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シャベル1本から始めるダンジョン道  作者: はぐれオリハルコン
8/8

*8*アルガス、ダンジョン売るってさ


   *8*


「ほう、こりゃあ石炭と鉄鉱石だぞ!」


 力強くツルハシを土壁に振るうモウゼスの一撃でゴロゴロと鉱物が地面に転がった。


「鉄鉱石か…まあ、この程度の階層じゃあこんなもんだろう」

「ううむ…元はここから東の岩山の鉱山の為に拓かれた開拓村の末裔が儂らなんじゃ。と言ってもさして埋蔵量もなくてな。国のお偉いさんもさっさと西に帰ってしまったんじゃが」

「ふむ…(まあ、魔素の含有量からして現在はかなり痩せてるっぽいしなあ)」


 アルガスは手渡された石炭の鉄鉱石を興味深く眺めた。


「てえ~ことはキドの爺様よお。ここはその発掘跡地かなんかかねえ?」

「こんな場所でか? うう~む。まあ、広さからして本格的に発掘されていたとは思えんが…その可能性はなくもない。恐らく儂らの先祖を置いて去った連中が勝手に掘って放っておいたんじゃないか」

「でも、まだまだ出そうだがよ?」

「ふうむ…」


 アルガスに連れられてこの洞穴に訪れていた元鉱山夫だったモウゼスとキドラントが額を突き合わせて麻袋の中の鉄鉱石や石炭を見て唸る。


「え~? でもこんな穴、前来た時は無かったよなあ~」

「ど、どうかな…? こんな岩場の裏まで見てなかったかもだし。そもそも今日だってヤーマスが偶然見つけただけじゃないか」

「ねえ~? まだ掛かるのお~? 罰として姉貴(ロアーヌ)からお店を暫く手伝えってアタシ言われてるんだけどぉ~」

「…………」


 子供らの遠慮ない言葉に内心ヒヤヒヤしていたが、アルガスは何とかダンマリを決め込んでいた。


「アルガス…いや、アルガス殿。この場所が元は誰のものであれ、ここを見つけたのはあなただ。なので、儂らは今回手伝ったがこの袋の鉱石は全て渡すし、この洞穴はあくまでもアルガス殿のものだ」


 発見者も何も此処を掘り起こしたのはアルガス本人である。彼らが勝手に勘違いしてくれているのでアルガスは黙っているだけなのだ。


「そこでだ…むしのよい話だが、ここを儂らベスに売ってはくれぬか?」

「…え」


 意外な申し出にアルガスの動きが止まる。


「こんな(僕が適当に掘っただけの)場所を?」

「おう!そりゃあまだ鉱石が採れる場所は他にもあるぜ。ただ、安全な所は全部お偉い連中のものでな? 俺らが勝手に掘れるわけじゃないんだよ。それにそれ以外の場所は今やすっかり魔物共の巣だ」

「うむ。此処にどれだけ埋蔵量があるかは判らんが…少なくとも試す価値はあるだろう。そうだな…と言っても、儂らがそう大金をポンと出せるわけでもなし。どうだろう? 儂らを助けると思って、銀貨五百枚で譲ってはくれまいか…」

「銀貨で五百…」


 そう提案する側のキドラント、そしてモウゼスの顔も暗かった。そんな安値でまだ鉱石が採れるかもしれないこんなおあつらえ向きな秘所を譲り渡すとは自分達でも苦しいと思ったのであろう。


「いいよ」

「やはりか……えぇ!?」


 キドラントが眼を剥いた。


 だが、当人のアルガスはニコニコ顔であった。何せアルガスは無一文。オマケに頼れる親友ディリータの姿は未だ見えない。正直言って地上での銀貨金貨の価値についてはアルガスはピンとこなかった。無理も無い、彼は実家のダンジョンで他の面々のように給料を貰って働いていたわけではなかった。故に、彼にとってピカピカ光るコインなぞ地上から体よく人間達を釣る餌にしか過ぎなかった。


 だが、それでも長年ダンジョン“ニート”マスターの自負を背負っていたアルガスにとって初めて掘ったダンジョンで稼いだ外貨である。その額などはどうでも良かった。単に自らの力のみで報酬を得られたことが嬉しかったのだ。


 モウゼスも「何て欲の無い奴」と言葉を漏らし、子供らですらポカンとその様子を見ていたのだった。


   ※


「これが約束通り、銀貨で五百あるはずだ…」


 ジャラリとアルガスの前に置かれた袋の中には鈍く光る銀貨が五十枚入っていた。


 え? 銀貨五百枚でしょ? 五十枚しかないよ?


 と、流石に世間知らずとはいえアルガスもそこは弁えていた。


 この世界の硬貨は世界共通で、最も低い価値から黒鉄貨、銅貨、小銀貨、大銀貨、白銀貨、金貨、ミスリルのメダリオンとなっている。ミスリルのみ金貨の百倍の価値であるが、他は前の十倍の価値となる。


 袋に収まっていたのは大銀貨である。銀貨とは基本小銀貨を指していた。


「確かに」

「ケッ!」


 だが、その酒場に居合わせた小汚い恰好の男が悪態をつきながら酒場の扉を蹴り開けて出ていった。


 そのヤニついた恨めしい目でしっかりとアルガスとその金袋を睨みながら。


「あ!アイツ!? また、支払いもせずに逃げやがった!」

「ロア、放っておけ。どうせ水同然のモンしか出してねーよ。逆にあんなガラの悪い奴にお前ら姉妹が目を付けられちまう方が問題だぜ」


 顔に付着した煤を拭った手をブラブラと店主のモウゼスが振るって勝気な女給仕を諫める。


「……アイツは?」

「あ、ああ…偶に来るもんさ。ああいう流れ者がな…」

「どうせ仕事にあぶれた遺跡荒らしかなんかだぜ。兄ちゃんも大概お人好しだから気を付けな」

「おいおい」

「…………」


 アルガスは黙って男が去った方を見やった。


「ところで、この鉱石って買い取って貰えるのかな」

「ああ。道具屋を紹介するよ。今は鉄鉱石より石炭の需要もあるのでな」

「鉄鉱石は…使いたいことがあるんだ。石炭ならまあいいか。そうだな…ちょっと欲しいものがあるんだけど相談に乗ってくれないかな」


 アルガスか微か口の端を歪めながらモウゼスとキドラントの方へと振り向いた。


 が、そのちょっとした変化に朴訥な彼らが気付くことは無かった…。



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