24 魔の三重連
こんにちは、
魔の3重連による猛攻が始まります。
ちなみに、重連とは機関車等の動力車を2両以上で連結にすることで、昭和初期には、蒸気機関車が急勾配の区間で重連を行って、客車や貨車などの列車を『よいしょこらしょ』と牽引していたようです。
【魔の三重連】
「小僧、お前、名は何という?」
恐い目をした炎将軍サンバルガンが問うてきた――
「ダイサクと申します。アイアン等級の冒険者で、今回、ありがたくポーターの任を仰せつかっております。『はっはぁ~』」
私は奴と目を合わせないようにして答えた。
「んっ……ダイサク、ダイサクというのか? どこかで聞き覚えのある変わった名前だな……まぁ、せいぜい頑張るが良い。と言っても、今回の調査はアイアン等級の冒険者では少し荷が重いぞ」
「はい、承知しております」
「武器もこれと言って……ん~とりわけ業物と言う訳でもなさそうだしな……」
サンバルガンはパンチャックにちらっと視線を遣ると、そのように言った。
「小僧、職業は?」
サンバルガンは品定めするかのように、私を上から下まで見定める……。
――いやよ、いやよ、いやよ見つめちゃいやぁ~――
「修行僧です」
「修行僧、モンクか……。まぁ~今回のクエストで報奨金を得たならば、その金で先ずは武具を揃えることだ。黄色の寝巻とフライパンでは、バベルの塔の魔物どころかジプトの都の野良猫とも戦えぬぞ。お前が冒険者の端くれと言うのなら、しっかりと装備を整え、日々精進するのだ!」
『ププッ……』
『プププッ……』
『プッププップ~』
他のポーターたちは笑いをこらえきれずに吹き出し、赤の軍団の精鋭たちは、にやにやしたり肩を震わせたりして、笑いを必死に堪えているようだったが……。
「サンバルガン様のようなミスリル等級の冒険者を目指して、最善を尽くします!『はっはっ~』」
どこぞのお偉い社長さんをお酒の席で持ち上げるように、サンバルガンをヨイショして返答をすると、彼は気分が良くなったのか饒舌に話しを続けた。
「うむ、良きに計らえ。とは言え、お前は先ず銅等級の冒険者を目指すが良い」
そう言ってサンバルガンは藁人形に五寸釘を刺してきた。
白い鉢巻きで、炎将軍の額に括られた二本の蠟燭が、ゆらゆらと燃えているように覚えた。
――たたりじゃ、バベルの塔のたたりじゃぁ~――
「ヒャッハッハッハッ!」
「ワァッハッハッハッ!」
荷物運びと赤の軍団の間にどっと笑いが噴き出すと、私は黄色い道化役者になって、皆と一緒に顔で笑って心で泣いた……。
『笑ってよ~君のために~、笑ってよ~僕のためにぃ~』
それはさておき、サンバルガン率いる炎の探検隊は、順調にバベルの塔の迷宮を進んで行った。
既に冒険者ギルドによって23階層までの探索が完了しているためであろうが、ジプトの都の冒険者たちは、最短のルートでバベルの塔の通路をどんどん進んで行く。
彼らは自身のテリトリーであるバベルの塔の迷宮を知り尽くしており、途中で遭遇した魔物たちの弱点を的確に突いて、万事万端の行け行けの勢いだった!
ちなみに、魔物はその強さに準じた魔石をドロップする。
その階級は虹の色の並びと同じになっていて、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、白と言う順番で段々と階級が上がっていく。
浅い階層のボスは黄魔石、深い階層のボスは青魔石、迷宮ボスは藍魔石や紫魔石といった目安になっていて、紫魔石|階級の魔物になると、ゴールド等級の冒険者率いる小隊や、ミスリル等級の冒険者でなければ、その討伐は不可能だと言われている。
今回のバベルの塔の迷宮の調査において、冒険者が倒した魔物が落とした魔石は黄や緑ばかりなので、他の迷宮の浅い階層の魔物と同程度の強さのBからC階級の魔物と思われる。
ジプトの都の冒険者パーティには、ゴールド等級の冒険者やシルバー等級の冒険者と言った、高ランクの冒険者が幾人も参加しているので、これらの見知った魔物の討伐は、おそらくは何ら無理のないものだったのであろう。
体長2メートルの、ピューマに似た魔物『カラカル』の俊敏な動きを、補助魔法のスロウリーで抑え込み……。
『耳の先の長くて黒いフサフサの毛は可愛いらしい♪』
体長1.5メートルの筋肉質なイタチのような体形で、黒地に背中が白い模様を呈した魔物である『ラーテル』に対しては、その防御力が高い分厚い毛皮を、風魔法のウインドカッターで切り裂き……。
『小さくて可愛い見た目なのに、性格が獰猛でビックラッコ!』
体長3メートルの『オオサソリ』や『ブラックタランチュラ』の毒針を、補助魔法のファーストで掻い潜り……。
『私が知っている蠍や蜘蛛よりも、圧倒的に大きくてグロテスクだった。オーマイゲーロ、ゲロ!』
体長5メートルの黄色と黒色の派手な体色の『ファイヤーサラマンダー』の、口から吐き出す火炎放射や首回りの外表皮にある耳線からの円状炎を、聖魔法のプロテクションで防御しながら、氷魔法のアイスアローで攻撃し……。
『魔法の行使は異世界ならではの光景で幻想的で恰好よかった!』
体長1メートル足らずの『サボテンダー』を、全員が息を殺して通り過ぎるのをひたすらじっと待ち……。
『ところで、サボテンダーを倒したら、どんな魔石やドロップアイテムが手に入るのだろう……兎にも角にも貴方のご忠告通りでした。ミフェラさ~ん、愛っしてま~す♪』
そんなこんなで、我々サンバルガン検隊は20階層の大広間に到着した……。
この大広間には迷路はなく唯々だだっ広い空間で、砂塵で少し霞んではいるが、ずっと向こうの方には、三途の川ではなく登りの階段も微かに見えている。
しかし、ここに来て初めて先頭の冒険者たちの顔つきが急に険しくなった……。
「どうかしたのですか?」隣を歩くポーターに尋ねてみると、
「いつもとは様子が違う」と熟練のポーターが答える。
「なっ、何か来るぞぉ~!?」とゴールド等級の戦士が大声で叫んだ。
「あぁっ、そ、そんな…」とシルバー等級の魔法使いが溜息を洩らし、
「いっ、いやぁ~」ブロンズ等級の僧侶が嘆き慌てふためいた……。
大広間の中央に、黒鋼色、白銀色、真鍮色の魔素がそれぞれ集まると、各々の魔素が魔物の姿を形取っていった。
「ゴ、ゴーレムです、ゴーレムが現れましたぁぁぁ~」と先頭のシーフが叫ぶ。
「三体同時に現れたぞ!」と戦士が声を掛け、
「今まで見たこともないゴーレムです」と僧侶が絶叫した。
そこには、アイアンゴーレム、ミスリルゴーレム、オリファルコンゴーレムという、3体の正体不明のゴーレムが顕現していた……。
――いかにも強そうなゴーレムの群れだ――
「将軍様、得体の知れないゴーレムが現れたそうです」
私が言葉のバケツリレーで、サンバルガンに報告したところ……。
「聞かずとも見ればわかる!」
サンバルガンは一瞥もせず、険しい眼差しで私を一喝した。
冒険者たちは、命令されるまでもなくパーティ毎に戦いに備えていた……。
戦士は大剣を構え、シーフは短剣を手に取り、魔法使いと僧侶は呪文の詠唱を始めている。
「各部隊、戦闘隊形を組め!『鶴翼の陣』だ!!』
「おおっ!」
炎将軍サンバルガンが声を張り上げて命令すると、赤の軍団はそれに呼応するように立ち所に鶴翼の陣を敷いた。
鶴翼の陣とは味方の両翼を前方に張り出し、敵に対して『Vの字』の形を取る陣形だ。
魚鱗の陣と並んで非常によく使われた陣形であり、中心に主力の大将を配置して、敵が両翼の間に入ってくると、同時に両翼を閉じることで包囲し殲滅することができる。
敵にとっては中心の守備が少なく大将を攻め易いが、ミスリル等級の冒険者である炎将軍サンバルガンならば、特に何の支障もないのだろう。
ミスリル等級の冒険者は、相性さえ悪くなければSS階級の魔物と戦っても、単独で勝利することができるとさえ言われているのだから……。
そうしている間に、冒険者パーティの魔法部隊が3体のゴーレムに攻撃を仕掛けた。
「魔法火弓矢~」
「魔法氷弓矢~」
「魔法雷弓矢~」
三つの異なる属性の魔法がゴーレムたちを直撃する――
『バッバッバッバッバァーン!』
しかしながら、大きな爆裂音を立てて、全ての攻撃魔法はゴーレムの厚い装甲の前に弾け飛んだ!
「まっ、全く効いていません」と盗賊が伝え、
「なっ、なっ、なんてやつらだ」と魔法使いが驚き、
「あっ、案ずるな、ゴーレムは動きが遅い」と戦士が声を上げた。
「右端の黒鋼色の奴から一体ずつ叩き潰していくぞ!」別の戦士が声を掛けた……。
『速度上昇』と魔法使いが詠唱し、
『腕力上昇』と別の魔法使いがそれに続いて魔法を重ね掛けすると、その冒険者パーティの攻撃力は一気に倍以上に跳ね上がった!
その刹那……。
『シュゴォ~、ブォォォ~、ゴォゴォ~』
3体のゴーレムのそれぞれの足元から砂塵がぶわっと舞い上がる。
「うっ、浮いています、ゴーレムたちが、宙に浮いています」とシーフが叫び、
「そ、そんな馬鹿な!」と魔法使いが声を上げ、
「狼狽えるな!」と戦士が冒険者の皆に声を掛けたが……。
三体のゴーレムは地面から少し身体を浮かせると、アイアンゴーレムを先頭に、オリファルコンゴーレム、ミスリルゴーレムの順番で一列に並び、急に加速を始めた。そして、奴らは砂塵を舞い上げながらバベルの塔の大広間を猛スピードで走り抜ける。
ホバークラフトのように陸上を疾走する『魔の3重連』は、傍から見るとまるで列車の牽引力を増すために連結した蒸気機関車のようだった。
「地球か、何もかもが懐かしい……」
そんなふうに、私ひとり、しみじみと物思いにふけっている内に、事態はみるみる悪化していった。
『ドッドッドォ~ン』
「うわぁぁぁ~」
戦士やシーフたちは、アイアンゴーレムの体当たりで一撃のもとに吹っ飛ばされ、逃げ惑う魔法使いや僧侶たちは、魔の3重連が傍を走り抜けた風圧だけで、ばらばらにされ逃げ惑った。
あげくの果てに魔の3重連は、広い大広間の中央に突き立てられていた黒鋼の筒を1本ずつ手に取ると、炎将軍サンバルガン率いる鶴翼の陣に対して、正面からではなく一番守りの弱い真横から一直線に突っ込んで来た!
「横からくるぞ、陣形を組み直せ!」
炎将軍サンバルガンが赤の軍団に大声で指示を出した時には、魔の3重連は私たちの目前に迫っていた。
それでも赤の軍団の重歩兵たちが大きな盾を構えて防御しようとしたのだが……。
『ピッカッァァァー』
先頭のアイアンゴーレムが急に右に避けると……、オリファルコンゴーレムは全身から目くらましの強い閃光を放って、一瞬で赤の軍団の兵士全員の視界を奪ってしまった。
オリファルコンゴーレムはそのまま直進して中央突破し、最後尾のミスリルゴーレムはさっと左に避けた。すると、ゴーレムたちはその黒鋼の筒の銃口から、無反動砲のように『爆弾岩』を発射した!
『バシュッ、バシュッ、バシュッ』
『ヒュルルゥ~、ヒュルルゥ~、ヒュルルルゥゥゥ~』
『ドッカ~ン、ボッカーン、アッカ~ン』
混乱して右往左往する赤の軍団に対して、死神の列は中距離からの爆弾岩による艦砲射撃と、鶴翼の陣の内側に切り込んでの突撃を繰り返す……。
『魔の3重連』は円になったり直線になったり、歯ぎしりして悔しがるサンバルガンを余所に、ナイラ公国最強の赤の軍団は、あっという間に散り散りとなっていった。
私に限って言えば、オリファルコンゴーレムからぱっと閃光が放たれた瞬間、何かとても嫌な予感がしたので、林檎加速を使って、とっとと鶴翼の陣から離脱し、一人事なきを得ていたのであった。
『三十六計逃げるに如かず』
――やはりこれが究極の護身術だよねぇ~ふふふ――
ありがとうございました。
炎将軍サンバルガンは魔の3重連を打破し、ゴーレムを討伐できるのでしょうか?
次回をお楽しみに……。




