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15 白頭巾

こんにちは

いよいよ【聖教都市モンサミル】編の最終話です。

どうぞお楽しみください。

【白頭巾】


 私はずぶ濡れになりながらも何とか井戸から這い出した……。

 魔人ドラキュラ伯爵の真っ白に燃え尽きた灰の中から『紫魔石』、その装備品の『ブラッディソード(吸血剣)』と『インビジブルマント(透明化外套』を拾い出してアイテム袋に入れた。

――生粋のRPGプレイヤーとしては、レアアイテムの収集ほど嬉しい楽しいものはない――


 それから気を失っているエルフの娘を背負って、聖教都市モンサミルで唯一の知り合であるルナの魔法具店へ向かった……。


『ドンドンドン、ドンドンドン』

「夜分遅くすみませ~ん……ルナさ~ん……ダイサクで~す」

 私はせっせと魔法具店のドアを叩いた……。


『ギィィィィィ~』

 軋んだ音を立てて扉が少し開き、その隙間からエメラルドグリーンの美しい瞳が覗いたか思うと、

『カラン、コロン、カラン』と直ぐに店の扉が開いた。


「あらまぁ……どうされたのですか?」

 少し驚いた様子でルナさんが尋ねてきた。

「夜分遅くすみません……この娘を預かって頂きたいのですが」

 私は背中に負ぶった娘に目を遣った……。


「あらっ、エルフですね……ダイサクさん……エルフを襲ってしまわれたのですか?」

「いっ、いえいえ……襲ったのではなく、倒れていたエルフの娘を助けたのです」

「ほんとにぃ~……なにか証拠はありますか?」

「犯人は灰になってしまったので、証拠は何もありませんが……後でエルフの娘が証言してくれると思います」

「そうですか……襲ってしまわれたのですね……」

「ルナさん……私の説明、聞いてました……私はエルフの娘を助けたんですよ」

 私は語調を強めて言った。


「フフフッ、揶揄ってごめんなさい……では、その時の状況を教えてもらえますか?」

「はい、それでは…………」

――願いましては~パ~チパ~チパッチパチ……三角定規にピタゴラス……雷さんとフランクリン……林檎が落ちて――

 自称、知能指数1300の頭脳が完璧な回答を弾き出した――


「『キャッ~』という女の人の悲鳴が聞こえたので自身の身の危険を感じ、その場からできるだけ離れようと思って一生懸命に走って逃げたのですが、曲がるべき角を幾つか間違ってしまったようで……エルフの娘が襲われている事件現場に鉢合わせしてしまいました……偶々そこに通りすがりの冒険者が現れて、『えいっ、やっ』と魔人ドラキュラ伯爵を『炎の剣』で退治されました。その後、その冒険者から被害者を助けるように依頼されたので……私はそのエルフの娘を背負ってルナさんを訪ねた……という次第です……」


「『ドラキュラ伯爵』ですって!? 彼はこのモンサミルでも有名な貴族です……彼が連続殺人の犯人と言われるのですか? 確かに彼の周りでは、余り良い噂は聞き及んでいませんでしたが……」


「それから『魔人』と言う……触れてはいけない禁忌の言葉がありましたが?」

「はい、ドラキュラ伯爵は……魔人で、吸血鬼で、無敵で『吸血鬼の弱点は魔人に進化した時点で克服しているのだ。貴様らとは次元――れぇべるぅ~――が違うのだよ、次元――ぅれぇべるぅ~――が!』とかなんとか言ってました」


「魔人に進化した吸血鬼ですって! まさに不死身じゃないですか……その魔人を通りすがりの見ず知らずの冒険者が、貴方の目の前で倒したということなのですか? 未だ太陽も昇っていない……真っ暗闇の吸血鬼の土俵なのですよ!」

「はい、でもドラキュラ伯爵は最後に燃え尽きて、全て真っ白な灰になってしまいました。誠に見応えのある素晴らしい戦いでした」


「にわかには信じがたい話ですが……そ、それで……その冒険者はどこへ?」

「はっ、颯のように去っていきました」

「は、や、て、……ですか?」

「はっ、はい……びゅわっと……猿飛佐助みたいに……」

「……さる……ちなみに顔は見られましたか?」

「顔ですか……目が赤くて、4本の犬歯があって、髪が怒髪天を衝いていましたが……」

「いいえ、ドラキュラ伯爵ではなくその冒険者の顔です」

「あ、冒険者の方ですね……そうですねぇ~……暗くてはっきりとは見えませんでしたが……月光に照らされた顔は……」

――どこの誰だか知らないけれど、私は嘘だと知っている――


「そ、そうだ……白い頭巾にサングラスを掛けていました」

「……白い頭巾に……サングラス……ですか?」

「はい、白い頭巾にサングラスです」

「白い頭巾にサングラスとは一体何なのでしょう?」

「あっ……白い布と黒い眼鏡です……白い布を顔に巻いて、黒い眼鏡を掛けていました」

 ルナさんが先ほどから訝しげに私の目をじっと見ている。


「そうですか、その冒険者は『炎の剣』で戦っていたのですね」

「はい、最初は殴り合っていたのですが、途中から吸血鬼と取っ組み合いになって、最後に炎の剣を使って吸血鬼の息の根を止めました」


「えっ、魔人に進化した吸血鬼と、満月の夜に殴り合い掴み合ったのですか?」

「はい、そうです」

「そっ、そんな……そんなことは……その方は……冒険者ではありませんね!」

「そうなのですか?」

「そうです、普通の冒険者の力では吸血鬼にさえ勝てません。ましてや魔人化した吸血鬼と言うのであれば……ミスリル等級の冒険者でも手に負えないと思います」

 ルナはきっぱりと断言した。


「とりあえず状況は分かりました。後始末は私の方でやっておきます」

「すみません、よろしくお願いします……あ、そうだ……私、明日モンサミルを出発します……それから、ルナさんのお勧めの宿と料理は最高でした! 次に来た時も同じ宿に泊まりたいと思います……ありがとうございました。それでは、おやすみなさい……そして、さようなら」

――また逢う日まで、逢える時まで♪ So long Runa.――


『カランコロンロンロン』

 このままだと他に色々と聞かれそうだったので、営業で鍛え上げた便利な言葉を連撃して、その場からさっさと逃げ去ったのであった……。


◇◇◇


 次の日の早朝、海の道が未だ現れている時間に正門に来たところ、衛兵たちが異常に緊張して直立不動の姿勢をとっていた……。


「なにかあったのですか」衛兵たちに尋ねてみた。

「ルナ様だ、ミスリル等級冒険者のルナ様がいらっしゃっている」

「お前は何もしゃべるな、氷河の中で何億年も過ごしたくなかったらな!」

 衛兵たちは緊張しつつ震える声で私に命令した。


「おはようございます」

「えっ……ル、ルナさん……おはようございます」私は驚いて言葉を返した。


 朝日に照らされて透明に輝く黄金色の腰ほどまで伸びた長い髪、見ていると吸い込まれそうになるエメラルドグリーンの瞳、太陽の光に透かされたどこまでも透き通った白い肌……。


 なんと態々ルナさんが私を見送りに来てくれていた。

 ルナはその美しい裸体が見えそうで見えない、透き通った水色のドレスを身につけていて、私の目にはあたかも彼女が氷の妖精に映っていた。


 衛兵たちのあの焦りの色を隠せない表情から判断すると……。

「ルナさんは……もしかしてミスリル冒険者――氷笑のルナ――様なのでしょうか?」

「ふふふ……冒険者ギルドの二つ名ではそのように呼ばれていますが……ルナで結構ですよ……」

 

「おっ、おみそれいたしました……」

「あれっ……お話していませんでしたか?」

「あゎゎゎ……聞いてませ~ん。魔法具屋の綺麗なエルフのお姉さんだとばかり思っていました」

「……まぁ……ダイサクさんにとっては五十歩百歩の団栗の背比べ……私がミスリル等級の冒険者であろうがなかろうが……あまり大して違いがないと思いますよ」

「どっ、団栗ですか?」

――水溜まりには嵌ったけれど、ドジョウは出てきていない――

 ふと故郷の童謡が思い浮かんだ……。


「ドラキュラ伯爵の屋敷を家宅捜査したところ、殺されたエルフたちの左腕が見つかりました。手配されていた殺人鬼は、ドラキュラ伯爵と判断して間違いないでしょう。また、ドラキュラ伯爵に襲われたエルフの証言により、彼女が襲われた場所を特定することができました。ダイサクさんが証言されていたとおり、その場所には大きな戦闘の痕跡が残っていて、そこから尋常ではない魔力の残滓が見つかっています。魔人ドラキュラ伯爵がSランク以上の魔物の力を持っていたことは、恐らく間違いないでしょう」

「……S、Sランク以上の魔力ですか?」

「はい、Sランク以上で間違いありません」

――どうりで手ごわかったはずだ――と私は思った。


「……ただ……」ルナさんが呟いた。

「……ただ?」私はルナさんの言葉をオウム返しする。

「他の者の魔力の残滓が見つからないのです?!」

――そりゃぁ~、アップルパワーは魔力じゃないからな――


「ダイサクさん以外、ドラキュラ伯爵と戦ったと言われている冒険者――白頭巾――の目撃者がいません……それで貴方は重要参考人として、暫くはこの聖教都市モンサミルから出ることはできません」

「えっ、え~」

――ルナさんそんな殺生なぁ~、しおしおのぱぁ――


「……と言いたいところですが……これは殺人鬼である犯人のドラキュラ伯爵が倒され、解決済の事件となりました……何とかダイサクさんは無罪放免となりましたよ」

「あっ、ありがとうございます。助かります」私はルナさんへ直ぐにお礼を言った。

微助っ人びすけっとしたのに、なんとなく、なんとなくだけど、重要参考人ダイサクも犯罪者と同じ扱いになっている。これも運命さだめなのじゃ、チ~ン』


「ところでダイサクさん、どのようにドラキュラ伯爵が倒されたのか? どんな些細ささいな情報でも構いませんので、思い出されたらご連絡を頂けませんか」

 ルナさんはそう言って訝しげに私を見つめた。

「承知しました」

――そんな綺麗な瞳で見つめないでください……少し心が痛~い――


「よろしくお願いしますね」と言ってルナさんが微笑むので……、

「そうだ炎がぐるぐると回っていたような、目が回っていたような。思い出したら、直ぐにルナさんの所へ報告に帰ってきま~す」と私は少しだけ事実を交えて素直に返事をした……。


そして……。


「ルナさん、いろいろお世話になりました……今度お逢いした時は是非とも私の彼女になってください」

「えっ!」

 突然のダイサクの愛の告白に不意をつかれて、美しく大きな瞳を見開くルナさんに対して、

「海の中道が海に隠れる前に出発したいと思います。それでは、さようなら」

 再び言葉を連撃すると、ちょっぴり驚き顔のルナさんを置き去りにして私は風と共に去りぬ。


「さようなら~」私が振り返り手を振ると、

「さようなら~、また来てくださいね」ルナさんも手を振り返してくれた……。


「さよならぁ~、さよならぁ~」

「さよならぁ~、さよならぁ~」

 よぽど氷河づけになりたくなかったのだろう。衛兵たちはゼンマイ仕掛けのブリキのおもちゃのように、ルナさんの2倍の速度で私に手を振り続けていた……。


 湾の道に沿ってずっと可愛い白詰草の花が咲いている。

 海に囲まれた『聖教都市モンサミル』と鳴り響く聖なる鐘の音が次第に小さくなってゆく。

 ビーバードはホバリングしながら私を見送り、丘の向こうには真っ青な空に湧き上がる真っ白な入道雲が見えている。


「あの丘の向こうには……どんな出会いや冒険が待っているのだろう?」

 そう想いながら歩み出すダイサクの足取りは、恋に恋して恋こがれた鯉のように、滝すら昇るような軽やかさだった……。


『ダァ~ンダダッ、アチャッ!』

 劇終のリズムが心の中を通り過ぎた♪


――エルフに恋するおっちゃんの歌――の巻(終)

ありがとうございました。

7話の『うがい無し歯磨きのすすめ』、

11話の『若返りの極意』に続き、

14話では『集中力を高める奥義』を公開しています。

試合前や試験前のお子さんに是非教えてあげてください。


さて、次は【巨人都市ゴルトバ】お話です。

どうぞお楽しみに。

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