*3*アルガス、どっか知らない場所にテレポートしたってよ。ワロス
*3*
「……何処だここ?」
アルガスは目を覚ますとムクリと起き上がって周囲を見やる。
知らない場所だ。
否、そもそもさっき地上デビューを果たした彼に見知った地上の風景などあるはずもないのだが。
「あ!ディル!? おお~い!ディル何処だあ~!!」
だが、アルガスの叫びは虚しく響くばかりだ。
「…ディル。まさか離れ離れになったのか? …詰んだ」
そう、彼は地上ではクソザコナメクジなのだ。
「ん? やべ!? 日が傾いてきてっぞ! どんだけ寝てたんだろ俺…一先ず、落ち着ける場所を探そう」
日が陰り始めた見知らぬ土地の木々の間で怯えながらアルガスはキョロキョロしながら小走りで走り出したのだった。
※
「って…落ち着ける場所なんてねえよ!?」
そう、地上で彼に安息な場所なぞ存在しないのだ。
そして、地上には誰彼関係なく襲う野生のモンスターが出現する。夜間になればそれらは更に獲物を求めて活発になるのだ。
「せめて、ダンジョンの一つでも見つかれば……はうあ!?」
アルガス、閃く。
「ダンジョンが無いなら…造ればいいじゃないか!」
アルガスはその辺の適当な岩場の影に向うと無から自身のダンジョンツールであるシャベルを生み出した。
それを地面へと突き立てた。
「ほいさ!ほいさ!ほいさ!ほいさ!」
一定のリズムで軽快に掘り進めるアルガス。ダンジョンツールの効果によって掘り出された土くれは塵芥として霧散し、壁面もツールの謎の効果によって崩れないように即座に固まる。
ある程度斜めに掘った後はそのまま水平に掘っていく。
「ああ、疲れた。今日はこんなもんかな…」
★=現在地 ↑=地上へ 通路=□
↑
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□
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★
「……単純に真っ直ぐ掘っただけだからな。だが…これで安心だ。これでダンジョン内での能力が使える」
つまり、アルガスはダンジョンの中では防御力だけが爆上がりする。まあ、見つかってしまえば最後。地上に引きずられて一巻の終わりではあるが。
だが、もっと肝心なのは彼のダンジョンスキルである<完全睡眠>。この能力は単純明快。どんな状態どんな場所で自身とその影響下にある者を眠らせることができる能力。ただし、この能力によって眠ったものはその間無敵状態になる。そして、グッスリと8時間寝た後は…。
(グゥゥウウウウウ~)
「あ~あ…腹減ったなあ。そりゃそうか地上にどんだけ出てたのかは皆目つかないけど、完全に魔素不足だ、それにこんなただの洞穴未満じゃあ十分な魔力ガスも出やしないか…」
魔素とは魔人、そしてモンスターとって必要不可欠な要素である。種族によってはこの魔素に完全に依存している種もあり、魔素が切れるとその手は存在自体を保てず消滅してしまう。つまり生き物が呼吸するように魔物は魔素を迷宮で取り入れて生命を保っているのだ。地上を行き来できるものは魔素を絶たれても死にはしないが、その分だけ腹が減る。いわゆるエネルギーの消耗が激しくなる。
現にアルガスも久しいほどの空腹感を抱えていた。
「だが、我慢だ我慢…辛いのは一時で、ちゃんと…一晩寝れば…グゴゴゴゴォ」
アルガスは単なる洞穴の奥で豪快に仰向けになって寝た。
※
「おはよう!よっしゃあ!完全復活だ!!」
アルガスが元気よく飛び起きる。まあ、日差しの届かない洞穴の中だったが。
因みにアルガス含めの多くの地下住まいの魔人は暗闇を完全に見通す目と正確無比な体内時計を種族的特性で備えているのだ。
だが、この男が異様に元気なのには理由がある。
「いやあ~こうやって自分のスキルを実感したのは久々だなあ~」
そう。彼のスキル、<完全睡眠>の真骨頂。それはどんな場所でも寝れる、とか。寝てる間は無敵、などというのは副効果に過ぎない。
最もヤバイのは、8時間の睡眠の後の完全復活である。
それは、どんな疲労。怪我。病気。毒や麻痺や石化やらの状態異常。精神疾患。流石にアンデッドを生き返らせることはできないが、それ以外なら何でも治せる。無論、空腹までも。
「ん~…やっぱり朝のこの湿った空気ってのは、最高だな」
ハッキリ言おう。チートである。
他の屈強なダンジョンマスターが有する、伝説に語られるほどの派手さの欠片も無いが…地味だが決して無視することなど本来不可避の能力である。
が、しかし…本人は呑気なものである。例えば腐ったパンを拾い食いして下痢になっても。例えば部屋のタンスの角に足の小指をぶつけて骨折しても。例えば味方の遠距離攻撃が弾かれた流れ弾でタンコブをつくってしまったとしても…次の翌朝には彼の記憶の片隅にすら残らないのだ。
そして、一つ訂正しておくが、彼を始めとする無敵型のダンジョンマスターは非力と引き換えに防御力が恐ろしく高いが…別段、痛みも普通に感じるし怪我くらいはする。単に致命傷になり辛い程度である。恐らく伝説の戦士が伝説の武器を携えてやってきた日には思わず漏らしてしまうことだろう。
「さてと…どうする? ダンジョンに引き籠もっていればそう簡単には死なないだろうが…。やっぱ、ディルを探すか…だが、万が一人間族、いや、普通に野生のモンスターと遭遇してもヤバイな。多分、僕なんて一撃だろ。きっと、えいちぴいが1くらいしかないだろう。自分じゃ自分のステータス自体は見れないからなあ~」
恐らく、その値ならばその辺で躓くだけでお亡くなりなってしまう可能性すらあるのだが。アルガスは一先ず取り出したシャベルを肩にポンと引っ掛けながら地上へと向かった。