23 炎将軍サンバルガン
こんにちは、
いよいよミスリル等級冒険者、炎将軍サンバルガンの登場です。
【炎将軍サンバルガン】
砂金モグラ3匹とサンドシャーク1匹を捕獲した私は、前途洋々たるその足でジプトの冒険者ギルドに向かった……。
『ギィギィィィ~』
建付けの悪い両開きの玄関のドアを開けて部屋に入ると、私はそのまま真っ直ぐ進み、気に入りの受付嬢に元気よく挨拶した。
「ミフェラさん、おはようございます」
「おはようございます。今日はどのような情報がご入用でしょうか?」
ミフェラは艶やかな黒紅色の黒髪を、さっとかきあげながら聞いてきた。
「いえいえ、今日は情報の収集ではなく、私が先ほど捕獲してきた魔獣の査定をお願いしたいのですが……」
「魔獣ですか?」ミフェラは訝しげに美しい琥珀色の瞳で私をじっと見た。
「はい、この4匹です」
そう言って、私は持ってきた獲物を床に転がした。
『ドッサ~サラサラサラ~』
「モグラに鰐、じゃなくて鮫です」
「えっ、砂金モグラとサンドシャークですね……それにしても、こんなに綺麗な状態で!?」
砂漠鮫は胃袋に砂が入って、お腹がちょっとぽっこりしていたが、ワニ皮には全く傷はなかった……。
「昨日、砂金モグラのお話をしたばかりですのに……それに未だお昼前ですよ! 砂金モグラを3匹も捕まえて、狩場からもう戻って来られたのですか……この短時間にどうやって捕獲されたのでしょう?」
ミフェラが琥珀色の瞳でじっと見つめてきたので、私はどきどきしながらも、彼女の瞳を真っ直ぐに見て返事をした。
「専用の蟻地獄の罠で捕まえました。これ以上は秘密でお願いします」
私がポーカーフェイスを装って、そんな当たり障りのない回答をすると……。
「ありじごく、ですか? あっ、変なことを聞いて失礼しました。……捕獲方法はそれぞれの冒険者の秘匿情報でしたね。それでは、直ぐに査定して参りますので、この場で暫くお待ちください」
ミフェラは私からすっと視線を外すと、そそくさと席を立って受付の裏手にある執務室に回った。
……暫し待っていると、ミフェラが受付に戻って来た。
「お待たせしました。砂金モグラはそれぞれ、1.8キロ、2.4キロ、3.1キロの重さでした。砂金袋に溜まっていた金の重量は合計で330グラムでしたので、金貨6枚と銀貨7枚になります。これで宜しいでしょうか?」
「はい、問題ありません、ありがとうございます」と私は即答した。
砂金モグラはその砂金袋に蓄えた金の重さによって、買取価格が大きく変動すると聞いていたので、私は事前におおよその金額を暗算で弾き出していた。
――金貨の重さが1枚33グラム位なので、まあ妥当な線だろうと――
「それからサンドシャークの方は皮の状態がとても良かったです。このように傷が全くない良好な状態で、サンドシャークが捕獲されたのを今まで見たことがありません!? こちらは金貨4枚になりますが、宜しいでしょうか?」
「はい、それで結構です。ありがとうございます」
私はミフェラさんにお礼を言って、両方の報酬を合わせて金貨10枚と銀貨7枚を受け取った。
ミフェラから依頼の報酬を受け取った後、バベルの塔の迷宮を探索しようと思い、私は依頼黒板をぼ~っと眺めていた……。
字なんか読めなくっても、それぞれの依頼には簡単な挿絵が入っているので何となくだが内容は分かる。
「これでいいのだ!」
――うっ、かっこ悪い――
『ドカッ、ドカツ、ドカッ!』
そこに突然、赤い鎧の兵士たちが立ち入ってきた。
「黄色いお前、そこをどけ!」と言って、さっさと私を追い払うや――
『ドンッ!』彼らはクエストボードのど真ん中の場所に、依頼書を張り付けた。
「本日の午後、バベルの塔の緊急調査を行うこととなった。報酬は弾むので、我と思う冒険者は是非とも協力されたし!」
兵士らは一方的に依頼の概要を宣すると、直ぐに冒険者ギルドから立ち去ってしまった。
残念ながらその依頼書には文字しか書いていなかったので、私にはその詳しい内容がさっぱり分からない。
そこでミフェラにその依頼書の内容を聞いてみたところ、彼女は不安げな顔をしながらも、その内容を優しく教えてくれた。
『綺麗な人は、憂いを帯びたその顔もまた良いんだよなぁ~』
そんなことを考えながら、話そっちのけでうっとりとミフェラに見入っていた……。
「魔物の大暴走が発生するかも知れないとのことです。その調査のために、ナイラ公国の兵士と一緒にジプトの冒険者も徴集されるようですね」
「そうなんですね」
私は相槌をうつ素振りを見せながらも、ミフェラの美しさに心を奪われ、メロメロになってずっと彼女に見とれていた……。
それにもかかわらず、ミフェラは真剣な眼差しで話を続ける……。
「この依頼は調査と言っても何が起きるか分からない、大変危険な依頼だと思います。アイアン等級の貴方は絶対に止められた方が良いでしょう。ミスリル等級の冒険者でもあられる『炎将軍サンバルガン』様と、その親衛隊である『赤の軍隊』の総勢100名の兵士が、今回の調査に参加されるようです」
「今回の調査における、私たち冒険者の役割は何でしょうか?」
「それは……恐らく弱い魔物の討伐をしながらの道案内と|荷物運びですね。万が一のスタンピードに備えて、できる限り主力の兵士の体力は温存しておきたいでしょうから」
「……報酬は良いのですか?」
「はい、魔物の討伐隊への参加は金貨20枚、荷物運びとしてでも金貨10枚、調査に参加するだけで通常の5倍の報酬が支給されるようです。ですが……それだけ危険だということです。ましてや、あなたはジプトの都に来られたばかりで『バベルの塔』の迷宮に一度も入られたことがないのでしょう? であれば……今回の調査隊への参加は止められた方が良いと思います」
ミフェラは私を窘めるようにそう言った。
押し並べて、美人は笑顔を避けたり冷たい態度を取ったりと、いろんないざこざを避けるために男には厳しくなりがちで、さばさばとして余り干渉しないように振る舞うものらしいが、ミフェラの心遣いのある言葉はとても有難く感じた。
――君にぃ~、胸キュン、キュン♪――
「この調査の依頼はここでも受けることができますか?」
「可能ですが、本当に受けられるのですか?」
「はい、バベルの塔の様子見を兼ねてポーターとして参加させてください」
「嘘偽りなくお勧めできませんが……どうしてもということであれば、これ以上お引き止めは致しません。炎将軍サンバルガン様と赤の軍団も同行するので、危機的状況に陥ることはないと思われますが……どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「承知しました。ご忠告、ありがとうございます」
そんな訳で私は荷物運びとして、『バベルの塔』の迷宮の下見がてら、スタンピードの調査に参加することとなった……。
◇◇◇
その日の午後、早くも私は『バベルの塔』の迷宮入口に来ていた。
「雲浄くして妖星落ち、秋高くして塞馬肥ゆ、か……」
巨大なバベルの塔は、近くで見ると余計に頂上など見えるはずもなく『嵐の前の静けさ』、なんとなく悪いことが起こりそうな不吉な予感がびんびんにしている……。
そして、そこには既に100名の赤の軍団が、20名×5列の隊列を組んで待機していた。
彼らは、兜、鎧、小手など全身が赤尽くめで、戦国時代に「赤備え」と呼ばれた真紅の甲冑を纏った武田軍の精鋭部隊のようで、如何にも強そうに見えた。
全員の前に一人の強面の武将が歩み出て大きな声を張り上げた!
「刮目! 今より、バベルの塔へ進軍を開始する。魔物たちによるスタンピードが発生する恐れがある、一瞬でも気を抜けば、己の命は無きものと心せよ!」
「はっ!」
赤の軍団の兵士全員が一斉に一糸乱れずに返事をする。
「あれがミスリル等級の冒険者『炎将軍サンバルガン』だな。こっわぁ~」
そんな風に考えながら兵士らを眺めていると、サンバルガンはじろりとこちらの方を見て、50人程の冒険者たちへ声を掛けた。
「冒険者よ、お前たちが先行して進め。そして、何か異常があれば、逐一後方の兵士に状況を伝えるのだ。分かったな!!」
他の冒険者たちがサンバルガンの迫力に圧倒される中、
『アイ、アイ、サ~』
私は声に出さずに軽く返事をしておいた……。
かくして、私たちはバベルの塔へ進軍を始めた。
先頭には4人掛ける10組の冒険者パーティ、その後ろには10人程の荷物運び、後尾には炎将軍サンバルガンを筆頭にして赤の軍団が続く。
バベルの塔の内部は迷路になっており、真っすぐに進むことはできなかったが、塔が大きいだけに通路の幅は広く7メートル程もあるので、各冒険者のパーティや一個小隊ならば普段通りの戦法で戦えるだろう。
私は荷物運びの中でも一番新米のぺいぺいだったので、悲しいことに炎将軍サンバルガンの視界に一番大きく入ってしまっていた。
「ポーターよ」炎将軍サンバルガンが誰かにドスの効いた声を掛けている。
「……………」
荷物運びは他にも大勢いたので、私は他の者と同じように声が聞こえないふりをして、バベルの塔内の道を下を向いて黙々と歩いていた……。
「おっ、おまえだ、そこの黄色いの!」
「もしかして、もしかしてだけど、黄色いのって、私のことじゃないのぉ~」と小さく呟き、のら猫のように背筋を曲げてそっと後ろを振り向くと、炎将軍サンバルガンの恐ろしい顔が眼前に迫っていた!
――ああ~、今晩夢に出てきそうで、怖いんですけどぉ~――
ありがとうございました。
次話は炎将軍サンバルガン率いる赤の軍団と、
ゴーレムとの戦いです。
果たしてサンバルガンの部隊はゴーレムを討伐し、
スタンピードの発生を阻止することができるのでしょうか?
次回をお楽しみに……




