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52 レイズ・ザ・ガンツ

こんにちは、

命を賭して打ったガンツの刀とは?

どうぞお楽しみください。

【レイズ・ザ・ガンツ】


「ロッ、ロビン、ロビン、ロビン! ロビ~ン!!」

「あうっ――うっ」

 ガンツの呼びかけでやっとロビンが目を覚ました。


「ロビン、でえじょうぶか?」

「ううっ、あいたたたたたっ~体中の筋肉が悲鳴を上げてるわ!? あの猿、ぼっこぼこに殴りやがって! か弱い女の子に手を上げるなんて――なんてことするのよ――さいてー!」

 そう言ってロビンは私を流し目で見た…………。


「あんた……生きてたのね……」

「どっ、どうも、お陰様で……」

――生きていちゃいけないような物言いだ――


「……で……あの後どうなったの?」

「あれからですか……」

「そうよ、あれからよ」

 ロビンはぶっきらぼうに聞いてきたが、私はツンデレであろう彼女に対して丁寧に説明してあげることにした。


「……ロビンさんを背負ってケレニャ山から一生懸命に山から下りて来たら、ミーアキャットの尻尾を踏んでしまったのです――でも安心してください……二人は心と心が通い合ってダイバシ――」

 私が特に強く印象に残った出来事を調子よく語っていると……

「あんた馬鹿ぁ! マングースの話なんて聞いてないわ!! そうじゃなくて――猿と豚と河童のことよ!」

「失礼しました――只今説明いたします」

 ケレニャガ山に続いてロビンが大噴火を起こす前に、私は早々に報連相を行うことにした。


ゴクウハッカイ河童ゴジョウは、それぞれ東雲色の光の粒となってケレニャガ山の空に消えてしまいました。

 続いて黒騎士エンカイが立ち上がると王座が炎の馬に変わり、黒騎士が炎の馬から落馬して鎧がばらばらになったのですが、たまげたことに黒騎士エンカイの鎧の中身は空っぽだったのです。

 その後、炎の馬が火の鳥となって舞い上がり、ケレニャガ山の天空の裂け目から消えてしまいました。

 そしたら極光で覆われたケレニャガ山が噴火したので、火山弾を避けながら命からがら山から下りて来た次第です……途中でクマに襲われなくてよかったです。食料を持っていなかったのが幸いしたのでしょうか?――」


「えっ、肝心なところが抜けていて、あんたの言ってることが良く分からないわ!? どうして試練の途中で猿豚河童の試験官が消えちゃう訳? なぜ黒騎士が落馬する訳――で、言うに事欠いて椅子が炎の馬で火の鳥フェニックスですって?」

ロビンはピシリと私に問い掛けた。


「まあまあ~ロビンさんが一休みしている間にいろいろあって……で……じゃじゃじゃじゃぁ~ん! エンカイ様よりフェニックスのクリスタルを頂いて参りましたっ――」

 そう言って懐から火の鳥の結晶を水戸黄門の印籠のように懐から取り出して出してロビンに見せた――

「えっ、ええっ~!?」

 ロビンは驚き顔を引きつらせながら……一歩……二歩……三歩と後ずさった。

 「でっ、でかした、でかしたぞダイサク! もう俺には殆ど時間が残っちゃいねぇんだ」

 そう言うとガンツは2人の会話の隙間にぐいと体ごと割って入ってきた。


「玉鋼と白魔石は既に用意してここにある。 その火の鳥フェニックス結晶クリスタルと一緒に刀を打つのに必要な材料は全て揃ったぜ――」

「あっ……えっ……し……白魔石!?」

「直ぐに刀を打つぜ――ダイサク、俺の後について来い!」

「はっ、はい、お師匠様、ついて行きます」

 唖然としてぽかんとするロビンを置き去にして、ガンツは私を連れて店の裏の工房へ臨んだ……。


◇◇◇


 それほど広くない工房の火床ほどには既に火が入っていた……。

「折れず、曲がらず、切れる刀を作るには、打ち手の呼吸てえみんぐがでえじだ! 俺が小槌で『コチン』と叩いたら、それに続いておめえが大槌で『カーン』と打て! それを交互に繰り返し続けるんだ、わかったな――」

 ガンツはそう言うと私に大きな金槌を渡した……。


「その大槌はな、俺がわけえ頃から使っていた超重量級スーパーヘビーないっぴんだ――おめえなら逝けるさ、ダイサク、誰よりも遠くへよ――」

――ガンツさんは私を何処に連れて行こうとしているのだろう? 望まれず生まれたばかりの子犬のように『優しい人に拾ってもらってね』と言いながら、段ボールに入れて川に流さないでね――と切に願う。


「たまっはがっ、はがったまっ、たまっはがっ、たまっはがっ、はがったまっ――」

 ガンツは火の神様に祈りを捧げて穢れを清めると、横座に座して台棒テコに白魔石を乗せた。そして小割りした玉鋼を台棒テコに積み上げて火床に入れると、白魔石と玉鋼は熱せられて一つの塊となり白く輝きだした――


「いいねぇ~それじゃぁさっそく皮鉄を打っていくぜ!」

 ガンツは小槌で調子を取って刀を打ち始めた。

「はいさっ!」

「アイャッ!」私は大槌で力強く追従する――

「おいさっ!」ガンツが更に追撃をする。

トンチンカン、トンチンカン、トンチンカン………』

 出々しの二人の刀を打つ音は全く拍子抜けしていて、しっくり来ない律動リズムだった…………。


「ダイサク……俺の小槌の音をよく聞いて、拍子を合わせろ!」

「はい、お師匠様!」

 そう言って私はガンツの小槌に拍子タイミングを合わせていくと……。


『トン、チェン、カン、トンチェンカン、トンチェンカン』

「いいぞダイサク……もっと集中しやがれ! 槌は鋼にあたった瞬間に打ち込まず引くんだ!!」

「はい、お師匠様……仰せのままに……」

 私はガンツに言われた通り、全集中で大槌を振るった。すると――

『トン、ティン、カン、トンティンカン、トンティンカン…………』

『トン、テン、カン♪ トンテンカン♪ トンテンカン…………♪』

 刀を打つ音は村の鍛冶屋らしい心地よい律動リズムに変わった☆彡


「さぁ~準備運動しめえだ。そろそろ本腰を入れてくぜっ――ついて来やがれ、ダイサク!」

「はい、お師匠様……仰せのままに!」

 私は汗をかきながら一心不乱に大槌振るった……。


『トンテンカン、トンテンカン、トンテンカン、トンテンカン』

 私たちは玉鋼と白魔石の超合金を平たく打ち延ばし、それを折り返して2枚に重ね、この作業を15回)繰り返して32,768枚の層を作った。


 それから2人は心鉄しんがね作りに入る……。

「名刀の『折れず、曲がらず、切れる』という3つの条件を満たすにゃぁ~切れるためと曲がらないために鋼は硬くなきゃいけねぇ~逆に折れねぇためには鋼は軟らかくなくちゃならねぇ~。この矛盾を解決するために、軟らかい心鉄を硬い皮鉄かわがねでくるむんだ!』とガンツが説明してくれた。

――日本刀とほぼ同じ理屈だ――

 日本刀も炭素量が少なくて軟らかい心鉄を、鍛錬により炭素量が多くて硬い皮鉄で包むという製造方法で作られている。


 次にガンツが台棒てこ火の鳥フェニックス結晶クリスタルを乗せて、小割りした玉鋼をそれに積み上げて火床に入れた。すると火の鳥フェニックス結晶クリスタルと玉鋼は熱せられて一つの真っ赤に燃えあがる塊となった……。


 そのとき既に私の体力は限界を迎えていて、両手には肉刺ができていて大槌を握ることすら困難な状態だった。

 そこで私は途中から横着ズルをして、林檎引力アップルパワー治癒魔法ヒールを交互に併用していた。そのせいで私の振るう大槌は紅白に輝いていた……。


「次は素延べだ」

 ガンツは白く輝く皮鉄と真っ赤に燃えあがる心鉄を組み合わせ、これを熱して平たい棒状に打ち延ばす……。

『トンテンカン! トンテンカン! トンテンカン! トンテンカン! トンテンカン!!』

「……おめえ~やっぱすげえな……ここに来てそれほどまでに大槌を振るえるのかよ!?」

「アイャァ~」

 私はガンツの感嘆に対して、ぎんぎらぎんにさりげなく挨拶を返した。

――お師匠様ごめんなさい……私……ズルしてます――

 私は顔で笑って心で泣いていた……。


「次は『火造り』! ここから先は俺の仕事だ!!」

 ガンツは小槌で刀を叩きながら形を整えると、更に(やすり)肉置あつみを整えた。


「……しめえが……見えて来たぜ――」

 ガンツは耐火性の粘土に木炭の細粉と砥石の細粉を混ぜて焼刃土を作り、これを炎のような刃文の形で土塗をした。

――焼きの入る部分は薄く他は厚く塗るのか――


「焼き入れるぜ――」

 刀を1300度の火床に入れて800度まで熱してから水桶に沈めると――その刀は赤白色しゃくびゃくいろに輝いた。


「……これで後は『研ぎ』で終めえだ!」

『シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ――』

 ガンツが己の命を削りながら最後の刀を研いでいる……。

『シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ…………』

 永遠の時を刻む時計の針のように、刀を研ぐ音だけがしんと静まった工房に鳴り響いていた……。

 ロビンと私は消えゆく命の蝋燭の火を、黙って刀匠の背後から見ているしかなかった。


「……で……できた……できたぜ! 正しく俺の人生で最高の一振だ――これが冥土の土産の火の鳥の剣フェニックスソードだ!! ありがとよ……ダイサク、ありがとよ……ロビン……これで俺は何も思い残すことはねぇ~俺の人生に一片の悔いもねぇ……ありがとよっ……………………」

 ガンツはそう言い残すと、最後の一振を大事に抱き抱えたまま息を引き取った。

――ガンツさん、お見事です。あなたの生き様……感動しました――


「……おっ、おじいちゃん! おじいちゃん!!」

 ロビンが大声でガンツを呼ぶも、刀匠は既に事切れており返事は返ってこなかった。

 ロビンはガンツの脚にしがみつき、大粒の涙を流して泣いていた…………。

――何やかんや言ってもやっぱり優しい女の子だな――


「さてさて……お取込み中のところ……ちょっと御免なさい……」

 私はそう言いながら、ガンツが抱き抱えていた刀を奪い取った。

「あっ、あんた……おじいちゃん……まだ暖かいのに……そんな直ぐに取り上げないで――」

 ロビンは涙ながらに私に求め訴えた。


「流石……ガンツさんが命を賭して打った刀です。素晴らしい出来です……本当に美しい!」

 私は刀の中心なかごを握り右手に立てて持つと、肩と水平に腕を|真っ直ぐに前に伸ばした。

 そして、刀身を体から遠ざけて、その姿形、刃紋、地鉄を見遣って腰に戻した。


「……早速ですが『フェニックスソード』の力……見せてもらいましょうか……お師匠様――」

「流星~鳳凰斬り~!」

 私はいきなり居合切りでガンツを仏陀斬った――


『チンッ――ブワッバサッ』

「あっ、あんた何してんの――」

 ロビンが慌てて止めようと叫ぶが時すでに遅し!

――it's already too late――

 ガンツは真っ二つになって、火の鳥のように真っ赤に燃え上がった……。


 だがしかし、そこからが火の鳥の剣フェニックスソードの真骨頂だ!

 再び命の炎が湧き上がりその炎の中から新たな命が誕生した‼

「あ、あかちゃん――」

 まちがいなく――ガンツは赤ん坊の姿で復活を果たし、人生という荒海へ再び浮上したのだった。

――レイズ・ザ・ガンツ――


 人生の終着駅は死んで土に還ることで、これは万人に与えられた平等な真理だ。そうであれば人生で大事なことは、そこまでの過程プロセスだと考えて間違っていないだろう……。

 1)何事も楽しむこと

 2)努力し続けること

 3)何事にも真剣に取り組むこと

 4)時には抗うこと

 5)運命は自分の手で切り開くこと

 6)自分の良心に正直に従うこと

 7)相手を知ろうとすること

 8)誰かの青い鳥になること

 ガンツにはもう一度始発駅から乗車して頂いて、振り出しから出発進行してもらいましょう☆彡


◇◇◇


 私はサバナの草原の地平線に沈みゆく真っ赤な太陽や、サバナの天に輝く満天の星々をどうしても見てみたかった。そこで夜のサバナの草原での野宿キャンプすることを想定して、夕刻にシェフィールドの町を立つことにしていた……。


 そこにはロビンと彼女に背負われたガンツが見送りに来てくれていた。

「ガンツさん、ロビンさん、たいへんお世話になりました」

「こちらこそ……で……あんた一体何者なの?」とロビンが聞いてきた。

「何って……しがないアイアンの修行僧ですよ」と言って、

 

「かわゆいのう~うにゅ~」

 私はロビンの肩越しからこちらをじっと見ているガンツの頬っぺたに、人差指をふにっと突き刺した。

 ガンツはその指をさっと掴み、がぶっと噛みついてきたので、私は林檎加速アプセルでさっと躱す――

「あっ、あぶなかった!」

――スッポンなら水に放せば噛むのを止めて逃げてくれると思うが……ガンツは一度噛みついたら何をしても決して離しはしないだろう――


「ところで、ガンツさんから只で頂いたフェニックスソードですが、しばらくロビンさんが預かってもらえますか……」

 私はアイテム袋から火の鳥の剣フェニックスソードを取り出してロビンに手渡した。


「ガンツさんの揺り篭に入れておけば、夜泣きや疳の虫も減ると思いますよ♪」

 そう言って私はにやりと笑う。

「……いいわ……預かっとく……本当にあなたは一体何……まぁいいわよ……また来なさいよ――馬鹿ダイサク」

「合点承知の助」と言って右手の親指を立てるサムズアップと……、

「うふふっ――何それ?」と言ってロビンが初めて笑った☆彡


「あっ……わっ、わたし…笑ってる――そっか、わたし、笑えるんだ……」

 そう言ってロビンはつま先立ちすると――

「ありがとう――」

 私の頬にチュとキスした。


 ……ロビンの突然の行動キスに動揺を隠しながらガンツに話しかけた。

「お師匠様、暫くご不自由だとは思いますが、大きくなったら好きなだけ刀を打って楽しんでください。それからロビンさん、何かあれば冒険者ギルドの伝言板を使って連絡してください。それでは失礼します。御達者で……さようなら……」

 私はそこで2人と別れて、鍛冶の町シェフィールドを後にした……。


「おじいちゃん、ダイサクって何なのかな?」

 さようならの手を振りながらロビンが囁くと、

「バブブブブ(おれもしらん)」とガンツが何か返事をした。

ゴクウハッカイ河童ゴジョウは凄く強かった……シルバーやアイアンの冒険者でも到底敵わない……」

「バブブ(だろうな)」とガンツは頷いた。

「そして黒騎士エンカイ様は神そのもの――そのエンカイ様を打ち破るなんて……ゴールドはもちろんミスリルの冒険者でも無理よ! ダイサクは自分ではアイアンとか言ってるけど……あいつの隠してる力は多分人の範疇のものじゃないわ」

「バブブ(かもしれねえな)」

「でもね、おじいちゃん……あいつは……馬鹿で……お人好しの良い人!」

「バブッ(だなっ)!!」

 2人は太陽が地平線に沈むまでダイサクを見送っていた…………。


 私が見渡す限りサバナの草原が広がっている。

 野生の王国の動物たちがゆっくりと闊歩し、鴇色のフラミンゴの群れが空に羽ばたく――

 地平線に沈む真っ赤で巨大な太陽に照らされて、彼方此方に咲く極楽鳥花の花が美しく照り輝いている……。


「さらば鍛冶の町――シェフィールド!」

――あの地平線の彼方には、どんな出会いや冒険が待っているかな?――

 そう想いながら歩み出すダイサクの足取りは、インパラように軽やかだった。


『ダァ~ンダダッ、アチャッ~』

劇終の律動リズムが心の中を通り過ぎた☆彡

『ツンデレ娘も悪くないの』の巻(終)

ありがとうございました。

次回はバラコアの老漁師のお話です。

どうぞお楽しみに――

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