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13 天灯

こんにちは

どうぞお楽しみください。


天灯スカイランタン


 宿に戻ると、少し早いが夕飯を食べることにした……。


「ルナさんお勧めのスフレオムレツ……あとムール貝のワイン蒸しは外せないな……」

 私はハーフエルフの女将に聞いてみた……。


 女将と言っても、翡翠色の緑の瞳に卵色のセミロングの髪をポニーテールに纏めていて――立てば芍薬……座れば牡丹……歩く姿は百合の花――彼女はとても健康的で、働く姿がしゅっとしていて美しい。

 ちなみに、女将の名前はマチルダさん……。


「スフレオムレツとムール貝のワイン蒸しはありますか?」

「はい、ありますよ……今日のスフレオムレツは、ビーバードが集めた白詰草の花の蜜入りですよ」


「……ではそれと……あと他にマチルダさんの何かお勧めの料理はありますか?」

「そうですねぇ~……塩牧草の子羊ステーキ……リンゴのカルヴァドス煮……舌平目の羊乳煮と言った料理は如何でしょうか?」

「……それでは……塩牧草の子羊ステーキをお願いします」

「承知しました」


 暫くするとマチルダがとっても美味しそうな料理を運んできた。

「………お待たせしました……どうぞ召し上がれ……」

「いっただきま~す」

『……ハフハフ……モグモグ……カムカム……』


 『スフレオムレツ』は栄養たっぷりの卵を五つも使った、ふわふわで、驚く程ビッグサイズのオムレツだった。

 遠い地から巡礼でやってきた信者たちのお腹を、満足させるために考えられた栄養満点の料理だそうだ……。

 食べてみると、空気がたくさん含まれているせいか、しゅわっとした口当たりで口の中で消えてなくなり、ビックサイズのオムレツを一人でぺろりと平らげてしまった。

 白詰草の花の蜜の香りが特徴的だが、味は以外とあっさりとしていて、塩をかけると一層美味しくなった……。

「ケッチャプを掛けるともっと美味しくなるかも……今度21世紀のケチャップを作ってみよう……」


 次に出てきたのは『ムール貝のワイン蒸し』だ……。

 フライパンにたっぷりのオリーブオイルを引いてニンニクを炒め、そこに8センチ×3センチ程の大振りのムール貝とバター入れてから強火でさっと煽り、白ワインで5分ほど蒸すことによってムール貝の旨味を最高の状態で味わえる料理だ。 

 蓋を開けた時のふわっの香りもたまらないが、目の前でイタリアンパセリ似た見知らぬハーブを、ハラハラと散らすのは心憎い演出だった……。


 このムール貝、ぷりぷりの食感に海の旨味がぎゅっと凝縮された塩気と甘みがほどよく合わさっている。

 潮の干満差が大きなモンサミルの海で育っているためか旨味が半端なく、食べ始めると旨すぎて手が止まらなかった……。


 最後に『塩牧草の子羊のステーキ』が出てきた。

 モンサンミルの地域は年間を通して降雨に恵まれていて、夏は涼しく冬暖かい。

 年間を通して湿度が低いとのことで、海風によってミネラル豊富な土壌に良質な牧草が育ち、子羊たちはそれを沢山食べて元気いっぱいに育つらしい……。


 大皿に乗って出てきたのはラムラックと言う肋骨を残したロース部で、この塊をあばらに沿ってカットするとラムチョップになる。

――骨付きの塊なのでちょっと豪華に見える――

 

 羊たちが塩牧草で育てられているためなのだろう。料理は塩と胡椒だけの単純な味付けだったが、しっとりとしてジューシーな肉質と卓越した塩牧草の風味は筆舌に尽くしがたし……。

 濃厚な羊の肉の旨味があるのに、全くと言っていいほど癖がなかった。

 マチルダさんの話では、骨に近い肉ほど肉の旨味が凝縮されているということらしい……。


――ハイエルフのルナさん……流石の情報収集力でございます……どの料理もほっぺたが落ちるくらい……美味しゅうございました♪――


 たっぷりと料理を堪能した後、私は部屋に戻ってきた。

 それからベッドに横になり、いつものように独創的な元気が出る歌を何気なく口遊んだ……。


『時をこえて~ ラララ 未来の彼方~

 行くぞ~ ダイサク~ 油断をするな~

 お節介な~ ラララ 修行僧~ (おばちゃんかぁ~)

 アップルパワ~だ 流星ダイサク~』


◇◇◇


「……んん……スカイランタンだっ!」

 どれくらいの時間うたた寝していたのだろう……瞼の向こうに灯りを感じて目が覚めた。

 窓の向こうにフワフワと天灯が飛んでいて、私は思わず部屋の窓から身を乗り出して外を眺めた。

 金赤色の炎を灯した無数の天灯が夜空に放たれて大変美しかった。


「そういえば……今日は一代目教皇のお祭り――ヨハネ誕生祭――だったな……」

 マチルダさんから、食事の時にそれを聞いていたのを思い出した。

 聖教都市モンサミルから熱気球のようにゆっくりと舞い上がる天灯は、まるで夢の世界に迷い込んだかのようで幻想的だ!


 そこで私はどうしても天灯が彩る色々な景色を見たくなったのだが、、既に夜の帳がおりていて辺りは暗くなっている。

 冒険者ギルドの受付嬢から、夜歩きは危険なので外出は控えるように釘を刺されていたのだけれど……。


「……乗って後悔するか……乗らずに後悔するか」

――乗って後悔することにしよう――

 そう決心した私は、伸るか反るかの心意気で意を決し未だ見ぬ景色を求めて外出したのだった。


 マイベストの聖教都市モンサミルと天灯の風景は、私が想っていたとおり船の上から見た景色だった。

 海にぽっかり浮かぶ聖教都市と、その街並みをうっすらと照らしながら空に舞い上がる天灯。

 水鏡のように静かな海に無数の天灯の光が映り込んでいる……。


「今……愛しの彼女が目の前にいたらなぁ~……ルナさん……キャ~」

 夢想、幻想、妄想、暴走、爆走と、あれやこれや夢のようにあてもないことを一人楽しく想像していたところ……。


「おめえさ……いっきなり舟に乗せてくれって……無理くりおらに舟を出させやがって……しっかりお代は弾んでもらっからな!」

これほどまでの幻想的な雰囲気をぶち壊して余りある、年老いた船頭の甲高い声が聖教都市モンサミルの海に響き渡った……。


「はいはい……銀貨2枚でしたよね」小声で呟くと、

「うんにゃぁ~……銀貨3枚だっぺ……年はとっても頭は冴えとるし……耳もしっかり……聞こえてっど~」

 船頭は流し目でにやりと笑って答えた。

――乗って航海するか、乗らずに航海するか』微妙な気持ちになってきた――


 その後、舟から降りると宿への帰路に着いた……。

 祭りも全て終わったのか天灯の光も一切なくなり、辺り一面真っ暗だ。

 静かに道を照らすのは青白い月の光のみで、人通りも無く物寂しい……。


「キャッ!」

 若い女性の悲鳴が聞こえたような気がした……。

「……少し疲れているのかな……幻聴が聞こえる…………」


「イヤァァァ~」

「…………」

 信じたくはないが若い女性の声に間違いない。

――連続殺人鬼!――

 冒険者ギルドで聞いた受付嬢の言葉が私の脳裏を過ぎった……。


 私はその声とは真逆の方向に回れ右すると、一目散に猛ダッシュで駆け出した――

「やばいよ、やばいよ」

 私は走った! タマよりも速く――ダイサクさんは元気だなぁ~――

 私は走った! 機関車の如く――

 私は走った! 疾風のように――


『ザブン、グルグル』

 それから水溜りに足を突っ込んで、駆け抜けた先はとどのつまり袋小路だった。


「……やっちまったぁ~」

――あぁ~いやんなっちゃった、あぁ~驚いた――

 聖教都市モンサミルは、外敵の襲撃に備えてわざと塀が複雑に造られている。私はそれらの壁によって生じた反響音に騙されて、ひとつ曲がる角を間違えて、くねくねと道に迷った結果、正に怪しい事件現場へ突入してしまったらしい……。


 袋小路の奥には2つの影が見えていた……。

 一つの影は地べたに横たわって、月の光に照らされた真っ白な肌が見えている。


「バルルルルルルゥ~」

 もう片方の影は暗闇に同化し、2つの赤い光を爛爛と光らせて不気味な音を発していた。


 地べたに伏した女性に目を凝らすと、意識はないようだが怪我はしてなさそうだった。

 月明かりに照らされた、腕、足、腿、尖った耳が青白く輝いていて、金色の髪は黒い帆布キャンバスに広げた扇のように、はらはらと美しく広がっている。

――被害者はやはりエルフだな――


 なんとなく、なんとなくだけど分かってはいたが、勇気を出して暗闇に潜む何者かに軽く声を掛けてみた……。


「……貴方は一体何をしているのですか?」

「グルルルル~……何をしているのかだって……収集コレクトしているのさ」

「……コレクト……?」

「グルルルル~……そうだ……コレクトだ♪」


「何をコレクトしているのですか?」

「フフッ……フッハッハッハァァァ~……コレクトするのはエルフの腕に決まっている……エルフの腕は本当に美しい……透き通って艶やかな肌……細く優美でしなやかな指……どれほど長く眺めていても飽きることはなく……これほど我が収集品として相応しいものはない! 私こそエルフの腕の収集家コレクターなのだよ!!」


『ドッドーン!』

――この精神病質者サイコパスが連続殺人鬼の犯人で吸血鬼きまりだな――

 私は直感的にそう確信した。


 私は何てったって吸血鬼ドラキュラが恐くて嫌いだ!

 目は血走り4本の犬歯で人の生血を吸い、血を吸われた犠牲者もまた吸血鬼になってしまう。

 心臓に木の杭を打ち込んでも死なずに藻掻くし、十字架、聖水、玉葱が弱点と言う突拍子もない設定で、不自然に立掛けられた棺桶からいきなり飛び出しては何時も私を驚かせ、主人公が絶体絶命に追い込まれてから、もうだめだってところで辛うじて太陽が出て灰になる。


 私は子供の頃に見たドラキュラの白黒映画が、今でも『心の傷トラウマ』になっていて、この映画を見てから暫くは一人でトイレに行けなくなって、弟に付き添ってもらったことを憶えている……。


 私はそのトラウマを押し殺して吸血鬼に声を掛けてみた……。

「すみませんが……そのエルフひとをそのまま置いて……消えてもらえませんか」

「ファハッハッハッ~……このエルフの腕を置いて私に消え去れだと……消え去るのはお前の方だ……先ずはお前から血祭りにしてやろう……この『魔人ドラキュラ伯爵』がなっ!」

 

『シュシュッ』

 そう言うや否や奴は自身の血を私に飛ばしてきた。

 ドラキュラの血液は空中で固い血の礫となって私の顔面を襲う。

 私は紙一重でその血の礫をすっと躱したつもりだったのだが、左の頬が薄皮一枚切れて血が滲んだ。

 血の礫が途中で血の鏃に形状を変えたようだ。血液を自由に操作できるとは何て厄介な吸血鬼!


「……魔人で吸血鬼か……見逃してくれそうにないし……悲しいけど……やるしかないのね」

 私は腹をくくって魔人ドラキュラ伯爵と戦うことを決意する――


物理障壁プロテクション

 私は伏したエルフの女性にバリアを張ると、両腰からさっとパンチャックを抜いた。

「ホワァァァァァ~」

 私は魔人ドラキュラ伯爵に対して身体を真正面に位し、足を大きく開いて両手を前に出すと、これからの戦いに備えて息を吐いて力強く構えたのだった……。


『ダァ~ンダダッ、アチャッ!』

 戦いの律動リズムが頭を過った♪

ありがとうございました。

いよいよドラキュラ伯爵との戦いの火蓋が切られました。

ダイサクはこの強敵に対してどのような戦いを挑むのでしょうか?

次回をお楽しみに!


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