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33 七人の侍 其の弐

さてはて、ダイサクと七人の侍たちとの戦いの結末は如何になりますやら?

どうぞお楽しみください。

【七人の侍 其の弐】


いしたおどろいた! 次はおいわたしわいあなたの相手をするがよ。おいの名はトウベイ……わいをたたっ斬るもんじゃっど!!」と大きな声を出して、

 上半身裸で汗だくのごっつい男が、木刀片手にのっしのっしと歩いて来た。


「私の名はダイサク、貴方の根性を叩き直す者です」

 トウベイから視線を逸らさずにパンチャック―フライパンのようなヌンチャク―をさりげなく拾って構え直した……。


「ホワァァァァァ~」

 私は怪鳥のような声を出して腹から息を絞り出すと、トウベイに対して体を真横に構えて足を大きく開いて右手と右足を前に出した。それからパンチャックの片方を左の脇に挟み、右手人差し指と中指をくいくいっと曲げて裸侍を挑発した。


「……よかよか……おいの示現流は一の太刀を迷わず……二の太刀要らず。全身全霊を掛けた一撃でわいを倒すが……おいの必殺『蜻蛉連撃』受けてみるがよ!」

 トウベイは左足を前に出すと、木刀を持った右手を耳の辺りまで上げて木刀にすっと左手を添えた。

――八相の構えにとても似ている――


「チェストォォォ~」 

 トウベイは八相の構えから、ただの一撃で相手を倒すという信念を持ちつつ、立て続けに木刀を打ち込んできた――

『パパパパパッカァァァ~ン』

 木刀でフライパンを叩くような甲高い音が屋敷中に大きく鳴り響く!

――ここが高原アルムの牧場なら、放牧している羊たちが走って集まってきそうだ――


 私に全く反撃の隙を与えない裸侍の蜻蛉連撃は、その一撃一撃にあらん限りの気魄を込めて打ち込まれる……。

 とはいえ、私の武器は天文学的な質量の金属――ほとんど鉄――を、常識ではとうてい説明できない林檎引力アップルパワーを使って鍛造で作り上げた自慢の一品で、これくらいの攻撃ではびくともしない。

 ……であれば、無酸素運動――短時間に強い力を発揮する運動――を続けるトウベイの息が切れるまで、蜻蛉連撃を受け切れるかどうかが勝負の分かれ目となるのは火を見るより明らかだった。


「チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッ! チェストッォォォ~!!」

 …………トウベイが蜻蛉連撃を繰り出してから41秒後、遂に私に千載一遇の勝機が訪れた。

 思った通り、トウベイに人としての無酸素運動の持続時間の限界が訪れ、息継ぎのため裸侍の頭上で蜻蛉連撃の剣先が寸時止まった――


「アチャッ~」

 私はその一瞬の隙をついてトウベイの顔にパンチャックを同時に叩き込んだ。

『ガシッ! ガシッ!』

「ふぅぅぅ~」

 トウベイは木刀を横一文字にして2つのパンチャックをがしっと受け止める……。


 しかし、これはトウベイの視界を奪うためのフェイントで、私は打ち当てた2つの武器を一斉にぱっと手放した――

「アチョォ~『螺旋掌』――ハァッ!」

『ドッドォォォン』

 私はトウベイとの間合いを一気に詰めると、裸侍のみぞおちに左の掌を軽く当てて必殺の『螺旋掌』を打ち込んだ――


『ギュイィィィ~ン、ズゴッバァァァン!』

「うぐっ……ううう……みごちじゃっど……」

 腹筋の上方にある横隔膜を打ち抜かれて、トウベイは全く息ができなくなった。

 裸侍は私の耳元でそう小さく最後の言葉を吐くと、木刀を右手にしたまま両膝を付いて前のめりにどさっと倒れた…………。


「……ほっほう……次は……拙者が参ろう」

 槍と見合っていた大太刀を携えた侍がこちらに歩み寄って来た。


「拙者の名はジンスケ、お主を『一刀両断』の下に断ち切る者だ」

 ジンスケは大太刀を納刀したまま、不用意にすすっと私に近づく……。

これまでの侍と比べて極端に間合いが近いことから推し量ると、――この侍は居合の使い手だな――と察しがついた。


「私の名はダイサク……貴方に雷を落とす者です」

 私はジンスケから一瞬たりとも目を離さずに、パンチャックを一つ拾って左手と左足を前に出した。

 足を広く、姿勢を低く、背筋を真っ直ぐにして右手に持ったパンチャックの柄を前に突き出すと、ジンスケと同じように納刀したような型で構えた。

――さて後の先ごのせんで行くか? それとも先の先せんのせんで行くか?――


「拙者の秘術――流抜刀卍抜き――抜かば斬れ……抜かずば斬るなこの刀……只斬ることに大事こそあれ……ダイサクとやら見切れるものなら見切ってみせよ!」

 ジンスケは刀の柄に右手をかけたまま、体を低く頭を下げた姿勢でじりじりと躙り寄って来る…………。


 ……そして、ジンスケを中心とする居合術の制空圏に入った瞬間だった――

「紫電一閃――イヤァァァァァッ~」

 私の左肩から右脇腹への袈裟切りを狙って、ジンスケの筋肉が微かに震えて大太刀の鞘を引く左腕が一瞬動いた!


林檎加速アプセル!」

 後の先でジンスケの動きを見極め、アップルパワーを使って一気に居合侍との間合いを詰めると――


『カチャ!』

 パンチャックの柄を突き出して、ジンスケの左の腰に携えた大太刀の柄頭をさっと押さえた……。

「なっ――」

 私はジンスケが声を発する暇も与えなかった。

水月流すいげつながし!」

 私は技の名を告げると、そのままジンスケのみぞおちに電光石火の左の肘を打ち込んだ。

「ぐふっ」

 ジンスケは唸り声を漏らしながら、苦しそうに身体をくの字に曲げた――


「行っきますよ~」

 私は続けて技を放つ。頭を下げたジンスケの腹を背中から両手でがしっと掴み、居合侍の体を私の頭の天辺まで担ぎ抱え上げたまま数メートル走ると、そのままの勢いで母屋の雨戸に思いっきり投げつけた――


「投げっ放し~ランニングパワ~ボ~ム!」

『バッ――バリバリバリッ――ドッカ~ン』

 ジンスケは雨戸と襖に頭から突き刺さると、建具と一緒になって母屋の奥まで派手に吹っ飛び、私の視界から消えた…………。


「……腕利きの猛者たちが……魔術ではなく武術でこうも簡単にやられるとは……ええぃ――我が名はインエイ――お前に引導を渡す者だ!」

 刃先が十文字の槍を右手に携えて、インエイが乱暴にずかずか近づいてきた。


 インエイは槍の間合いに近づくと左肩を前に横を向いた。それから足を1メートル程開いて腰を落とし構えると、背筋を真っ直ぐに立てて顎を左肩に乗せるようにして顔を90度左に回した……。

「大悦眼!」

 インエイはにこっと微笑み私を優しく見入った…………。

 槍侍は目の力を抜くことで全身の力を抜き、真の自然体となったようだ。

――なんとなく私の構えに似ている……お主……できるな――


「私の名はダイサク、貴方を懲らしめる者です」

 私はインエイにの構えに対して正面を向いて構え、両手にパンチャックを持って横一文字に構える……。


「――突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌――我が『十文字殺法』、躱せるものなら躱してみせよ! はぁぁぁぁぁ~」

『シュシュ、シュシュシュッ――』

インエイの十文字槍の矛先が空を切って襲い掛かる――


『パパパッパッカァ~ン――』

『ブゥゴォォォ~』

 私が十文字槍を突かせないように手前で捌くと、インエイは息つく間もなく豪快に真横に薙ぎ払う!

 基本的に長い武器を使う相手に対しての対処方法は――受けて、躱して、間合いを詰める――と昔から相場が決まっている。


『ギャギャン!』

 勢いよく横に払ってきた十文字槍をパンチャックで弾いて受けると、インエイは私の受けを切り崩しに掛かった……。


螺旋突破らせんとっぱ!」

 十文字槍の矛先が高速でぎゅんぎゅん回転しながら私に突き刺さる――

『ギャギャギャギャァァァ~ン』

 私は対となったパンチャックを垂直に立てて十文字槍を絡め取り高速回転を止めると、先程と同じようにさっと武器を手放してインエイの懐に飛び込んだ。


「やっ、やらせはせん! やらせはせん! やらせはせん!!」

 インエイは十文字槍を引きながら素早く柄を短く持ち替えると、十文字槍の鎌の刃を以って私の首を後ろから掻っ切ろうとした――


「あたらんよ、あっ……」

 私はさっと身を伏せて紙一重で鎌の刃を躱したのだが、

『ビュビューン――チョッキーン――バサッ……』

 なんと自慢の後ろ髪をちょん切られてしまった。

――『後ろ髪……長いですかぁ~』最近床屋にも行けてなかったし、伸びていたから少し位は良いだろう――


 私が後ろ髪の欠損など構わずにインエイの懐に潜り込もうとすると、侍は引き戻した十文字槍にもう一度溜めを作り、全体重を乗せた螺旋突破コークスクリューを繰り出そうとしている。


「遅い!」

私は更にインエイに近づき十文字槍の近間に入った――

「あっまぁいわぁぁぁ~、三日月蹴りぃぃぃ~」

 インエイの右脚は45度の軌跡を描いて、中足――足指の付け根辺りの裸足でつま先立ちをした際に接地する部分――で私の肝臓を打ち抜こうと蹴りを入れた――


「キャプチュードォォォ~!」

 私は完全に『三日月蹴り』の近間に入ると、その蹴り足の右腿を左手で内側から抱え込み、インエイの首の後ろに自分の右腕を引っ掛けた。それから、虹のような栄光の架橋ブリッジの姿勢で侍の体を後方へ思いっ切り反り投げた!


 十文字槍の螺旋突破コークスクリューの力も相まって、インエイは回転しながら縁側の床に頭から叩きつけられると、その上半身は縁側の床をぶち抜いて突き刺さり、水面に思いっきり叩きつけられたカエルのように、痙攣する蟹股の下半身だけが見えていた…………。


「……ふっ、これほどまでとは……なかなかどうして……ふふふ……貴殿、少しはできるようだな」

 畳間の奥にいた最後の侍ラストサムライは、長い打刀と短い脇差の2本の刀を持つと、すっと立ち上がりゆっくりと庭先まで降りて来た……。


「我が名はボクデン、お主との最終決着をつける者だ! 我が――無手勝二刀流――聢と受けてみよ!」

 ボクデンは眼力鋭い研ぎ澄まされたように光る流し目でぎろりと私を見遣った。

「私の名はダイサク、貴方を力で裁く者です」

―最後の使い手は最強の二刀流か!?―

 私はボクデンから一瞬たりとも目を離さずに左手と左足を前に出すと、足を大きく開いた低い姿勢のまま右脇でパンチャックを挟んで構えた。


「フゥォアァァァァ~」

 ボクデンとのラスボス戦を迎えて呼吸を整える…………。

「なんちゃってぇ~だいえつげ~ん(大悦眼)!」 


『ダダダダッ! ババッ!!』

 ボクデンはにこりと笑ったかと思うと、素早く中庭に降りて両膝を着き、右手の拳を大きく開いて最後の戦いに待ったをかけた……。


「参った、参った、参り申した! いっ、いやぁ~、ダイサク殿は実にお強い。天下無双の剣豪たちをこうも容易く打ち負かすとは……貴殿の仰せのままに直ぐにこの場を去る故……このまま見逃して頂きとうござる……」

 ボクデンは舌の根の乾かぬうちに、さっさと屋敷の外に向かっていた――


「それでは、これにて御免」

 ボクデンは裏門で立ち止まり、振り返って丁寧に一礼をした。


「本当に世話になった、お嬢も達者でな」

 ボクデンは裏門から心配そうに屋敷の中を覗き込んでいたキャロの頭を撫でるや否や――


『スタコラサッサ、ホイサッサ』

 ラストサムライのボクデンは、他の気絶している侍たちと、狐につままれた感じの私と、心配そうにしていたキャロをその場に残したまま、海風と共に去ってしまった…………。

――仕合に勝って勝負に負けたのか――


 キャロの願いは、侍たちのクエストをキャンセルしてもらって、直ぐにボーラの漁村から出て行ってもらうことであった。

 ボクネンがその要求を受けてくれるのならば、これ以上彼と戦う理由は何もないのだが……。


 ボーラ村長の屋敷はぼこぼこに壊れてしまったけれども、七人の侍の方の片はついたので一先ず結果オーライと言うことにしておこう!

――それにつけてもボクデンの振るう無手勝流とは、ほんに恐るべし――

ありがとうございました。

いよいよ竜神様の住まう神ノ島へ向かいます。

次回をお楽しみに!

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