48 鍛冶の町シェフィールド
今回から鍛冶の町シェフィールドの話が始まります。
どうぞお楽しみください。
【鍛冶の町 シェフィールド】
大きく真っ赤な太陽と赤く染まり始めた空、目の前には見渡す限りサバナの草原が広がっている。
野生の動物たちはサバナの草原を闊歩し、鮮やかなピンク色のフラミンゴの群れが水辺から一斉に飛び立った。
辺りにちらほらと咲いている、極楽鳥花(ストレリチア)の赤橙色の花は特に鮮やかで美しい。
極楽鳥花は鶏の冠のように見える花を持っていて、その花の姿が極楽鳥の鶏冠に見えたことからその名がついたと言われている。
私はアマゾネスの森を抜けて、1人サバナの草原を歩いていた。
サバナの草原は、イネ科とマメ科の丈の長い草や低木が点在している、雨季と乾季が明瞭な草原地帯である。そろそろ雨季が訪れる季節なのか、遠く地平線に沿って積乱雲が見えている。
余りにも野生の動物たちの数が多いためか、もしくは魔素による影響が少ないためなのか、私はサバナの草原において、何故か魔獣化している動物を見かけなかった。
しかし、ここではその代わりに沢山の野生の動物たちが生息している。
私は今まで一度もアフリカに行ったことなどなかったが、ライオン、チータ、ゾウ、キリン、サイ、カバ、ヌー、インパラ、オリックス、ゼブラ、ダチョウのような多種多様な野生動物の近くを、どきどきしながらも遠足気分で歩けるのは、やはり異世界ならではの特典だろう。
『感動~、これこそ正真正銘の野生の王国だ!』
「ガァォォォ~、グルルル~、パァオ~ン、モ~ウ、ブルルル~、フォウ!」
私が注意して最低限のソーシャルディスタンスを確保しているためだろう。すぐそばを歩く私に向かって、野生の動物たちは低い唸り声で威嚇はすれども襲ってくる気配はなかった。
『まぁ~、現時点では食物連鎖の頂点であろう百壱獣の王『ダイサク』の前では、野生の動物たちと言えども借りて来た猫と同じだ……ふふふ』
「ワァ~オ、ワァ~オ、ワァオ~」と少し懐かしい歌を口ずさみながら、
私は狼少年ケンになった気分で、きょろきょろと周りの野生の動物たちを見物しながら、サバナの草原を南南西へ真っ直ぐに通り抜けた。
この風景はもしかしたら夢じゃないかと思って自分の頬を軽く抓ってみたが、当然のことながら私が夢から覚めることはなかった。
――cogito ergo sum――
これは昔の哲学者が宣した言葉で「我思う、ゆえに我あり」と翻訳される。
その意味は、ここが何処であったとしても己が考えや思いを巡らせている限り、自分は今この場所にに存在しているということだ。
『絶対に疑いようがない永遠不変の真理だな』
私は偉大な哲学者の言葉をふと頭に思い浮かべつつ、とことこ歩き続け、何とか日が沈む前に目的地に到着した。
鍛冶の町シェフィールドはサバナ草原のほぼ中央に位置しており、他の都市や町とは遠く離れたケレニャガ山の麓にぽつんとあった。
ケレニャガ山はその険しい岩山の山頂部に氷河を戴いており、活火山のためか山頂付近からはうっすらと白い煙を吐いている。
シェフィールドの町の周囲は、野生の動物たちの侵入を防ぐために、深さ2mの堀と高さ3mの丸太の塀でぐるりと囲まれていた。
ここは鍛冶の町として最も有名な場所で、私はこちらの世界で作られている武具の頂点が、如何なる水準に達しているのか把握しておきたかった。
門兵に冒険者のギルド証を見せて町に入り、情報収集のために、私はそのまま町の中央にある冒険者ギルドに向かった……
『ギィ、ギィ、ギィィィ~』
冒険者ギルドの入口の両開きのドアを開け、私は真っ直ぐ受付に向かう。
「すみません。いくつかお聞きしたいことがあるのですが?」
私は冒険者ギルドの受付に声を掛けた。
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
人族の赤眼鏡を掛けた女性が返事をする。
「この町で一番腕のいい鍛冶師を教えてもらいたいのですが?」
そう言ってアイアン等級のプレートを彼女に見せた。
「……、承知しました。一番腕の良い鍛冶師は間違いなくドワーフのガンツさんでしょう。しかし、ガンツさんはとても気難しいお方で、気に入った人にしか武器を打ってくれません。また、最近は高齢のため刀を殆ど打っていないそうです」
「そうなのですか……、それから、高値で取引される魔物や魔獣はいますか?」
「はい、サバナ草原には魔物や魔獣はいませんが、野獣のサバナゾウの牙やワイドサイの角は魔法薬の原料となるため、一頭につき金貨4~5枚の高値で取引されています」
「魔物や魔獣はいないのですか?」
「いるにはいるようなのですが……、シェフィールドの南西にあるケレニャガ山の中腹に洞窟があり、そこには物凄く強い3匹の魔物が出るらしいのです。その魔物たちはケレニャガ山の神を守るため、山に侵入する者を一切拒んでおり、冒険者たちはケレニャガ山の神を恐れて山へは絶対に立ち入りません」
「ケレニャガ山の神とは何なのでしょうか?」と尋ねてみた。
「ドワーフ族の伝承によると、ケレニャガ山には永遠の命を司る炎廻という火の神が住んでいて、その炎廻を3体の強力な魔物が守っているいるそうです。『火の神の守護の魔物に遭遇する時、如何なる者にも最後の審判が下されるものと心得よ』そう言い伝えられています」
受付嬢は私の凡庸のアイアン等級のプレートを一目見遣って神妙に答えた。
「話は変わりますが、冒険者ギルドのお勧めの宿を教えてもらえますか?」
「はい、それなら『フリオアクア』ですね。冒険者ギルドの紹介と申し出れば、ケレニャガ山の冷たい湧き水が無料で飲めますし、野生の動物たちを調理したサバナ料理も絶品ですよ♪」
「宿のメニューに納豆はありますか?」
「なっとうですか?」
「はい、納豆です。豆を稲の藁で包んで発酵させた健康食品です」
「はっこうですか?」
「はい、発酵です」
「なっとうもはっこうも聞いたことがありませんが……」
そう言って彼女は左手の中指で眼鏡を押さえた。
私は彼女との会話の遣り取りで、この世界には未だ納豆と言うものが存在しないことを、改めて認識したのだった。
『発酵』は人にとって有益な微生物が働いて、物質が分解される現象のことである。
見た目や味が変わる点で『腐敗』と似ているが、肉や魚などがアンモニア臭を出して食べられなくなるのが『腐敗』、ヨーグルトなどのように形状が変化しても美味しく食べられるのが『発酵』と考えると理解しやすい。
くさや、鮒鮓、臭豆腐など両者の線引きには曖昧な部分があって、発酵なのか腐敗なのかは人の意向に沿って判断されている。
納豆菌は枯草菌の一種である。稲の藁に多く生息し、稲の藁1本あたり1000万個の納豆菌が芽胞の状態で付着している。従って、納豆を作るのはとても簡単だ。大豆を湯がいて藁で包み、温かいところに置いておけば大概良いのだ。
ちなみに、納豆は長寿のために必要不可欠なキーポイントの一つだと言われている。
◇◇◇
一般的に長生きする人には共通のルールがあり、それは食事や生活習慣に大きく左右されている。
その中でも特に100歳を超える長寿者は『センテナリアン』と呼ばれ、イタリアのサルディーニャ島中部、日本の沖縄北部、アメリアのカルフォルニア州ロマリンダ、コスタリカのニコジャ半島と言った地域は、センテナリアンが特に多い地域として知られている。
この地域に共通している生活習慣は次の通りだ。
1)豆類(ビタミンEやポリフェノール)をたくさん食べる
2)野菜をたっぷり(食物繊維350g/日)多種類食べる
3)坂道を歩いて足腰を鍛える
4)死ぬまで働く(料理や雑巾掛けでもOK)
5)生きがいを持つ(誰かに必要とされていると感じていることが大事)
6)食べ過ぎない(できれば腹七分目まで)
7)ワインを嗜み血糖値を下げる
※辛口の白ワインには痩せる効果もある
8)チョコレート(カカオ70%以上)を食べる
9)定期的な健康チェック
(胃大腸の内視鏡検査・胸部腹部のCT検査・脳のMRI検査等)
10)医者を選ぶ(大きな病院に名医がいるとは限らない)
後になって悔しい思いをしないために、私たちが一番に気を付けるべきはカロリーではなく糖質と塩分であろう。『太る→老ける→病む』の負の連鎖を防ぐには、食後の血糖値を大きく上下させないことが重要となる。
一方で、異世界には食品添加物として使用される化学物質は見当たらない。これらの摂取についてほぼ気にしなくて良いのは安心だ。
――何をするにも健康が一番、そんなの当たり前のこと、分かっている――
誰も彼もが口を揃えてそんな風に言うが、実際のところは全く分かっていない。みんながみんな、自分自身や大切な人が治らない病気に罹って、初めてそのことに気づき後悔するのだ!
◇◇◇
とにもかくにも、発酵食品は長生きするために必要不可欠な食品である。私は、納豆、ヨーグルト、キムチをはじめとする発酵食品を、異世界においても簡単に手に入る状態にすべく粛々と手筈を整えている。
これを実現するだけでも、私が異世界に存在する価値は十分にあるだろう!
『propagatio ergo sum』 「我広める、ゆえに我あり」
ありがとうございました。
7話の『うがいなし歯磨きのすすめ』、11話の『若返りの極意』、14話の『集中力を高める奥義』、16話の『認知症予防の神髄』、22話の『ダイエットの秘術』、27話の『風邪への心構え』、37話の『世界三大発酵食品とヨーグルト摂取のノウハウ』、42話の『カロリー制限による若返り遺伝子の活性方法』、44話の『朝蛋の手引』に続き、今回は48話では『100歳超えセンテナリアンの習慣』を公開しています。皆さんも是非お試しください。
それでは次回をお楽しみに!




