19 金剛阿吽
こんにちは、
ダイサクVS阿と吽の戦いです。
どうぞお楽しみください。
【金剛阿吽】
闘技場は阿と吽への3万5千の巨人族の声援で溢れていた。
巨人族は自分たちを最強の種族と自負しており、その巨人族の中でも天下無双の阿と吽の勝利を、闘技場全ての者が信じて疑っていない。当然ながらこれからの激闘を予測できる者は誰一人いなかっただろう……
「……、たわいない」阿が嘆き、
「……、つまらぬ戦いであった」吽が悲しみの声を出した。
「……、勝負は時の運、最後までどちらが勝つか分かりませんよ」
そんな感傷に浸っている阿と吽に対してちょっと声を掛けただけなのに、二人から、じろり、ぎろりと思いっきり睨まれた。
「その心意気、大いに結構」
「せいぜい我らを楽しませてくれ」
「それでは本番と洒落込みましょうか」
私がパンチャックを前方でX字に交差させて二人に対峙して構えると、直ぐに阿は私の右側へ、吽は私の左側に回り込み、得意のダブルラリアットの位置についた。
「林檎加速!」
私は林檎引力を使って加速し一瞬で阿の懐へ潜り込むと、
「ホワッタァァァ~」と掛け声をかけて、
『パァン、パッパパァァァ~ン』
私はパンチャクを阿の顎に一発と両内膝へ一発づつの3連打で叩き込んだ。
『ドスッ……』
阿が左の片膝を地面についた。しかし、私のすぐ後ろには吽が迫っている……
「ハァァァッ!」
私の延髄を目掛けて吽の物凄い右正拳突きが放たれた。私はすっと首を右に軽く傾げて、その右正拳突を躱しながら体を右へ270度回転すると、
「アチャチャ、アチョォォォ~」と声を張り上げて、吽の右の脇腹と尻に右左二発のパンチャックをぱぱんと叩き込み、間髪入れずに左の蹴りを右膝の内側にびしっと蹴り込んだ……
『ドスッ!』吽が右の片膝を地面に付くや否や、
『パァカァァァ~ン』パンチャックを右裏拳で流れるように吽の延髄に打ち込むと……、吽は初めて顔を地面にざざっと擦りつけた。
「うわぁぁぁ~、うおゎぁぁぁ~」
「真面目にやれぇ~」
「何やってんだぁ~」
闘技場に巨人族3万5千の観衆の怒号が響き木霊する!
『五月蠅い! 黙って見ておれ!!』
阿が叫ぶと闘技場はしんと静まり返った。
吽はぺっと唾を吐いて土を吐き捨て、まるで親の仇のように私を睨みつけている。
『二人ともそんな怖い目で私を見ないでください。闘技場はバレーコートじゃないし、苦しくって悲しくって涙が出ちゃう。だって心は日本人なんだもん♪』
「お主やるな、一体何者ぞ!?」阿が叫び、
「これほどの強者はいつ久方ぶりか……」吽が呟く、
「吽よ、あれをやるぞ!」
「おうさ、阿よ、合点承知の助!」
阿吽の呼吸で、二人は左右に平行に並んで左手と右手の掌を合わると、もう片方の手で天を拝み精霊へ求め訴えた。
「阿耨多羅三藐三菩提」と阿が唱え、
「阿耨多羅三藐三菩提」と続いて吽が唱え、
「阿耨多羅三藐三菩提、合掌!」最後に二人が同時に何かの呪文を唱えると、二人は眩いばかりの七色の光に包まれた……
「バァロォロォォォ~ムゥゥゥ~」
そこには、二人よりも一回り以上大きく、真朱のややくすんだ朱色の赤い肌に、筋骨隆々で、虹色に輝く天の羽衣を身に着けた、無手で裸足の仁王が立っていた。
「おお~、大地が怒っているような景色だ」と私は思わず呟く。
「『金剛阿吽』、ここに見参!」
「うぉぉぉ~、うぉぉぉ~、うぉぉぉ~」闘技場の全ての観衆が雄叫びを上げた。
「あれが伝説のぉ~、大巨人!」
「電光石火の一撃を打つという~」
「ありがたや~、ありがたや~、ありがたや~」
数多の観衆は歓喜し、仁王像のような神がかりの戦士を拝んでいる。
『うゎぁ~、二人で一人の超人が、ミスリル等級冒険者の『金剛阿吽』の正体だったのか!』
私はこれからの接近戦を想定して、パンチャックを斜め後ろに『フライ、パァァァ~ン』と投げ捨てると、アイアンカイザー(鉄拳鍔)を両手に嵌めた。
「フゥォアァァァァ~」
怪鳥のような声で腹から息を吐きながら、足を大きく開いて右手と右足を前に出し、金剛阿吽に対して体を横に構え、親指で左の頬に付いた泥をすっと拭うと、右手人差し指をくいっくいっと曲げて奴を挑発した。!
『さぁ~最終決戦の始まりだ!』
金剛阿吽が無人の野を歩むが如く、ずっしずっしと間合いを一気に詰めて来た。
それに対して私はじりじりと間合いを詰める……
「さぁ、お互い拳で語り合おうぞ!ハァァァッ」
「ホォワッタァァァ~」
『バッゴン、ドッゴン、ズッゴン、ドッカン、グワッシャン』
お互いの拳が幾つもぶつかり音速の衝撃波が発生する。
「アッチォォォ~」
金剛阿吽の顔の防御が少し甘かったので、私は奴の顔を目掛けて右の上段蹴りを入れたのだが、それは金剛阿吽の作戦だった。
『金剛猫だまし!』と叫ぶと、
『パァン!』
金剛阿吽はすっと身を引いて、私の目の前で思いっきり手を叩いた。
まばゆい光で一瞬辺り一面が一切見えなくなった刹那……
『金剛岩石落とし』と金剛阿吽は続けざまに叫んだ!
『はっ!?』
頭上に何か気配を感じさっと宙を見上げると、そこには40~50個の魔法の大きな岩石が作られている。あれらの岩石群は恐らくこの後直ぐに、大日本帝国軍を苦しめたダグラス社の『SBDドーントレス』のように、恐れを知らずに私目掛けて急降下爆撃してくるのだろう……
「流星44(フォーティフォー)マグナムゥゥゥ~!」
『ドッゴォォォ〜ン』
私はそれら全ての岩石を破壊するための大技を放った。
流星44マグナムは複数の動きの速い敵を、アップルパワーの衝撃波で同時に内部から吹っ飛ばす必殺の飛び道具だ!その強烈な圧縮弾丸は、全ての岩石群を其々の中心から木っ端微塵に爆破した。
『ドッドーン、バチバチバチィ、シャララララァ~』
まるで枝垂桜のような花火の火の粉が闘技場全体に降りかかる……
「ウワァァァ~」
スターマインのような情景に観衆の更に大きな歓声が沸き上がった。
『玉屋~、鍵屋~の掛け声が聞こえたような気がした』
しかしながら、金剛阿吽の連続攻撃はそれで終わっていなかった。
『金剛百裂張手!』
金剛阿吽は私の全身を目がけて百発の張り手をお見舞いしてきた。私はその連続の掌底突きを防御すべく、金剛阿吽の右斜め前の死角となる有利な位置に位し、立ち技最強のムエタイの防御技である、前蹴り、肘膝防御、片手払いを使って全て相殺する……
お互いの拳、肘、膝の衝突により、数多の音速を越えた衝撃波がその空間に生じ、闘技場の内塀は殆ど押し潰されて変形した。そんな攻防を寸時に繰くり返かえしながら、私は反撃の機会を虎視眈眈と伺っていた。
『金剛八艘飛!』
8人の金剛阿吽が私の周りに同時に現れたかと思うと、
『金剛合掌突波』
8人の混合阿吽が両手を合わせて、覇気に包まれた合掌した腕で突いて来た、来た、来たぁ~
『縮空!』
私はアップルパワーを使って時空を歪めると、金剛阿吽の懐にまさに光より速く瞬間移動し、間合いを切って合掌した腕を取った。そして……、
『アッチョォォォ~、流星六甲山嵐ぃぃぃ~』
その金剛合掌突波の力と林檎引力を利用して、
空気との摩擦で真っ赤に燃える金剛阿吽を、竜巻の如く螺旋をかけて回転させながら闘技場の地面に投げ切った!
『3万5千の観衆には一瞬8人の金剛阿吽が同時に投げられたように見えたかもしれない!?』
『ドォゴォォォ~ン』
スターマインの舞い散る花火が消える前に決着はついた……
阿と吽の二人の巨人族の戦士は倒れていた。闘技場の地面は大きく深く凹み、周り全ての壁は45度以上、大きく内側に傾いていた。
「……………」しんと静まったコロッセオ。
「わぁぁぁ~、うぉぉぉぉ~、すげえ、すげぇ、すげぇぞぉぉぉ~、」
暫くすると大歓声が湧き上がり、闘技場は巨人族3万5千の大絶叫で包まれた。
「なんだっ?」アクスが辺りを見回し、
「んだぁ?」ホーエが寝ぼけて尻を掻き、
「なんだっちゃ?」アーティが両手で虎のパンツをずり上げた。
大歓声で目が覚めた3人は、柄が折れて短くなった斧、折れ曲がった鎌、弦の切れた弓といった武器を持ったまま、まるで豆鉄砲で撃たれた鳩のように、目を丸くして周りを見渡した。そこには3人の目の前にぽつんと突っ立つ私、闘技場の中心に倒れている2人の巨人族の戦士、フルボッコに壊れている闘技場がただただあった……
『グワァァァァーン』
大銅鑼を叩く試合終了の合図と共に、
「それまで! 勝者、ウルル村!!」巨人族の審判が仕合の終了を告げた。
「アクス、ホーエ、アーティ、勝ちましたよ。私たち、ウルル村の優勝ですよ!」
「えっ……」アクスの斧が柄からすとんと落ち、
「んだっ……」ホーエの鎌の刃が真ん中からぽろりと折れ、
「だっちゃ……」アーティの虎のパンツがずり落ちた!
「何が何だかさっぱり分かりませんが、阿と吽の2人は倒れて戦闘不能状態です。
これで『破岩の巻物』はウルル村のものですよ♪」
「ほんとか!?」アクスは喜びの涙を流して、斧のない棒を頭の上で振り回し、
「んだっ……!!」ホーエはびっくりして、腰を抜かして尻もちをつき、
「やったちゃぁ~♪」アーティが万歳しながらジャンプすると、虎のパンツが又もやずり落ちる。
『がんばらなくっちゃぁ~ それにしても目のやり場に困ってしまうちゃっ』
「ははは……」「なはなは……」「ほほほ……」「にこにこ……」
闘技場の観衆の歓声に埋もれて搔き消されはしたが、4人は心の底から笑って勝利の美酒に酔ったのであった!
『どうして阿と吽の2人がぶっ倒れているのか、純真なウルル村の若者3人位なら、まぁ適当に誤魔化せるだろう。越後屋、おまえも悪よのう~ふふふ……』
私は一人さながらあの江戸の悪代官のように遠い世界に思いを馳せたのだった。
ありがとうございました。
はたして破岩の巻物を使ってウルル村へ水は引けるのでしょうか?
次回をお楽しみに……




