47 レイティアの決意
こんにちは、今回はアマゾネスの恩返しのお話です。
どうぞお楽しみください。
【レイティアの決意】
「う~ん……大漁、大漁♪」
私はシルバムンがドロップした宝物をアイテム袋にささっと仕舞うと、急いでペテレシアとレイティアの下もとへ駆け寄った――
「呼吸と心拍は? ……大丈夫、良かった、2人ともぼろぼろで満身創痍みたいだけど、まだ生きている!」私は安堵のため息をつくと……、
『エクストラヒール、ハイ、ヒール』
その場で上級と中級の治癒魔法を組み合わせ詠唱して直ぐに2人の傷を癒した。
――しっかりせよとぉ~、抱き起こしぃ~♪――
「はうっ……ダ、ダイサク、無事だったのか!?」
「あうっ……わ、わたし、生きてる!?」
「……2人とも……痛みはありませんか?」と言って2人を注視する。
「だっ、大丈夫だ……ダイサク……お前が治してくれたのか?」
「ふっ、不思議……どこも痛くない?」
「2人とも怪我をして意識を失っていたので、私が治癒魔法を使って回復しておきました。なんてったって修行僧アイドルですからね♪」
そう言って私は2人に向かってドヤ顔でにやりと笑うと、左の親指の腹で左の頬を払った……。
「蟲の王はどうした……?」とペテレシアは辺りを見回して私に聞いた。
「凄い戦いの跡……」とレイティアは著しく損壊した周りを見渡し呟いた。
「シルバムンは素粒子になって消えてしまいました」
「き、消えただと?」
「そ、そりゅうし?」
「はい、シルバムンは自然を守れと私に言い残して、アマゾネスの森の空に消えてしまいました」
「気を失っている合間にシルバムンに何が起きた?」
「暗殺失敗……蟲の王……強すぎ……」
「もう他の蟲の兵士たちも見当たりません。早くアマゾネスの村へ戻って族長のスミルナ様に報告しましょう」
「そうだな……アマゾネスの村へ帰ろう」
「あ~暗殺失敗……でも生きて帰れる……夢?」
「ひょうひぃまひょう」
レイティアが右隣りにいた私のホッペを軽く抓ったので、アマゾネスの戦士たちには私の言葉がよく聞き取れなかったかも知れないが、雰囲気だけでも肯定の意思は通じたようで、私たちは直ちにアマゾネスの村への帰路に着いたのであった……。
――天然のレイティアさん、つねるのは自分の頬っぺにしてください――
◇◇◇
朝方近くにアマゾネスの村に着くと、ペテレシアが族長のスミルナに事の成り行きを報告した……。
「良うやった、良うやった!
蟲の王が消えた理由は分からんが、 蟲の兵隊たちも一緒にアマゾネスの森から消えたようじゃ……さすが、アマゾネスの山吹の戦士と白銀の戦士じゃ……これでアマゾネスの森に再び安寧が訪れた」
スミルナは横目で私をちらちらと見ながら、ペテレシアとレイティアの2人を褒め称えた。
「それから、ダイサクよ、よくぞアマゾネスを助けてくれた。お陰で2人のアマゾネス戦士の命も救われた。本当になんと礼を言って良いやら……心から感謝しておる……そこでじゃ、お前に何か礼をしたいのだが……」とスミルナが言った。
「それでは小型舟を一艇頂けますか? それともう一つ……アマゾネスの森で『ニガーナ』の木を育てて、その実をたくさん収穫できるようにしておいてもらいたいのですが……」
「はて、ニガーナの実とな? あれはアマゾネスで悪戯した子供に、仕置として飲ませる苦~い粉薬だぞ! いったい何に使うのだ?」
「チョコレートを作ります」
「ちょこれっと?」
3人が同時に|素っ頓狂な声をあげた。
私は目敏くも、泣いてイヤイヤと嫌がる子供に、狼人族の母親があの『ニガーナ』と言う茶色の粉を飲ませていたのを見逃さなかった♪
ましてや、アマゾネスの森の高温多湿な熱帯雨林気候と、ここに生息している動植物の生態系を鑑みれば、あの茶色の粉は間違いなくチョコレートの原料となる『カカオ』だ!
この異世界においては金や胡椒と同じ位に貴重な物となるはず、そんな打算的な考えも少しはあったが、何よりも私は純粋にこよなくチョコレートを食べたいと思っていたのであった!
「はい、チョコレートです。チョコレートは私の故郷で作っていた甘いお菓子です。ニガーナの実を発酵、乾燥させてから焙炒し、砕いて種皮を取り除いてすり潰したものに、砂糖と油を加えて練り上げ滑らかにして、テンパリング(結晶化)してから型に流し込んで冷やします。するとチョコレートと言う伝統的なお菓子が出来上がります。とっても美味しいのですよ!」と答えると……、
「ふぁいなるあんさ~」とスミルナが頭上で×合図を作り、
「あ、あのニガーナの実を食べるのか」とペテレシアが驚いて聞き直し、
「ニガーナ、嫌い」とレイティアが本当に嫌そうに言った。
――ワンワンよ、余りに美味すぎて、後で吠え面をかくなよ――
「まぁ良い、それがお前の望みならば準備しておこう。……して……他に欲しいものないのか?」とスミルナが聞いてきた。
「それだけで十分です」
「それではアマゾネスの戦士の女が廃たる。そ、そうじゃ……礼と言っては何だが、今宵は儂がお前の夜伽をしてやろう」
そう言ってスミルナがペロリと舌なめずりをする……。
「そっ、それは危険すぎるぅ~絶対に駄目ぇぇぇ~」
レイティアが両腕で×合図を作って、2人の間に何故か突然分け入った……。
「なんじゃレイティア……お前がダイサクと寝床を共にしたいのか?」
「……いっや~そんなこと出来な~い」とレイティアは叫ぶと、
清楚で真っ白な顔を林檎のように真っ赤に染め、十字架のように手を広げながらこちらに振り返った。
『バッゴォォォ~ン』
何と言うことか私の頬に勢いよくレイティアの無想天の裏拳が入ってしまった。
「あっ!」
「あっ!」
「あっ!」
3人が同時に声を上げる……がしかし時すでに遅し、徹夜での睡眠不足と疲労も重なって、レイティアの精悍ながら優しく柔らかな腕、私の頬にさらさらと降りかかる優美な銀髪、何より釣鐘のような豊満な胸に抱き抱えられて、私はそのまま意識を失って深い眠りについたのだった……。
――南無三陀ぁぁぁ~、チ~ン――
◇◇◇
翌朝、アマゾネスの村近くのアマゾン川の畔まで、スミルナ、ペテレシア、レイティアの3人が私を見送りに来てくれた。
「ダイサク、本当に世話になったな」とスミルナが言い、
「ダイサク、もう人食い人種には捕まるな」とペテレシアが注意し、
「ダイサク、私も……」よくは聞き取れなかったがレイティアも何か囁いた。
「こちらこそお世話になりました。
何かあれば、冒険者ギルドへ伝言してください」
「承知した。そうさせてもらおう」
「冒険者なら、もっと強く逞しくなれよ」とペテレシアが気合を入れると、
「ぼうけんしゃ…」とレイティアが小さく呟いた。
「それから、レイティアさん……これを……」
「なに……?」
レイティアは美しい月白の銀髪を掻き上げながら返事をした。
「私を危機一髪のところで人食い人種から救って頂いたお礼です」
私はシルバムンのドロップアイテムである『殿様蝗瑪瑙石』と『月光の銀弓』を、アイテム袋から取り出しレイティアに手渡した……。
「これは何?」とレイティアが聞いた。
「シルバムンが消えた後にあの大広間に落ちていたので、ちゃっかり拾ってアイテム袋に入れておきました」
そう言って私はにやりと笑った。
「貰っていいの?」
「はい、どうぞご遠慮なく」
「ダイサク、そ、その武器は……」スミルナは声を失った。
「はいはい、スミルナ様にはこちらの真っ赤なスカーフを差し上げます。」
スミルナが何か言いたげだったので、口封じにあの真っ赤なスカーフを口に押し込み咥えさせた。
ちなみに、色々と試してみたが、真っ赤なスカーフには特別な付属機能は何もついていないようだった……。
「それでは、失礼します、またお会いしましよう♪」
私は皆に手を振って別れを告げた。
スミルナ、ペテレシア、レイティアの3人は、小型舟カヌーがアマゾン川の水平線から見えなくなるまで、ずっと私を見送ってくれていた……。
「レイティアよ、その弓は一体何なのじゃ!? アマゾネスに伝わる伝説の武器と比べても、勝るとも劣らぬ力を感じるぞ……」とスミルナが尋ねた。
「たぶん蟲の王の落し物、ダイサクがシルバムンをやっつけた……」
『さようなら』の手をゆっくりと振りながらレイティアが答えた……。
「そ、そんな馬鹿な!」とペテレシアが思わず驚き声を上げた。
「私たちが倒された後……ダイサク……1人で蟲の王と戦った」
「ダイサクがシルバムンと戦っただと? 人食い人種にさえ後れを取って、もう少しで釜茹でスープになって、奴らに食われていたかも知れない貧弱な男だぞ!」
「ち、違う……本当は、ダイサク強い……力隠しているけど物凄く強い」
「無論じゃ……蟲の王を倒したのは間違いなくダイサクじゃろう」スミルナが言い切った。
「そっ、そうなのか……ダイサクがシルバムンをやったのか!?」ペテレシアは唖然として物が言えなくなった。
「スミルナ……私、冒険者になってみたい……冒険者になって広い世界をアマゾネスの目で見て回り、もっともっともっと強くなってダイサクの背中に近づきたい」
「そうか……ならばレイティア、お前の好きにするが良い。しかし、ダイサクの強さは人の理を超えておる……彼の頂にはお前が一生かかっても辿り着けぬかも知れぬぞ!」
「……それでも構わない! 私、冒険者になる!!」
レイティアが左手を突き上げて『月光の銀弓シルバーゴーガン』を天に向け構えると、びゅんと弓が広がり光の矢が現れた――
『ドォッヒュゥゥゥー』
アマゾネス、白銀の戦士レイティアは、天に向けて光の矢を力強く放った!
◇◇◇
今日もいい天気だ。小型舟にちゃぷちゃぷと当たる水の音がとても心地良い。
アマゾン川の河岸に沿ってノウゼンカズラ(凌霄花)の橙色の花が、川の上を吹き渡る風にゆらいゆらりと揺れている。
青い空と水平線に湧き出す真っ白な入道雲。人食い人種の子供たちが、獲物を見つけて指差し騒ぎ、直径2m程もある大鬼蓮に飛び乗って、両手を広げて私を追いかけ捕まえようとしている……。
――是非もなし――
「この大河の向こうには、どんな出会いや冒険が待っているかな?」
そう想いながら漕ぎ出すダイサクのパドリングはとても軽快だった。
ちなみに、小型舟の水掻きの代用としては、この度|八面六臂の大活躍をした単なる水掻きとは似て非なる宇宙最強の武器、オールウイングを使ってしまった……。
「櫓剣よ、ぞんざいな私を笑って許して頂戴な」
――海水じゃないから、い~よ~――
そんな風にオールウイングが言ってくれたような気がした……。
【ダイサクを追駆する美しきアマゾネス戦士の巻き】終
ありがとうございました。
次回から『いまわの凄腕鍛冶師』のお話が始まります。
どうぞお楽しみに!




