キレたら怖い、凛子ちゃん
凛子は赤ちゃんの時にちゃめ子からいじめられたせいか、情緒の不安定な子でした。
ちゃめ子のことが大好きで、いつもベッタリくっついていましたが、少しでもちゃめ子と離れるとビクビクオドオドして、悲しそうな声を出しました。
ちゃめ子とぴん太はどちらもアグーチカラーという、デグーの基本色でしたが、不思議なもので大きさが同じぐらいに育っても、見分けがつきました。
同じ色でも顔が明らかに違うんですよね。後にオスのぴん太はケージを別にしたのですが、部屋んぽさせる時には3匹同時に出すこともありました。
それでもケージに戻す時、ちゃめ子とぴん太を間違えたことは一度もありませんでした。
凛子はブルーパイドという、青みがかった銀色に、頭から鼻先にかけて白の入った美少女でした。
ただ、ちっちゃい頃は白い部分が大きかったのですが、大きくなるとほぼただのブルーカラーになってしまいました。
幼い頃ちゃめ子に噛みつかれたマズルの傷は消えず、ずっと残りました。
か弱い印象の子でしたが、嫌なことがあるとすぐにブチ切れる子で、キレた凛子はちゃめ子の3倍ぐらい強いように思いました。
生後半年ぐらいから生殖が可能ということなので、それまでは3匹一緒に暮らさせてあげようと、オスのぴん太とメス2匹を同じケージに入れていました。
もうすぐぴん太と凛子が生後半年となるある日、3匹を同時に部屋んぽさせていると、ケージの中でおやつを食べている凛子を追うように、ぴん太がそこへ入って行きました。
おやつを食べ終えた凛子の後ろにぴん太がくっつきました。
『何してるのー?』
凛子がそう言うように、笑いました。
『もー、ぴん太ったら。ふざけないでよー』
ぴん太は真剣な顔で、凛子の後ろに立つと、ぐいっと腰を動かしました。
『んっ……?』
凛子の表情が変わりました。
『い……、いやーっ! やめて!』
痴漢に遭ったような表情で、凛子がぴん太に裏拳を食らわせ、逃げ出しました。
ケージの隅で、ぴん太が肩を震わせ、『クックック……』と、笑い出したように見えました。
前に向かって駆け出すと、回し車の上に乗り、世界に向かって叫ぶように、歌いはじめました。
『ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……!』
人間語に訳すと、
『やったやったやったやったよ僕やったよ子孫を残せるんだよ!』
みたいな感じでした。
その後、凛子が赤ちゃんを産みました。
6匹産みました。
私の知識が足りていなかったのです。
よくネットで調べたら、生後1か月から生殖行為をすることもあるそうです。
コアラちゃん(手前)とチビ(向かって右)ともう一匹のアグーチ
パンダちゃん
産まれた子たちはぴん太似のが2匹、凛子似のブルーパイドが2匹、中間っぽいアグーチのパイドが2匹でした。
1匹見事に白いところの多い子がいて、『パンダちゃん』と呼んでいました。見た目がかわいいだけでなく元気も一番よくて、自慢の子でした。
未熟児のアグーチの子ともう1匹のブルーパイドの子の2匹だけを私が育てることにし、それぞれ『チビ』『コアラ』と名付けました。
あとの4匹は乳離れをさせてから、欲しいという知り合いに譲りました。自慢のパンダちゃんはその人の里子になりました。
チビは未熟児だったのですぐに死んでしまいましたが、コアラはその年の冬まで生きました。
どうやら情緒不安定な凛子ママに噛み殺されたようでした……。