37 大聖女オーレリア
こんにちは、
『紡績都市ミュール』のお話です。
どうぞお楽しみください。
【大聖女オーレリア】
眩しく輝く太陽に、青い空と白い雲、見渡す限り眼前に広がる桑の木の可愛いくて白い花、桑の葉と熟した紫色の実が、優しい風に吹かれてゆらゆらと揺れている。
私ことダイサクは、こちらの異世界にやって来てから、提婆達多のような厳格な先生との厳しい3年間の修行を経た後、今はあてもなくのんびりと歩き回りながら、気ままな一人旅を楽しんでいる。 まぁ~、受験戦争を終えた浪人生が、桜舞い散るキャンパスで、鼻歌交じりにるんるんとスキップをしているような感じだ。
そうは言っても、今、私の隣にはオーレリアがいるので、彼女に対して少し配慮する必要があるのだが、ちょっとくらい気を使ったとしても、女の子との二人旅は、自分の娘と旅しているようで、これはこれで意外と……、いやいや、結構楽しい!
私とオーレリアは、モレアの村を出てから一月かけて、どうにかこうにか彼女のおじいさんが住むという、『紡績都市ミュール』の近郊まで辿り着いた。
その道中、オーレリアがこの世の中を一人でも生きていけるように、私は魔法と健康管理についてスパルタ教育を行っていた。
この世界において、魔法は基本的に一人一系統しか使うことができない。
司祭、僧侶、神官、坊主といった聖職者は、回復魔法を主要とする、聖(白)魔法のみしか行使できない――恐らく聖魔法の資質がある者は、最終的にはそう言った職に就くことになっているのだろう――
魔術師、魔導士、魔法戦士と言った魔法使いにおいては、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、支援魔法など、異なる属性の魔法を複数使える者は殆どいない。
また、特定の種族にしか行使できない魔法も存在する。例を挙げると、精霊魔法はエルフ族しか使えないし、黒魔法は魔族のみしか使うことができない。魔法とは少し違うが、錬金術はドワーフ族にその行使が限定されている。
ちなみに、私のチート過ぎる林檎引力、すなわちアップルパワーは、その源流を、魔法のように魔素から得ている訳ではなく、魔素とは全く別のもの、21世紀の宇宙物理学で言うところの暗黒エネルギーから得ている力だと考えられる。
「ラプラスの悪魔の野郎がなんとか――」と先生は仰っていたが……。
魔法適性は、その者が生まれつき持っている資質で決まっていて、どんなに努力しても、魔法適性を持たない者が魔法を使うことはできない。
それでも何としても魔法を使いたいと言うのであれば、目玉が飛び出るほど高価な魔法の武具を手に入れるしかないのだ。
魔法に限って言えば、私は聖魔法しか使えない。そして、オーレリアも都合よく聖魔法の資質を持っていた。
オーレリアは彼女自身に魔法の資質があるとは夢にも思っていなかったようだが、『類は類を呼ぶ』とはよく言ったもので、私が唯一使用できる聖魔法の資質を彼女は持ち合わせていたのだ。
「オーレリア」
私は桑の花に見とれていた彼女に呼びかけた。
「はっ、はい……」
オーレリアは彼女は返事をしながら、フェラーリ・ディーノのような鮮やかな赤い髪をなびかせて振り返り、金色の優しいまなざしで私を見詰めた――
「私と魔法の練習をしてみようか!」
「えっ? まっ、魔法ですか、私が魔法の練習って……」
オーレリアは怪訝な表情で私を見つめた。
「ふっ、大丈夫だよ。オーレリアは聖魔法の資質を持っているよ……聖なる修行僧の私にはそれが何となく分かるんだ。もし魔法を使えるようになったら便利だし、先行き食うに困らないよ……さぁ、さぁ、さぁ~」
私はにやりと笑って説得を続ける。
「失敗は成功のもと、さっそく練習をしてみましょう、そうしましょう! 為せば成る、為さねば成らぬ 、何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」
「……それはどういう意味なのですか?」
「やれば出来る、できないのはやらないからで、何事においてもやらない人というのは、やろうとしていないに過ぎない――と言う意味だよ! 私の祖国の偉人が残した有難〜いお言葉だよ!」
「……強い意志をもって頑張れば、 きっと願いは叶うということですね――」
オーレリアはそう呟くと、私の真剣なキラキラした星のような眼差しを見ながら、真っ直ぐな金の瞳を以てこくりと真摯に頷いた。
「まぁ、練習だから気負わなくていいよ。 それじゃあ、先ず手を出してみて――」
「はっ、はい」
オーレリアはしなやかな手をすっと差し出した。
私は彼女の左右の手を優しく手に取ると、掴んだ彼女の右手から、いわゆる『呼び水』として彼女の体の中へ聖魔法を徐々に流していった。
「あっ!」とオーレリアが短い声を上げた。
彼女の体の中で、水面に投げた小石が作る波のように、魔力の波紋がだんだんと広がり走り始める。
それから、私はオーレリアの額と私の額を軽くこつんと合わせ声を掛けた。
「魔法の流れを感じてみて」
『この練習は先生の奥さんのメーテルさんとやった私の美しくも淡い三度目の恋?の思い出だ。時が過ぎて、今、心から言える! インドの山奥で修行している空気感の先生とじゃなくて、本当に良かった!』
「その流れを私に返してみて」
そう私がオーレリアに言うと、彼女は少し緊張している面持ちで、清水がちょろちょろと湧き出るような、小さな魔力を流してきた。
『随分と流れが悪いな』
オーレリアは生まれてからこれまで一度も、魔法と言うものを、使ったことがないのではないだろうか!?
彼女の体の至るところで魔法の流れが遮断されている。
『魔法を使い続けていれば、このような抵抗はなくなり魔力は上手く流れるようになるのだが……』
「ええぃ、ままよ、突貫工事だ――」
『ケセラセラ、未来は誰にも分からないけど、なるようになれぇ~』
そう思った私はぐぐっぐいっと、オーレリアの体へ強引に魔力を流し込んだ――
「え、えっ、何をしたのですか?」オーレリアが思わず驚きの声をあげた。
「わっ、分かります――何かが身体の中を凄い勢いで流れています――こっ、これが魔力なのですか?」
「そうだよ、それが魔力の流れだよ。君の体の中からも、新たに魔力が溢れ出しているのが分かるかな?」
「は、はい、分かります。私のお臍の辺りから、何かが溢れ出すのが分かります」
「じゃぁ、その魔力を左手の指先から体の外に流してごらん……そうそう……魔力は上手……転ぶはお下手」
「いい感じになってきた、きた、きたぁ〜」
私はそう呟くと、にやりと笑って彼女の手を離した。
そして決死の思い――清水の舞台から飛び降りる――を以って、唐突に自分の右の人差し指の先っちょに小型ナイフで深さ2~3mm程度の切り傷をつけた。
「いっっったぁぁぁ~い、君のその魔法の力で、この傷を治してください!」
指先から薄っすらと血が滲むのと一緒に、私の目からも涙が浮かぶ。
私はオーレリアに経験を積ませるために、あえて自ら進んで練習台となったのだ。
魔法は想像力がとても大事で、より具体的に思い描き想像することで、より強く魔法による事象は顕現する。
「先ずは強く短く魔力を流して、私の体にある傷の場所を探ってみて」
「……強く短くですね……こうでしょうか」
オーレリアは私の手を取ると私に向けて魔力波を発射した。
『コッコ~ン』
彼女の魔力波が私の傷口に反射する音が聞こえた。
これは潜水艦のアクティブソナーと同じような方法で、探信音の代わりに魔力波を使って、その反射を利用して異常箇所を特定する方法だ。
「私の指先で、何か引っ掛かる感じがしたでしょう?」
「はい、ダイサクさんの指先辺りで、何か違和感があったように感じました」
「そうそう、それが異常のある箇所だよ。その違和感のあった箇所に意識を集中して、そこにオーレリアの魔力を集めてみて」
「はい」
オーレリアは私の傷口に魔力を注ぎ込む……。
「いい感じ……さぁ、イメージして……貴方に経験を積ませるために、決死の思いで自分に傷をつけた私が……心の底から痛い痛いと泣いている。可哀想と思うのならば、早く治して母親」
そう言いながら目をつむりオーレリアの魔力を引き込んだ。
「そう、いい感じ……オーレリア、傷口が魔力で満たされて真っ白になったら、傷が治った状態を想像しながら唱えてみて……治癒と――」
「治癒!」
オーレリアが魔法の言葉を唱えると、私の傷口は白く輝き一瞬で消え去ったのだった。
「一発合格」と思わず喜び叫ぶ私の目の前で――
「で、できました」オーレリアは泣きそうな声を出した。
「ダイサクさん、今までと何かが違うの、体の中を力が駆け巡っている感じ……」
私は牧場とガッツポーズする。
「よく頑張った……感動した! オーレリア――これこそが魔法の力さ」
「こ、これが魔法……す、凄い……本当に凄いです」
オーレリアは自分の手のひらをじっと見つめて、うるうると涙が溢れそうになっている……。
「あとは反復練習して、何時でも何処でも使えるようにしておかないとね」
「はい、わかりました。やはり、ダイサクさんは神様なのですね!?」
「いやいや、回復魔法は聖職者なら誰でも使えるから、普通だよ、普通」
「そうなのですか?」
「そうだよ」
「海を凍らせて、津波を止めることも……」
「たっ、たぶん、できるんじゃないかなぁ~」と私は言って、歯切れ悪く話を濁すが――
「雪雲を打ち抜き、消し飛ばして、見る見るうちに青空にしたのも?」
そう言って、オーレリアは直ぐに追い打ちをかけてきた。
「パンチは予備動作なしに、瞬時に打ち抜くのが基本だからね。
あのパンチを完成させるのに、そうだねぇ……一万回は練習したかな。まさに努力の結晶さっ。
歯を食いしばって限界を超え続けていれば、誰でも必ずできるようになると思うよ」と言って、私はその場しのぎの言い訳をしたのだが……。
「只の波乗り板や雪車に乗って猛スピードで雪山を越えたり、白狼魔獣の群れをあっと言う間に薙ぎ払ったり、猛吹雪の中で私たちの周りだけ春のような陽気にするなんて、やっぱり、ダイサクさんは神様ですよね」
そうと言ってオーレリアは全く攻撃の手を緩めてくれそうにない。
私は、早く、安全に、快適に彼女を目的地に送り届けた方が良いだろうと思って、アップルパワーの片鱗をうっかり見せ過ぎてしまっていたようだ。
「……私はアイアン等級の冒険者だよ。冒険者ならば、これくらいはお茶の子さいさいだと……思う……よ……」と言って、
オーレリアからこれ以上の追求を受けないように会話を茶化すと、
「本当に神様じゃないのですかぁ~、まぁいいです。ダイサクさんがそう言われるのならば、そう言うことにしておきますね」
彼女は含みを持たせつつも、さしあたっての追撃をここまでで一旦止めてくれた。
私は機を逃さず、人体の細胞、器官、骨格、筋肉等の構造に関する保健体育の授業にさっと話をすり替えて、都合の悪い話は有耶無耶にしようと頑張った……。
ちなみに目と耳の構造はとても複雑なので、これらについては少し時間をかけて教えた。
しかし、当然のことながらオーレリアは余り理解できていない様子だったので、とりあえず彼女には何も考えずに丸暗記してもらった。
――結論としてオーレリアは天才だった!
私が何ヶ月も掛けて身につけた聖魔法を、たった1週間で使えるようになってしまった。
それだけでなく、彼女の魔力は質も量も一級品だった。然してここに僧侶オーレリアではなく、その2ランク以上上位の『大聖女オーレリア』が誕生したのだった!
「やっば~、周瑜クラスだな」
私は三国志で有能な武将を在野で手に入れたようで、思わず小躍りしてしまった。
――人が成長するのはとても嬉しくて楽しいのだ――
一方、もう一つの健康管理の教育について、健康は『食』からと言うのが私の基本の考えだ。その星の数ほどある食べ物の中でも、発酵食品は健康維持に絶対に欠かすことができない。
オーレリアにはそれを踏まえて世界三大発酵食品である、納豆、キムチ、ヨーグルトを一つずつ順番に食べてもらった。
「先ずは納豆から食べてみて」
「なっ、納豆ですか?」
「蒸した大豆を、藁で包んで発酵させた、私の祖国の食べ物だよ。体にとっても良いんだよ♪」
「発酵? 何と言ったら良いか……、とても臭いです」
オーレリアは鼻をつまんで、貝のように口を噤んだ。確かに私も子供の頃は納豆が苦手だった、あご出し醤油もないし……。
ちなみに、モレアの村のキャロとボーラ村長には醤油の作り方を教えているので――出来上がる頃合いに行ってみよう――自然と笑みが零れた。
「これはどう?」
次は彼女にキムチを食べてもらった。
キムチは植物性の乳酸菌を含んだ発酵食品で、ヨーグルトなどの動物性の乳酸菌よりも丈夫で、生きたまま腸に届いて善玉菌を活性化させて腸内環境を整えてくれるのだが……。
「ひゃ~、辛い、辛い、お水、お水ぅぅぅ~」
「はっ、はい、お水、お水」
私は緊急でコップの水を彼女に手渡した。
辛過ぎる食べ物は、こっちでは余り見かけないので、この反応は是非もなし……。
「これはきっと大丈夫だと思うよ」
最後はオーレリアにヨーグルトを食べてもらった。
「他の二つと違って匂いは無いですね。え、えっ……これ……おいしい~」
そう言って彼女の匙が進んだ……。
オーレリアは天然の蜂蜜入りのヨーグルトを、とっても気に入ってくれたようだ。私は彼女にヨーグルトの作り方を教えて、毎日の夕食後にヨーグルトを食べるよう勧めたのであった。
◇◇◇
ヨーグルトには、乳酸菌やビフィズス菌と言った善玉菌が含まれており、これらは悪玉菌などの増殖を抑え、腸内フローラのバランスを整えると言われている。
腸内フローラとは、腸内に生息している細菌の集団のことで、その働きにより、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つに分けることができ、ヨーグルトを食べることによって善玉菌を摂取でき、腸内環境を整える効果が期待できるようだ。
ちなみに、腸が最も活発に活動するのは、起床から15〜19時間後で、朝7時に起床すると仮定すると、夜10時〜深夜2時が腸のゴールデンタイムになる。
乳酸菌やビフィズス菌は胃酸に弱く、腸に届く前に死滅することもあるらしく、これらを生きたまま腸に送り届けるには、胃酸が多く出やすい空腹時を避ける必要もあるので、夕食後、この腸のゴールデンタイムにタイミングを合わせて、ヨーグルトを食べるのが、一石二鳥、腸活には一番良いようだ。
腸内環境を整えて便秘を抑えると、肌荒れを防いで美肌効果を期待できる。また腸内環境を整えると、腸の動きが活発になり、基礎代謝量が増加して消費カロリーが増え、ダイエット効果も見込めるらしい。
尚、サツマイモ、ごぼう、きのこ類、柿などの食物繊維の多い食物とヨーグルトを一緒に取ると、腸活の効果をより発揮するということだ。
ありがとうございました。
7話の『うがい無し歯磨きのすすめ』、11話の『若返りの極意』、14話の『集中力を高める奥義』、16話の『認知症予防の神髄』、22話の『ダイエットの秘術』、27話では『風邪への心構え』に続いて、37話では『世界三大発酵食品とヨーグルト摂取のノウハウ』を公開しています。
皆さんも是非お試しください。
さて、大聖女オーレリアの活躍は如何に?
次回をお楽しみに!




