17 巨人都市ゴルトバ
どうぞお楽しみください。
【巨人都市ゴルトバ】
私たち一行は半日かけて巨人族の都市『ゴルトバ』に到着した。
そのゴルトバの南にある正門の前では、二人の巨人族の衛兵が立哨していた。
「大ぎいな……」
「んだ……」
「大きいちゃ……」
「大きいですね……」
衛兵たちは身長2メートル超、体重160キロはあるだろうか?
筋骨隆々で、筋肉や骨格といった体つきが逞しく、オランダ人よりも二回りは大きく見える。
「武闘会参加の者か?」
「んだっ……武闘会に来ただ」とアクスが相手を見上げながら返事をする。
「ならば、お前たち自身でこの門を開けてゆけ。力でも、魔力でも、己が持つ力ならば何を使っても構わん……好きなようにお前たちでこの門を押し通るがよい!」
門を見ると中央に南大門、その向かって右側に通用門があった。
通用門といっても高さ4メートル、横幅5メートルはあり、人族の荷馬車なら余裕で通れそうだ。
一方の中央にある正門の南大門は、高さ15メートル、横幅20メートルはあるだろうか、実に重厚かつ頑強な門に見える。
加えて、通用門の隣には水晶の乗った操作盤があり、これに相応の魔力を注ぐと門が開く仕掛けらしい……。
「……魔力を注ぐっ? 俺は魔力なんか持ってねぇぞ……ホーエ、アーティ……お前たち、魔力なんて持ってっか?」
「魔力ってなんだ……」
「馬鹿も休み休み言うっちゃ、魔力なんて持ってる訳ないっちゃ」
「…………」
私は武闘会の参加者ではないので、特に言うことはありません。
「そんだら、みんなで門を押して開けるだ」
「んだ」
「開けるっちゃ」
「…………」私は武闘会の参加者ではないので、特に言うことはありません。
3人は南大門の前に立つと、各々が両手を扉に当て全力で押し始めた。
「うぉりゃぁぁぁ~、みんな力いっぱい押すだぁ~」とアクスが叫び、
「んだぁ~」とホーエが吠え、
「やるぅ~だっちゃっ」とアーティが唸った。
しかしながら、南大門はうんともすんとも全く動く気配はなかった。
そんなにも必死な若者たち対して、巨人族の衛兵たちは、にやにやと薄笑いを浮かべながら、厭みたっぷりな口調で声を掛けた……。
「ふふふ、そんなんではその南大門はびくともせん!」
「我々でもそれではその南大門は開かんぞ。ましてや貧弱な人族では無理に決まっておろう。魔力が使えぬならこのまま帰った方が身のためぞ。武闘会に出ても力なき者は直ぐにやられて、死ぬか大怪我をするのが落ちだからな……」
衛兵たちの言い様にちょっと悪意を感じたし、アボリ村長に3人を無事に目的地まで届けると約束していたので、少なくとも巨人都市ゴルトバの中に入るまでは、精一杯頑張ってサポートすることにした……。
「皆さん、及ばずながら私もお手伝いします」
私はそう言って彼らの横に平行に並ぶと、3人と一緒になって一生懸命に南大門を押した……。
「ダイサク、あんがとな……みんなぁ~一気に押っせぇ~」
「んだぁ~」
「限界をこえろ、だっちゃっ!」
「アイャァァァ~」
「はははっ……その南大門ではない。お前たちの力を試すための門は、こちらの通用門の扉だ」
「ふふふっ……愚か者たちよ……その南大門は押しても引いても開かんぞ」
巨人族の衛兵たちは笑いながら呟いた……。
私のダンボの耳は対空戦車ゲパルドのレーダーのように、衛兵たちの呟きを聞き逃さなかった……。
――そういうことですか――
私は自称知能指数1300のブレインを起動させ、一瞬で私たちが置かれた状況を把握した。
「そっちがその気なら……やってやる……」
『ゴッゴゴゴゴォ~』
大きな音を立てて衛兵たちの目の前で大門が動き始めた……。
「えっ、ええ~、何が起こっている!?」
「あっ、ああ~、南大門が上がっていく!?」
衛兵たちは愕然として棒立ちになった――
「やっだぁ~、開いたどぉ~」
「んだぁ~」
「早く中に入るだっちゃっ」
「さぁ、とっとと先に進みましょう♪」
すたこらさっさほいさっさ、そんなこんなで私たち一行はなんとか無事に『巨人都市ゴルトバ』へ入場することができたのであった……。
『ドッドッドッス~ン!』
私たちが南大門に滑り込むと、間もなく南大門は大きな音を立てて落ちた……。
この南大門は滑車を使った引き上げ式の門だったのだ。
ウルル村の4人がいなくなっても、巨人族の衛兵たちは何が起こったのか理解できずに、門の前に呆然と立ち尽くしていた……。
当然のことながら、南大門が開いたのは決して皆で一生懸命に押したからという訳ではない。
この南大門は滑車を使った引き上げ式の門だったので――暖簾に腕押し――押しても引いても無駄、無駄、無駄!
そもそも南大門の扉は上にしか上げることができなかったのだ……。
そこで私はアップルパワーを使って力づくで門を開け、3人を無事に『巨人都市ゴルトバ』の中まで送り届けることで、アボリ村長との約束をしっかりと果たしたのだった。
私は髭もないのにちょっと満足気に顎をさすった。
――う~ん、マンダム――
都市の中に入ってから30分程歩くと、そこには大きな円形の闘技場――コロッセオ――があった。
コロッセオは長径200メートル、短径160メートル、高さ50メートル程もあり、その収容巨人族人数は三万五千人と巨大だ。
そしてコロッセオの入り口には大きく『武闘会』と書かれた受付があり、既に何人かの人族のパーティが受付を行っていた……。
「はい、次の方どうぞ」巨人族の受付嬢がウルル村の若者たちを呼ぶ。
その巨人族の受付嬢一人でも、アクス、ホーエ、アーティの3人と戦って十分お釣りがきそうな位、十分強そうな体つきだ……。
「ウルル村のアクスだっ」
「……では、参加者の記入をお願いします」
「んだ……アクス、ホーエ、アーティ……これでよっす」
「……あのぉ~、人族は4人参加のルールとなっています。そうでないと巨人族とは到底試合になりませんし、なにより賭率が成立しません。どうなさいますか?」と受付嬢が問い質した…………。
『じぃ~』とアクスが……、
『そろりそろり』とホーエが……、
『ちらりだっちゃ』とアーティが……、
各々流し目で誰かさんへ視線を移し、何かを期待して食い入るように見つめている……。
――はいはい、分かりました……私も……私も皆と一緒に試合に出ればいいんですね……出れば――
「4人目の出場者はダイサクで登録をお願いします」と言って受付嬢に申し出た。
「あんがとダイサクぅ~」
「とんもだちだぁ~」
「そうこなくちゃ、だっちゃ」
3人はとても嬉しそうに大はしゃぎして喜んだ。
「一宿一飯の恩義だ、仕方ない……だろう……だろう……だろう」
私は何度も自分にそう言い聞かせたのであった。
一緒に戦うとなれば自分たちの戦力を把握しておく必要がある。
なんとなく、なんとなくは分かってはいたが、一応3人の戦闘力を確認しておくことにした。
「お互いの装備と得意技を確認しておきましょう?」
「そだな……おらは木こりだ……武器は木を切るこの斧で……止まっている木を切るようにぶっ倒すど!」
「んだ……おだは農家だ……武器は畑の雑草を刈るこの鎌で……草を切るようにざっくりと切ってやるだ……」
「そうだっちゃ……うちは猟師の娘だっちゃ……武器はこの弓で……兎をやるように射るちゃ♪」
結局、ウルル村のパーティメンバーの其々の装備は以下のとおりだった………。
アクスは鉄の鉞斧と、樫の兜、樫の胸当て、カンガルーの足袋。
ホーエは草刈り鎌と樫の小盾、麻の服、ウォンバットの足袋。
アーティは竹弓、虎の耳あて、虎の上下セパレート服、虎のブーツと、遥かな星の鬼娘の様相を呈していた。
ちなみにアーティの装備は、その昔、彼女のおじいさんが狩った虎の毛皮を材料にして作った、唯一無二の一品と言うことであった。
一方の私と言えば、パンチャック(双節揚焼鍋)、2本のおしゃれな黒いライン入り蒲公英色のジャージのような重強化服、それから武闘家の靴を装備していた。私の装備は相も変わらずいつもと同じだ……。
◇◇◇
私たちは明日の勝抜戦のトーナメントに備えて、巨人族が用意してくれた宿『運命』に泊まった。
――ジャジャジャジャ~ン♪――
夕食後、私はギターでベートーベンのヴァイオリン協奏曲を爪弾いた後、ベッドに横になって普段通り適当な歌を口遊みながら眠りについた……。
「アップ プルプル アップップゥ~ アップ プルプル アップップゥ~
アップルパワーを引っ提げて 黄色い男がやってきたぁ~
恐くなんかないんだよぉ~ 修行僧はお人好しぃ~
巨人も、魔物も、魔獣も~ アップルパワ~にゃ敵わない
戦えグレイトモンク 異世界の王者ぁぁぁ~」
ありがとうございました。
初めて評価ポイントを付けて頂きました。 なんと星4つも!
何処のどなたか存じませんが、どうもありがとうございます。
もしかし貴方は黄金バット様なのでは……。