42 人食い人種
こんにちは、
今回はアマゾネスの森のお話です。
どうぞ、お楽しみください。
【人食い人種】
それにしてもお腹が空いた。
私は異世界に来てから腹八分ならぬ腹七分の『カロリー制限』をしているので、常時お腹が減っている状態にある。
以前家族と一緒に生活していた頃は、やれ朝ごはん、もうお昼、晩御飯何にしましょうと、自分の思うような食事ができなかったが、異世界では己に打ち勝ちカロリー制限を何とか実践できている。
何を隠そう、私が30%減のカロリー制限をしているのは、若返りの遺伝子を活性化させて若さを保つためだ。
人の体の細胞には『サーチュイン遺伝子』という、抗老化・延命に深く関係する長寿遺伝子というものが存在している。
サーチュイン遺伝子が活性化すると、全身の老化した細胞に働きかけて生体の遺伝情報を保持することが可能となる。それはDNA(デオキシリボ核酸)を修復し細胞を若返らせて、以下のような利点を生み出す。
1)脳の神経変性疾患を抑制
2)知症の抑制
3)心筋の保護
4)肝臓の代謝改善
5)脂肪が溜まりにくい身体を作る
6)インスリンの分泌の促進
7)骨格筋の代謝改善
またサーチュイン遺伝子による若返りで、次のとおり様々な疾患を抑制する。
1)認知症
2)加齢性の難聴
3)脂肪肝
4)癌(ガン)
5)心血管系の疾患
サーチュイン遺伝子は7種類あり、その中でも次の3つが細胞の若返りに大きく影響を与えている。
1)細胞の核・細胞質にある『SIRT1』は、炎症を押さえ全身のアンチエイジングに効果を発揮する
2)ミトコンドリアにある『SIRT3』は、活性酸素を消去する作用があり加齢性の難聴を抑制できる
3)核にある『SIRT3』は、細胞の老化を抑制し寿命延長する
つまり、サーチュイン遺伝子の活性化のために最も効果的なのは『カロリー制限』ということで、要するに『腹七分』が一番良いと私は信じているのだ!
カロリー制限によるアンチエイジング効果は、1960年代には明らかになっていて、アメリカの大学の動物(モンキ―)実験でも証明されている。
カロリー制限によって細胞の新陳代謝が促進されて、オートファジー(細胞の自食作用)も活性化するため、相乗効果によるアンチエイジングも期待できる。
残りの一つの方法は『サーチュイン遺伝子』を活性化させる食べ物を摂取することで、ザクロのエキスに含まれる『ウロリチン』は、ザクロに含まれるポリフェノールの一種のエラグ酸の分解物質であり、『ウロリチン』によって全身の『サーチュイン遺伝子』を活性化し、食べることでアンチエイジングを実現できると考えられている。
ただ私の祖父母の家の庭にザクロの木が植えてあったので、その実をちょくちょく食べたことがあるのだが、酸っぱくて食感がプチプチッとしているので、私はあまり好きではなかった。
またザクロは――人肉の味がする――として昔は好まれていなかった。
これは人の子を食べる鬼子母神と呼ばれた訶梨帝母に、釈迦がザクロを与えて「人の子のかわりにその実を食べよ!」と戒めたという、仏教説話が日本に伝わっていたからだ。
昔は姨捨山があったように食いぶちに困り、歳を取った人が長生きすると家族が生活に困窮するので、長生きできるザクロは食べさせないようにしていたとも言われるが、今となってはそのような非道な逸話の真相は闇の中だ。
◇◇◇
私は紡績都市ミュールから南に下り、一路、次の目的地である鍛冶の村――シェフィールド――を目指して、アマゾネスの森の道なき道を進んでいた。
アマゾネスの森はその中央をアマゾン川という大きな川が流れている。
ここでの主要な移動手段は舟であり、当然ながら森には舗装された道などなく、陸での移動は獣道を行くしかない。
その獣道に沿ってノウゼンカズラ(凌霄花)の橙色の花が咲き誇っており、森林亜熱帯の植物が絡み合うように密生していて、ジャングルの瑞々しい緑がとても美しい。
しかしながら、アマゾネスの森はとても広く深かったので、このおどろおどろしい森で私は仕方なく野宿する羽目になった。
『ホォ~ホォ~ホォ~、ホォ~ホォ~ホォ~』
アマゾネスの森に住まう木菟の鳴き声を聞きながら、私は大木の根元にこしらえた葉っぱの寝床で、深い眠りについていたはずだったのだが……。
『パチパチパチ、パチパチパチ♪』
私は心地よい薪が燃える音で目が覚めた……。
「いい湯だな、あはん。ここはアマゾネス、アマゾンの湯ぅ〜」と寝言を呟く。
――あれれっ、お風呂で寝落ちでもしたのかな――
寝ぼけ眼で辺りを見回すと……なんとも槍や鉈を手にしたほぼ裸の原住民が、私が入っているドラム缶サイズの釜の周りを、太鼓を打ち鳴らし木製のラッパのようなものを吹き鳴らしながら、輪になって楽しそうに踊っていた。
『ズンドッドッドッ、ズンドッドッドッ』
原住民たちは、太鼓の拍子に合わせて天を仰いで地を見下ろす上下動を行うと、
『パァパァラッ、パァパァラッ、パァパァラッ』
次にラッパの音に合わせて、舌を出し、平行に真っ直ぐ伸ばした両手を体の左右に大きく振っては、片足を上げてちんちんの動作を繰り返している。
「人食い人種なのか……生まれて初めて遭遇するな」
人食い人種は、飢餓などの特別な理由が無く、人間を食料として食べる習慣や文化を持つ民族だ。
私は熟睡している間に人食い人種に捕まって、釜に入れられ調理されている最中のようだった……。
――マジシャンプ~……チャン、リン、シャン……このままでは人食い人種にシチューにされて食べられてしまう……――
異世界にて最大の危機に瀕した私は、急いで釜から脱出すべく、とりあえず彼らに笑顔で話し掛けてみた。
「すみません。あのぉ~、そろそろここから出してもらいたいのですが…」
言葉が全く通じなさそうな人食い人種に対して、文化人代表の私が手振り身振りでお願いしてみると……。
言葉は通じなくてもジェスチャーだけで私の意図は人食い人種にも十分伝わったようで、うんうんと大きく頷いたが……直ぐに両手で大きく×合図をしやがった!!
「何ですか~あんたはキリストか……太った白塗りのキリストなのか?」
――Oh My God(オ―マイガー)! なんてこった、ぱんなこった、釜茹でなんていやなこった――
私は思わずバケツの水が落ちてこないか天を仰いだ。
「お前食う、腹膨れる、俺たち満足」
槍を持った戦士は満面の笑みを浮かべて言った。
「バーベQニシテ、食おうか!」
小さな4歳ぐらいの子供戦士は、片言の言語でにやりと吐き捨てるように言った……。
――駄目だこりゃ~彼らは生粋の『人食い人種』なのだな――と私は思った。
釜から立ち上る湯けむりとともに、太鼓とラッパの音は一段と大きくなり、人食い人種たちは全員で音楽に合わせて加えて掛け声までかけ出した……。
『ズン、ドッドッドッ、ズン、ドッドッドッ♪ パァパァ~ラッ、パァパァ~ラッ、パァパァ~ラッ♪』
「釜入れ、釜入れ!」
『ズン、ドッドッドッ、ズン、ドッドッドッ♪ パァパァ~ラッ、パァパァ~ラッ、パァパァ~ラッ♪』
「釜入れ、釜入れ!」
「いててっ!」
頭に何か当たるので声を出して上を見ると……、
『ポチャッ、ポチャッ、コツン、コツン、コツン』
釜の傍では、女たちは薪をくべて火力を上げ、ぎらりと光る鉈で、タロイモ、ニンジン、椰子やら何やらの野菜とフルーツを、私の頭の上でぶつ切りにしては釜の中にそのまま落し入れている。
――はてさて、ここからどうやって脱出しようか?――
たとえ『人食い人種』とはいえ、悪気のない人たちに暴力を振るうのは感心しない。
『デカルチャー』ということで、良識ある私は彼らを殺傷せずに逃げる算段を企てることにしたのだが……。
1)『縮空』を使って空間を捻じ曲げてショートワープする。
但し、既に辺りは真っ暗になっていて、近距離とは言え見えないのでは何処にワープするかも分からない。
人食い人種に食べられなくても、出合頭にジャイアントピラニアや穴棍蛇に食べられてしまうのでは仕方ない。正に元の木阿弥だ。
2)『流星全方位銭投げ』で釜を割って、人食い人種が右往左往している間に林檎加速で立ち去る。
こちらの作戦の方が確実だが、銅貨に当たって人食い人種たちが怪我をする可能性があるし、路銀がなくなると旅を続けるのに大変困ってしまう。
3)ペルシア帝国軍に対してやったように、上昇気流を起こしてスーパーセルを発生させ、嵐に紛れて雲隠れする。
但し、これだと規模がでかすぎて、アマゾネスの森そのものを自然破壊してしまいそうだ。また万が一火事にでもなったら目も当てられない。
「どれにしようかな……天の神様の言うとおり……スッポコポンのスッポンポン!?」
私が色々悩んでいるうちに、ぐつぐつと釜のお湯の温度がぐんぐん上がって、釜の底に沈んでいる野菜の上でのつま先立ちもそろそろ辛くなってきた。
――ええい、野宿も致し方ない……作戦No.2で……やっちゃうぞ、馬鹿野郎――と思った矢先だった!
「あ~あ~ぁぁぁ~、あ~あ~ぁぁぁ~」
何処からともなく大きな叫び声が聞こえる……。
「ギルッ、ギルッ、ギルッ、ギルッ、ギルッ……」
人食い人種たちは、空を指さし、入り乱れ、混乱していた……。
『ザブッ~シャバァァァ~ン』
次の瞬間、私の体は釜の湯面からぶわっと浮き上がり、張りのある大胸筋、筋肉質な上腕二頭筋、フワフワの毛を持った何者かに抱き抱えられたまま、アマゾネスの森の空を飛んでいた……。
私は危機一髪のところを銀色の女獣人に救い出されたようだ……。
巨木の蔦から蔦へ、まるでジャングルの王者ターザンの如く、飛び移っていく細マッチョな女の獣人。
見た目から判断すると『狼人族』のようだ。月白の長髪が、月の光できらきらと輝きとても美しかった……。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
私がとりあえずお礼を言うと……、
狼人族の彼女は、ブルーダイヤモンドのような青く鋭い瞳でちらりと見やると、私を脇に抱えたままアマゾネスの森を跳び続けたのだった……。
「キャァァァ~、キャァァァ~」
私はスペースマウンテンにでも乗った気分になって、アマゾネスの森中に響くような大きな声で、両手を前に出して歓声を上げていた……。
――乗って後悔するか。乗らずに後悔するか。シュゥ!――
ありがとうございました。
7話の『うがい無し歯磨きのすすめ』、11話の『若返りの極意』、14話の『集中力を高める奥義』、16話の『認知症予防の神髄』、22話の『ダイエットの秘術』、27話では『風邪への心構え』、37話の『世界三大発酵食品とヨーグルト摂取のノウハウ』に続き、今回の42話では『カロリー制限による若返り遺伝子の活性方法』を公開しています。皆さんも是非お試しください。
さて、危機一髪のところを人食い人種から助け出されたダイサクは何処へ連れていかれるのか…
蟲の王とは一体? 次回をお楽しみに!




