54 イッカク
どうぞお楽しみください。
【イッカク】
私は冒険者ギルドお勧めの宿――海蛍――にチェックインしてから、宿のレストランへ晩御飯を食べに行った。
残念ながら既に辺りは真っ暗で、この宿自慢の夕日を見ながらの食事はできなかったのだが、海へ突き出した屋外のウッドデッキでの食事は、頬にあたる心地よい風と潮の香りが乗じて、私にとって心安らぐものになった……。
ラナお勧めの『エスパーダフリート』や『ランゴスタ』については、――絶対に頼まねば――と心の中で決めていたのだが、料理人の説明を聞いた後で、ちょっと贅沢して二三料理を追加注文することにした……。
最初に出てきた料理は『エスパーダフリート』、大きめにぶつ切りにした魚を油でカラッと揚げた料理で、味はカジキマグロに良く似ていて、衣の香辛料がピリッとして効いていて大変美味しかった。
特に魚が新鮮で、一口食べるとそのおいしさにビックラッコした!
――おまけに魚は体にとても良いし、どこぞのスーパーで聞いた歌によると頭も良くなるそうだ。さかな、さかな、さかなぁ~魚を食べると~――
次に出てきた料理は『ランゴスタ』という大きな海老の丸焼きで、ロブスターと言うよりはむしろ伊勢海老に近い、身の食感が柔らかな上品な味だった。
塩蒸し焼きと、ガーリックバターをたっぷり塗ったオーブン焼きもあるとのことだったので、次の機会にはどちらかの料理を注文しようと思う……。
米飯ではないが、ご飯のような調理をした『アロス・コングリ』という料理もあった。赤豆と呼ばれているインゲン豆によく似た豆を使った、見た目はまるで赤飯のような炊き込み料理だ。
一方の『アロス・マリネーラ』は、赤豆、玉葱、豚肉、ニンニク、ピーマンにたっぷりの油を入れて炊き上げた料理だ。新鮮な魚介類をたっぷり使った炊き込みお豆の料理で、見た感じはスペイン料理のパエリアそっくりだった……。
どちらにするか迷った挙句、今回は『アロス・コングリ』を注文して食べた。
『トルティージャ』はスペイン風の大きなオムレツだ。
具材には、ジャガイモ、たまねぎ、ほうれんそう、ベーコンを使ってあり、固焼きの卵がボリューム満点でとても美味しかった。
飲み物は『モヒートウォーター』を頼んだ。
甘いサトウキビのような植物から搾り取った汁液に、ミントとライムが入った清涼感たっぷりのドリンクである……。
アルコール入りの『モヒート』もあったが、私はアルコールが苦手なので酒を飲まずに水を飲むことにする……。
輪切りにスライスされたライムに、ちょこんと乗ったミントがアクセントになっていて見た目も爽やかだ。
食後には『フラン』というデザートを注文した。
やっぱり締めはスイーツだ! どんなにお腹が一杯でもスイーツは別腹と相場が決まっている。
『フラン』はまったりとしたカスタードプリン風のデザートだったが、見た目と味にキレが感じられなかった……。
――何故だろう、何故だろう、心が燃える~、見つけろと、見つけろと、誰かが叫ぶ~――
……そして程なく私は気付いてしまった。
プリンに必要不可欠なTHEカラメルソースが掛かっていないと言うことに!
これは万人にとってプリンの仲間と言い張るには致命傷となり得る欠点で、何とかしてカラメルの作りの奥義を料理長に伝える必要があるだろう……。
◇◇◇
そういえば、異世界の食事で私が気になっていることがある。それは心臓の老化防止を促す根菜類の野菜を摂取できていないことだ……。
根菜類の野菜を摂取することで、人は『GLP-1』というインスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンを増加させることができる。
『GLP-1』は、食事をとって血糖値が上がると小腸から分泌され、すい臓の細胞へインスリンの分泌を促すことで血糖値を下げる。
その主たる働きで――瘦せるホルモン――とも呼ばれている。
『GLP-1』は、その他にも毛細血管を増やしたり、血管に付着したプラークと言ったゴミを減らす働きで、私たちの心臓の老化防止に大きく寄与している……。
ではどうすれば『GLP-1』を増加させることができるのだろうか?
そのためには、大根、人参、馬鈴薯、蕪、牛蒡、蓮などの適度な糖質を含む不溶性食物繊維を持つ野菜を、一日三食、決まった時間に食べることが必要とのことだ!
◇◇◇
翌日、私は朝一番でバラコア近くのロカの岬へ向かった……。
間近で見ると、『グランマの女神像』はギリシャの彫刻のような美しい造形をしている……。
気になったのは女神像の目が黄色に見えたことで――これはフラグではなく光の当たり具合に違いない――そのように黒を白と言い張りながら、私は遠眼鏡を使ってロカの岬から海を見渡した……。
「う~ん……いるいる……イルカ……じゃなくて、イッカクだ!」
今回の獲物である、鼻先に3メートル程もある長い角を備えた『イッカク』が群れで行動していた。
良く見ると角のある複数の個体が、角のない個体を挟んで角の長さを競い合っている……。
ラナの話では、イッカクの角が何のために使われているのか、今のところ理由は明確になっていないと言うことであった……。
冒険者ギルドの推測では、水温、水圧、餌の動きなどの情報を得ているとか、角を持つ個体が圧倒的に雄に多いことから雌を争う時のアイコンとなっているとか、捕食者から身を守るための武器として使用するとか、海底に潜っている貝を掘るための道具として使っているとか、社会的な順位付けのために発達したとか色々と言われて久しいようではあるが…………。
「なんやかんや言っても……やっぱり求愛行動だろうな……」
私はそのように単純に結論づけた。
なぜならば、私にはイッカクたちは水面から角を出し、その長さを競い合って男らしさを誇示しているようしか見えなかったからだ……。
「いずれの理由だとしても……これはチャンス!」と呟くと、
『ふふふ』と笑みが浮かぶ……。
私は林檎引力をそれぞれ3つの異なる力に変換して、ロカの岬の浜からイッカクの角を入手する作戦を試みることにした……。
「林檎減圧、絶対零度!」
『ピッキィィィーン! カチコチ~ン』
先ずイッカクの泳ぐ約5立方メートルの空間を減圧し、マイナス273度の絶対零度で海の表面を凍りつかせ、彼らの動きを一瞬停止させるや――
「片手鍋硝子~」
『シュッ!』
水面から突き出ているイッカクの2本の角目掛けて、石水切りのようにパンチャックを一丁、勢いよく投げつけた――
『パシュ……パシュ……パシュ……スパパァァァン!』
パンチャックは海面を何度か跳ねて白波をあげると、2頭のイッカクの角を同時に切り落とした――
そして……最後の締めは本家本元の林檎引力だ!
「ピィ~ピィ~ピィ~、ピィ~ピィ~ピィ~」
何かを訴えかけるイッカクを余所に、私は林檎ではなくイッカクの角だけを、アップルパワーを使って自分の手元へ150メートル以上先からぎゅ~んと引き寄せた……。
――角だけに、だだ、角だけに、ああ、めぐり逢うためにぃ♪――
こうして私は難なくイッカクの角の入手に成功し、手に入れたイッカクの角を2本手に持って、マルコメ気分で冒険者ギルドに向かったのであった……。
◇◇◇
冒険者ギルドに到着すると、早速イッカクの角の依頼の達成報告を、
受付嬢のラナにお願いした……。
「ラナさん、例のもの確保してきました~」
「……えっ……イッ、イッカクの角ですね……本物ですか? 見た限り角だけのようですが……どのように入手されたのでしょう……それからイッカクの身体はどうされたのですか!?」
随分と驚いた表情をしてラナが聞きいてきた……。
「手に入れたのは依頼のイッカクの角だけです……角だけを切り落として持ってきました……当然ながら嘘偽りない本物ですよ♪ 確認してください……但し詳細は秘密でお願いします」
私はいつも通りしらばくれてポーカーフェイスでラナの質問を流した……。
「……失礼しました。それは冒険者の秘匿情報ですね……では直ぐに査定して参りますので、少しの間こちらでお待ちください」
ラナはそう言うと、そそくさとその場を立って裏の部屋へ回った……。
……暫く待っていると、ラナが戻って来た……。
「ダイサクさん、お待たせしました……イッカクの角だけですので、2本合わせて金貨18枚の査定となりますが……これで宜しいでしょうか?」
「はい、それで結構です。ありがとうございます」
私はラナにお礼を言うと、その場で18枚の金貨を受け取った――
そのとき、私の横にいた老漁師と別の受付嬢の会話がふと耳に入ってきた。
「……だから……操舵手を一人手配してくれればいい……」
「そう言われましても……冒険者は舟に慣れていませんし……ましてや白鯨捕獲なんて危険過ぎて……冒険者ギルドとして冒険者へ依頼なんか許可できません! 漁業ギルドに依頼されたらいかがでしょうか?」
「そんなこと分かっておる……漁業ギルドには何度も話をした……奴らには何を言っても無駄だ! 白鯨を捕まえれなければ、七日と七夜、大洪水が世界を洗い流し、人類は海の藻屑となる……これは堕落した人類に下される神の鉄槌だ!」
「そう言われましても……」
その老漁師の剣幕に冒険者ギルドの受付嬢は困り果てているようだった……。
「あのぉ~宜しければその操舵手のクエスト、私で良ければ受けさせて頂きますが……」
――折角、この世界で手に入れた新しい人生を、万が一にも大洪水なんぞで棒に振りたくないからな――と思った私はおっかなびっくり横槍に申し出たところ――
「な、なに言ってるんですかダイサクさん……この方が先日お話したポセさんですよ! 漁師仲間から気が触れていると言われてい……あっ…………」
私の突然の申し入れに対して、ラナが止めようと声を掛けたが時すでに遅し――
ポセはラナを一睨すると、私に話し掛けた――
「黄色いの、若えのに良い心掛けだ! なぁ~に……どうせ白鯨が捕まらなければ大洪水にのまれて皆死んじまうんだ。 だったら俺と一緒に海に出て、最後の希望に掛けてみようぜ!」
ポセは妙な説得力を以てそう宣した。
かくして老漁師であるホセと私は、白鯨を求め、小型の釣舟で大海原へ漕ぎ出したのであった…………。
ありがとうございました。
7話の『うがいなし歯磨きのすすめ』、11話の『若返りの極意』、14話の『集中力を高める奥義』、16話の『認知症予防の神髄』、22話の『ダイエットの秘術』、27話の『風邪への心構え』、37話の『世界三大発酵食品とヨーグルト摂取のノウハウ』、42話の『カロリー制限による若返り遺伝子の活性方法』、44話の『朝蛋の手引』、48話の『100歳超えセンテナリアンの習慣』に続き、今回の54話では『心臓の老化防止の秘策』を公開しています。
皆さんも是非お試しください。
それでは次回をお楽しみに!




