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16 水乞村ウルル

どうぞお楽しみください。

【水乞村ウルル】


 夏の眩しい太陽とぽっかり浮かんだ白い雲。

 ここは、次元を超えたパラレルワールドか、遥か宇宙の彼方か、はたまた遠い未来の世界なのか?

 私は3年前にこの異世界に飛ばされて、今は風の吹くまま気の向くままの気儘な一人旅を続けている。

 目的は特にない……。ただ雲が流れるように漫遊しながら、この世界を面白おかしく見物して回っているだけだ。


 私は見渡す限り一面に広がる赤い岩の大地の中に、小さくてかわいい夾竹桃の赤い花を見つけた。

 夾竹桃の花は桃の花のようで、その葉は竹の葉によく似ている。また夾竹桃はとても生命力が強い植物で、原子爆弾によって焼野原となり、75年間は草木も生えないとされていた原爆の荒野において、一番初めに咲いた花とされている。

 そんな夾竹桃だからこそ、こんな岩ばかりの荒れ地でも育つことができるし、そこに暮らす人びとに燃えるような勇気と希望をくれるのであろう。


 もっとも夾竹桃は、花、葉、枝、根など全ての部分に、青酸カリよりも毒性が強いと言われる、『オレアンドリン』や『ストロファンチン』などの猛毒の物質を持っていて、成人でもその葉を5枚から15枚を摂取すると死に至り、なかでも美しい花をつける開花の時期は毒性が高くなり、特に危険なため細心の注意を払う必要がある。


 そんな何にもない荒れた岩山に囲まれた平地で、私はウルルという貧しい村を訪れた。

 ウルル村の周りでは背丈が1メートルほどの粟や稗が作られていた。

 粟や稗よりも、米や麦を作った方が良いのではとも思ったが、ウルル村の近くには川や池といった水源はなく、村にある何本かの井戸の水を使って田畑へ水を引いていた。

 土地がやせていて作物や草木が育たないウルル村では、実を結ぶ粟や稗を作って細々と暮らしているのだろう。


 ウルル村の中央の広場に行くと、そこには百人程の人族の村人たちが集まっていて、何やらがやがやと井戸端会議をしていた。

「このまんまじゃ、ウルルの村はお終めえだ!」

「んだんだ、もう村を捨てるほかねぇ~」

「でんも~村を捨でて皆、どごさ行ぐとこあるんか?」

「………………」

 暫らく沈黙が続いた後で、一人の小柄な白髪の老婆が何やら口を開いた……。


「もうすぐ、『巨人都市ゴルトバ』で武闘会が開がれる……」

「ア、アボリ村長……それがどうしただ?」

「まぁ、最後まで落ち着いてよぉ聞け……この村の南のエアーズロック(天空岩)の向こうにはダーリン川が流れているだ。あのエアーズロックをどかせさえすれば、このウルルの村へたくさんの水を引くことができる。そすたら色んな穀物を作ることができるようになるだ!」

 こつこつと杖をつきながら、白髪の婆さんはそう言った。

――村長の名前はアボリさんというらしい――


「あのエアーズロックをのかすって……アボリ村長……そんなの無理だべ」

「んだ……あの大岩は高さ三百メートル、周囲は10キロメートルもあるだ……そんなの神様じゃねえと、どかせっこねえぞ!」

「んだんだ!」と村人たちが一斉に賛同して声を上げるが……。


「そんだことねぇ! 今回の巨人武闘会の優勝賞品は、巨人族の秘宝『破岩の巻物スクロール』だぞ! あんの巻物さえあれば、エアーズロックをどかすて、村に水を引くことだってできるはずだ!!」

「…………」

「うぉぉぉ~、流石アボリ村長だっぺ!」

「天空岩をどかして水を引くだぁぁぁ~」

「アボリ、引くだ! アボリ、引くだ! アボリ、引くだぁぁぁ~!!」

 村人たちが小躍りしながら狂喜乱舞し始めた矢先――


「……で、でも……だっ、だれがその巨人の武闘会にでるだ?」

「そっ、そもそも……優勝なんて……できっのか?」

「…………」

 一人の村人の問い掛けに、再びウルルの村人たちの沈黙が続いた……。


「……その役目、おら達にまかせてくんろ!」

 そう言って、突然に三人の若者たちが名乗りを上げた。

「お、おっ、おめえたちは……村一番の力持ちの『アクス』、小判鮫の『ホーエ』、そして村の紅一点、アボリ村長の孫娘『アーティ』じゃねえか……」


 アクスと言う青年は、身長178センチ、体重85キロ、黒茶色の髪と瞳、日に焼けた土色の肌、がっしりした体格で肩には斧を担いでいた。

 ホーエという若者――見た目は老けている――は、身長165センチ、体重50キロ、駱駝色の髪と瞳、枯色の肌、もやしのようにひょろりとした体つきで、腰にはきらりと光る鎌と汚れた手拭いをぶら下げ、禿げ頭にすっぽりと麦わら帽をかぶっていた。

 アーティと呼ばれているアボリ村長の孫娘は、年の頃は17歳位の可愛い娘で、身長160センチ、体重48キロ、胸元近くまであるセミロングの翡翠色の緑の髪、桃色の瞳、薄卵色の白い肌をしていて、背中には竹の弓と鷹の矢羽の矢を背負っていた。


「おっ、おめえたちなら……もすかして、かっ、勝てるかもしんねぇ……」

「あ、あんたらなら、きっと、優勝できるだ……」

「んだ、んだ、間違いねぇ……」


「……そんだら、アクス、ホーエ、アーティ、頼んだぞ! このウルルの村のために一肌脱いでくれ!!」と言って、アボリ村長が声を掛けた。


「まかせろ!」

「んだ!」

「がんばるちゃ!」

 三人の若者は、三者三様それなりに返事をする……。


「そうと決まれば……今夜は前祝いだ!」

「みんな出し惜しみすんな! いろいろ持ち寄って飲み食いすっぞ!!」

「うおぉぉぉ~」村人たちは一斉に活気づいた。


 私は事の一部始終を遠巻きに眺めながら、そろそろ潮時と思いウルル村をお暇しようと背を向けたところ……。


『ガシッ!』

「なっ、なに!?」

 何かと思って自分の右腕を見ると、『砂かけばばあ』ではなく『子泣きじじい』のように、アボリ村長が私の右肘にしっかりしがみついていた……。

――杖つきの婆さんとは思えない凄い力だ――


「袖振り合うも他生の縁……あなたさまも儂らと一緒に前祝いに参加してくださらんか?」と言ってアボリ村長が必死の形相で声を掛けてきた。

「いえ、私は急ぎの用事があります。それではこれで失礼します」

 そう言って、きっぱりとアボリ村長の申し入れをその場で断ったのだが……、


「相済まぬ……どうしてもこの手は離せぬのじゃ……それにウルルの日は釣瓶落とし……この辺りは直ぐに暗くなってしまうので、夜道は道が分からず迷い易く魔獣も出没して危険ぞ! もしも『黒影シャドウカンガルー』の見えない必殺パンチ――カンガルーファントム――を食らわば、たとえ屈強な冒険者と言えども、二度と立ち上がれねえかも知んねぇ~。んだば、ぜひ村人たちと一緒に、飲んで、食って、歌って、踊り明かして若者たちの勝利を祈願してくだされ」

 そのように言われてアボリ村長から強引に押し切られた……。


「そ、そうですか……それではお言葉に甘えてご一緒させていただきます」

 私はしぶしぶ仕方なく一宿一飯の恩恵に預かってしまった。

 それからウルル村の前祝いは夜中近くまで続き、次の日の朝を迎えたのだった……。


◇◇◇


 ところで、私はこの世界で特に注意していることがある。

 それは認知症ボケになってしまうことだ!


 この異世界には、暗黒物質ダークマター暗黒力ダークエネルギーのように、21世紀の科学でも説明できそうにない、魔法という非常に不思議な力が存在している。

 この魔法を使えば、大抵の怪我は治ってしまうのだが、そもそも治そうと考えることができなくなれば、魔法は宝の持ち腐れになってしまい、認知症になった時点でこの素晴らしい生活は終わってしまうだろう……。


 認知症とは、脳の神経細胞が減って脳が小さく萎縮する病気で、その認知症の原因は、睡眠不足、高血圧、高コレステロール値、心臓疾患、糖尿病などが原因で、神経情報の出力側と入力側の間に発達した、情報伝達のための接触構造であるシナプスという細胞の間に、アミロイドβベータが凝集することで発症するとされている。


 その予防方法は成人病の予防に似ていて、次のような予防対策が挙げられる。

 1)質の良い睡眠をとる(6時間から8時間の睡眠と30分程度の昼寝)

 2)体重の管理

 3)有酸素運動

 4)会話(コミュニケーション)

 5)知的活動(新しいことに挑戦すると新たなシナプスが作られる)


 食事について言えば、お菓子、マーガリン、ファーストフードは認知症の発症を促進するらしいので、日本での生活では食べないように注意していたが、こちらの世界においては、端からそういった高カロリーな食べ物を見かけないので、それを余り注意する必要はない。

 それとは逆に、認知症の発症を予防するという緑黄色野菜やナッツ類が、いつも食卓に並んでいる。


 食事を楽しむという点では少し寂しい気もするが、認知症予防という側面から見ると、異世界は認知症ボケにはとても良い食生活の環境だと考えることができる。

 朝から晩まで働き尽くめで、ベーコン大好き、犬に追いかけられたり、お魚咥えたドラ猫を追っかけない限り走らない、そんな生活とは遠くかけ離れているのだ!

 私はこれらのことに気を付けながら、こちらの世界でもボケないように日々規則正しく暮らすよう心掛けている。


◇◇◇


「昨日は皆と一緒に前祝いをしてもらって、ありがとうごぜえます……んで……ダイサクさんをお優しい冒険者と見込んで、一つ頼みがあるんだが……」

 そう言ってアボリ村長が襟を正した。


「頼みですか……頼みはとは何でしょうか?」

「たっ、頼みと言うのは……巨人都市ゴルトバまでの半日の道中、三人が無事に目的地に着ぐよう、一緒について行ってもらいたいだ」

「……わかりました……一宿一飯の恩義もあります。ご一緒しましょう」と快く返事をした。

――同行するだけならば問題ないだろう――

「ほ、本当でごぜえますか……ありがとうごぜえます」

 この時、アボリ村長が孫娘のアーティに向かって、ちらっと目配せしたのが気にはなっていたのだが……。


 そんなこんなで、私はボディガードとして、ウルル村の若者たちと一緒に『巨人都市ゴルトバ』まで同行することになった。

 どうせ所詮半日の道のりだ。目的地まで彼らをさっさと送り届ければ、この依頼は簡単に一件落着するだろうと、私はこの出来事をそんな風に甘く考えていたのだが……。

ありがとうございました。

 7話の『うがい無し歯磨きのすすめ』、11話の『若返りの極意』、14話の『集中力を高める奥義』に続き、16話では『認知症予防の神髄』を公開していますので是非お試しください。

 さて、ダイサクは村の若者3人を巨人都市ゴルトバまで、無事に送り届けることができるのでしょうか?

 次回をお楽しみに!

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