49 刀匠ガンツ
どうぞお楽しみください。
【刀匠ガンツ】
次の日の朝、私はシェフィールドの町の西の端にあるガンツの武器屋を訪れた。
『チンチロリ~ン』
入口のドアに備え付けてある鉄風鈴を心地よく鳴らして店に入ると、目の前のショウケースや壁には美しい武器が幾つも飾ってあった。
「一、十、百、千、えっ、きっ、金貨3千枚! うひゃぁぁぁ~」
私は商品の値段にあっと驚いた…………。
「ごっ、ごめんくださ~い」と言って私が気を取り直し声を掛けた――
『ドッドッドッドッドォ~ン!』
店の奥からぎらぎらと眼光鋭い一人の翁が現れた。
「おいおい、すげえな! そんな剣初めて見たぜ!! おめえのその剣、創世級か!?」
翁は開口一番そう聞いてきた。
「……これですか? いえいえ、この武器はたくさんの金属を固めて作ったフライパンもどきのオリジナルですよ」
『ブッブンッ♪』
私は右腰からパンチャックをさっと抜くと、くるんと勢い良く回して格好よく手に取った。
「馬鹿言うんじゃねぇ~、その武器は間違いなくの創世級の代物だ。そいつは俺が今まで出くわした武器の中でも5本の指に入るぜっ!! 神もってずば抜けてやがる。そんなすげえ武器はそんじょそこらの宝物庫にもありゃしねぇぜ」
「そ、そうなのですね…………」
「お、おめえ、その武器どこで手に入れた?」と翁はジロリと睨みながら私に聞いてきた。
「このパンチャックは林檎引力を使って私が自分で作りました」
「アップルパワーだと……、そりゃなんだ? まぁ、そんなこたぁ~どうだっていい。だがな、そんなもん見せられちゃあ~、このままじゃ……おりゃ~死ぬに死ねなくなっちまったぜ!!」
翁がにやりと笑って私を睨んできたので、仕方なく私も負けずににやりと笑って見つめ返した。当然のことながら、この視線のやり取りを行っている時点では、ガンツと私の二人の間には如何なる愛も存在していなかった……。
「ところで……すみませんが……ここに刀匠のガンツさんはいらっしゃいますか?」
「俺がガンツだ!」にやりと笑ってガンツが返事をした。
「ですよねぇ~」――最初からそう思っていましたよ――
冒険者ギルドの受付嬢から聞いていた通りの、強面で頑固そうなドワーフの爺だった。
「はじめまして、私はダイサクと言います。職業は修行僧、冒険者を生業に世界を旅しています」
私は鉄プレートをすっと見せながら自己紹介した。
「俺はガンツだ、宜しくな」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「ところでな……、武器は、3級品、2級品、1級品、特級品、希少級品、伝説級品、神話級品、創世級品に概ね等級分けされているんだぜ」
「そうなんですか?」
「そうさぁ……で……俺の見立てだと、その武器は創世級と同等だ。おめぇ~、俺の鍛冶屋に来たってことは、すげえ刀が欲しいんだろ?」
ガンツは不敵な笑みを浮かべて私に問いた。
「は、はい、それはそうなのですが……、手持ちのお金が全然足りてなくて、ガンツさんのお店ではペティナイフさえ買えそうにないです」
「そうか! それなら、只で打ってやる!!」
「……、えっ!」
「俺の人生で最高の一振り、冥土の土産に打って、只でおめぇくれてやる!!」
「た、只ですか!?」
私は思わずぬか喜びしたのだが、『只ほど高いものはない』という諺の雲がぽっかりと私の脳裏に浮かんだ。そこで、二の足を踏みながらどうしたものかと躊躇っていたところ……。
「只だぜ!!」流石のガンツは駄目押しで私の迷いを断ち切った。
「お師匠様、宜しくお願いします」私は90度お辞儀して二つ返事で答えていた。
『この話、乗って航海するか乘らずに後悔するか? この世界に来て良い波が来ているし、この話に乗ってみましょう、そうしましょう♪』
「よしきた! これで話は決まったな。そんじゃ先ずは刀の材料を用意しなきゃいけねぇな……」
「ロビン、ロビン、ロビ~ン」
ガンツが大声で店の奥へ声を掛けた。
「そんな大声出さなくても聞こえているわよ。おじいちゃん、何か用?」
店の奥から若いドワーフの娘が現れた。ガンツのその孫娘の名前はロビン。ネザーランドドワーフのような淡褐色の髪に、ガーネットのような赤い瞳、身長150センチ位の美しくも可愛いドワーフの娘だ。
しかし、この世界で広く知られているとおり、ドワーフは種族として力が凄く強い。彼女は細身にも関わらず腹筋がシックスパックに割れていて、まるで陸上のアスリートの様であった。
「おじいちゃんじゃねぇ、仕事場では師匠と呼べと言ってんだろう!」
「はいはい、分かりました、で、何用でございますか? お師匠さま!」
「『はい』は1回にしやがれ! まぁいい……でな……ロビン……俺は刀を打つ」
「……左様でございますか、えっ、師匠はもう刀打たないって決めたのじゃないの!?」
「いや、気が変わった。俺の命と引き換えに、最後の一振りをこいつと打つことにした」
そう言うとガンツは私の方に目を遣った。
「あ……、只今ご紹介に預かりました。私、ダイサクという名の修行僧です。冒険者を生業に世界を旅しています。どうぞ宜しくお願いします」
私がロビンに鉄プレートをさらりと見せて自己紹介すると、
「…………、あ、あんたアイアン等級じゃないの。私のおじ……、じゃなくて、師匠に変なことを吹き込まないでくれる! 今のままでも直ぐにくたばりそうなのに!!」
ロビンは銀色のプレートを見せつけるようにして私に食って掛かった。
『さもありなん、あの豊満な胸に輝くプレートは、私のものより2段階上のシルバー等級冒険者の証だからな……』
「つべこべ言うんじゃねぇ~、先ずは玉鋼だ……火を起こして砂鉄を焼べろ……2日で最高の玉鋼を作り上げるぜ!」
「ま、待ってよ、おじいちゃん!」
「ふっ……」
――概して、年寄りはわがままで、人の言うことを聞かないものさ――
「……で、ロビンはそいつと一緒にケレニャガ山に行って、火の鳥の結晶を取ってこい」
そのようにガンツはロビンに言いつけた。
「フェニックスのクリスタルですって! おじいちゃん、私を殺すつもりなの? 何時もケレニャガ山にだけは近づくなって……、小さな頃から耳に胼胝ができるくらい言ってたじゃないの!?」
「でえじょうぶだロビン……、そいつと一緒ならな」
「えっ、こっ、こいつアイアンの冒険者よ? 私よりずっと下のランクの駆け出しの冒険者なのよ」
そう言うとロビンは私をキッと睨みつけた。
「はい、多分大丈夫だと思います……たぶん。ロビンさんよろしくお願いします」
そう言って彼女に握手を求めて手を差し出したのだが、
「あんた馬鹿ぁ~、もう確実に死んだわよ……私……あんたが死んだら、そのまま置いて逃げるから……」
ロビンは怒って私の手をぱしっと叩くと、真っ黒な炭を使って私の額に力強く『馬鹿』とサインしたのであった。
そんなこんなで、私とロビンは火の鳥の結晶を求めて、二人仲良くケレニャガ山へ向かうことになった。
ちなみに、お師匠様がご所望されていた至高の『白魔石』について、私の手持ちから先にお渡ししたところ……。
「……おめえくれえなら、これくらい持っていて当たりめぇだな」
そう言ってガンツは特に驚いた様子も見せずに、その白魔石をすっと懐に仕舞い込んだのであった。
『鍛冶屋――お前も悪よのぅ~♪』
ありがとうございました。
ケレニャガ山で二人を待ち受けるものとは?
次回をお楽しみに♪




