20 破岩の巻物
こんにちは、
村人たちは破岩の巻物を使いウルル村へ水を引くことが出来るでしょうか?
どうぞお楽しみください。
【破岩の巻物】
翌朝、巨人都市ゴルトバの南大門には、畏怖して委縮する衛兵たちを余所に、生きる伝説の巨人、阿と吽が門の左右に仁王立ちで立っていた……
ふと横を見るとアクス、ホーエ、アーティの3人も、衛兵たちと同じように気後れして小さくなっている。
私たちが阿と吽の脇をそそくさとすり抜けようとすると、阿と吽が私をじろりと睨み声を掛けてきた。
「ダイサクよ、世界は広いのだな!?」
「この世界にはまだ見知らぬ強者が居るということだな!?」
「こえぇ~」とアクスが呟き、
「んだ……」とホーエが呆けて、
「目を合わせちゃ駄目だっちゃ!」とアーティが囁き、
「そうですね、世界は広くてわくわくしますね」私は小声で無難な返事をした。
「ダイサクよ、最後にお前が放ったあの技の名は何という?」と吽が聞いてきた。
「あの技は流星六甲山嵐と名づけています」
「流星六甲山嵐か……、まさに鬼神の如き技であった」と阿が頷き、
「掌打だけでなく蹴りや投げも学ぶ必要があるのだな」と吽が呟いた。
『今までどんな相手も打撃だけで、撃破、粉砕、無双してきたので、彼らにとって他の技は必要なかったのだろう』
「打って、崩して、投げて、極める! これが武の真骨頂です」
「そうだな、武の道はまだまだ険しいのだな……
ダイサクよ、また来い、次こそは我らが勝つ!」阿が声を張り上げ、
「己を今一度鍛え直しておく……
次に仕合うのを楽しみに待っておるぞ!」吽が声を励ました。
そうして二人は私たちが見えなくなるまで、仁王立ちで見送ってくれたのだった。
『何処ぞの寺の南大門の金剛力士立像みたいで、威風堂々、そこに立っているだけで絵になる巨人たちだ』
私はそこでウルル村の3人と分かれても良かったのだが、『黒影カンガルー』や盗賊に襲われて、やっと手に入れた垂涎の『破岩の巻物』を失くして、せっかくの皆の苦労が水の泡になるのは忍びなかったし、
「一緒に帰らないとアボリ婆ちゃんに怒られるっちゃ」と言って、
アーティに、しっかと右腕に抱きつかれ、ぼよよんと豊満な胸を押しつけられ、泣いて頼まれたこともあって是非もなく最後まで3人に同行することにした……
『一撃必殺の威力を持つ3連撃のコンボ技だった!』
ウルルの村に着くと村人全員で私たちを出迎えてくれた。
「よくやっだ、よくやっだ、ほんとうによくやっだ!」
アボリ村長が顔をくしゃくしゃにして労いの声を掛け、
「信じられないっぺ、こりゃぁ夢でねえよな!?」と言って、
お互いの頬を引っ張り合う村人たち、
「すごいだ、ようやった、さすが村の誇りだ」と称賛の声を上げる者たち、
「これで村に水が来る、たくさんの作物が作れる、もう食いもんに困らねぇ、出稼ぎにも行がなくてもええ、可愛いい娘たつを遠くに奉公にさ出さなくていいだ!」
そう言ってほっと安堵の胸をなでおろす村人たち……
「善は急げ! 早速この破岩の巻物使って、天空岩を木っ端みずんにぶっ壊すて、ウルルの村に水を引くだぁぁぁ~!」
アボリ村長がそう言って村人たちに発破を掛けると、
「うぉぉぉ~、やったるだぁ、」と村人たちの歓喜が爆発したのだった……
◇◇◇
ウルル村人全員が天空山が見える小高い丘に集まった。アボリ村長は破岩の巻物を大きく広げ、目の前の天空岩に向かって魔法の言葉を読み上げた。
「大地を統べる無限の躍動を以って、この大岩をぶっ壊しやがれぇ~、
タイタァァァ~ン!」
『ドゴゴゴゴォォォ~』
「わぁおぉ~、いやっほぉ~、へいへいほぉ~」
天空岩が大きな音を立ながら砕けて地面に沈下していくと、アクス、ホーエ他、村人全員が小躍りしながら有頂天家族となった。しかしながら、私は見た!
家政婦ではないが見てしまった!!
沈んでいく天空岩の直ぐ向こう側に、ほぼ同じサイズの巨大な岩山があるのを……『あの大岩山が残っているとウルルの村に水は引けないよね~』
口をあんぐりと開けたアボリ村長と、すっと落ちる虎のパンツをずり上げるアーティと、何人かの気の利いた村人たちはもう一つの大岩山の存在に気づいたようだ…… すると、悲しい目をしたアボリ村長とアーティが、何かを求め訴えるように上目遣いで私を見た。
『そんな目で私を見ないでください……』
「仕方ない、毒を喰らわば皿まで……、乗り掛かった舟です。最後までやっちゃいましょう! アップルパワーエネルギー解放、エネルギー充填80%……、100%……、120%……、暗黒重力胡桃割器、発射っ!」私はぱっちんと大きく指を鳴らした。
このブラックホールクラッカーは、アップルパワーを使って任意の場所にブラックホールに似た超重力場を作る、超戦略級破壊兵器のようなものだ! 辺り一帯、何でも彼んでも見境なく破壊してしまうので、目的を果たしたら直ちに解除しないと、世界の全てを、砕き、潰し、吸い込んでしまう恐れがある。大きくて動きが遅い敵や停止している物体に対して圧倒的な威力を有する、短期決戦用の私のとっておき究極奥義だ!
『グワッ、グワワ、ガァゴゴゴゴゴォ~』
もう一つの天空岩の中心に超重力場が発生し、凄まじい勢いでその巨大な岩山を砕きながら圧縮し吸い込んでいく。
御負けで私からのウルル村への志、アップルパワーを調整しながら、ダーリン川からウルルの村までの間を凹にして、水が上手く流れるようにざっくりと傾斜をつけた。『傾斜は距離3kmで1mの下げてと……、私の計算ではこれで間違いなく水は上手く流れるはずだ。 All roads lead to rome.』
……、まもなくダーリン川の水がウルルの村まで流れてきた。
『ザザザザザァァァ~』
「水だぁ、水だぁ、水がきただぁ~」村人たちは狂喜乱舞し、
『ドボン、ドボ~ン、ドッボ~ン』
ウルルの村人たちは次々に川に飛び込み、なんとも心地よい救いの水を肌で直接感じていた。アボリ村長、アーティ、何人かの村人たちは目の前で起きた現象を摩訶不思議に見守っていたが、ダーリン川から絶え間なくどんどん流れてくる水を見た途端、他の村人たちと同じように川に飛び込み躊躇なく水を口に含んだ。ウルル村には井戸の水しかなかったので、ずっと長い年月、村人たちは苦労に苦労を重ねて絶望や挫折という多くの涙を流してきたのだが、この新しい川の水は今までの苦労を瞬く間に洗い流したのだった。
◇◇◇
翌朝、ウルル村の出口には、アボリ村長、アクス、ホーエ、アーティが一緒になって、私の旅立ちを見送りに来てくれた。
「いろいろお世話になりました」
「いやいや、ダイサク様のお陰で、ウルルの村に水を引くことができただ。
どんなに感謝しても感謝しつくせぬ!」
「本当に助かった」
「んだぁ~」
「ダイサクのお陰だっちゃ♪」
「一宿一飯の恩義、これも何かのご縁ですよ。ウルルの村の皆さんに笑顔が戻って本当に良かった! それではこれで失礼します。さようなら」
私はそう言って4人と握手と抱擁をしてウルル村を後にした。
「そんだら」アボリ村長が杖をつきながら手を振り、
「まだな」アクスが斧のない柄を振り、
「んだぁ」ホーエが刃が半分に折れた草刈り鎌を振り、
「さよならだっちゃ」アーティが両手を振った。
手を振りながらアボリ村長はぽつりと声に出した。
「本当のことを言うとな、巨人族に勝つことなど叶わぬ夢物語と思っておっただ」
「なんだっで……」アクスが驚き、
「んだ……」ホーエがたまげて、
「そうだっちゃ……」アーティがびっくりした。
『残念ながら、アーティの着ていた麻の服は、虎の服と違ってずり落ちる気配さえなかった』
「しかし、夢は叶うのだな、儂が見た夢はほんに正夢となった。
ダイサク様も言っておったとおり、一生懸命、諦めずに頑張る者たちを、神様は見捨てなさらぬのだな」
「そうだな」
「んだぁ」
「そうだっちゃ、神様はいつも傍にいるっちゃ」
「神様、ありがとうごぜえます」
アボリ村長は胸の前で両手を組んで膝をついて祈り、アクス、ホーエ、アーティの3人は、ダイサクの姿が見えなくなるまで手を振り見送っていた。
夏の空に太陽が輝白い入道雲が湧き上がっている。見渡す限り一面に広がる赤い岩山の中には、夾竹桃の緑色の尖った葉っぱが風に揺れながら、その小さな赤い花が燃えるように咲いていた。
青い空に太陽がさんさんと輝く中、黒影カンガルーは岩陰で淡々とシャドーボクシングをしながら、左のワンツージャブ、ストレート、ボディブロー、ストマックブロー、フック、アッパーカット、レバーブロー、デンプシーロール、ハートブレイクショット、コークスクリューパンチ、そして究極のカンガルーファントムといった、幾つもの多彩なパンチを繰り出しながら、『いつでも練習試合をやってやるぞ』と、流し目でこちらへ睨みを利かせている。
『あいつと目めを合あわせちゃ駄目だめだっちゃ!』
私の本能はそう告げていた……
『あの岩山の向こうにはどんな出会いや冒険が待ち受けているかな?』
そう想いながら歩み出すダイサクの足取りは、カンガルーのジャンプのように今日も元気で軽やかだった。
『ダァ~ンダダッ、アチャッ~』
劇終の律動が心の中を通り過ぎる!
『無料より高いものはない』の巻(終)
ありがとうございました。
次回は『砂漠の都ジプト』のお話です。
お楽しみに!




