46 蟲の王シルバムン
アマゾネスの戦士たちは蟲の王の暗殺に成功するのでしょうか?
ダイサクの運命や如何に……
どうぞお楽しみください。
【蟲の王シルバムン】
私たちは入口近くの大きな柱の後ろに隠れながら大広間の様子を確認する……。
そこには教会のステンドグラスのような大窓が幾つもあり、その大窓は蜂の巣のような六角形の幾何学模様を呈していた。
また、ステンドグラスの大窓からは月の光が差し込んでいて、困ったことに大広間は私の思っていたよりもずっと明るかった……
「レイティア、蟲の王はいるか?」とペテレシアが聞くと、
「奥の玉座に蟲の王は座っている」とレイティアが答えた。
確かに何者かが足を組み、顎に手を当てて玉座に座っているシルエットが見える、
アマゾネスの戦士であれば、この位の暗闇なら標的をしっかり捉えることができているのだろう……。
「距離は100メートル……レイティア……やれるか?」
「大丈夫……いける」
「ならば、私が蟲の王の頭を狙う……レイティアは胸を打ち抜け。そうしたら直ぐに飛び出して奴に近づき、この剣で焼き尽くす!」
ペテレシアは『サラマンダーの剣』を見つめて言った。
「わかった」レイティアは頷きながら答えた。
「…………?」私が右手の人差し指で自分を指差すと、
「ダイサク、お前はここで待ってろ! それから……私たち2人に何かあったら此処から直ぐ逃げるんだ、いいな!」
「ダイサク、何があってもその時は逃げる!」とレイティアが念を押した。
「…………分かりました」
この状況で2人に何を言っても時間の無駄と思い、私は即座に了解の返事をした。
――各々が私の事を心配してくれている――と思い少し心がほっこりした。
『ギシッギシッギシッ……』ペテレシアが蟲の王の頭蓋を狙って弓を引き絞り、
『ミシッミシッミシッ……』レイティアもまた奴の心臓を狙って弓を引き絞った。
「いくぞ!」
「はいっ!」
『ギィヒゥゥゥ~! ビィシュュュ~!』
2人は大柱の陰から左右に分かれて飛び出すと、力一杯引き絞った弓から蟲の王目掛けて同時に矢を放った――
「火蜥蜴の精霊よ、破滅の炎となり蟲の王を焼き尽くせ! 『ファイヤーサラマンダァ~!!』」
ペテレシアは矢を放つや否や、矢継ぎ早に蟲の王へ精霊の炎を浴びせ掛けた。
『ビィィィ~ン、ビィィィ~ン』
しかしながら、2本の矢は蟲の王にはすれすれではあったが、蟲の王には掠りもせずに玉座に突き刺さって上下に振幅していた……。
「むむむ~」と私はそれを見て一人呟いた……。
――最小限の動きで避けやがった!? お主……できるな――と。
『ゴォゴォゴォォォ~』
蟲の王へまっしぐらにサラマンダーの炎が襲い掛かる――
「トゥッ!」
しかしながら蟲の王が闘気を発すると……、
『バッシュ~ン!』
サラマンダーの炎は音を立てて一瞬で掻き消されてしまった。
「そっ、そんな馬鹿な……」とペテレシアはあんぐり口を開け、
「すっ、すごい……すごく強い相手……」とレイティアは目を見張り静かに呟いた。
「暗殺は失敗だ……蟲の増援が来る前にダイサク、逃げろ!」
「後は何とかする……ダイサク、生きて帰る」
2人はそう私に大きな声を掛けると、蟲の王に向かってまっしぐらに突っ込んで行った……がしかし……。
「トォウリャァァァ~」
蟲の王の突然に発した闘気に気圧されたのか、若しくは2人の野生の本能が悪戯に危険を察知してしまったのか……。玉座からすっと立ち上がった蟲の王の目前で、ペテレシアとレイティアはその突撃を不意に止めると、まるで蛇に睨まれた蛙のようにじっと立ち竦んでしまった。
「我が名はシルバムン! 自然界の全てを統べる者だ!! お前たち如きで暇つぶしになるかどうかは分からぬが……許そう……お前たち、名を名乗るが良い」とシルバムンは宣した。
「我はアマゾネス……山吹の戦士、ペテレシア」
「同じく私はアマゾネス……白銀の戦士、レイティア」
――吾輩は修行僧……林檎の戦士、ダイサク――
私も大柱の陰から小声で囁いたが、遠すぎて誰の耳にも届きはしなかった……。
『シルバムン』は人型の化物で、全身が黒い外骨格に覆われていた。バイクのヘルメットのような丸い頭に、2つの妖しく光る赤い複眼とギザギザの歯を持った、まるでファーストライダーのような飛蝗の出で立ちだった。
「少し遊んでやろう……掛かってこい!」とシルバムンが2人に告げた。
「ヤァァァ~」
「ハァァァ~」
ペテレシアとレイティアは気を取り直して蟲の王に詰め寄るが……。
「トゥ、トゥ、トゥ」シルバムンは掛け声を発しながら、
『ドゴーン、ドゴーン、ドッゴ~ン』
強大な魔蟲たちを容易く撃退してきた、ペテレシアとレイティアの連携攻撃を、シルバムンはいとも簡単にすれすれのところで躱すと、2人のアマゾネスの精悍な顔と引き締まった腹に、腰の入った、パンチ、キック、エルボーを何発も立て続けに叩き込んだ。
「あ、あがっ……おえっ……」ペテレシアの剛健な身体がくの字に曲がり、
「う、うぐっ……ぷぁっ……」レイティアの美しくも可憐な顔が苦痛で歪む。
それでも、ペテレシアとレイティアは何度も立ち上がった。
2人の戦士はアマゾネスの誇りと明日への希望を胸に抱いて、倒されても倒されても、命懸けでシルバムンに立ち向かってゆく!
「頑張れ、負けるな、ペテレシア! 頑張れ、ひるむな、レイティア!
君たちの双肩に、アマゾネス、いや全人類の存亡がかかっている」
――これは自然と新人類の代理戦争かも知れない――
私がふとそう思った矢先だった……。
「ぐふっ、ばっ、化物が……蟲の王……こんな奴には誰も勝てない」
ペテレシアが口から血を吐きながら両膝を突いて呻いた。
「あぅっ、どうして? こ、こんなに力が違うなんて……ごめんなさい……何も……何もできなかった」
レイティアも目虚ろに両膝を突き口籠った……。
シルバムンの打撃は、ペテレシアとレイティアに対して、的確に致命傷を与えていた。
2人のアマゾネスの戦士は手から武器を落とし、力なく両の腕を垂らしたまま蟲の王の眼前で両膝を突いた……そして……彼女たちの目からは屠殺間際の牛のように、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「もう終わりなのか? ……であれば……お前たちの首は貰っておくぞ」
シルバムンの足が月の光に照らされた刃のように白く輝き、ペテレシアとレイティアの2人の首を同時に落としにかかった……。
『シルバ~キィ~ック(銀月光蹴り)!』シルバムンが驚愕の蹴りを放った刹那――
『流星~キィ~ック!』そこへどんぴしゃりの衝撃の蹴りが放たれた!!
『ガッグワァギャシャャャャャ~ン』
2つの強力な蹴りが交差すると、辺り一面は高層建物に旅客機が衝突したような凄まじい爆音に覆われて、音速を越えたもの凄い衝撃波が発生した。
その衝撃波によって、ペテレシアとレイティアは小さなお人形のようにその場から吹っ飛ばされ、大広間の大柱にぶち当たり完全に意識を失った……。
私はとっさに物理障壁の魔法をかけたのだが、彼女たちの受けた衝撃は相当なものだったようで、各々は黒柱に減り込んでしまっていた……。
「ここから先は……私が……お相手します」
私はこれからの戦いに向けてアイアンカイザー(鉄拳鍔)を装着した……。
「フゥォアァァァァ~」
私は怪鳥のような声を出して腹から深く息を吐きながら、足を大きく開いて右手と右足を前に出した。それからシルバムンに対して体を真横に構え、親指で左の頬に付いた蜂蜜をすっと拭ってぺろぺろっと舐めると、くいくいっと右手人差し指を曲げて蟲の王を挑発する。
――さぁ~そろそろ俺等の出番だぜっと!――
「貴様何者だ? 名を名乗るがよい」
「私は修行僧……林檎の戦士ダイサク……冒険者を生業とする者です」
――名乗れて良かった、空いてて良かった、いい気分♪――
「坊主が何故我の前に立つ……我は自然の意志、自然を破壊する者たちを粛清する存在だ! 我は地球の命を受け、数百年に一度顕現し人類への粛清を繰り返してきた。坊主とは自然を敬い、自然との共存を真に望む者ではないのか?」と作麼生してきたので、
「それはそれとして、修行僧は弱きを助け強きをくじく者でもあるのです」
シルバムンの言い分に納得しながらも説破したところ……。
「まぁいい……それならばお前も一緒に粛清してやろう! それでは……さ・ら・ば・だ!」
シルバムンはそう言い終わると、妖しく赤い目を光らせ進撃を始めた。
「トゥ、トゥ、トゥ!」シルバムンがパンチとエルボーを連続で繰り出すと――
「アチャチャチャチャ!」私も負けじとパンチとエルボーを繰り出した。
『ドゴッ、ドンデン、ガンガン、ドンデンガン!』
拳と肘が搗ち合う衝撃波で頑丈な巣の柱や壁が破断していく。
「なんだと……坊主、やるな!?」シルバムンは一旦さっと間合いを空けた……。
「だがしかし、今宵は満月……月の光は私に更なる力を与えん。どうあがいても坊主では地球の力を振るう我には勝てはせん」と言い放った……。
『シルバ~ゴ~ガン(銀月光帽岩)!』
シルバムンの左手首付近に装着されていた弓がびゅんと開き、瞬時に月光の矢が装着され、
『月光流鏑馬!』
3本の月光の矢が私の顔と喉と胸を目掛けて正確に放たれた!
『ハァイャャャ~、シルバァァァ~』
私がアイアンカイザーを使って、目にも留まらぬ早業で月光の矢を迎撃すると――
『シルバ~ブレイカ~(銀月光剣)』
シルバムンの右腕に装備されている小盾から、腕と同じ長さの月光の剣が現れた。
それから、奴が左手を腰に添えて右手で大きく円を描くと、剣をゆっくりと動かしているにも関わらず、私の目にはその剣の軌跡が幾つもの残像として残っていた……。
『シルバ~ナイフ(銀月光短刀)!』
シルバムンがそう叫ぶと、残像は月光の刃となってガトリング砲のように高速で回転しながら連続で発射された。
「ア~タタタタタタタタタッ!」
即座にパンチャックを腰から抜いて『銀月光短刀』を弾き飛ばすが、間髪入れずにシルバムンは次の攻撃に移った……。
『シルバ~ム~ンストラァァァ~イク(銀月光牙突)!』
瞬時に残像は一つの光の剣となり、シルバムンは八相の構えで、円の中心よりその剣を携えて飛び出した。
私はX字にパンチャックを交差して、銀月光牙突を受け切ったと思ったが……。
『銀月光牙突! 銀月光牙突!!』
シルバムンがその必殺技を重ね掛けすると、その威力は一気に8倍以上に膨れ上がり、アフターバーナーの如く推力を上げて私に襲い掛かってきた。
『アプルスブロォォォ~クッ(林檎加重揚浅鍋守鬼)!』
私は林檎引力を使ってパンチャックに重力をかけてエネルギーを増大させ、シルバムンの超必殺技、シルバームーンストライクの3連撃を凌ごうとした――
『銀旋風脚』
シルバムンは私の意を悟ると、瞬時に武器狙いで私の小手を蹴り飛ばした。
『パァッカァァァ~ン……ドスッ』
パンチャックは大きな音を立てて、私の両の手から離れて地面に食い込んだ……。
「無駄なあがきもこれまでだ……この場から消え失せろ! トゥ!!」
シルバムンは空に高くジャンプすると、そこから私を目掛けて切り札を切った……。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、蟲が呼ぶ~悪を倒せと俺を呼ぶ!」
『シャドウム~ン ストラァァァ~イク(月食牙突)!!』
月光の剣が日食のように瞬く間に漆黒の刃に姿を変えると、シルバムンは八相の構えから私にとどめの天の一撃を打ち込んだ――
『縮空!』
その刹那、私は空間を一瞬で縮め、ショートカットしてシルバムンの右横にひょっこり躍り出ると――
『流星真空飛び膝蹴りぃ~!』
アップルパワーを瞬時に開放して超常加速し、空気摩擦で真っ赤に燃え上がった膝で昆畜生の側頭部に蹴り込んだ!
『グワァシャッ~ン、ゴォォォ~ンッ、ゴォォォ~ンッ、ゴォォォ~ン』
金属が潰れるような鈍い音が、サクラダファミリアの鐘の音の如く鳴り響く……。
私は流星真空飛び膝蹴りの反作用の力を使って、月面宙返り3回転半捻りでピタッと着地を決めると、オールウイングを抜刀し、蟲の王に負けじと切り札を切った。
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵し掠めること火の如く、動かざること山の如し、戦いはぁ~これで決まりだぁっ~」と見得を切ってからの――
『流星風林火斬!!』
アップルパワーにより超重力場がシルバムンを覆うと、その刹那、蟲の王の時間は完全に止まる……。
真っ赤に燃え上がった櫓型の剣が、東は青龍、西は白虎、南は朱雀、北は玄武が守る東西南北の四方から奴の丹田を同時に斬った――
すると衝突型加速器で加速された素粒子の如く、4つの剣先がピンポイントで衝突して『クォーク』レベルでの始まりの終わりの超新星爆発が発生した。
『ビッ、ビッグゥゥゥ~バァァァ~ン!?』
シルバムンはそう叫びながら、原子より遥かに小さな究極の素粒子となって散ってゆく!
「そ、そんなばかな……汝は何故に神の力を持っている!? 然れども我は何度でも復活する。地球に粛清されぬよう、汝がそれまで我に代わって精々この自然を見ておるが良い! おお~地球よぉ~自然を救いたまえ~え~ ラァラァ~ィィィィィ」
シルバムンはそのように言い残すと究極素粒子となって消えた。
そして、その後には一匹の蚊ではなく殿様蝗が入った『殿様蝗瑪瑙石』と、『白魔石』、『月食の仮面』、『月光の剣盾』、『月光の銀弓』、それから『真っ赤なスカーフ』が落ちていたのであった…………。
ありがとうございました。




