44 アマゾネスで朝食を
こんにちは、
今回はアマゾネスの朝食をご馳走になるお話です。
どうぞ、お楽しみください。
【アマゾネスで朝食を】
私たちは縄梯子を使って地面に降り、アマゾネスの食事処に移動した。
――狼人族も木の上ではなく地に足をつけて食事を取るんだな――
「そこに座る、すぐに食べ物出す」
レイティアは、ぶっきらぼうだけど優しい物言いだ。
「はい、ありがとうございます」
人食い人種の一件で、私は昨日の夜から何も食べていなかったので、背中とお腹がくっつくぐらいお腹ぺこぺこだった。
間もなくして料理がどんどん出てきた。狼人族と言うだけあって蛋白質中心の食事だったが、『朝蛋』は体にとても良いので誰にとってもお薦めの食習慣だと思う!
◇◇◇
人の筋肉は合成と分解を繰り返していて、その合成の時に材料となるのがタンパク質である。
タンパク質は、胃液のペプシン、膵液のトリプシン、小腸のペプチターゼと言った消化酵素によって徐々に小さく分解され、最終的にアミノ酸として小腸から体内に取り込まれる。
アミノ酸は筋肉以外でも、臓器、免疫機能、酵素、ホルモンの材料として、そして時にはエネルギーとしても使われる大事な栄養素だ。
人の体の機能を維持するには、睡眠中もアミノ酸が必要不可欠なのだが、夢遊病などで本人が知らぬ間に、冷蔵庫のスポットライトを浴びているような人以外は、アミノ酸の補給はできていない。
そこで人の体は自身の筋肉を分解してアミノ酸を確保し、体のいろいろな機能を維持しようとする。
朝起きた時に自身の筋肉量が減っているのはこれが原因だ。
そこで必要になってくるのが『朝蛋』だ!
体のタンパク質が欠乏している丁度よいタイミングに、タンパク質をしっかり摂ってアミノ酸を補給することで、筋肉の分解を抑えることができる。
なお1日に必要なタンパク質量は約60グラム、1日3食を食べるとすると朝食での必要摂取量は20グラムとなる。ちなみに、肉100グラムに20グラム、卵1個に5.7グラム、チーズ1枚に4グラム、牛乳180シーシーに6グラム、ご飯1杯に3.6グラム、8枚切り食パン2枚に6.7グラム程のタンパク質が入っている。
朝食でタンパク質を取るなら、肉、卵、チーズをがっつり食べよう。
私のお勧めは無添加の魚肉ソーセージと竹輪、発がん性のある化学添加物も入ってないし、何より財布に優しい。ただし、塩がちょっと入っているのは玉に瑕……。
Sorry, we have gone off the topic now.(話がそれてごめんなさい)
◇◇◇
最初に出てきた料理は『ジャイアントピラニア』と言う魚の炭火焼だった。
ナポレオンフィッシュのような頭に大きなコブ、オイカワのような美しい虹色の鱗、口は大きく歯はむき出しの恐ろしい形相をしている、体長60センチメートル程の群れで行動する魚だ。
血や水面を叩く音に敏感に反応し、興奮状態となると群れ全体が水面が盛り上がるほどの勢いで貪欲に獲物に喰らいつくと聞いている。
ただし、身は淡白で余り脂も乗ってなくて味の方はいまいちだった。
次の料理は『ヤバカイマン』のステーキ。
アマゾン川に生息する大きな人食いワニの肉を、塩胡椒してしっかり焼いたものだ。
肉は透明感があり鶏肉のようだが、歯ごたえがあり脂がそれなりに乗っていて、鍛え上げられた闘鶏肉を食べているようだった。
「このヤバカイマンはどうやって捕まえるのですか」とレイティアに聞いてみた。
「ヤバカイマン、捕まえるのは簡単、アマゾン川にたくさん丸太のようにぷかぷかしているから、木の上から蔦の紐を繋いだ大きな矢で、その目を打ち抜いて仕留めて岸に引き寄せる……」
「重くないのですか?」
「ん~、数百kg位だと思う、アマゾネス2人で運ぶからそんな大変じゃない」
「なるほど、さすが最強のアマゾネスの戦士ですね」
「そう…?」とレイティアは当たり前のように答えた。
――尋常じゃなく、アマゾネスの戦士は人族の数倍は力持ちらしい。だからこそ、私を脇に抱えたままでも、蔦を使ってアマゾネスの森を軽々と飛ぶことが可能なのだろう――
その次の料理には『タイガーキャット(虎鯰)のバナナ蒸し』と『ププーニャの実』が運ばれてきた。
タイガーキャットのバナナ蒸しは、たっぷりと油が乗った白身をトマトと玉葱で味付けし、それをバナナの皮で包んで炭火で蒸し焼きにしてある。
魚の油と野菜が絡んで、ほんのりとバナナの香りがしている。一方、ププーニャの実は塩茹でしてあるようで、和栗のような上品でほくほくした触感だった。
二品とも日本食のような上品かつ繊細な味わいになっていて、ジャイアントピラニアやヤバカイマンといった、見た目も味も豪快なアメリカン的な料理とは対照的な料理だった。
野性的な料理と上品な料理、以前はどちらを食べるかいつも悩んでいたが、異世界では上品な料理が少なくてとても恋しい――I miss you~――
ちなみに、レイティアも私と一緒に朝食をとってくれた。
狼と名がついているので、素手でがっついて肉に食らいつくかと思っていたが、フォークとナイフを使ってとても上品に口元まで運び、口を閉じてもぐもぐと食べている。
「………!」
レイティアの食事作法に驚いて、箸を止めてしげしげと彼女の顔を眺めていると、
「なに……?」
レイティアは食事しているところを私に見られているのが気になったのか、ブルーダイヤモンドのような青く鋭い瞳で、ちょっと恥ずかしそうに私を見返した……。
それから、何より驚いたのは『タカカスープ』だ!
川海老、タロ芋、玉葱といった魚介と野菜を煮込んだスープなのだが……。
「ぎゃおぅ~おぅ~おぅ~おぅ~」
私は思わず大声を上げて叫んでしまった。
――ん~、レイティアさん、これは一体何なのでしょう?――
異世界史上最強のエネルギー電撃波がいきなり私を襲ったのだ。
タカカスープには高菜のような外形をした、見慣れない真っ赤な白い斑点の葉っぱが入っていた。
この葉っぱこそがこの料理の肝だったのか? 口に入れた瞬間に強烈な酸味が口一杯に広がり、雷に打たれたかのように脳を刺激して、すっぱいを通り越して舌が痺れる刺激的な味がする。
『ウゥゥゥ~、ウゥゥゥ~~、ウゥゥゥゥ~~~』
体中の神経細胞に空襲警報が鳴り響く、腐敗しているのか、はたまた毒物なのか、一体全体このスープはなんなのだ!?
――この不気味な野菜は食べて良いものなのか?――と思ってレイティアを見遣ると……。
「それはジャンブー、ピリピリして美味しい……」
「ええっ~、レイティアさんはこのスープがお好きなのですか?」
「…………私、ジャンブー嫌いだから」と言って含み笑いをした。
初めて見るレイティアの笑い顔はとても可愛らしかった♪
『天沼の、高き道飛ぶ鬼蜻蜓、黒き影(B29の機影)にも、青き空見ゆ。
――いいな、いいな、平和っていいな……――
最後に『マンガ』と言うマンゴーのような甘い果肉のフルーツが出てきた。
このマンガ、果肉が真っ赤でその色素が凄く強力なようだった!
「ふふふ、口の中、赤い……」私を見て再びレイティアが笑った。
「ああ、……、この果実の赤い色素の色が移ったのでしょうか?」
「なら……、わたひも、おなひ?」と言ってレイティアはぺろっと舌を出した。
レイティアの舌もマンガの色素で真っ赤になっていたのだが、狼人族と言うことか、その真っ赤な舌が思いも寄らず長く、すごくエロチックで一瞬どきっと狼狽した。
――あれだけ舌が長ければ、サクランボの枝を口の中で結ぶのも容易いかも――
フルーツで朝食を締め括り、ギンギラギンにさり気なく、思っていたことをレイティアに尋ねてみた。
「アマゾネスの皆さんも蟲の王から逃げて、当分の間はアマゾネスの森から出て行くのですか?」
「私とペテレシアが蟲の王に負けたらそうなる」とレイティアはぽつりと言った。
「え、蟲の王と戦うつもりなのですか!?」
「そう、蟲の王と戦う」
「蟲の王と戦うって……勝ち目はあるのですか?」
「心配しなくていい……アマゾネス最強の戦士は負けない」
「300人の兵士と50人の冒険者でさえ全滅してしまったんですよね?」
「そう、人族はみんな全滅した」
「その恐ろしい相手に、たった二人で戦いに行くのですか?」
「大丈夫……蟲の王だけ倒すから問題ない」
「…………暗殺ですか?」
「そう、暗闇に紛れて蟲の王を暗殺する」とレイティアはけろっと答えた。
「で、レイティアさんは戻って来れるのですか?」
「たぶん無理……でも、安心する……蟲の王も一緒に道連れ。そうすると他の蟲たち全部いなくなる」
――地獄への片道切符、若い身空でありながら玉砕覚悟で蟲の王と心中するつもりなのか――とレイティアを忍びなく思った。
「……なっ、ならば……蟲の王の討伐に参加させてください!」
そのようにレイティアに申し入れてみると、
「えっ、まっ、まあ、スミルナに聞いてみる……でも……たぶん男は弱いから無理」
レイティアは一瞬きょとんとした表情を見せたが、優しく微笑んで私に返事を戻したのだった……。
――そんな強がりを言って~もうアマゾネスったら~プンプン♪――
ありがとうございました。
7話の『うがい無し歯磨きのすすめ』、11話の『若返りの極意』、14話の『集中力を高める奥義』、16話の『認知症予防の神髄』、22話の『ダイエットの秘術』、27話の『風邪への心構え』、37話の『世界三大発酵食品とヨーグルト摂取のノウハウ』、42話の『カロリー制限による若返り遺伝子の活性方法』に続き、今回の44話では『朝蛋の手引』を公開しています。皆さんも是非お試しください。
さて、ダイサクは如何にして蟲の王の暗殺ミッションに同行するのか……?
蟲の王の城に待ち構える地獄の門番とは一体……? 次回をお楽しみに!




