腕が……」
ポセはさもありなんと言った自信たっぷりの目で私を見た……。
「はっ、はい……あります……女神像には見えない腕が!」
何ということか、グランマの女神像には光学迷彩の処理が施された腕があり、その腕は光を屈折させるレンズのような透明な物質でできていたのだ……。
『ヌルヌルッ……ツルッツルッ……ヌルヌルッ……ツルッツルッ……』
「ちょっとひやりとして冷たいけれど……スベスベしていて気持ちいい……」
――海で冷えた彼女の背中にサンオイルを塗ってあげているみたいだ♪――
透明な二の腕から指先まで丁寧に龍涎香を塗りこむと、光の屈折率が変わりグランマの女神の全貌が見えてきた……。
グランマの女神像は両の手を組み、その両腕を真っ直ぐと目の前の海へ差し出していた……。
そして、その組んだ掌の上には林檎の彫刻が一つ乗っていた……。
グランマの女神像の腕から太陽の光が吸収された……。
すると掌の上の林檎の彫刻に光が集まり、虹色に輝く林檎から強い一筋の虹色の光が海の一点を指し示した――
『シュオオオオ~……ピッカァァァ~ン』
「ポッ、ポセさん……なっ、何が起きるのですか!?」
「グランマの女神の林檎が虹色に輝く時、その光は汝へ『ムーの神殿』に至る一筋の道を差し招かん!」
『ゴッゴッゴッゴッゴォォォ~……ザッザッザッザッザ~ン!』
信じられないことに、ハバナ湾の海底から『ムーの神殿』が浮上し、それと同時に、『ムーの神殿』に続くチューブ状の波のトンネルが目の前に現れた!!
「ダイサクよ……とうとう我々の前に希望の道が開かれた……これこそが『ムーの神殿』に続く海王の道――ロード・オブ・オーシャンキング――だ! さぁ、共に行かん!!」
そう言ってポセは息巻いているのだが…………。
「あ~なた~誘ってもむ~だよ~♪」と私は小さく口ずさんだ……。
なぜならば、私は海水浴をするとは思っていなかったので、お洒落な水着を用意していなかった……。
というか、こっちの世界ではスイミングをする機会がなかったので、紺色のスクール水着すら作っていない。
ましてや私の黄色のジャージ服の材料は基本全て鉄製だ。
海水に漬けようものなら直ぐに酸化して、錆びついたブリキのおもちゃのように、あるいはモンサミルの衛兵たちのように、ぎいぎいと動けなくなってしまうかも知れない……。
そこで私は考えた!
ムーの神殿に続く真の海王の道――トゥルーロード・オブ・オーシャンキング――が如何にあるべきかを……? 全ての海水が静止し、服に水滴すら掛からない真の海王の道リヤル・ロード・オブ・オーシャンキングとは如何なるものかということを……?
「ピピピピピ……アップルパワー充填120パーセント……海よ割れろ……道よ開け!」
『アンダーグラウンドパース(海底道)!』
『ゴッゴッゴォ~、ゴ~ゴ~ゴ~ゴ~ゴ~』
私は林檎引力アップルパワーで海を真っ二つに割って、トンネルよりずっと大きな、歩いても服が全く濡れない、『十戒』の彼モーセの如き道を作った。
――やったぜ、ポセさん……これこそが私が考えた真の王の道です――
「なっ、なにっ…………!?」
目の前の現象に何が起きているのか分からず、ポセは耳穴に指を入れたまま暫く言葉を失った……。
「さぁ~ポセさん行きましょう……」
「…………」
「ほらほら……急いで、急いで……よいしょ、こらしょ、よいしょ……」
完全に時が止まってしまったポセの背中を押しながら、私たちは海底にできた道を歩いてムーの神殿に向かったのであった……。
ありがとうございました。
ムーの神殿に待ち受けるものとは一体?
次回をお楽しみに!




