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26 フランシス公国

こんにちは、今回からフランシス公国のお話が始まります。

どうぞお楽しみください。。

【フランシス公国】


 今日も快晴でいい天気だ。頬にあたる海風がとても心地よく感じる。

街道に沿って『サルスベリ』の可愛い薄紅色の花が咲き誇っており、海はべた凪で海面には波もなく静まり、まるで地中海のような素晴らしい景色が広がっている。


 ちなみにサルスベリは樹皮が滑らかでつるつるしていて、木登りが上手な猿でさえ滑り落ちてしまうという例えから、その名前が付いたと言われる。

 花が咲く期間が長いことから百日紅と言う別名もあり、漢名表記もまた『百日紅サルスベリ』と記されている。


 道を歩いていると途中で道が二つに分かれていて、私は迷ってその場で立ち止まってしまった。

 どちらの道を進もうか決めかねたので、日本恒例の『下駄占い』ならぬ『武闘家の靴占い』で行き先を決めることにした。


「表が出たら右の道、裏が出たら左の道、あ~した天気になぁ~れ、そ~ら」

 気持ちよく大声を出しながら、履いていた武闘家の靴を大空に向かってぽ~んと蹴り上げたところ、

『ピィ~ヒョロォ〜、ピィ~ヒョロロロォォォ~』

 何たることか、とんびがその靴を空中で掴んで飛び去ってしまった!


 とんびに油揚をさらわれて、私は大切にしていたものを不意に横取りされた、昔の記憶を思い出して呆然あぜんとする……。


 一色海岸の波打ち際の浜辺に座り、彼女と一緒に正に3時のおやつを食べようとしていた正にあの時だった。

 私の知らぬ間に頭上を虎視眈々と旋回し、私の大切なセブンの冬季限定のクリームパンをさっと搔っ攫って行ったあの鳶が、異世界こちらでもそのような暴挙に出るとは……。


「ああ~、許すまじぃ~」

 私は空を飛ぶ鳶を追っかけて、必然的に海沿いのこちら道を選ぶことになってしまった。

 最終的には「揚焼鍋硝子パンスラッガー!」でパンチャックを投げ付けて、鳶を驚かせて靴を取り返したのだが……。

「……まぁ、道筋プロセスはどうあれ、武闘家の靴も何とか無事に返ってきたし、結果、オ~ライ♪」

 私はるんるんと海沿いの道を歩いた……。

 そして、ちょっとしたトラブルの道の先には青天の霹靂となる『フランシス公国』があった。


◇◇◇


「……それにしても……静かすぎないか?」

 私はそんな風に感じながら暫らく都市をうろうろと散策した……。


 フランシス公国の都市の町並みは、全ての家の壁が白く塗られ、朱色の瓦屋根が葺いてある素晴らしいものだった。

 人口は7万人程で異世界こちらでも小さな国の分類に入る。

 フランシシ公国のスカイブルーの公国旗の中に、鳶のような鳥の意匠デザインが青く描かれているのが少し気にはなっていたが……。


『ピィ~ヒョロォ~ ピィ~ヒョロォ~』 

都市の中は何処も彼処も閑古鳥が鳴いてしんと静まり返っている。

「やはりどう考えても明らかにおかしい?」

 そう呟きながら私はいつものように冒険者ギルドに向かった。


 フランシス公国付近には迷宮ダンジョンはないようで、ここの冒険者ギルドは中継地点のような役割を担っている。

 魔獣の捕獲、魔物の討伐、荷物の運搬、その他雑用など一応は依頼黒板クエストボードに掲示はしてあるものの、魔物討伐については迷宮ダンジョンとの距離が離れているので、ここの冒険者ギルドで依頼クエストを受ける冒険者はほとんどいない。

 それにもかかわらず、冒険者ギルドの中は割りと騒ついていた。


 他の冒険者ギルドでは余り見慣れない依頼クエストを見つけたので、私は受付嬢にいろいろと尋ねてみることにした。

「こんにちは、いい天気ですね」と私が挨拶すると、

「こんにちは、初めまして、私の名前はアスナです。どのような御用でしょうか」と彼女は私に返事をした。

 アスナは飴色の光沢のある髪に琥珀色の瞳、肩ほどまで伸びたミディアムヘアの可愛い人族の女性だった。


「こんにちは、初めましてアスナさん、私の名前はダイサクです。フランシス公国は初めてなので、幾つか依頼クエストの内容を確認したいのですが……」

 そう言って、私はアスナにアイアン等級の首掛けの認識票プレートをちらりと見せた。


「この依頼クエストについて、もう少し詳しく教えてもらいたいのですが?」

 私は彼女に1枚の依頼クエストを差し出したところ、

「その依頼クエストの内容は『傭兵の募集』です。現在、フランシス公国に隣接するペルシア帝国の『帝王シャーキン』が、フランシス公爵の娘に求婚し、その婚姻の成立後にはペルシア公国の属国となるよう、強大な武力を以って脅迫を続けています。フランシス公国の公爵であらせられるシャルル二世・フランシス様は、そのような非道な要求を受け入れることは到底できないとして、大急ぎで軍備を整えて増強しようとしているのですが……」

『いつどんな時でも、武力に依って他国を奪い、自国を広げて己の欲求を満たそうとする、そんな非道な輩がいるんだな』と私は思った。


「どうしても戦わなければならないのですか?」

「ペルシア帝国の属国になると言うことは、フランシス公国の全ての民が、奴隷となり支配されることを意味してます。帝王シャーキンは圧倒的な軍事力をもって、破壊と略奪を繰り返しています。ペルシア帝国の属国となるということは、すなわち、この国が亡国になると言うことなのです!」


「そんな人の道を外れた暴虐非道な大国と戦って、このフランシス公国のような小国に勝ち目あるのですか?」と私が尋ねた。

「……いいえ、彼らの軍事力は余りにも強大で、フランシス公国の力では到底勝てるはずもないでしょう。また、ペルシア帝国軍は凶悪で異形の兵士以外にも、大型の魔獣を使った戦車を戦争に投入しているとのことです」

「大型の魔獣ですか?」

「はい……、毛巨象マンモス剣歯虎サーベルタイガー三角龍トリケラトプスなどの魔獣を使役しているようです」

 

「フランシス公国は隣国に援軍要請を行わないのですか?」

「いいえ、何度も使者を遣わせました。しかし……隣国のローマン王国はフランシス公国を見捨てました。この地は間違いなくペルシア帝国とローマン王国との戦場となってしまうでしょう。そのため、冒険者ギルド本部よりこの国のギルドは早急に閉鎖して、ギルド職員は全員国外退避するよう指示が出されています。貴方も早々にフランシス公国を出られた方が良いと思いますよ」

『この国は単独でペルシア帝国と戦う覚悟を決めたのか……』


「色々教えて貰って、ありがとうございました」とアスナにお礼を言った。

 私は冒険者ギルドを出ると、とりあえずもう少しだけ街の様子を見て回ることにした。


 確かに、街の殆どの店や家は鎧戸シャッターを閉めてしまっている。

 美しくも静かな街を散策していると、子供たちの声が聞こえたので、私は自然とその声がする方へ歩いて行った。そして、そこで小さな教会を見つけた……。


「セイラ様、戦争がはじまるの?」

「逃げないと駄目なの? ず~とここにいたいよ」

「みんなと一緒にいたい」

「みんな殺されちゃうの」

 幼気いたいけなな子供たちが純粋な涙を浮かべて、思い思いの気持ちを素直に言葉にしている。


「大丈夫よ……。私がペルシア帝国の帝王シャーキン様とお話をして、戦争を止めるように、ちゃんとお願いしてくるから……、みんなは安心して待っていてね」

 腰の長さ程ある向日葵色の金の髪に、サファイヤのようなベルベットブルーの瞳をした、まるでお人形のように美しいご令嬢が、健気な子供たちと受け答えをしている……。

しかし、私にはそれらの言葉の一つ一つが、不安と少しの希望が入り交じる悲哀に満ちた歌としか聞こえていなかった。


「すみませ~ん」

 私は態と場にそぐわない言葉でセイラに声を掛けた。

「なんでしょうか?」

 彼女が右手の甲で目の縁を拭いながら返事をする……。


「私は修行僧モンクで名はダイサクと言います。冒険者をしながら世界を旅しています」

「な~んだ……モンクか……」

 一人の子供が声を上げるとそれから子供たちは攻勢に転じ、私に対して進撃の小人が始まった!


「腰から手拭いじゃなくってフライパンぶら下げてらぁ~」

「黄色い寝巻着ていて、超かっちょわる~い」

「ダイサクだって……おっちゃんみたいな変な名前で滅茶苦茶弱そ~」

「アハハハハッ!」

「キャッキャッキャッ!」

「ケラッケラッケラッ!」

 小さな子供たちは無垢だけに残酷で、わいわいがやがやと扱き下ろして私の心を傷つける。

――これが異世界での私の容姿に対する率直な評価なのか?――

 

「……宿……宿を探しているのですが?」

「……宿……ですか? ……申し訳ございませんが……フランシス公国の全ての宿は既に店を閉めてしまっています。もし泊まるところがなくてお困りであれば、この教会の納屋をお貸しいたしますが?」とセイラは答えた。


 セイラは年の頃は15から16歳位だろうか? 絶世の美女かつ高貴な雰囲気に反して、とても優しい物言いだ。

「……、よろしいのですか?」と聞き返すと、

「はい、教会の納屋でよろしければ、唯々、明日にでもフランシス公国からは離れられた方が良いと存じます。いつ戦争が起きるか知れませんので……」

「お心遣いありがとうございます

 それでは今晩は教会の納屋を使わせて頂きます」

「あんちゃん、風邪ひかないようにな」

「朝方は寒いから、藁に深く潜って寝た方がいいよ」

「ダイサク兄ちゃん、ほら、ライ麦で作った黒パンあげるからよく噛んで食べてね」

 先程とは打って変わって、幼気な子供たちがモンクの体に気を使って色々と優しい声を掛けてくれた……。


「そう言えば、冒険者ギルドの依頼黒板クエストボードに、帝王シャーキンへ献上品を運ぶ荷馬車の御者の依頼クエストがあったな」

 教会の納屋の藁の寝床ベッドに横たわって天井を眺めている時に、それをふと思い出した私は、冒険者ギルドでクエストを受けることを決心した!

 幼気いたいけな子供たちの涙は、私が新たな行動を起こす動機付けモチベーションとして十分だった。

『心にぐさぐさと言葉の短剣を突き立てられたけれど……』


 次の日の朝、私は再び冒険者ギルドに行った。

「すみません、この依頼を受けたいのですが」

 私は受付のアスナへ御者のクエストを出した……。

「これは非常に危険なクエストの割に、報酬が少ないのであまりお勧めできませんが――」

「危険なのですか?」

「はい、フランシス公爵にはミランダ様、リムル様、セイラ様、3人の御息女がいらっしゃいます」

「えっ……セイラ、セイラ様ですか?」

「はい、セイラ様です……セイラ様は高貴な身分の方にも拘らず大変に気さくなお方で、よく教会の子供たちのお世話をしていらっしゃるのですよ」

「もしかしてセイラさんはフランシス公国のご令嬢なのか?!」

 天は二物を与えずとはよく言われるが、天は三物なら与えることもあると知った。

――神様って……狡~い……ブ~ブ~――


「ペルシア帝国の帝王シャーキンは、婚姻するのはどの娘でも構わないと言っているそうで、三女のセイラ様がその申し入れを自ら進んで受け入れたそうです」

「セイラさんは人身御供になることを決心したのか……」

――それで戦争ことが丸く収まるのなら仕方ないか』とは思ったのだが――


「そういう訳で、婚姻前に献上品を持参して、帝王シャーキンの謁見を受けるとのことですが……」

 そう言うとアスナは口籠った。

「謁見に何か問題があるのでしょうか?」

「……はい……帝王シャーキンはそうやって手に入れた花嫁を、次から次に殺しているとの黒い噂が後を絶たないのです。よって、クエストについては御者も含めて無事に生きて帰れる保証はありません……」


「構いません。このクエストをお願いします!」

 私は危険を承知の上、不退転の覚悟を持ってこの依頼を申し入れたのであった!

ありがとうございました。

地獄の悪魔、ペルシア帝国の帝王シャーキンの目論見とは一体……。

次回をお楽しみに!

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