36 津波
こんにちは、
いよいよ魔人クラーケンとの対決です。
はたまたモレアの村は津波から逃れることができたのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
【津波】
『バッサッァァァ~――ジャジャジャジャ~ン――』
私は女装衣として羽織っていた白無垢をさっと脱ぎ捨てると、魔人クラーケンに対して出し抜けにこちらの正体を明かした……。
「グッ、グロロロロォォォ~……おっ、男だとぉ~……儂を謀りおって! きっ、貴様――いっ、生きてこの島から帰れると思うな!! 貴様は八つ裂きにして魔海獣の餌とし、逃げた生贄の女どもを連れ戻した後には、たちどころにモレアの村は何一つ残らず、全て『津波』に呑まれ流される――それが儂に盾突いた愚か者たちの運命だ――」
魔人クラーケンは目を見開き、凄まじい怒りの形相で怒っている。
「関係ないね――」
私は多くは語らず魔人クラーケンの白金の魔手甲に対して、自らアイアンカイザー(鉄ノ皇帝)と呼ぶ接近戦用の鉄拳鍔を粛々と装着した……。
「フゥォアァァァァ~」
私は怪鳥のような声を出しつつ腹から息を吐き出して呼吸を整えると、足を大きく開いて右手と右足をずいと前に出し、魔人クラーケンに対して体を真横に構えた。
それから左の頬に付いた蛸墨を親指ですっと拭うと、右手の人差し指と中指をくいくいっと曲げて挑発する。
――さぁさぁ~最終海戦トラファルガーの始まりだ――
「グログログロ、グロロロォ~人族の力など魔人の力の足元にも及ばぬわ……この一撃の神罰で終わりだ! ギョッギョエェェ~」
魔人クラーケンは大声で叫びながら、その魔人の持つ力に任せて私へ右ストレートパンチを放ってきた。
「笑止千万……遅すぎてあくびが出るぜ!」
――七人の侍の方が全然強かった。にゃんちゅうか、本中華♪―
『ドッゴッ~ン、シュ、シュ、シュ、シュ』
魔人クラーケンの死角となる右の懐にすっと入り込み、蛸の右のパンチに得意の左のクロスカウンターパンチを合わせると、風切る鉄拳を立て続けに打ち込んだ――
「魔人クラーケンよ、あちきの鉄拳! 受けきれるものなら受けてみろっ!!」
――打つべし! 打つべし! 打つべし! 打つべし~!!――
私は蛸の、こめかみ、顎、腹、肝臓、みぞおちへ――パンチ、パンチ、パンチィィィ~――の連打で畳みかけた。
紛れもない蛸殴りの雨嵐で、ぴしっと勝負を決めたつもりだったのだが……。
「きっ、貴様ぁ~何をやっておる。どこの誰の許しを得て、この竜神様たる儂に触れておるのかぁ~!?」
魔人クラーケンは腸が煮え繰り返り、茹蛸のように更に真っ赤になっていたが、私が見る限りでは少しも痛みを感じているようには見えない?
私の鉄拳は確実に魔人クラーケンの急所に当たっているはずなのだが、蛸のぶよぶよした筋肉に阻まれているせいか、全くダメージを受けていない様子だった……。
――やはり……蛸よぉ~蛸よのぅ~――
「蛸ノ円舞!」
魔人クラーケンが叫ぶと、腰にある蛸足のような8本の触手が伸びた。
それから八景島シーパラダイスの蛸踊りのように、美しくも、怪しく、可笑しく、うにゅうにゅと動き出すや否や――
「蛸腕襲撃!」
魔人クラーケンの8本の触手はモース硬度9のルビーのように固くなり、私を串刺しにすべく真っ直ぐに伸びて鋭く突いてきた!
「アプセル!」
私は林檎加速を使って蛸腕襲撃の連撃を紙一重で躱すと、魔人クラーケンとの距離をひとまず空けた。
――蛸との間合いを上手く取ったつもりだったのだが――
「蛸墨黒弾!」
『ガッガッガッガッガッ! バッバッバッバッバッ!』
魔人クラーケンは頭部にあるドレッドヘアーの先端から、私目掛けて硬化した蛸墨の弾丸を多連装ロケットランチャーのように打ちまくった。
「ちぃ~、アプセル!」
私は再度林檎加速を使ってその場を一瞬で離れると、魔人クラーケンの真横に回り込んで流星の飛び道具を放つ――
「流星~ダブルパンスラッガ~(二重揚焼鍋硝子)!」
早打ちガンマンのように素早くパンチャックを各々両腰から抜くと、魔人クラーケンに向かって同時にしゅしゅっと投げた。
パンチャックはアップルパワーで限界まで加速されると、白く光り輝く二つの刃となってメビウスの輪の軌道を描く――
それは魔人クラーケンの腰周りの赤い触手と襟足のドレッドヘアーをぶった切ると、私の手元へ正確に戻って来た来た来たぁ~。
――母さん~失くした麦わら帽子……しっかりと戻ってきましたよ』
『スパパパパァァァ~ン、スパパパパァァァ~ン』
『ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサササササッ』
流星ダブルパンスラッガーによって、大なり小なりのたくさんの蛸の足がばらばらと切り落とされると、どさどさと音を立てて地面に落ちた――
「グッ、グッギャァァァ~!グロロロォォォ~もっ、もう、許さん――儂の津波で一切合切、呑みこんでやるっ――」
魔人クラーケンはマジにキレて大声で喚き散らした。
「蛸変換機!」
『ピョォォォォォ~』
魔人クラーケンは沸騰した薬缶のような大きな笛の音を出しながら、自身の情報を別のコードに書き換えた……。
すると……蛸は流線型の頭部を中心に巨大化し、30m程の極大の怪物――蛸入道クラーケン――に変身した。
「蛸回転計!」
蛸入道クラーケンは、8本の触手を即座に再生すると、それぞれがタコメーターのようにぐるぐると高速回転させた――
『ドッ、ドッドッ、ドドドドドッ、ドッガガガガッ~』
蛸入道クラーケンはサンダーバードのジェットモグラのように、地面に触手のドリルを垂直に突き立てると、凄い勢いで穴を掘り進めた。
そして、8本の触手を地中深くに突き刺した状態で、触手の先端に爆発――魔爆――のための魔素エネルギーを充填し、津波を引き起こす準備を万端に整えた。
「グロロロロッ~……エネルギー充填百二十パーセント! これでモレアの村も漁民も全て終わりだっ!!」
「蛸大爆発!」
蛸入道クラーケンがそう叫び魔爆を発射とした寸前だった――
「やらせるかぁ~――流星真空飛び膝蹴りぃぃぃ~――アッチョォォォ~」
私は林檎引力を開放して超常加速すると、今まさに津波を起こそうとしている蛸入道クラーケンの土手っ腹に、空気との摩擦で真っ赤に燃え上がった熱い膝を叩き込んだ――
『グワァシャッン、ドッゴォォォ~ン――ビュビュ~ン』
「シュックウ!」
私は縮空を使って空間を捻じ曲げて瞬間移動すると、地面と平行に飛んで行く蛸入道クラーケンの真下へ飛び出した――
そして、神ノ島の大空目掛けて必殺の大技を繰り出した――
「どっこいしょう(六根清浄掌)!」
私は両手で蓮の花を形作り、その手の中の空間を1千万気圧の極超高圧で圧縮し砲弾を作ると、それを高速回転させて打ち出した――
『ドドドドド~』
蛸入道クラーケンは大衝撃波と一緒に神ノ島の空へ打ち上げられた……。
「ばっ、馬鹿な……まっ、まさか……貴様がっ、ルシフェル様がおっしゃっていたぁ―ラッ、ラプッ、グロロロロッ――グッワァァァ~」
『ドッドォォォ~ン、パッバァァァ~ン!』
蛸入道クラーケンは神ノ島の上空1000メートルで大爆発すると、四方八方へ同心円状の光の粒となって飛び散り、極光となって消えた。
「これにてぇ~、あっ、一件落着ぅぅぅ~」
遠山の金さんのようにそう思ったのも束の間であった……。
『ゴッゴッゴッ……ゴ~ゴ~ゴォォォ~』
「…………あっ」
とんでもないことに、地響きを立てて津波が発生してしまったようだ……。
―どっこい掌―の地面に及ぼした反作用の力が、私の足元を伝わって神ノ島の周囲の岩盤に亀裂を入れ、急激にそれを大きくずれ動かしたことによって、挙句の果てに高さ100メートルの大津波を引き起こしてしまった有り様だ。
――おらぁやっちまっただぁ~このままじゃみんな天国行っちまうだぁ――
津波の速度は水深100メートルで秒速112メートル、モレアの村まで4分弱で到達してしまう計算になる。
このまま行くと数分後にはモレアの村は津波にのまれて、跡形もなく消えて無くなるだろう……。
――依頼……失敗……ああ神様――
思わずリセットボタンを押したくなる不吉な決まり文句が私の脳裏をよぎった。
「やばいですねぇ~……ほんとまじで、やばねろっ!」
私はあの青いサーフボードに飛び乗ると、林檎引力を使って最大戦速、たとえ火の中、水の中、それ行けやれ行け、全速前進――ヨ~ソロ~――
あっという間に津波には追いつくことができた。
「さてさて……」
私は津波のビックウエイブに乗ったままサーフボードに正座すると、右ひじを左膝の上につき右手の甲に顎を乗せた、あのポーズで最善の策を考えていた……。
――ロダンの考える人改め、ダイサクの考えるサ~ファ~――
キャロが周りの海の異変に気づいたのは、彼女たちが神ノ島から脱出してから20分程経った後だった。
空一面が神ノ島を中心に同心円状に眩く光った後、彼女がどんなに一生懸命がんばって櫓を漕いでも、引き潮となった沖へ向かう潮流によって櫓ぎ舟は全く前に進まなくなった……。
『ゴッゴッゴッゴッゴッー』
「何の音かしら?」オーレリアが海鳴りに気づき声を上げた……。
「……つっ、津波よ! オーレリア――しっかり舟のへりに捕まって!」
キャロは冷静さを失い、パニックになって叫ぶが、
「………………」アルマと言えば、やはり反応はなかった。
――どこぞの草津の温泉で長期療養が必要なのだろう――
陸地が近づき水深が一気に浅くなると、波は掘れ上がってトンネルのようになった。
私はビックウエイブの中をチューブライディングで滑りながら、これから行う作戦計画を定めて、それを行動に移すべくいよいよ腹をくくった!
「津波を消し去るには、波の性質をなくせば良いはず」と自分に言い聞かせる……。
「林檎加圧!」
『ボコッボコッ、ボコボコボコッ~、ボッコボコ~!』
私は神ノ島からモレアの村の間の海を、加圧して一瞬で沸騰させると――
「林檎減圧、絶対零度!」
『ピッキンキーン、キッキーンキーン!』
私は即座にこの辺り一帯の海を丸ごと減圧して、マイナス270度の絶対零度で水を氷に変えると、大海原をかちんかちんに凍らせた!
『ギャギャギャギャギィャ~~~』
タイタニック号が氷山にぶつかるような甲高く不快な音を立てて、凍りついて波の性質を失った津波は、流氷のように押し合い圧し合いながら、程なくして完全に動きを止めた…………。
◇◇◇
「さぁ……モレアの村へ帰りましょうか!」
櫓ぎ舟に身を伏せ、へりにしがみついていたキャロとオーレリアに声を掛けると、2人はミーアキャットのようにそっと顔を上げて周りを見渡した……。
「えっ、ダイサクにゃん!」
「あっ、ダイサクさん!」
「海が凍ってしまったので、舟は暫く使えませんよが、氷の上を歩いてモレアの村へ戻りましょう」
なんとそこには神ノ島に女装衣姿で時間稼ぎのために単身残ったはずのダイサクが、異世界では奇異に映る黄色いジャージ姿で、二人にすっと手を差し伸べていた……。
「魔人クラーケンは?」とキャロが聞いてきた。
「蛸入道クラーケンは、空に打ち上がり爆発してしまいました」と事実を答えた。
「津波はどうなったのですか?」とオーレリアが聞いた。
「海が凍って波同士で押し競饅頭……それによって津波の動きが止まったみたいですね」
オーレリアにも紛うことなき事実の一部を伝えた。
極光とそれを乱反射する海の氷で、辺り一面が七色の光で眩しく輝いているのを見て、キャロがある詩歌を口遊んだ……。
「海が氷り、天から光の帳が降りる時、竜神は降臨する!」
「その詩歌は?」とキャロに尋ねてみると、
「モレアの村に昔から伝承されているものです。もっ、もしかして、ダイサクさんは竜神様にゃのですか?」と仰る――
「いえいえ、私はキャロさんに金貨10枚で雇われた風来の冒険者ですよ。ここまで来たら、約束を反故になんかさせませんにゃっ!」
そう言ってにやりと笑って答えると……、
「ぐすっ……にゃい……承知しました。金貨10枚……有る時払いの……催促なしでしたよね!」
そう言うとキャロは目に涙を浮かべて、今にも泣きだしそうに返事をした。
「……金貨、10枚?」一方オーレリアは何のことか分からず首を捻っている。
「………………」アルマは案の定反応がなかった。
アルマは水平線に沈む夕陽でも見ながら、ゆっくりと温泉にでも浸かって身体を休めつつ、心身ともに健康の回復をはかった方が良いだろう……。
私たち一行がモレアの村に着くと、天変地異と竜神の奇跡を目の当たりにして、多くの漁民が浜辺で驚きの余り腰を抜かしてへたり込んでいた。
「ニャニャニャッ……ニャニャ……ニャ~ニャニャ~」
私は得意の猫語を使って、4人が無事に帰ってきた経緯と私の八面六臂の大活躍を、モレアの漁民たちへ誠心誠意伝えてみた。
しかしながら、誰からも、感嘆、感心、称賛するような何れの返事もなかった。
それにも拘らず……。
「ボーラ村長、只今戻りました」とキャロが元気に伝えると、
「良がった、皆、無事で本当に良かった」とボーラ村長はちゃんと返事をした。
「…………なぁにゃっ……アッ、アルマ……ほっ、本当にアルマなのか? ああ~アルマ……よくぞ生ぎでがえって来てくれた」
ボーラ村長はアルマの無事を確認すると、大粒の涙を流しながら再開した娘をしっかりと抱きしめた。
後でキャロから聞いた話によると、アルマは前回生贄にされていたボーラ村長の可愛い一人娘と言うことであった。
それにつけてもモレアの村の連中……ちゃんと人族の言葉が通じるじゃにゃいか!
私|一人だけが訳の分からない猫語を使っていたとは……。
――恥ずかしくて……穴があったら入りたいにゃ~ウ~ウ~ウ~……シャッ――
次の日の朝、モレアの村の多くの猫耳族の漁民たちが、旅立つ私を見送りに来てくれていた。
そして、私の横には生贄の一人となっていたオーレリアがいた……
昨夜の宴会の席で、オーレイアの祖父の住む紡績都市ミュールまで、彼女を連れて行くことをボーラ村長から直々に頼まれていた。
「宴会はとても楽しゅうございました……特に鮟鱇の吊るし切り鍋は美味しゅうございました。それから、私が責任をもって、オーレリアをミュールの祖父の下へ送り届けますから、大船に乗ったつもりで安心して待っていてください。無事に着いたら連絡しますので……」
「よろしゅう頼みますだ」とボーラ村長が言い、
「よろしくお願いします」とキャロが言って、
「道中、よろしくお願いします」とオーレリアがお辞儀をすると、
「ダイサク、バタービスケットまた頂戴にゃ~」
両手に持ったお菓子を、交互に噛りつきながら、ペコリがすぱっと口を挟んだ……。
「お約束の金貨は、貯まり次第お支払いします」
「有る時払いの催促なしで結構ですので、金貨が溜まったら冒険者ギルドへ連絡してください」
「はい、分かりました、できるだけ早くお支払いいたします」
キャロは申し訳なさそうにそう返事をした。
「これで失礼します。皆さんお達者で……さようなら。それでは、オーレリア、参ろうか、かっかっかっかっかっ!」
私はどこかの黄門様のように高らかに笑った。
「はい、ダイサクさん」
するとオーレリアはとても素直で可愛い返事をした。
オーレリアには、暫く一緒に旅するので堅苦しい『さん』付けは、止めるように申し入れたのだが……、
「いいえ! 年上の方を呼び捨てにはできません」
オーレリアはきっぱりと私の申し入れを物の見事に断った……。
「海が氷り……天から光の帳が降りる時……竜神は降臨する☆彡」
大きくゆっくりと別れの手を振りながら、ボーラ村長がモレアの伝承を呟くのを耳にして……、
「ダイサクさんは竜神様なのでしょうか?」キャロはボーラ村長へ尋ねた。
「本当に言い伝えの通りじゃ……あのような神の御業……竜神様以外にできるはずもない。我われの困難をお救いになるために、竜神様がモレアの村に降臨されたに違いない!」
「そうですね、村に平和が戻りました。竜神様、ありがとうございます」
そう言ってキャロが手を組み膝をつくと……。
「ありがたにゃぁ~、ありがたにぁ~」とボーラ村長は感謝の言葉を発し、
「ありがたにゃぁ~、ありがたにぁ~」と漁民たちは祈りを捧げ、
「バタービスケット、ありがたにぁ~、」とペコリは感想を言った。
見送りの者たちは、猫も杓子も一緒になって膝をつき、えせ竜神様――ダイサク――へ一心不乱に祈りを捧げ続けたのだった。
そんなこんなで……私はオーレリアと一緒にモレアの村を後にした。
眩しい太陽と白い雲が美しい。岬の道に沿って『なんじゃもんじゃ』の白い花がふっさふっさと咲き誇っている
「さて、あの丘の向こうには如何なる出会いや冒険が待っているのかな!?」
そう思いながら、さくさくと軽快に歩き始めるダイサクの心は、バタービスケットに食らいつくペコリの笑顔のようにすっきりと晴れ渡っていた。
『ダァ~ンダダッ、アチャッ!』
劇終の律動が心の中を通り過ぎた☆彡
ありがとうございました。
ダイサクとオーレリアは紡績都市ミュールに向かいます。
それでは、次回をお楽しみに……♪
さよならっ、さよならっ、さよならっ!




