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32 七人の侍 其の壱

こんにちは、モレアの村に巣食う七人の侍との仕合が始まりました。

どうぞお楽しみください。

【七人の侍 其の壱】


 私たちは七人の冒険者たちが居座っているボーラ村長の屋敷に着いた。

 キャロの話では、村長の屋敷はモレアの村で一番大きな家とのことで、実際に彼女たちが住んでいる家と比べるまでもなくとても立派な建物だった。

 扉や窓の建具には障子が使われ、屋根には茅のような草が葺いてあった。それは古民家のような日本の昔ながらの家の造りにも何となく似ていた。


「キャロさんは屋敷の外で待っていてください」

「分かりました。ダイサクさん……怪我をしないように気をつけて!」

「はい、それでは行って参ります」

 ――行ってくるぞと勇ましく――キャロにさっと敬礼したが、彼女は私の行為が何を意味しているのか全く理解できずに、答礼の代わりにきょとんとして首を傾げた……。

 私はそんな無垢な彼女をその場に残して、一人だけで屋敷の裏へ回って裏戸の扉を叩いた――


「たのもぉぉぉ~ぅ!」

 大声を発して裏門から屋敷の裏庭に入ると、七人の侍が障子と襖が全て開け放たれた屋敷の中に居るのが見えた……。


 ある者は踏み石に胡坐を組んで座って酒をあおり。

 ある者は縁側にて立膝で天を仰いで飛ぶ燕を眺め。

 ある者は一念不動に素振りを行い。

 ある者は上半身裸になって汗水垂らしながら木刀で立木を打ち込み。

 ある者は大太刀、ある者は十文字の槍を構えてお互いに見合い。

 ある者は畳間の奥で正座して、刀身にぽんぽんと打粉を打ちながら念入りに刀の手入れをしていた。

 七人の侍は各人が我が物顔で屋敷に留まり、勝手気ままに振る舞っている様子であった。


「こんにちは……私の名はダイサク、皆さんと同業の冒険者です。この度はモレアの漁民の要請で参上いたしました。…………早々の申し入れで申し訳ございませんが、モレア村からの依頼されている津波探索のクエストを破棄して、今すぐこの村から出て行っていただけないでしょうか」

 そのように私が丁寧に申し入れると――

「あぁ~、何言ってんだてめぇ~、冒険者だとぉ~、ひっく」

 鎖鎌を身体にぐるぐると巻き付けた男が立ち上がり、酒壺を左肩に掛けたまま私の方へふらふらと近づいて来た。

「べらんめい――儂を追い出したければ、力づくでやってみろ!」 

『シュッバッ』

 鎖鎌の男はくだを巻きながらいきなり酒壺を私に投げつけたので、私は飛んでくる酒壺を何とはなしに首を傾げてすすっと避けた――


『ガッシャーン』

 酒壺は庭にあった灯篭に当たり、甲高い音を立てて割れて中に入っていた酒が飛び散った……。

「てっ、てっめぇ~、避けやがったな……ひっく……お陰で折角の酒が台無しになっちまったじゃねぇか……ひっく……どっ、どうしてくれるんだ……ひっく……もう勘弁ならねぇこの人でなしが、ひっく……やっ、やってやろうじゃねぇか……ひっく、うぃぃぃ~」

 鎖鎌の男は完全に虎となって絡んできた……。

――それにしても難癖つけるのが上手い(とら)だ――


「わかりました、そうさせてもらいます!」と私が答えると、

「…………」ある者は一言も発さずにちらりと私を見遣り、

「はっはっはっ!」ある者は大きな声を上げて高笑いし、

「暇つぶしの余興には良いか……」ある者はぼそっと呟いた。


「然らば儂が軽く相手をしてやろう……ひっく……儂の名はバイケン、この鎖鎌でお前の息の根をきっと止める者だ! うぃぃぃ~」

 バイケンはべろんべろんに酔っ払いながらそのように言った。

「私の名はダイサク……貴方に灸を据える者です」


「フゥォアァァァァ~」

 私は怪鳥のような声を出して腹から息を吐きながら、足を大きく開いて右手と右足をずいと前に出して、鎖鎌を使いこなすバイケンに対して体を真横に構えた。

 それから、親指で左の頬のビスケットの屑をすっと拭うと、腰からすっとパンチャックを抜いて片方を左の脇に挟み、右手人差し指と中指をくいくいっと2回曲げて男を挑発した。

『さぁさぁ、なんちゃって道場破りの……始まり~始まり~』


 バイケンは右手に鎌と左手に鎖を持つと、鎖の先にある分銅をゆらゆらと振り子のように揺らし始めた……。 

『ヒュン、ヒュン、ヒュヒュン、ヒュンヒュンヒュン』

 分銅の揺れは徐々に大きくなり、力強く円の軌跡を描きながら回転を始めた――

『ビュオォォォ~』

 分銅は風を切って私の顔目掛けて飛んできた――


『パッカッァァァ~ン』

 私はパンチャックで分銅を弾いた――

『ガッチャァァァ~ン』

 何たることか、分銅はボーラ村長が丹精込めて育てていたであろう、五葉松の盆栽を一撃で粉砕してしまった。

『シュッ――ヒュヒュン、ヒュンヒュン……ヒュヒュン、ヒュンヒュン……』

 バイケンは巧みに分銅を操って、それを自身の手元に引き戻したかのように見えたが、

『ビュビュン、ビュフォォォ~』

 分銅の勢いを殺すことなく、間髪入れずに私に再び投げつけた!


 私はその分銅の攻撃を紙一重でさっと躱したのだが、

『シュル……シュル……シュルシュルルル…………』

 バイケンは手首を返して鎖をぐいっと引き戻すと、鎖をまるで生きた蛇のように操ってパンチャックにぐるぐると絡ませた。


「儂の鎖は狙った得物を必ず捕らえる……あとはこの犀利な光る鎌で、てめえの喉を掻っ切ってお終いじゃ」

 そう言ってバイケンは鎖を自分の方にぐいっと力強く引っ張った――


 バイケンが力を込めたまさにその一瞬を狙って、私は鎖鎌の懐に飛び込み十八番をお見舞いする――

「真空飛び膝蹴りぃ~、アチョォォォォ~」

 私はバイケンの鎖を手繰り寄せる力を利用して造作なく懐に飛び込むと、鎌が私の首を搔っ切る前に虎の顎にジャストで膝を叩き込んだ――


『ガゴッ、ヒュ〜ン……ガッシャ〜ン……カラカラカラ~…………ドッボーン』

 バイケンは後方に吹っ飛んで、釣瓶井戸に落ちて私の視界から消えてしまった……。

『酒の匂いがぷんぷんしている泥酔状態じゃ、いくら剣豪と言えども真剣勝負なんかできるはずもありませんよ……バイケンさん』


「…………お主なかなかやるではないか! さぁ~て、おのおのがた……次は誰が立ち会う?」

 上半身裸で汗だくの男が周りを見渡して他の侍に声を掛けた。

「我が行こう!」

 片膝をついて空舞う燕を眺めていた背の高い細身の男が、手を上げ立ち上がるとゆっくりと縁側から庭の方へ降りて来た。

 その男は『物干し竿』のような両刃の長い刀を背中に差していた。

――果たして、あんなに刃渡りの長い刀を振れるのか!?――


「我が名はコジロー……お主を快刀乱麻で断つ者だ。我が秘剣『虎切』、確と受けてみよ!」

「私の名はダイサク……貴方にお仕置きする者です。我が秘術『林檎引力アップルパワー』わっかるかなぁ~わっかんねぇだろうなぁ~」


 コジローはすすっと長剣を鞘から起用に引き抜いた。

「いざ、参る!」

 コジローはいきなり私との間合いを詰めると、こちらの武器では届かない遠い間合いに位した。そして、私の脳天目掛けものすさまじい速度で長剣を垂直に振り下ろした――


『キュイン!』

「アチャッ!」

 斬撃をパンチャックで受け流すと、私にはその軌道が逸れて刀身がそのまま地面に食い込んだかに見えた――

 しかし、コジローはくいっと地面すれすれで手首を返すと、またもや長剣の刃筋を私に向かって通した――

『ビュワァァァ~ン』

 コジローは想定を遥かに凌ぐスピードで、私の顎目掛けて長剣を下から真上へ切り上げた――

『スパッ、シュッ』

 コジローの連続攻撃を完全には躱しきれず、私の頬の皮が一枚裂けてすっと血が滲む……。

――物干し竿からの斬撃は新幹線ひかりのように速くてヤバいですねぇ~――


「お主やるな……今まで我が虎切の一の太刀すら躱した者は数えるほどしか居らぬというのに、お主は二の太刀まで躱し切った……全くもって……相手にとって不足なし!」


「フゥォワァァァ~」

 私は怪鳥の様な声で腹から息を吐いて呼吸を整え気合を入れ直した。

 コジローに対して体を正面に構えて腰を落とし、左右の掌を相手に見えるように腕を前に突き出す。それからパンチャックを左右の親指に引っ掛けて、それを目の高さで真一文字にして構えた――


「はぁぁぁっ、秘剣……燕の舞!」

 コジローは先程と同様に私の間合いの外から攻撃を仕掛けてきた。

 物干し竿が遠間から左真横に薙ぎ払われた瞬間、私はその太刀を半歩後ろに下がって間合いを切り、すかさず踏み込んで二人の間合いを一気に詰めようとしたのだが……。


『シュシュン――』

 コジローの物干し竿は瞬時に翻り、右真横から一直線に私の胴を狙って斬りつけてきた。

『ザシュッ』

「アイヤッ」

 私は再度後ろにステップして辛うじてその斬撃を躱し間合いを切った。

 しかし、コジローの長剣は燕のように私の頭上に舞い上がったかと思うと、素早い右足の踏み込みと一緒になって私の脳天目掛けて真っ逆さまに急降下してきた。


『チュイン!』

「アッチャ」

 私はその斬撃をやっとのことで左に受け流す――

 コジロウは長剣を地面の飛石にわざと当てて跳ね返らせてると、先程のように手首を返すことなく、両刃剣のもう片方の刃を以って最短距離で私の左脇腹に切り込んだ!


林檎加速アプセル!」

『こっ、これは……十中八九……間に合いませ~ん……いけませ~ん!』

 瞬時にそう判断した私は、林檎引力アプセルを使ってコジローの刃を余裕のよっちゃんで躱した――

『スパァァァ~ン』

「ホォワッタァ!」

 反則技を使った私は、精神的かつ時間的に十分なゆとりを持って、針の穴を通す正確さでコジローの顎先にパンチャックを掠らせると……。


『ドン、ガゴッ、ゴッゴン、ゴンゴンゴン、チ~ン』

 コジローの脳は強く揺さぶられて脳震盪を起こした。

 それから燕侍は石の灯籠に寄りかかりると、それと一緒になって大きな音を立てて崩れ落ちた……。


 追い詰められて仕方なくチートなアップルパワーを使ってしまい、私的には何となくコジローをペテンに掛けてしまった気持ちになった。

 試合に勝って勝負に負けるとはこういう事なのだろう――死んだら終わり、是非もなし、次の仕合を頑張ろう――私はぱっと気持ちを切り替えることに成功した。

 実際のところ、林檎引力アップルパワーという反則的な力に対して、凄い力もあったもんだと私は感嘆せざるを得なかった。


「…………ほっほぅ~、次は誰が参る?」

 座敷の奥で正座し刀を手入れしていた男が他の侍たちに声を掛けた……。

「私が参ります」

 私と体格が近い二枚目の侍が颯爽と名乗り出た。

 その格好いい若侍を見ていると、勇気凛々と私は何故か俄然やる気が出てきた!

――この世からあらゆる二枚目イケメンは消去すべし!――

 そのように固く心に誓いを立てていたからであろうか!?


「私の名はソウシ、貴方を串刺しにする者です」

「私の名はダイサク、貴方を叱りつける者です」と私は建前を言ってやった。

 串刺しという台詞の選択はソウシには合っていないようで、若侍の本質は礼儀正しい好青年のようだ!

 一方、身につけた社会通念を駆使してどんなに紳士らしく振る舞っていても、異世界においてすっかり三枚目としてぞんざいに扱われている私の正体は、所詮、我が儘で、嫉妬深く、自分勝手な初老の修行僧だ!


「いざ、尋常に勝負!」

 ソウシはそう言うと片刃の日本刀を中段に構えた。

「ハイヤッ、そうは言っても、勝てば官軍負ければ賊軍」と言って、

 ソウシの中段の構えに対して私は右手と右足を前に出して体を真横に構えた。

 一対のパンチャックの片方を左手に持ち、もう片方のパンチャックを左の脇に挟むと、右手でくいくいっと『御出で、御出で』をしてやった……。

――二枚目対三枚目、絶対に負けられない戦いがここにある――

 私の心の中で青いユニフォームの言葉が木霊していた。


「いやぁぁぁ~」

 ソウシは大きな掛け声をかけながら私との間合いを詰めると、最初に私の両小手を狙って切りつけた……。


『チュイン、チュイン、チュイン!』

「ハイッ、ハイッ、ハイッ」

 私はその刃筋をパンチャックで捌いて更に間合いを詰めると、二人はお互いに日本刀とパンチャックの一足一刀の間合いに位した。


 暫くソウシの日本刀と私の双節揚焼鍋パンチャックによる、お互い間を奪い合いながらの激しい鍔迫り合いとにらみ合いが続いた……。

 しかしながら、侍は接近戦は日本刀には分が悪いと判断したのか、一旦間合いを切って遠間の間合いを取った。

 それから中段の構えから剣先を顔の右斜め前に上げ日本刀を水平に構えた……。


「我が『新選一刀流』の奥義は刀で切らず体を使って相手を斬ることです。貴方の身を以ってそれをじっくり教えてあげましょう。」

「……見せてもらおうか……『新選一刀流』の奥義とやらを……イケメン!」

「はぁぁぁ~、新選一刀流奥義、無明三段突ぃぃぃ~」

『ダダッダァ~ン』

 ソウシは遠間から一気に間合いを切ると、極超音速ミサイルの如く突きを入れてきた。


 ソウシの剣先は、鍛え上げた足腰、気迫に満ちた気持ち、洗練された技に裏打ちされていて、凄まじい速さで人の弱点である、眉間、喉、みぞおちを正確に狙って貫いてきた。

 しかしながら、ソウシの剣は正確で余りにも愚直なため、手もなく剣筋の見当をつけることができた。


『ギャン、ギャン、ギャン!』

「ハイッ、ハイッ、ハイャー」

 私はその剣先の太刀筋を見切って見事に受け切るや、態とパンチャックをぱっと素早く手放した――


『やまあらし(山嵐)~! アチョォォォ~』

 私はソウシの『無明三段突き』から次の太刀までの一瞬の隙を逃さなかった。

 ソウシの左襟首と左袖を掴んで釣り込むと、若侍の体をその左前隅へ浮かし崩しつつ左脚で受の左脚を払って思いっ切り宙に投げ込んだ!

 するとソウシの周りだけ重力が無くなったかのようにふわっと身体が一瞬宙に浮く……。


『ドォォォ~ン!』

 ソウシは頭から屋敷の地面に真っ逆さまに落とされ、土煙を上げてそのまま気絶した。

――それまで!――

 ここで二枚目に対する三枚目からの一方通行の気持ちが入った戦いは、完全にけりがついたのだった。

「ソウシよ、必ずしも正義が勝つのではない、勝った者が正義なのだ。 ふふん!」

――悲しいけれど、これがありのままの現実なのよ……ざまあかんかん河童の屁ぇ~――

 そのように考えていた私の方が、ソウシよりもずっと悪役に成り下がっていた……。

ありがとうございました。

次は、木刀、居合刀、薙刀、無手を操る侍たちとの戦いです。

ダイサクはそれらの剣の達人たちに勝利を納めることができるのでしょうか?

次回をお楽しみに!

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