*4*アルガス、洞穴掘り進めて何か見つけたってさ
*4*
「駄目だ。ここがどこか見当もつかない…」
アルガスは昨日掘った穴の近場の岩の上で一人膝を抱えていた。
そもそも地上デビュー初日で何処か訳の分からない場所に放りだされるわ、信頼するディリータと離れ離れになるわで…すっかりアルガスは地上へのトラウマを抱えてしまっていた。
出来ればずっと穴の中に引き籠もっていたいが…それだと仮にディリータが迎えに来てくたとしても彼を発見できずにスルーされてしまう可能性がある。なので我慢してこうして待機しているのだ。
「だが、地上に出てるだけなのに…正直辛い。なんせ、魔素が無い地上だと十倍くらいのスピードで腹が減る。よく人間族は地上で飢え死にしないもんだ」
アルガスは魔人だ。故に人間族と比べて寿命の絶対数も長いし、食事の回数も極端に少ない。否、彼の場合はスキルと最近ダンジョンで絡むのは専らディリータ以外はアンデッドが多かったので、大食気味な妹に付き合う以外で食事をした覚えが無いのだ。
そして、地上では腹が減るスピードが速いとアルガスは思っているが、単に人間族と同じペースになっただけである。そして、この世界のそれなりに裕福でない人間族の食事回数は日に二度。少なくとも一度は摂取せねばいずれ飢えて死んでしまう。
アルガスは勇気を振り絞って探索した。
周囲三百メートルほど。疎らな雑木林が広がるだけで何も見つけられなかった。無論、食べ物も。
正確にはキノコや蟲の類はあったがダンジョン産でないものを口にするのは何となく咎められたのだ。
「もう昼か…今日はもう望み薄だな。洞穴に戻ろう」
アルガスはすごすごと岩から降りて穴の中に入った。
※
「よし、なら今日はもうちょいと掘ってみるか…できれば魔力ガスかモンスターの種でもあれば良いんだが…うう~ん、<魔力探知>の魔法を使えれば簡単だったんだろ~けどなあ~」
アルガスは自身の不遇さに愚痴りながら土壁を掘っていく。
★=現在地 ↑=地上へ 通路=□
↑
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「ふう、頑張りました」
アルガスが地面にシャベルを刺して額の汗を拭う。
この掘り進め方は資源採掘には有用とされるブランチマイニングと呼ばれるテクニックである。
「はあ~…疲れた。しっかし此処…なんも出てこねえな!」
結果はゼロであった。
アルガスが期待したのは魔素を供給する資源である魔力ガス。そして、迷宮の魔素を使って湧くモンスターが封じられた、通称“種”と呼ばれる代物である。別段、アルガスは植物の種を探していたわけではない。
「あ~あ、くたびれもうけの…ん? なんか壁に埋まってないか?」
アルガスは最奥の土くれの壁に何かを発見する。よく伺えばゴツゴツとした黒い石のようなものが幾つも埋まっている。
「お!なんだろ? 魔石かな?」
にわかに興奮を抑えられないアルガスがシャベルの剣先でその石を突く。
(ガンッ!ガンッ!)
『痛い!痛いってば!?』
「…あ? はて? 幻聴かな…」
(ゴインッ!ギィンッ!)
『痛゛ぁ!痛いって…いい加減に止めろゴラぁ!? 先っぽが凹むだろぉが!!』
「…おいおい。マジかよマイ・メンタル。崩壊、早くない? だが、問題無い。一晩寝れば…」
『幻聴じゃあねえつぅーの!?』
どうやらアルガスの振るうシャベルは喋るようだ。