美少女デグー凛子ちゃん
ちゃめ子とぴんちゃんは仲良くなりましたが、私はふたりから敵視されていました。
噛まれることはなくなったけど、私がケージに近づくと、ぴんちゃんが『ジジッ!(敵襲!)』と知らせ、ふたりでバタバタ逃げます。
悲しくて、つい、もう一匹お迎えしようと考えました。
一回り大きなケージを新たに買ってきました。ちゃめ子とぴんちゃんは新しい大きなほうに入ってもらい、もう一匹を単独で飼うことに決めました。
ちゃめ子とぴんちゃんはデグー同士で仲良くなりなさい。私は新しい子とラブラブになってやるから。
そう計画を立てながら、新しい子を探しました。
近くのブリーダーさんがネットに写真を掲載していました。
その子をの写真を見て、一目惚れしました。
「わぁ……。この子、綺麗」
青みがかった銀色に、頭から鼻にかけて白の入った『ブルーパイド』という当時ではレアカラーの女の子。
電話をかけてみると、あと一週間は母親といさせて、それからの引き渡しになるとのこと。
予約をし、お迎えする前から『凛子』という名前をつけて、ウキウキしながら一週間を待ちました。
凛子ちゃんが私の部屋へやってきました。
写真で見た以上に毛並みが綺麗で、顔もシュッとした、いかにもな『美少女』!
今度はベタ慣れに絶対しようと、デグ太の時のようにケージの中にひとりにして、決して構わず、まずは環境に慣れてもらおうとしました。
巣穴の中に引き籠もって不安そうにしている凛子ちゃんを見ながら、私はほくそ笑んでいました。
「よしよし。デグ太も最初はそうだった。そのうち私とラブラブになるんだからね?」
そう思っていたのを邪魔してくれたのは、またしても、ちゃめ子さんでした。
ちゃめ子もぴんちゃんも私を敵視していましたが、部屋の中をお散歩させることは出来ました。(デグー飼い主用語で『部屋んぽ』といいます)
決して私には近づいて来ないけど、ケージに戻す時に乾燥野菜を入れてやると、それに釣られて入ってくれるのです。
部屋んぽしているちゃめ子が、凛子のケージを見つけて近づきました。
ずっと巣穴の中で心細そうにしていた凛子が、気配を察して姿を見せました。
ちゃめ子『あら? この子、誰?』
凛子『あっ、仲間だ! こ、こんにちは』
そんな感じで凛子が出てきて、金網に近づきました。
金網の隙間からシュッとした鼻を出して、仲良くしてほしそうに『ピピッ、ピピッ』と歌いました。
ちゃめ子が、金網から外に出た凛子の鼻に、いきなり噛みつきました。
『ピイーーーっ!』
凛子が泣き叫ぶように声をあげ、のけぞりました。
ちゃめ子は面白がるように外から金網に飛びつき、残忍な笑顔を浮かべて追撃しようと狙います。
それを見て、凛子が、痛い目に遭わされたばっかりなのに、またちゃめ子にすり寄っていきました。
また噛みつかれそうになったので、慌てて私が手でどけようとすると、ちゃめ子は私を怖がって自分から逃げていきました。
凛子を見ると、マズルに怪我をして、流血していました。
それからしばらくの間、ちゃめ子の凛子いじめは続きました。
部屋んぽさせるとすぐに凛子のケージに近づいていって、金網によじ登って威嚇します。
それでも凛子はしつこいぐらいにちゃめ子に近づいていきました。噛まれそうになるたびに私がやめさせました。
どんどん凛子が悲しそうになっていきました。
元々は私と仲良くなってほしくてお迎えした凛子でしたが、こうなると何がなんでもちゃめ子と凛子に仲良くなってほしいと、私は思うようになってしまいました。
そんなある日、ぴんちゃんが大きくなって、性別が判明しました。
デグーの性別は肛門と性器の距離によって判別します。ただ、メスでもちんちんのような性器をしているので、判別が難しいのです。
肛門と性器が離れていればオス、近ければメスです。
ぴんちゃんはどっちともいえなかったので性別不明だったのですが、だんだんとそれがはっきりしてきました。
っていうか、どう見ても離れてる。
なんということでしょう! ぴんちゃんは男の子だったのです!
その日からぴんちゃんは『ぴん太くん』に名前が変わりました。
ちゃめ子は凛子を攻撃しますが、ぴん太くんは凛子に無関心でした。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。私はちゃめ子と仲のいいぴん太くんを、まずは凛子ちゃんの仲良しにしてあげようと目論みました。
凛子のケージの中にカボチャで誘ってぴん太を入れました。
カボチャをコリコリ食べているぴん太に、凛子が近づいていきました。
『ねー、仲良くしよー? あたし、凛子っていうの』
無言でぴん太が背を向け、ついでに尻尾で凛子の顔面をピシリ!
凛子は泣くような、ショックを受けたような顔をして、吹っ飛びました。
美少女なのが気に入られないのか、凛子はちゃめ子からは執拗ないじめを、ぴん太からは無視という名のいじめを受け続けました。
そんなある日、唐突にその瞬間はやってきました。
私は思い切って、ちゃめ子と凛子を強引にご対面させてみたのです。
今から思えばアホだったとは思います。でも、結果的にはこれが吉と出たのです。
ちゃめ子とぴん太が部屋んぽしているところへ、凛子もケージから出しました。金網を挟まない、初めてのちゃめ子と凛子の直接の触れ合いでした。
凛子はまっすぐちゃめ子のところへ駆け寄っていき、もじもじしながら話しかけたようでした。
『ねー、おばちゃん。あたしと仲良くして?』
ちゃめ子の顔が意地悪な笑いで歪みました。
凛子に襲いかかりました。
『ピイー!』
凛子が悲しそうに逃げます。
私は心の中で応援しました。
「凛子! ちゃめ子と仲良くなりたいなら、あなたが自分でなんとかするの! どうしてもダメだったら助けてあげるから、自分でなんとかしてみなさい!」
アホですね。
本当に、凛子が殺されてたらどうするつもりだったんだろう……。
ちゃめ子が追いかけ回し、凛子は自分のケージに逃げ込みました。
それを追って、ちゃめ子も凛子のケージに入りました。襲いかかろうとする。
ここで遂に、凛子がキレました。
ちゃめ子の眼前で、立ち上がって、地団駄を踏むように、一生懸命に、大声で喚き散らしました。
『ピイイーーッ! キュッ! キャッ! チチッ、チイィーーーッ!!!』
拳を握りしめて、涙を流しているように見えました。
それを見て、ちゃめ子がオロオロします。
ひとしきり喚き散らすと、凛子はその場に崩折れました。ちゃめ子がそろーりと近づいていって、その肩をぽんと叩きました。
『……ごめん。なんにも出来ないお嬢様だとばっかり思ってたよ。……意外にやるじゃん、アンタ』
ちゃめ子がそう言ってるように見えました。
それからすぐにふたりは仲良くなりました。
一緒のケージに入れてあげると、ちゃめ子にくっついて眠るぴん太の横で、凛子も幸せそうな泣き顔で、ちゃめ子とくっついて眠っていました。
ふぅ……。
よかったね、凛子ちゃん……。
あれ……?
結局凛子ちゃんが仲良くなったのは、あたしじゃなくて……
また、ちゃめ子にとられた!!!
凛子ちゃん