45 メドゥーサ
こんにちは、
どうぞお楽しみください。
【メドゥーサ】
私はレイティアにお願いして、再びアマゾネス族長のスミルナと対面した......。
「スミルナ様、人族、それから冒険者の代表として、是非とも蟲の王の討伐に加えてください」と申し入れると、
「……………」スミルナは何やら少し考えていた。
「......ダイサクよ、どうしても二人について行きたいのか?」
「はっ、はい、どうしても」
「ん~、ふぁいなるあんさ~?」
「ファイナルアンサー!」
私はスミルナの眼光鋭い瞳をじっと見ながら真剣に返事をした……。
「駄ぁ~目ぇ~じゃ~!」
スミルナは白い犬歯を見せながら、両手で大きく×印をした。
ーー何ですか~、あんたもキリストか? あの太った白塗りのキリストと中身は一緒なのか?ーー
痛い予感がして、私は慌てて天を仰ぎ見た……。
「ダイサクよ、すまぬが人族では蟲の王と戦うには所詮力不足なのじゃ!」
「どうかそこを曲げて連れて行ってください」
「駄目じゃ」
「そこをなんとか、お願いします」
「何と言われようとも、駄目なものは駄目じゃ、お前を連れて行くと他の2人までもが危険にさらされ、蟲の王のところへ辿り着くのさえ難しくなってしまう」
ペテレシアとレイティアはさもありなんと言った感じで、スミルナと私の受け答えを黙って静かに聞いていた。
「絶対にご迷惑はお掛けしませんので……おっ、お願いします」
「ふ〜む……それにじゃ、我らアマゾネスには、かつて蟲の王と戦った伝承の武器があるのじゃ!」
「ぶぶっ、武器ですか?」
「そうじゃ、類い稀な貴重な武器じゃ......ペテレシア、この剣を持ってゆけ!」
そう言うとスミルナは一振の剣をペテレシアに託した。
「こっ、これは!」
「『サラマンダーの剣』じゃ......精霊の力を借り自由自在に炎を扱える」
「すっ、すごい……」
ペテレシアは剣の切っ先を天へ向けてサラマンダーの剣を見遣った。
「それからレイティア、お前はこの『フェンリルの盾』を持ってゆけ! 邪悪なものを跳ね返すことができる精霊の盾じゃ」
スミルナは一帖の盾をレイティアに託した。
「と、とても、綺麗……」
レイティアは指先で優しくフェンリルの盾に触れながら言葉少なに応じた。
「……、ス、スミルナ様!」私は背筋をぴんと伸ばした。
「なっ、なんじゃ......改まりおって?」
「わっ、私にも二人のように何かかっこいい武器を貸していただけませんか?」
「……残念だが......アマゾネスに代々伝わっておる伝説の武器はこの二つだけじゃ! ダイサクよ、お前に授ける武器は何もない。諦めてアマゾネスの森から出てゆくがよい。必ずやアマゾネスの誇りにかけて蟲の王は討伐して見せるでの……」
実に勿体ぶってスミルナが言うので......。
「安心してください。武器なら手持ちがあります。私の武器さえあれば、蟲の王の一匹や二匹、ちょちょいのちょいでございます!」
ーー左様でございますか?ーー
「ふふふ……ならばその自慢の武器とやらを儂に見せてみろ」スミルナが眉唾顔で言った……。
『ゴロゴロゴロッ~』
私は、パンチャック、アイアンカイザー、オールウイングと言う戦闘用武器一式を、アイテム袋から取り出して無造作に床に転がした。
「如何なる業物かと思えば……どこにでもある只の鉄器ではないか……」とペテレシアが呆れて言った。
「だけど……鯖一つなくてとても綺麗」
レイティアは庇って微笑んでくれた。
『そのとおり、使っている鎌は光るのだよ! きらりん☆彡』
「私の自慢の手造り品です」
「言うに事欠いて、名工の武器じゃないんだろ」
そう言ってペテレシアはけちをつけたが、
「ダイサク、器用」
レイティアはモナリザの微笑みでまた褒めてくれた。
ーーレイティア、大好きーー
スミルナは一番小さなアイアンカイザーを手に取ろうとして一瞬指を掛けたが、たちまち真顔になってぱっと手を引っ込めた……。
「むむむっ、ダイサクよ......お前にはこの武器が使えるのか?」
「はい、使い慣れたこの武器ならば『お茶の子さいさい』でございます。おまけに、修行僧なので回復魔法も使えます」
他の長所もそれとなくアピールしておいた。
「そうか、お前にはこの武器が使えるというのだな……そっ、そうなのだな......それならば。
ダイサクよ、ペテレシアとレイティアの二人のことを頼んだぞ!」
スミルナは口角を上げて、両手を使って頭の上で大きく○合図を作った。
「ばっ、ばかなぁぁぁ~......スミルナ!」
ペテレシアが大声を上げた。
「えっ、えええぇぇぇ~ スミルナ様!」
レイティアは驚いて声を失った。
スミルナの名答は、2人が考えていたものとは真逆だったからだ。
『一宿一飯の恩義はこの大作戦の任務中にお返ししましょう』
驚く2人を差し置き、その時私はそのように考えていた。
「一本の矢なら容易に折れるが三本まとめてなら折れにくい。何にしても2人より3人の方が良いに決まっておる。3人力を合わせれば更に強い力を発揮できるはずじゃ」
「スミルナ、あんた言っていることがめちゃくちゃだ? こいつは男だぞ、ましてや人族、役立たずの腐ったミカンではないか……」
「スミルナ様、ダイサク、途中できっと死んじゃう……」
「え~い、つべこべ言うでない、これはアマゾネス族長としての命令じゃ! ダイサクと一緒に蟲の王を討ち取って、必ず3人で無事に帰ってくるのじゃ、必ずじゃぞ! かえって、こぉいよぉぉぉ~」スミルナは固まる二人を余所にそのように言い切ったのだった。
◇◇◇
その日の暮夜、ペテレシア、レイティア、私の3人は蟲の王暗殺を実行するため、アマゾネスの森の中心にある蟲の王の城を目指して一路南下していた。
その途中で、魔石兜(カブトロン)、鋸鍬形(ソースタッグ)、巨大蟷螂(ジャイアントマンティス)、地獄雀蜂(ヘルホーネット)、鉄鎧蠍(アーマースコルピオン)、大欄蜘蛛(タランチュラス)といった、数々の恐ろしい魔蟲たちが私たちアマゾネス討伐隊の行く手を遮ったが、ペテレシアとレイティアの阿吽の呼吸の連携攻撃で、其々の魔蟲の急所を的確にアマゾネスの弓で射抜き、次から次に打ち倒していった。
この時の2人の作業があまりにも手際良くかつ洗練されていたので、私と言えば毎々後方で、2人の戦闘をぼ~っと指を咥えて見ているだけであった。
『旗から見ると、この2人のアマゾネス最強の戦士にとって、私は小判鮫か金魚の糞、はたまたお尻かじり虫に過ぎなかったのではないのだろうか……』
私は恨めしくも頼もしく思いながら、蟲の王の巣に着くまでの間、2人にはずいぶん楽をさせてもらった……
そんなこんなで、私たちは夜半過ぎに蟲の王の巣に着いた。
蟲の王の巣は、アマゾネスの森の木々や食べ残しの動物の骨を細かく砕き、それらを何かしらの粘液を使って固め造った、『サクラダファミリア』のような有機的で複雑な、芸術的形状の建築物であった。
しかしながら、その巣でせっせと働いている蟲たちは私たちには全く関心を示さなかった。ーー悲しいかな、彼らは巣を作るためだけに生まれた、働き蟻のような存在なのだろうーー
暫く巣の中を進むと迷路のような石の回廊に出た。
長い廊下のようだったが、大広間を屈折して取り囲むように造られていて先が全く見えない。しかし、私たちはその回廊において、驚愕した形相のまま石にされた数多の兵士たちを目にした。
『……ピィキーン!』
尻尾の光った山鼠が私たちの目の前で石に変わったーー
「下がれ、あの角の向こうにあれがいる」
ペテレシアがそれを見るや否やそう囁いたので、私たちは紙袋を頭に被せた家猫のように直ぐに後退りする……。
「『メドゥーサ』だ!」とペテレシアが囁いた
「スミルナが言っていたとおり……」とレイティアが呟いた。
「どうしましょう?」
「大昔、一度だけアマゾネスが蟲の王と相まみえた。……、蟲の王の門番はこのフェンリルの盾を使って倒す」
そう言ってレイティアはすっと盾を指差した。
スミルナは何らかの知識を以て、メドゥーサ攻略法をレイティアに授けているようだ。
メドゥーサは蛇の毛髪、ボウガンを個々に装着した青銅の2本の腕、黄金の片翼を持っていて、クリソベリルキャッツアイのように緑色に怪しく光る眼で、見たもの全てを石に変えるとほぼ同時に、その心臓をボウガンの魔法の矢で射抜くらしい。
そういう理由で、この回廊には心臓に矢が刺さった状態の石像や、砕け散った石の塊がたくさん落ちていた。
すでにメドゥーサは私たちの存在を察知しているらしく、ゆっくりではあるが段々とこちらへ近づいて来る。
私たちはレイティアが石の回廊の角毎に置いてきた鏡を見つつ、メドゥーサの位置を確認しながら後退を続けた。
試しにメドゥーサの目の前に生きた山鼠を放り出してみたところ…...。
『ピッシャーン、ガシュ、バッゴーン!』その瞬間に山鼠は石になり、蛇を模した魔法の矢によって粉々に砕け散ってしまった。
『こっわ~、メドゥーサ、こっわ~、見られただけで石になるなんて……!?』
緊張感が半端ない命懸けの隠れん坊だ。おまけに魔法の矢はメドゥーサが直接見た者の心臓を狙ってずっと追尾するようだ。
そして、遂にアマゾネスの戦士は勝負に出た。
メドゥーサを待ち伏せしてレイティアが身を屈め弓を構えた。
メドゥーサも鏡越しにレイティアが弓を構えているを見て取ったらしく、蛇の毛髪を1本抜いて魔力を流しそれを矢として弦にかけると、レイティアを狙って直立の状態でボウガンを構えた。
――早打ちGunmanならぬ早打ちbow woman対決だな――
メドゥーサとレイティア、どちらの矢が先に相手の胸を貫くのか……!?
しかしながら、これはスミルナがレイティアに授けた作戦であった。
メドゥーサがボウガンを構えたままの態勢で石の回廊の角を曲がった瞬間、メドゥーサの目が不気味に輝く! しかし、メドゥーサが回廊の角を曲がる間際、レイティアは弓を引き絞るのを止めてフェンリルの盾に持ち替えその盾をメドゥーサに向けて構えていた……。
『ビューン、ピッシャーン、ピキピキピッキーン』
『パッカァァァ~ン』
フェンリルの盾に映った自分を見た瞬間、メドゥーサは石になっていた。フェンリルの盾がメドゥーサの邪悪な光を跳ね返し、メドゥーサ自身を石に変えたのだった。
「うぉぉぉ、やったなレイティア!」とペテレシアが大声を上げて飛び上がり、
「うぅぅぅ、やった」と言ってレイティアは両拳を握って構えた。
一方、私は歓喜溢れる2人のアマゾネスの隣でうずくまり、思いっきりパンチャックを地面に叩きつけていた。
「……ダイサク……腹でも痛いのか!?」
「……ダイサク……ダンゴムシでもいた?」
「うるさい蠅がいたので、叩き落しておきました」
「なんだ……蠅か……」
「ん~ダンゴムシじゃない……」
「どうかお気になさらず……」
取りあえず二人には当たり障りのない返事をしておいた……。
メドゥーサが最後に明後日の方向に放った魔法の矢は、フェンリルの盾を持っていたレイティアの心臓を正確に追尾していた。
私はこのメドゥーサの魔法の矢を、パンチャック――流星蠅叩き!――でこっそりと地面に叩き落としておいた。
ペテレシアとレイティアは、電光石火の早業でメドゥーサの魔法の矢をパトリオットミサイルの如く迎撃した私の背中に声を掛けていたのだ……。
かくして、私たちアマゾネス暗殺隊はメドゥーの石の回廊を通り抜け、なんとか蟲の王のいる大広間まで辿り着いたのであった……。
ありがとうございました。
さあ、いよいよ蟲の王VSアマゾネス戦士の直接対決です。
暗殺は成功するのか? 次回をお楽しみに!




