11 聖教都市モンサミル
今回は聖教都市モンサミルのお話です。
どうぞお楽しみください。
【聖教都市モンサミル】
日が落ちて月が明るく輝き出した。満月が近いためか月の光が一段と青白く眩く感じる……。
湾岸の道に沿って永遠と白詰草の花が咲いていて、それがこの風景をますます幻想的なものに仕立て上げていた。
私はその道の終着点――聖教都市モンサミル――に向かっていた……。
モンサミルはその都市の周りをぐるりと海に囲まれた孤高の都市だ。
陸と繋がる道さえなければ大洋に浮かぶ孤島のボラボラ島のようだが、大きな潮の満ち引きでモンサミルへ続く道が1日2回できるので、都市へ歩いて渡るには朝と夕の1回づつしかチャンスがない。
夜中に歩いて移動するのは私にとって強いストレスだったので、昼間に少し頑張って急ぎ足で歩き、聖教都市モンサミルへの到着を夕方に予定していた。
◇◇◇
ちなみにストレスは体にとても悪い、というより人の寿命そのものを短くしてしまう……。
人体の37兆個の細胞は各々が染色体を持っており、染色体の端にはテロメアという塩基が存在している。
テロメアは命の回数券とも言われていて、その長さが半分になると病気に罹り易くなる。
更に残りが『13日の金曜日』を切ると、デオキシリボ核酸(DNA)の複製ができずに、細胞は再生しなくなり人の老化が急激に進んでいく。
私はできる限り老いたくないので、以前からテロメアを伸ばすよう気を付けている。
人間の各細胞にはテロメラーゼという酵素があり、驚くべきことに、このテロメラーゼが働くことで短くなったテロメアを伸ばすことができると言うのだ!
それではテロメラーゼを活性化させて、貴方が『若返る』には何を行えば良いのだろうか?
1)なんてったってストレスが一番の大敵だ。あらゆる『ストレス』を取り除く
2)一日10分瞑想する(夕日や波を見ながら、ゆっくりと4秒づつ繰返して深呼吸をする)
3)一週間に30分以上の有酸素運動を行う
4)魚や野菜を中心とした食事をいつも同じ時間に摂る
5)家族、恋人、友人との愛情を感じ合う
6)座っている時間を短くする。30分に1回椅子から立ち上がるだけでOK
特に耳の奥にある『耳石』が重力を感じとれないと、全身の筋肉(心臓、血管、呼吸器、内臓を司る自律神経)は、その活動を停止して老化してしまう。
ずっと座り続けることは無重力の空間にいるのと一緒で、宇宙飛行士に関しては地球上の10倍の速度で老化が進み、地球上では麻雀卓と番台に座っているのが最悪のようだ……。
ちなみに、煙草を吸うと細胞がストレスを受けてテロメアが短縮し、癌になったり、脳の海馬が萎縮して認知症になる。つまり、タバコは――百害あって一利なし――ということだ。
◇◇◇
『カ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン』
聖なる鐘が鳴り響く夕刻の聖教都市モンサミルを散策しながら今晩泊まる宿を探していると、一軒の魔法具屋の店の前でふと足が止まり、店番のお姉さんに目が釘付けになってしまった。
「なっ、なんて綺麗な人だろう……」
――綺麗なお姉さんは好きですか? はい、大好きです――
飛んで火にいる夏の虫じゃないけれど、私は何の気なしに店の門を潜っていた。
『カランコロン、カランコロン、カランコロン♪』
私は郵便配達では無いが、2度ドアのベルが鳴った。
「お邪魔しま~す」
一瞬、凍りつくような鋭い視線を感じたが、何の返事も返ってこなかった……。
私はちらりと看板娘を覗き見た……。
細い腰まで伸ばしたスーパーロングストレートの光輝く黄金色の髪、深淵なるエメラルドグリーンの瞳、シュッとした切れ長の大きな目、透明感のある白い肌と尖った耳の先……。
彼女は見えそうで見えない、透き通った水色のドレスを身に着けた、まるで氷の女王のようだった。
「こ、これが……噂に聞こえた……エルフなのか!?」
初めてのエルフとの出逢いに感動しながら、店に並ぶ商品に目を遣ると、魔法具の高価格にこれまたびっくり仰天した?!
一番安い『宿り木の杖』でも金貨50枚、『魔法の剣』は金貨百50枚、『魔法の銀の鎧』と『魔法の銀の盾』は其々金貨3百枚、『海鳴りの杖』に至っては金貨千二百枚もする……。
「お、恐ろしい程の贅沢品……レ、レクサスが買えてシマウ魔っ!」
――他のお客がいないのは魔法具の値段が高いからか――と私は一人納得してしまった。
私が硝子箱の中できらきら光っている商品を眺めながら、お姉さんをちらちらこっそりと盗み見していると……。
「お客さん……何かお探しもの?」
急にエルフから美しい声を掛けられて、私は何か悪いことをしているような気持ちになって、一瞬どきまぎしてしまった。
「と、特に探し物はないのですが……値段が高いですね」と平然を装って答えた。
「魔法具ですからね……当然ながら高価ですよ」
「そ、それでは……何かお勧めの魔法具はありますか? 手持ちは余りないのですが……」
「貴方……冒険者なの?」
「は、はい……アイアン等級……成り立ての冒険者です」
「ふふふ……アイアン等級成り立てねぇ~、そうね――魔法の黄色いハンカチ――なんてどうかしら? 持ってる人に幸運を招き寄せると言われているわ」
――これまた値札の金貨55枚を見ておったまげた――
「す、すみません、持ち合わせが金貨5枚しかありません」
「金貨5枚じゃ、このお店では何も買えないわよ……ところで貴方、お名前は?」
「ダイサクです」
「ダイサクさん……それで……貴方は一体何者なの?」
「何者とは?」
「貴方が今身に着けている装備……尋常じゃないわよ!」
「というと……」
「貴方と同じで全く力の底が見えない……つまり……むちゃくちゃなのよ! 貴方は一体全体、何者なのかしら?」
「私はさる者でも引っ掻く者でもありませんが……エルフの方には相手の力が見えるのでしょうか?」
「私はエルフじゃないわ……ハイエルフよ……」
「ハイ、エルフですか……」
「ハイ、エルフじゃなくて――ハイエルフ――言い方には気をつけてね!」
「失礼しました……ちなみに……ハイエルフはエルフとは違うのですか?」
「貴方、何も知らないのね……ハイエルフはエルフよりも魔力の保有量が桁違いに多くて、老衰で死ぬこともないわ……そのハイエルフの中でも選ばれ研鑽を積んだ者だけが、人や物の力を見通す能力を会得することができるの」
「そうなんですか……知りませんでした」
「それで……貴方が身に着けている装備は神話級の代物なのよ!」
「そうなんですか? このパンチャックも、黒い2本線入りの黄色いジャージも、全て自慢の自作品なのですが……」
「そうなの? 貴方が自分で作ったのね……では尚更です……あなたは一体全体、何なの!?」
「私はアイアン等級の冒険者で……職業は修行僧です」
「そ、そんなこと聞いていないわ……貴方の力が全然見えないのよ」
「力が見えないことがそんなに大変なことなのですか? 力が見えないのは力が全くないからでは……」
「そんなことはないわ……どんなに力がない者でも零はあり得ない! そうでなければ力が無限ということなのよ……どう考えてもやはり尋常じゃない……無茶苦茶だわ!」
エルフは語気を強めてそのように言った。
「無限とはマツダのRX7みたいですね……とは言っても『暗黒力の褌で相撲を取っている』そんな私にできることと言ったら……これ位しかないのですが……まぁ~見ていてください。このグゥレイトな全集中の力を……」
私は両の手のひらを前に突き出して蓮の花の形を作ると、一つの林檎に照準を合わせ狙い打った。
「アチャァァァ~オゥゥゥ~」
私はアップルパワーを使って、店の奥の棚においてあった果物籠から赤い林檎を一つ、手元まで真っ直ぐすっと流れるように引き寄せた。
気を抜くと林檎が火を噴いてぶっ飛んで来るから、この技は非常に繊細な力のコントロールが必要なのだが……。
――わっかるかなぁ~、わかんねえだろうなぁ~――
『パシッ』
「はい……どうぞお返しします」
私は赤い林檎をキャッチすると、美しいエルフにその赤い林檎を手渡した……。
「えっ、魔力も精霊の加護も見えなかったわ! 力そのものは大したことなさそうだけど……その力の源は何かしら……手品を使って私を揶揄っている訳じゃないわよね……?」
「私がとってもとっても林檎が好きだからでしょうか!」
「………………?」
綺麗なハイエルフは赤いリンゴに唇寄せて、何か色々と考えを巡らせているようだったが、当然ながら林檎は何にも言わなかった。
段々と話がややこしくなってきたので、私は話題を変えることにした……。
「ところで、恋人はいらっしゃいますか?」
エルフに直球勝負で聞いてみた!
――Boys, be ambitious――
「こ、恋人いきなりなんなの……百年位前にはいたけど……」
綺麗なお姉さんは、ちょっとだけ顔を赤らめながらも答えてくれた。
「ひゃ、百年前ですか!」
「そっ、そうよ……百……あれこれ女性の年齢を詮索するものじゃないわ!」
「す、すみません」
私は叱られたので素直に謝った……。
「私はモンサミルが初めてなので……それでは……お勧めの宿と冒険者ギルドの場所を教えてもらえませんか?」
「いいわよ。私のお勧めの宿は『宿り木』かしら……冒険者たちは良く利用しているわ……特にスフレオムレツとムール貝のワイン蒸しが私のお勧めよ。それから、冒険者ギルドは都市中央にある大聖堂の大通りを挟んで正面にあるわ……行けば直ぐに分かると思います。宿には私から連絡しておいてあげる」
「ありがとうございます……またお邪魔します」
お礼を言って店を後にしようとすると、
「私は『ルナ』よ……よろしくねっ!」
ルナは天使のウインクをして、自分から名前を教えてくれた。
「ルナさんですね……今後ともよろしくお願いします♪」
――ルナ~、名前を教えてくれたということは少しは脈があるのでは――
そんな淡い期待を抱いて店を後にした私の足取りは軽く、いつのまにかルンルンと弾むスキップに変わっていた……。
ありがとうございました。
今回は7話の『歯磨きのすすめ』に続き、『若返りの極意』を公開しています。
是非周りの方々にも教えてあげてください。特にサラリーマンの貴方、意識して30分に1回は起立してください。日本の皆が健康になって、『健康保険料の控除額』がこれ以上増えないように、星に願いをかけて……そこんとこ4649!