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12 ビーバード

こんにちは

聖教都市モンサミルのお話です。

どうぞお楽しみください。


【ビーバード】


 翌日、私は朝から都市の中央にある冒険者ギルドに向かった。

 旅を続けるには何てったって路銀が必要なので、私はいつも通りクエストを求めて依頼黒板クエストボードに見入る……。


 魔獣ではないが都市の近くには『ビーバード(寅蜂鳥)』と言う、蜂や蜻蛉のように空中でホバーリングできる鳥がいる。

 動きが早く捕獲が非常に困難な鳥だが、体の中にある蜜袋には白詰草の蜜がたっぷり入っているらしい。

 その白詰草の蜜がエルフ族の間で特に需要があって、モンサミルの市場では高値――ビーバード1匹につき銀貨3枚程――で取引されているようだ……。


 あとは都市から少し離れた『青の洞窟』と呼ばれている迷宮での、Cランクの魔物の『ブルーキャンサー』の討伐クエストや、その近くに生息している『ブロントスピノザウルス』の、背中の巨大な帆に生している緑コケの採取クエストがあった。

 ちなみに緑コケは、中級ポーションの主原料として使用されているとのことである……。


 ブロントスピノザウルスは体長22メートル、体重15トン。

 大きさこそドラゴン種と同等だが、ブラックドラゴンやレッドドラゴンのようなSSランクやSランクの魔物とは分類が全く違う。

 長く薄い首と小さな頭を使って草を食べ、強靭な四肢と長い鞭のような尾で身を守る、どちらかと言えば草食トカゲの王様だ。


 特徴的なのは背中に2メートルから3メートルの高さの大きな帆があることだ。

 その帆は熱を逃すための器官であると言う説や、ラクダの瘤のように脂肪を蓄える器官であるとの説があるらしいが、冒険者の間では「でっけえほうが雌にモテるからに決まってんだろう」と噂されているし、私も個人的にこちらの意見に賛成だ。

 絶対に負けられない戦いがそこにあるのだろう、いつの時代でも男とは見栄を張りたがる虚しい生き物のようだ……。


 ブロントスピノサウルスは身体こそ大きいが魔獣ではなくて、空も飛べない、火も吐かない、何といっても大人しい。

 脳が小さく知能がとても低いと言う点から鑑みると、2億3000万年前に地球上で暮らしていた恐竜に良く似ている。

 寿命は100年以上あるらしいが個体数が非常に少ないとのことで、冒険者ギルドによってその狩猟は厳しく禁止されている……。


 そう言えば、この世界には『パンゲア』と呼ばれる超大陸が一つだけ存在していて、その超大陸の東には『東パンサラッサ』、西には『西パンサラッサ』と呼ばれる広大な海が広がっている。

 海の果てを見た者がいないのでそう呼ばれているらしいが、何となく恐竜たちが繁栄していた頃の地球にあった超大陸に良く似ている……?


 尚、冒険者ギルドはそれぞれの魔物を独自に階級クラス分けしていて、魔物の強さや討伐の難易度によって、Cクラスを皮切りに、Bクラス、Aクラス、Sクラス、SSクラスの順番で魔物のランクが上がっていく。


 ちなみに討伐のおおよその基準は次のとおりとなっている……。


・Cクラスの魔物は初級冒険者

・Bクラスの魔物は中級冒険者

・Aクラスの魔物は上級冒険者 

・Sクラスの魔物はミスリル冒険者、または複数の上級冒険者

・SSクラスの魔物は複数のミスリル冒険者、またはミスリル冒険者が率いる軍隊


 以上のように、冒険者ギルドは討伐の際の目安を策定していて、クエストの及第対象者の条件や審査を厳格に定めている。


 私はアイアン等級の駆け出し初級冒険者なので、冒険者ギルドの推奨としては最下位のCクラスの魔物が討伐対象となっている。


 色々と検討した結果、私は最終的にビーバードのクエストを受付に申し入れた……。


「ビーバードのクエストですね……ビーバードはオニヤンマのような、はっきりとした黄色と黒色のしま模様を持つ拳サイズの小さな鳥です……メジロのように目の周りがぐるりと真っ白で、エルフのようなエメラルドグリーンの緑色のお目目がとても可愛いですよ……ビーバードは攻撃してきませんが、蜜袋が破れると寅蜂鳥の買取価格がガクンと下がるので注意してください」


「はい、承知しました……他に何か気をつけることはありますか?」

「そうですね~……ビーバードの黄色と黒の減り張りの利いた特徴のある美しい羽は――幸運を呼ぶ飾り羽――と呼ばれています……エルフ族の間では寅蜂鳥の羽は非常に人気があって、彼らは帽子によく飾っているのです……そういう訳でビーバードを無傷で捕獲すると、買取価格がぐんとアップしますよ! それでは頑張ってくださいね」


『ガッツ――トットン――♪』

 受付嬢は腕まくりして肘を120度曲げて左拳を固めると、右手でクエストの受注印を流れるように捺してくれた……。


◇◇◇


 私は早速ビーバードの捕獲に向かった……。

 ビーバードは道に沿って咲いている白詰草の群生地で、ブンブン羽音を立てながら自由気ままに花の蜜を吸っていた。


 冒険者ギルドで聞いていたとおり、ビーバードは空中でホバーリングしながら、花から花へ白詰草の花の蜜を求めて移動している……。

――確かにスピードが速くてすばしっこそうなので、無傷で捕獲するのはなかなか至難の業だろうな――


 道から逸れて脇道に入ると、人気のない白詰草の群生地を見つけた。

 そこでも数匹のビーバードが、ホバーリングしながら白詰草の花の蜜を吸っている……。


「この辺りでいいかな……」

 私は1匹のビーバードに狙いを定めるとアップルパワーを解放する……。

 蜜袋が破れたり、羽が折れたり汚れたりして買取価格が下がらないように、ビーバードの様子を見ながら、少しずつアップルパワーの出力を上げていった……。


 するとビーバードの動きは徐々に遅くなって、終いには白詰草にぴたっとくっついて全く動かなくなった……。

 ビーバードは私の繊細なアップルパワーによる引力操作によって、飴細工のように白詰草の花の一部となってくっついた。

――細工は流流、仕上げを御覧じろ――


「ごめんね、ごめんねぇ~」

『ピ~ン』

 私はアイテム袋から鳥籠を取り出してビーバードに近づくと、嘴を中指で強く弾いて気絶させた……。

 それから飛んで逃げないように右足をしっかりと細い麻縄で縛ると、鳥籠に繋ぎ入れて難なく1羽目のビーバードの捕獲に成功した。


「先ずは一匹……ビーバード……是非もなし……」

―悪いね―

 その心の中ではそう思いつつも、私のつぶらな瞳にはビーバードが既に金貨にしか見えていなかった。


「千里の道も……一歩から……」

 私は淡々と同じ作業を繰り返し、クエストの開始から僅か2時間半で合計8羽のビーバードを捕まえると、寅蜂鳥を入れた鳥籠を片手に、上機嫌で冒険者ギルドに向かった……。


◇◇◇


 冒険者ギルドでビーバードの依頼完了の報告をすると、受付嬢は少し驚いた表情で私に質問してきた……。


「ビーバードの捕獲ですね……こんなにも短い時間で8羽も捕まえられたのですか!? それもこれ程までに良好な状態で……どのように捕まえられたのでしょう?」

「捕獲方法は……秘密でお願いします……」

 私はにやりとあざとく笑って返事をする。

――流石にこの捕獲方法を他人に教えるわけにはいかない――


「……失礼しました……それは教えられませんね……冒険者の常識でした……それでは直ぐに査定してきますので暫くお待ちください」

 受付嬢はそう言うと席を立ち裏の部屋に消えた…………。


「お待たせしました……」

 暫く待っていると受付嬢が戻ってきた。


「査定の結果はどうでしたか?」

「はい……ビーバードの蜜袋には白詰草の花の蜜がたっぷりと詰まっていました……また黄色と黒の飾り羽は1本も折れていませんでした……そのため今回の寅蜂鳥の査定はとても良かったです」

「そうですか……それはよかった……」

「つきましては……今回のクエスト報酬は金貨2枚に銀貨8枚となりますが……これでよろしいでしょうか?」

「はい、問題ありません……ありがとうございます」

 私はお礼を言うと金貨2枚と銀貨8枚を受け取った……。


 それから再度クエストボードを確認していると、とても怪しいクエストが私の目に止まった……。

――連続殺人鬼の情報提供――

 その依頼はアイアン等級の私でも受けることができるクエストだった。

 しかし、もう一方の――連続殺人鬼の捕獲または討伐――のクエストは、シルバー等級以上の冒険者のみが依頼の対象となっていた……。


「この2つのクエストは同じ殺人鬼のことかな……?」

 ちょっと気になったので、受付嬢にもう少し詳しい話を聞いてみることにした……。


「すみません……このクエストの殺人鬼って何なのでしょうか?」

「ああ~……そのクエストはですね……」

 受付嬢はまるで今から四谷怪談を語り聞かせるような、神妙な面持ちで話を始めた……。


「事件は決まって綺麗な満月の出ている夜中に発生しています……狙われるのはいつもエルフ族の美しい女性……奇妙なことに全ての被害者の左の上腕だけが綺麗に切り取られて無くなっていて……その無くなった腕は未だ一つも見つかっていないのです……」

「うっ、腕だけが無くなっているって…………」


「……あっ……それからもう一つ気になる情報があります……殺されたエルフたちの血液が大量に無くなっているのです……殺人鬼の調査・討伐クエストは、掲示されてから時間は経っていますが、全く情報も集まらない複雑怪奇な事件です……この依頼に関しては、余計な首を突っ込まない方が良いと思います……」

「そうですね……なるべく魔物が出そうな月夜は出歩かないようにします……ご忠告ありがとうございます」

――触らぬ神に祟りなし――私は受付嬢にお礼を言って冒険者ギルドを後にした……。


「……神聖なる……聖教都市モンサミルの……連続殺人事件か……」

――それにしても、こちらの世界には捜査一課や鑑識課員みたいな警察部隊はないのかな――

 そんなことを考えながら、私は宿泊先の『宿り木やどりぎ』に向かったのであった……。

ありがとうございました。

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