43 アマゾネス
こんにちは、
今回はアマゾネスのお話です。
どうぞお楽しみください。
【アマゾネス】
『人食い人種』の魔の手から逃れ、九死に一生を得た私は、そのまま狼人族の集落へ連れて来られた。
狼人族の村はその周が高さ3m程の木の柵で囲まれていた。
その柵の中にある巨大な木々に吊り橋を掛けて、人食い人種や魔獣の襲撃を受けないように、木の上に家を作って生活をしていた。
私は丈夫な木の皮で作られた小家に案内された。
小家には入口の扉や窓もなく、寝網と簡易トイレしかなかったが、ハンモックはゆ~らゆ~らと揺れて心地よく眠れそうだ。
「今日はここで寝る、明日族長の所へ連れて行く」と銀狼の彼女が言った。
彼女は口数少なく、あまり感情を表に出さないタイプの性格のように感じた。
「ありがとうございます。
私の名はダイサク、冒険者を生業としている修行僧です」
「冒険者……」
「はい、冒険者です。宜しければ、命の恩人である貴方のお名前を教えて頂けますか?」
「……レイティア」と蚊の鳴くような小さな声で彼女は答えた。
「レイティアさんですか?」
「そう、レイティア、アマゾネスの戦士レイティア」
「レイティア、レイティアかぁ~、いい名前ですね」
「そ、そう……」
「はい、いい名前です」
「ありがとう」
「レイティアさんとお呼びしてもいいですか」
「い、いいけど……」レイティアはちょっと照れくさそうにしている。
「ところで、アマゾネスとは何でしょう?」とレイティアに聞いてみた。
「アマゾネスは敏速さと肉体的な強さ持つアマゾーンの森で最強の部族。弓、剣を使いこなす戦いに長けた女だけの武装した狩猟獣人族」
「え、と言うことは、ここには女性しかいないのですか?」
「そう、アマゾネスの戦士は女だけ」
「男性は?」
「アマゾネスから男は産まれない」
「え、男は産まれないのですか?」
「そう、男は産まれない」
「どうして男が産まれないのですか?」
「……、分からない」
「そうですか……、理由は分からないのですね」
「……、た、たぶん、男が弱いから。アマゾネスの戦士より、男がまるきり弱いから男は産まれない」
「よっ、弱いからですか?」
「そう、弱いから。力が弱いからここには居ない」と囁いてレイティアは小屋から出て行った。
話し下手なのか、あるいは恥ずかしがり屋なのか?
まだレイティアと出会って間もないので、彼女の内面については本当のところよく分からないが、類い稀な外見の美しさは誰にでもよく分かる。
レイティアは水着スタイルがとても良く似合っていて、鍛え抜かれた広背筋と大臀筋、釣鐘のような豊満な乳房、ふわふわの耳と尻尾を備えた、石像のような彼女の後ろ姿は正にアスリートの極み、神以て素晴らしかった。
◇◇◇
『キィコ~、キィコ~、キィコ~、ギィコ~、ギィコ~』
ブランコのようにハンモックが大きく揺れ出した。
『ドッス~ン!』
何と言うことでしょう。ダイサクはハンモックから落とされてしまった。
寝ぼけ眼をこすりながら起きると、既に窓から強い日が射していて、小屋の入り口に黒い人影が見えた……。
そう......レイティアがわざわざハンモックを揺らして私を起こしてくれたようだ。
ーーレイティアさん、もう少し優しく起こしてくださいよ~ーー
「レイティアさん、おはようございます」
「族長が呼んでいる、ついて来る」
そう言うと、レイティアはすっと私の前を歩き出した。
巨木の間の架け橋を5本ほど渡り、小屋の4~5倍程大きな家の前に着いた。
「ここが族長の大部屋。中で族長が待っている、入る」
「お邪魔しま~す」
そこの奥には熟年の族長と思しき、白の地に消し炭色の大きな斑点のある髪に、亜麻色の肌の戦士が片膝をついて座っていた。
またその右側には、山吹色の髪、小麦色の肌、筋肉隆々のレイティアと同じアマゾネスの戦士が、腕を組み仁王立ちで堂々と立っていた。
「スミルナ様、連れて来た」
レイティアはそう言ってそのまま族長の左側に立ち、私は族長と思しきスミルナの正面に進んだ。
「よう来た若いの、此度はほんに災難じゃったな。
儂の名はスミルナ。狼人族、アマゾネスの族長じゃ。
そしてこっちの山吹の戦士がペテレシア。
そっちのお前を人食い人種から助け出した白銀の戦士がレイティアじゃ」
そう言うと、スミルナは私を上から下まで舐めるように見定めた。
其間、ペテレシアは正面を向いたまま微動だにせず、レイティアは目を閉じて静かに俯いていた。
「スミルナ様、この度は危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
良識ある社会人として、私はまず初めにお礼を言った。
「してお前さんは、なにゆえ人食い人種なぞに捕まっておったのじゃ?」
アマゾネス族長のスミルナが私に理由を尋ねた。
「よくぞ聞いてくださいました。それはもう、聞くも涙、語るも涙の物語でございます。私はアマゾネスの森を抜けて、名工が集まっているという鍛冶の村『シェフィールド』を目指していたのですが、アマゾネスの森の獣道は、私が想定していたよりもずっと歩き辛く、森を抜ける前に日が暮れてしまい、仕方なく野宿していたのですが……疲れて寝入っている間に人食い人種に捕まり、釜茹でにされ、正に彼らに食べられそうになっていたのです」
「このアマゾネスの森の獣道を歩いて通り抜けようとするとは… とんだ阿呆も居ったものじゃ! よくぞ大きな怪我もせずに此処まで辿り着けたの。お前は相当の悪運の持ち主のようじゃのう~......このアマゾネスの森には、ジャイアントピラニア、アナコンダ、電撃ウナギ、ヤバカイマン、メガロドン、吸血蝙蝠、大人蟻食い、飛びノコギリエイ、電網タランチュラ、影ジャガーと言った、危険な魔獣が餌を求めてうろうろと歩き回っておる。生半可な知識や装備でこの森を抜けようとするとは…...お前はほんに大馬鹿者だな!」
『冒険者ギルドで事前に聞いていた情報よりも、やばいワードがずらりと並んでいる』と思い身の毛がよだつ。
「危機一髪のところを助けて頂きまして、返す言葉もございません」
「人族は普通、誰も彼もが船でアマゾネスの森を抜ける......まぁ~、今は舟が使えぬので、お前のように歩いて通り抜けようとして、死して屍となる輩も多かれ少なかれ居るであろうがな」
「そ、そう、それなのですが、なぜ舟が使えなくなっているのでしょうか?
最近、舟が何艘も行方不明になっていて、安全が確認されるまで、全ての舟は運航停止になっているとのことだったので、私は歩いてアマゾネスの森を抜けることにしたのですが…」
「ダイサクよ、悪いことは言わん。
森の入口まで送ってやるので、このまま、もと来た道を引き返すがよい」
スミルナは険しい顔で答えた。
「いえ、できればこのままアマゾネスの森を抜けたいのですが」
「どうしてもか?」
「はい、どうしても」
「むむむぅ~、最終回答~?」
「ファイナルアンサー!」
スミルナの目をじっと見ながら真っ正直に答えたところ…
「駄目じゃ!」
スミルナは白く輝く鋭い犬歯を見せながら、両手で大きく×印をした。
「あっと驚く源五郎~ なぜでしょうか?」と思わず反射的に聞き返した。
「そ、それはのう、ついに恐れていた蟲の王が誕生してしまったからじゃ!」
「蟲の王ですか?」
「そうじゃ、蟲の王じゃ!
アマゾネスの伝承では、300年に一度蟲の王が現れ、その誕生から6年6月6日の期間、アマゾネスの森は蟲の王に支配されると言い伝えられておる」
「蟲の王に支配されるとは、どういう意味なのでしょうか?」
「それはつまり、アマゾネスの森に住まう全ての物が、生きながらにして蟲の贄になるということじゃ!
蟲たちはもう既に森の中心に巨大な巣を作り、アマゾネスの森の食物連鎖をひっくり返して、森に住まう生物を片っ端から食い散らしておる」
「蟲の王とは魔物なのですか?」
「いな、蟲の王とは真の強き者、その寿命と引き換えに膨大な力を得た、我々に審判を下す者なのじゃ」スミルナはひしひしと語った。
「国の軍隊や冒険者ギルドの高ランク冒険者たちは、蟲の王の討伐を行わないのですか?」
「……………」スミルナは黙った。
「人族程度では、どんなに束になっても蟲の王には勝てやせぬ。先日、300人の兵士と50人の冒険者が蟲の巣に入ったきり、誰一人として戻って来てはおらん。恐らく蟲共に殺され、食べられてしまったのだろう」
そう言ってペテレシアが横から口を挟むと、その場を沈黙が支配した…
「まぁ、とりあえず朝飯でも食べてゆくがよい」とスミルナが場を和ませた。
「助けてもらった上に食事まで! あ、ありがとうございます」
レイティア、客人にアマゾネスの料理を振る舞ってやれ」
「わかった」レイティアはスミルナの命令に頷くと、私に付いて来るようちらりと目配せした。
私はレイティアに連れられて、美味ちぃ朝食を頂くことになった。
ーーアマゾネスの朝食ってどんなだろう? 楽しみぃ~んみんみん、み~んーー
ありがとうございました。
次のお話はレイティアと一緒に『アマゾンで朝食を……!?』です。
次回をお楽しみに!




